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マスターレイスの討伐 タチアナとソニア

 人間は肉体と魂で構成されている。そして死ぬと、肉体から魂が抜ける。

肉体から抜けた魂は、非常に不安定である。それは魂が「魂魄体」という状態だからである。


 この世に存在するすべてのものはマナからできているという。空気や火、水、地面の土や石、そして生物、もちろん人間も、すべてはマナの産物であるとされている。

 イメージとして、ごく小さな粒だと考えると理解しやすい。その粒一つ一つが何らかの性質を持っていて、それが集まって結びつくことで実際のものになる。例えば火の性質をもったマナの粒が集まって実際の火となる、といった具合である。


 あらゆるものはマナが集まり結びつくことでできているが、その結びつき方には段階があり、その密度によって呼称が変わる。

 もっとも結びつきの密度が高いのは「物体」である。

 それよりも密度が低い状態のものが「霊体」であり、さらに低い状態のもの、それを「魂魄体」というのである。


 通常、魂魄体のままではこの世に存在し続けることが難しい。この世界は大気が満ちるようにマナで満ちているが、結びつきの弱い魂魄体はその周囲に満ちるマナと影響しあいやがてその中に溶けていくことになるからである。

 しかし、魂の中には肉体を失っても魂魄体のままでこの世に存在し続けるものもある。それは生前に何か強い思いを抱いていた者の魂がそうなる場合が多い。そしてその強い思いとは、大抵が苦痛や憎悪といった負の感情である。

 この世に存在するすべてがマナの産物であり、それは人間の感情にも当てはまる。負の感情というマナは周囲に満ちるマナに影響を与え、感情を発する元である魂は自らと同質化した周囲のマナを取り込み「霊体」という体を得る。


 悪霊という魔物は、そうして生まれるのである。




 アークはキールたちに誘われてノーヴェルクの南方にある廃村に来ていた。討伐のためである。

 討伐対象はマスターレイス。討伐難度B3級の魔物で、多くの悪霊を支配し操る上位の悪霊である。


「カレル、サンダー」


 村に着くなり10体の悪霊に襲われた。アークは3体の屍兵を護衛とし、カレルとサンダーに攻撃を命じた。

 低位の悪霊の攻撃は精神的に悪影響を与えるというものが多い。それはアンデッドには効果の無い攻撃である。ただアンデッドの攻撃も悪霊には効果が薄い。なぜならアンデッドは、オーラをまとっていないからである。


 オーラとは、生物が持つ生命エネルギーである。オーラは体内を巡りあらゆる生命活動に使用されているが、一部は自然に体外に放出されている。放出は常に行われているので、結果として生物はオーラをまとう形となっているのである。


 生物のまとうオーラが、悪霊の霊体に対して効果的なのである。悪霊を倒すためにはその霊体を散らさなければならないが、オーラをまとわない攻撃は効果が薄い。カレルとサンダーは強力な屍兵だが、悪霊を倒すのに時間がかかっている。

 それに比べてキールたちは順調なようである。悪霊に対しては魔法が有効で、特に魔術士であるコーディーが活躍している。


「動くな」


 アークはカレルたちが弱らせた悪霊に向けて言った。悪霊の動きが止まる。


「おお、効いたみたいだな」


 自らの受け持ちを滅ぼし終えたキールが言った。

 キールたちがアークを誘った理由の一つに、アークが持つギフト、冥府の王の舌が悪霊に対して有効かもしれないということがあった。条件はあるが、確かに有効だった。

冥府の王の舌は魂に対して絶対服従を強いることができる力があるが、それはむきだしの、魂魄体のままの魂に対してのみである。魂魄体以上の密度のマナで構成される霊体を持つ、悪霊に対してはそのままでは効果が無い。

