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1話 眠りから覚めたボーンドラゴンと少女

 楽しそうにピヨピヨと鳴きながら3匹の小鳥がのどかな草原をすべるように飛んでいる。

 見晴らしの良いなだらかな丘の上に、時代から取り残されたような古い朽ちかけた墓石が立っていた。

 立てた当時は立派だった名残が所々に見受けられるが、もはや刻んであった文字もかすれて読めなくなっている。

 カタッ……。

 微かに墓石がゆれた。


 カタ、カタ、ガタガタ……。

 次第に大きくゆれ、とうとう墓石が大きな音を立てて倒れた。

 墓石のあった場所は土がむき出しになり、そこには土をかぶった白く尖った角が見えている。

 ゴゴゴゴゴゴ! 周辺の草土が盛り上がり白い何かが地面から姿を現した。

「ぅおおおおぉおおおーーーーー!!!」

 地中から辺りに土をまき散らしながらボーンドラゴンが飛び出てきた!

 ズシン! と地響きを鳴らして降り立つと骨になった両手を空へと突き出す。

「ふっか〜つ! やっと地上に出られた〜!」

 体をぶるぶる振って土汚れを落とすと、尻尾と翼をピンと張りだし伸びをする。

「うーーーん。外って最高!」

 先ほどから骨の体なのに声が出てるが気にしない。このときはまだアユミは自分自身の体に起こった変化に気がついていないから。

 長い年月をかけてとうとう魔力が戻り、骨の傷も癒えたボーンドラゴンはここに復活した。


 5メートルはある巨体をゆらして辺りを見渡す。

 黄緑色をした草原が広がり遠くには山々があり、濃い緑色の木々が囲っている。

 ここは知らない場所だなとボーンドラゴンのアユミは思った。

「あわわわわ…」

 不意に足元から声が聞こえ、顔を向ける。

 そこにはボーンドラゴンの影に隠れるように腰を抜かして青ざめている少女がいた。

 よく見るとブラウン色の髪をした頭には狐のような耳がついていて、お尻から出ている尻尾が小刻みに震えていた。

「獣人だ! 久しぶりに会ったよ! 大丈夫?」

「あわわわわ…。しゃ、しゃべった……」

 少女が驚き、震える声を押し殺している。

 なんでそんなに恐れているのかとアユミは顎に手を当てる。

 そこで骨の腕に気がついた。改めて自身の体を見ると骨だらけだ。

 確かにこれではスケルトンやゾンビと同じアンデッドと混同してしまうのは間違いない。

「びっくりさせてごめん! 今は骨だけど昔は肉がついてたから! あと、死んでないし! ちょっと重傷だったけど」

「ひえええええぇ」

 震える少女の誤解を解くのに30分はかかった。

 ボーンドラゴンとなったアユミは、自分が本当にアンデッドになっていたとはこれっぽっちも気がついていなかった。


 ◇◇◇◇


 少女の名前はマリ。9歳前後の活発そうな明るい、目のくりくりしたかわいらしい狐系獣人だ。

 病気のお婆ちゃんのため、この草原の先にいる魔法使いを尋ねるところだったようだ。

 ボーンドラゴンのアユミは、転生した経緯や長いこと地中で休んでいたことをマリに話した。

 襲われないとわかったマリは落ち着きを取り戻し、アユミの話しを夢中になって聞いた。

 それは、まるでおとぎ話の物語のようで同じ世界で起きたこととは思えなかったから。

「ところで、ここにあったお墓がどのくらい昔から建ってるか知ってる?」

「あたしが子供のときにはあったよ!」

 明るく答えるマリに、今も子供だよねとアユミは思った。

 少なくとも転生前のアユミは高校生だった。それからドラゴンに転生して40年ぐらいで……大ケガを負って気がついたら土の中にいて、感覚としては10年以上は眠っていたはずだ。

