21話 またカラザの家がなくなっちゃった
「ガァアアアアアアアアアアアーーーーーー!!!」
ヒュドラの威嚇するような咆哮に我に返るカラザ。
燃える家のある岸へ近づいているが、このままだとヒュドラに追いつかれるのは確実だ。
するとヒュドラが再び火球を吐き出し飛ばしてきた。
ズボボボボボボボォッ!!!
カラザが魔法障壁を再び展開した。これ以上家に被害がいかないように先ほどより大きな障壁で防ぐ。
障壁に当たった火球が爆ぜる。
頬を膨らませたアユミが小舟を走りジャンプしてヒュドラに向かう。
「もう怒った! せっかくカラザが建てた居心地のいい家だったのに!」
「あっ!? アユミーーーー!」
カラザが止めようと手を伸ばすがすでに遅くアユミの体は水面の上にあった。
じゃぽんと音を立ててそのまま湖に沈むアユミ。
後を追い走ったカラザは舟先で一瞬立ち止まる。が、すぐに飛び込んだ。
「カラザーーー!?」
モルカが驚きの声をあげる。
すると水面が盛り上がり、ザッパーーーン! と白いボーンドラゴンが現れヒュドラと対峙した。
「うぉおおお!? なんじゃぁあああーーーーー!!!」
思わぬ事態に再び声をあげるモルカ。先ほどから成り行きを見守っていたターニスが苦笑する。
片手にカラザをつかみそっと小舟の上に戻した。
「もう! なんでカラザが飛び込むのー!? 溺れちゃうじゃん!」
「すまない。アユミが心配で居ても立っても居られなかった」
「もー! 私って思ったより丈夫だから。それに息してないから水中でも平気だよ?」
「そういえばそうだった。つい人の姿だと勘違いしてたよ」
「カラザに何かあったら私が心配なんだからね?」
「ありがとうアユミ。愛してる」
「もぉおお! そういうとこだよー!」
二人のやりとりを見ていたターニスは「状況を考えろよ」とひとりごちた。
そんなアユミの背中が爆発する!
「ガァアアアーー!」
ヒュドラが火球をアユミに放ったのだ。どうやら相手はアユミたちの会話を待つほどのんびりしていないようだ。
振り返ったアユミは口を開くと鋭い閃光を横なぎに発射した。
「ギュアァアアアアアーーーーー!!!!」
強烈な閃光にヒュドラの3本の頭が宙に飛ぶ。残った首かは血が噴水のように吹き上がっていたが、すぐにふさがり、ぐじゅぐじゅと肉の塊が湧いて出てくる。
「再生しとるぞ! ヒュドラは不死身という噂は本当じゃった!」
「すげーな。でも3つも再生するのは時間がかかりそうじゃね?」
「うむ。確かにな」
「それより姉さんが残った頭を鷲づかみしたぞ」
「どうするつもりだ? まさか引っこ抜くのか?」
小舟に揺られモルカとターニスが解説しはじめた。その横でカラザは手を組んでアユミの無事を祈っている。
ヒュドラの2つの頭を鷲づかみしたアユミはそのまま振り回した。
「ギャアアアアアア……」
巨体が浮き上がり水中に隠れていた樽のような大きな胴体が飛ばされ、向こう岸へズズンと音を立てて落ちた。
湖からアユミは飛び立ちヒュドラの後から岸に降り立った。ヒュドラの首は再生が間に合わず肉塊が盛り上がった状態だ。
「もう許さないからね!」
アユミが近づくかないように残った頭を向け火球を発射する。
直撃して爆発するも無傷なアユミはズンズンとヒュドラに近づいていく。白い骨格は傷一つついていない。
「……ギャア」
起きあがろうと太い胴体の添え物かのような短い手足をバタバタさせたヒュドラは、恐怖に駆られ逃げ出そうと必死だ。
「今日はお魚は諦めてお肉にするから」
アユミは再生中の首をつかみ体ごと裂き始める。
「グギャアアアアアアアア!!!!」
残った頭を使いアユミに噛みつくヒドラ。まるで気にしていないようにアユミは作業を続けた。
「うむ。見事な5枚おろしだな。魚の3枚おろしの真似じゃろか?」
「ただ単に八つ当たりだな。さすが姉さん。怒らせると怖いもんだ」
5つに引き裂かれ息絶えたヒュドラを見たモルカとターニスが感想を漏らす。いくら再生能力があっても無駄だったようだ。
湖でヒュドラの血を洗いまとめたアユミは小舟の元へと戻ってきた。
「大丈夫だった? ヒュドラって美味しいかな? 食べたことないんだけど」
「ありがとうアユミ。私も食べたことないけど試してみようか。とりあえず戻ろう」
カラザが親しみの笑みを向ける。
照れたアユミは首をブンブンと縦に振って小舟を岸まで送って行った。
岸に着き、小舟を降りたカラザとモルカにターニス。
かろうじて形を保つ焼け焦げた家を前にして、改めて惨状を目にしたカラザはがっくりと肩を落とした。
ぽんぽんとカラザの肩を叩いてモルカは片手をあげると叫んだ。
「ミョルニル!!!」
ゴバァア!!──骨組みだけの家が崩れて巨大なハンマーがモルカへと飛んでくる。衝撃で家がもろくも完全に吹き飛ばされ崩れた。
がしっとハンマーをつかんだモルカは満足そうに頷いた。
「うむ。余の武器は問題ないな」
「あんたも意外と鬼だな」
ターニスがため息をつく。もはやガレキの山と化した家にカラザは目が点になっていた。
岸についたアユミは人間の姿になると裸のままガレキの家に入り、無事な服を探し出すと着替えてカラザの元へと戻ってくる。
「元気だしてカラザ。また家をつくろ? 私も手伝うから」
「アユミぃいいいいーーーーー!!!」
がばっとアユミを抱きしめるカラザ。受け止めたアユミは優しくカラザの髪をなでた。家がなくなって落胆しているのを癒すように。
「着替えるところ、よく見とけばよかった……」
「ちょっと!? そっち!?」
ぎゅっとしてくるカラザ。恥ずかしげに頬を染めたアユミは、カラザの頭をぽかぽかした。
「ぶれないのぉ」
「まあ、いつものだな。変にショックを受けてるよりはいいのか?」
アユミとカラザの掛け合いを見ていたモルカは背中に武器を背負いながら笑う。
呆れ顔のターニスはヒュドラの肉片を片付けようと行動を開始した。