 ただ霊体は、物体である肉体よりも魂を保護する力が弱い。そのためある程度体を削られた悪霊には、ギフトの力が届くようになるのである。


「なるほど、こりゃいい。完全に滅ぼさなくて済むからずいぶん手間が省けるんじゃないか」

「うむ」


 コーディーとケルビンが近づいてきて言った。


「有効性は確認できたし、こうなるとアークに片っ端から悪霊の動きを止めてもらった方がいいな」

「戦闘中に動くなを連呼して回るわけですか………いややりますけど」


 命がかかった戦闘という場では有効だと思われることはなんでもやってみるべきだが、その絵面を想像すると恥ずかしいものがある。


「はは、頼んだぜ。よし、奥へ進もう」


 村の広場に標的はいた。女のマスターレイスである。周囲にはそれに従う悪霊たちが30はいる。


「多いな。だが主であるマスターレイスを倒せば他の悪霊たちもおとなしくなるはずだ。コーディー、アーク、頼むぞ」

「ああ、俺のとっておきで吹っ飛ばしてやる」

「わかってます」


 アークはカレルとサンダーをマスターレイスに向かわせる。上位の悪霊はどのような攻撃手段を持っているか分からないが、アンデッドであり戦闘力も高い両者であれば対応できると判断した。両者の攻撃はマスターレイスには効果が薄いが牽制にはなり、隙ができたところにコーディーの上位魔法を叩きこむというのが今回の作戦である。キールとケルビンは他の悪霊たちを相手にする。


「ヒアアアアア」


 甲高い音を発しながらマスターレイスが応戦する。従えた悪霊を球状に変え、それを飛ばして攻撃してくる。まるで人魂だ。精神攻撃以外の効果がある可能性を考え、カレルたちはその人魂を回避しつつ攻撃を加えている。

 キールとケルビンはうまく敵をさばいている。アークは一定の間隔で動くなと悪霊に声をかける。


「いいぞ」


 周囲に敵が多すぎて状況を把握しきれないが、キールの声で効果があることが分かった。


「大いなる火の精霊よ。それに従う眷属たちよ」


 コーディーが呪文の詠唱を行っている。魔法の発動のため体外に放出されたオーラ、いわゆる魔力のほとばしりを感じる。


「俺のとっておき、火の上位魔法ファイヤーボール準備完了だ。悪霊め、消し飛ばしてやるぞ」

「行ったぞ、コーディー」

「え」


 人魂状となった悪霊がコーディーに向かって飛んでいく。真正面からであったが、虚を突かれたのか何ら対応できず悪霊と接触した。悪霊はそのままコーディーの体をすり抜ける。


「うあ、うああああ」


 無防備に悪霊に触れられると、その悪霊の負の感情が伝染する。死んで肉体を失った者の感情は暴走しやすく、それは生者にとっては耐え難いものである。

 コーディーも耐えることができなかったらしく、その場にうずくまった。作戦が崩れた。


「ちっ、コーディーの奴。そういうとこだぞ」

「どうする、キール」

「しょうがねえ、あれを使う」

「お前が言うのならそうしよう。………なるべく使いたくはなかったが」

「アーク、俺たちがボスに当たる。お前のアンデッドは他を頼む。ギフトの準備もな」

「わかりました」


 キールが作戦の変更を伝えてくる。アークはカレルとサンダーに指示を出した。両者は一度マスターレイスを斬りつけた後、左右に散った。そこにキールとケルビンが駆けてくる。


(あれが………)


 二人は駆けながら、それぞれの得物に液体をかけていた。聖油と呼ばれるものだ。クラミル教団が製造する、アンデッドや悪霊に効果のある特製の油である。

 二人が使用を躊躇したのは、その値段である。


(小瓶一つで30000アウレルとか、ぼったくりだろ)


ただ効果は確からしい。聖油がかけられた二人の得物がわずかに発光している。二人が斬りつけた部分が大きく削れている。二人がさらに数度斬りつけると、マスターレイスの動きがあからさまに鈍くなる。

 今である。


「荒ぶる魂よ、鎮まれ」




 主であるマスターレイスが倒されたことで、支配されていた悪霊たちも動きを止めた。キールとケルビンは悪霊たちの霊体を払って回っている。

 霊体を払われ魂魄体となったマスターレイスの魂は、生前の姿に戻っていた。20代半ばほどの女性である。しばらくは状況が理解できずぼんやりとした様子であったが、急に叫び声を上げ始めた。