 ということは、最短でも50年以上はたっているはず……。

 勇者や仲間達は今頃どうしているのだろうか。せっかくだから尋ねてみるのもいいかもしれない。


 昔のことを思い巡らせていた頭を切って、アユミはマリに聞く。

「マリの行く魔法使いの場所って、ここから近くなの?」

「ちょっと遠いんだ。草原を抜けて山を越えた先にあって、2日ぐらいかかるんだ」

 あっけらかんと言うマリにアユミは驚いて頭の先から足の先までを凝視する。

 マリはその辺を遊びに行くような軽装だ。しかもリュックもない手ぶらで、剣や弓はおろかナイフすら持っていない。

「だ、大丈夫なの? お腹が空いたらどうするの? それに魔物が出たら大変だよ!?」

「んー? 昔、お婆ちゃんに連れて行ってもらったときは平気だったし、お腹が空いたら果物を木から取るつもり」

 ニコニコと明るく語るマリ。アユミの顔は青くなる。いや、骨だから青くなったかはわからないが。

「それじゃ駄目だよっ! ひとりで2日も出歩くなんて無茶で危険だし、そんな簡単に果物も採れないよ!」

「…だって、お婆ちゃんが……」

 アユミに論されたマリがシュンとして、今にも泣きそうになっている。

 慌てたアユミが取り繕う。

「わぁああ、泣かないで〜!? 私が送って行くから! ね? ちゃんとお婆ちゃんの所までも一緒に行くし!」

「ほんとに?」

「ホント、ホント!」

「わ〜〜ありがとう! 骨のドラゴンさん!」

「あ゛あ゛あ゛!?」

 嬉しそうなマリの言葉に、アユミは今の姿形を思い出して変な声を出した。

 そう、体は骨だったのだ。すっかり肉がついていたつもりだった。

 もう一度、自身を見て再度確認する。

 ……今頃ショックを受けてるアユミ。だが、この姿でも生きているのだから文句はない。せめて元の体に戻れたらと思うぐらいで。

 急にうろたえ始めたアユミにマリが首をかしげて聞いてくる。

「どうしたの?」

「あっ!? いや、な、なんでもないよ! 別に骨の体でもいいもんね! よ、よし! それじゃあ魔法使いの所にいこう!」

 ハッとマリの存在を思い出したアユミは慌てて誤魔化す。

 ほんとは泣きたいところだが、骨って涙を流せるのかなと場違いなことを考えていた。

 すっかりボーンドラゴンに慣れたマリは変なのとこぼした。


「たぶん背中に乗ったら落ちそうだから、ここに入って」

 そう言って胸骨を地面につけるアユミ。ちょうどそこは肋骨に囲まれて、鳥かごのようになっている。子供なら2〜3人は余裕で入りそうだ。

 マリは怖々と巨大なアユミの頭骨をくぐって肋骨の中へと入っていく。

「思ったより丈夫そうだね。壊れるかと思ってドキドキしちゃった」

 胸骨をまたいで座ったマリは硬くて安定感のある骨に安心していた。

「案内よろしくね。飛ぶよ〜!」

「えっ!? わぁああああ〜〜!!!」

 マリは急にふわっと浮かび上がるボーンドラゴンに驚いて声をあげた。まさか空を飛ぶとは思ってもなかったからだ。

 ぐんぐん高度を上げ、草原から離れて行く。

 初めて見る光景に恐怖したマリだったが、次第に高さに慣れてくると気持ちよさに変わってきた。

 まるで自分が鳥になったかのように空を飛んでいる。はるか下に見える草原が緑色の絨毯のようだ。

「わぁーーーー!」

 先ほどとは違う喜びの声にアユミはホッとしていた。

 そう、飛び立ってから自分が骨だったことに改めて気がついたのだ。骨の状態でも飛行に関しては問題ないとわかってアユミは気を良くしていた。

 こうしてアユミとマリは目的の魔法使いの場所へと急いだ。


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