『ソニア!?』

「うお!?」

『ソニア!!ソニアはどこ!?』

「ソニア?とりあえず、落ち着いてくれ」

『あ………』


 女の魂は叫ぶのをやめた。しかしおそらく人名であろうソニアの不在が気にかかるのか、不安げな表情を浮かべている。


「………えーと、その、ソニアというのは?」


 師であるオイゲンには、あまり死者の事情に関わるなと言われている。分かってはいるが、つい尋ねてしまった。


『娘です』

「ここにいる中にはいないんですかね」


 霊体から解き放たれた魂たちは、いまだこの地にとどまっている。支配されていた影響から、昇天するまでにしばらく時間がかかるのである。


『いないわ。ソニアを、どこへやったの!?』

「なんというか、心当たりはないんですか?」

『売った。そうよ、あいつらはそう言ったわ』

「あいつら?」

『この村の、ろくでもない連中よ。………いたわ、あの3人よ』


 女が指さした方向に、3人の男の魂がいた。3人は女に指をさされていることに気づき逃げようとしていたが、アークはそれを制した。


「こっちに来い」

『へ、へーい』

『あなたたち、よくも………』

「落ち着いて、まずは話を聞こう。あんたたち、この人の娘を売ったらしいな」

『し、仕方がなかったんだ!!飢饉で、食う物が無くて』

『ふざけたことを言わないで!!私は約束を守った、なのに!!』

「どういうことだ?なにがあったんだ?」


 事情はこうだった。

 女はタチアナといい、ファイデン伯爵の娘だったが庭師の男と駆け落ちをしこの村で暮らし始めたのだという。だが2年前、飢饉が起きた。タチアナは素性を隠していたがその育ちの良さは隠せず、村では富豪の娘が駆け落ちしてきたのだと噂になっていた。

 そこで男たちはタチアナの娘、ソニアを誘拐し実家に援助を求めるよう脅迫した。


『私は恥を偲んで父に援助をお願いしたわ。父は渋々ながらも認めてくれた。なのに!!』

『こ、怖かったんだよ。金持ちの娘だとは思っていたけど、まさか貴族だったなんて!!俺らのやったことを知られたら、報復されると思ったんだ』

『そんなことで私たちは殺されたというの!?ふざけないで!!』


 どうやら自分たちの所業を隠すために口封じをしたらしい。その上さらった娘は売り飛ばした。死後に悪霊化するのも無理はない仕打ちである。オイゲンの忠告が頭に浮かぶがさすがに同情してしまう。


「それで、彼女の娘はどこに売った?無事なんだろうな」


 アークはせめてタチアナの娘を助けてやりたいと思った。声が聞こえてしまうのだからしょうがないじゃないか。そんな風に自分に言い訳をした。




 アークがキールたちにタチアナの事情を話すと、意外にも手伝ってくれると言った。


「馬代と宿泊費はお前持ちな」


 タチアナの娘、ソニアが売られた先はマゴメドという町の奴隷商だった。マゴメドはアークたちが今いる廃村から西に向かった先にある。王都から伸びる交易路の途中にあり、それなりに栄えているらしい。

 マゴメドに着くとまず奴隷商の元へ向かった。奴隷商にも様々な者がいるが、相手は裏社会とつながりがあるような者たちだった。


「だからこそ俺らの立場が効くんだけどな」


 キールたちはそういった者たちとの渡り合い方を心得ていた。犯罪者を討伐するという討伐者の立場をちらつかせ、脅し、なだめ、ついにはソニアの売った先を聞き出した。そこでもうまくやり取りをし、ついにはソニアを取り返すことに成功した。

 ソニアが売られたのは高級娼館だった。子供ではあるが容姿がよく、将来客を取らせるためそれほどひどい扱いはされていなかったようである。

 ただソニアの表情が気になった。


「私、今度はどこへ行くのですか」

「君のおじいさんの所だ。君のお母さんに頼まれた」

「お母さん。お母さんは死にました」


 感情のこもらない声でソニアが言った。子供が、自分の母親の死をそのように言えるだろうか。


「死んだ人とは話せません」

「………そうだな。けど俺は、死んだ人と話せるから」

「そうですか」


 軽く流された、とは感じなかった。とにかくソニアから感情というものが伝わらない。その感情を押し殺す姿に胸がざわつくのを感じた。

 キールたちとはその場で別れた。馬を借り、ノーヴェルクへ帰るという。


「それじゃ、俺たちも行くぞ」


 ソニアの祖父であるファイデン伯爵が治める街へは、馬で3日である。馬での移動は子供にはつらいはずだが、そのような様子は見せずソニアは無言で前を見ているだけだった。たださすがに疲れが出たのだろう、宿に着くと早々に眠りについていた。


(さてと)


 アークは魔石に宿らせてあったタチアナを呼び出した。外に出していなかったのは、人に見られる可能性があったからである。ネクロマンサーのように訓練せずとも、魂魄体である魂を見ることができる者は少ないがいるのである。

 霊体を失った時の様子から、タチアナはもっと取り乱すものと思っていたがそうはならなかった。穏やかな表情でソニアの眠る姿を見つめていた。


 翌朝、アークたちは宿で朝食を取った。


「君はラップルのパイが好物なんだってな」

「え?」


 アークは夜に宿の店主に相談し、朝食に出せるように用意してもらっていた。


「君のお母さんから聞いた。よく作ってと、せがまれたって」

「ママ………?ほんとに、ママを知っているの?」

「言っただろう?君のママに頼まれたって」

「ママ………ママに会いたい」


 出会って初めて、ソニアが感情を見せた。泣いた子供の世話の仕方など分からず少し慌てたが、とりあえずはほっとした。

 それからソニアは少しづつ感情を見せるようになった。ただやはり母親を恋しがっており、感情を殺している様子を見ていたアークはなんとかしてやらなければという義務感に駆られる。


(あの方法なら………試してみるか)


 アークはファイデン伯爵が治める街に着くと、討伐者ギルドを通して手紙を送った。前日の夜に書いたもので、自身のものとタチアナが言ったことを代筆したものの2通である。同時に面会を希望する旨も伝えてもらった。

 相手は領地を経営する貴族であり、下手をすれば面会の許可が出ない可能性があった。内容的にも、死んだ娘からの手紙という胡散臭いものである。ギルドを通したのは、少しでも信用を得るためだった。他に、マゴメドの銀行の貸し金庫に預けてあった伯爵家の紋章入りの手鏡も添えておいた。

 それらが功を奏したのか、早くも夕刻には面会の許可が出た。宿に迎えの馬車が回され、伯爵の屋敷に着く頃には辺りは暗くなっていた。

 使用人に案内された部屋で待っていると、伯爵が来たと告げられその後一人の初老の男が入ってきた。


「お、おお………」


 伯爵がソニアを見て感嘆の声をもらした。速足でソニアに近づき、肩に手を置いてかがんだ。


「君が………君が、ソニアか」

「はい、伯爵様」


 ソニアは売られた先で教育を受けており、それなりの作法を身につけていた。客層に合わせてのことである。


「伯爵様などと………。おじいさま、そう呼んでくれ」

「おじい、さま?」

「そうだとも。私は君のお母さんの父親なのだ。なんということだ、タチアナの幼い頃にそっくりだ」


 伯爵の目がうるんでいる。信じてもらうためにタチアナと様々な対策を練っておいたのだが、どうやら必要なかったようだ。

 伯爵がソニアを隣に座らせると、こちらにも座るよう促してきた。


「よくぞ孫を救い出してくれた。礼をいうぞ」

「もったいないお言葉です」

「それにしても驚いたぞ。死んだはずの娘からの手紙が届いたときにはな」

「私も、これほど早く対応していただけるとは思いませんでした」

「私はもう半分ほど隠居のようなものなのだ。領主としての仕事はほとんど跡継ぎに任せているので時間に余裕があるのだよ。まあ裏を取るために観測院に人をやっていたのでこのような時間の招待になってしまったがね。冥府の王の舌、たしかにそのようなギフトは存在していた」

「疑われるのも無理はないでしょう。やはり怪しい手紙であると自分でも思いますし。それに差出人である私はこの通り、あまり社会的に信用のある立場とは言えませんから」

「ネクロマンサーか。まあ正直、気持ちのいい存在ではないな。ただ受け取った手紙にはそういった事実も記されていて、誠実なものを感じたよ。それに娘からの手紙の内容だ。あれは他人に書けるものではない」

「タチアナさんの言うことを代筆したものです」

「手紙を読み、裏を取り、本人から聞く。それでもまだ不思議な感じがするよ。だがソニアは間違いなく私の孫でタチアナの娘だ。つまらないことを気にして、娘を守ってやれなかった。ソニアは、私が幸せにしてみせる」

「タチアナさんも喜ぶと思います」

「ご苦労であったな。報酬は言い値で払おう」

「そんな。こちらが勝手にやったことですから」

「孫を救ってもらったのだ。礼がしたい」

「そうですか………。では今回のことでかかった費用を負担してもらっても構わないでしょうか。移動費や宿泊費など、手伝ってくれた者たちの分も自費でしたので」

「わかった、手配しよう。しかし欲が無いな」

「そんなことはありません。お金は欲しいです。ただ正式に依頼されたものではありませんから。………ああそうだ、これはできればなのですが」

「何かな」

「私がギフト持ちであることを、なるべく口外しないでいただきたいのです」

「ふむ、理由は想像できる。約束しよう」

「ありがとうございます」

「最後に一つ聞きたいのだが、タチアナは………、娘はここにいるのだろうか」

「います。会いたいですか?」

「………どういうことだ?」

「ネクロマンサーの魔術は、魂と体を結びつけるものです。体とは肉体に限らず、別のものを体とすることで通常見ることのできない魂の姿を浮かび上がらせる方法があります」

「何と………」

「やってみますか?」

「別のものということは、遺体ではないのだな?」

「違います。これです」

「これは………?」

「魔石と呼ばれるものを粉末状にしたものです。魔術において様々な用途に使われています」

「………やってみてくれ」

「わかりました」


 アークは魔石からタチアナを呼び出す。試したことでソニアが魂魄体を見ることができないことは分かっていたが、反応からして伯爵も見ることができないようだ。


「深淵よ、我に理を超える力を与えよ」


 アークはネクロマンシーの呪文の詠唱を始めた。

 魔石粉はマナを保持することができ、つまりはそれを材料として擬似的な霊体作り上げるのである。


 ネクロマンサーの中には死体を使わず魔石粉やその他の似た性質を持つ材料を使って体とする方法を研究、使用する者たちもいる。いわゆる死霊使いであるとか悪霊使いなどと呼ばれる者たちである。死体を用意する必要がないという長所はあるが、高い効果を発揮するための準備や条件が多いなどの短所も多く、主流ではない。


 アークは理論のみオイゲンから教わっていた。実際にできるかは、昨夜に試してある。


「甦れ、ネクロマンシー」


 床に盛った魔石粉が舞い上がり、タチアナの姿が浮かび上がった。


「お、おお………」

「ママ!!」


 二人とも泣いていた。タチアナは穏やかな表情で二人を見ている。


「残念ながらお二人にタチアナさんの声は聞こえないでしょう。ですが言葉は届きます。それから、およそ2時間ほどで魔法は解けます。そしてその後、タチアナさんは行くべきところ行きます。タチアナさんもわかってますね」


 はい、とタチアナが二人には聞こえない声で返事をした。そして感謝を述べ、深々と頭を下げた。


「ここからは家族の時間でしょう。私はこれでおいとまさせていただきます」

「本当に、心から感謝している。ありがとう」

「アーク様、ううん、お兄ちゃん。ありがとう」


 一礼して部屋を出た。使用人に言われ、かかった費用を計算し告げるとその分の現金を渡された。その後、屋敷を後にした。

 普段依頼を達成しても、冷淡な態度を取られるか良くて心のこもらない感謝の声を聞くばかりである。

 二人の感謝の言葉に、少し戸惑いを覚えた。

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