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弟の戸籍

作者: HasumiChouji

「ええっと……あのですね……」

 私は、市役所の職員だ。

 戸籍や住民票を管理する部署に所属している。

 と言っても、正確には人材派遣会社から派遣された非正規職員だが……。

「……貴方の弟さんが結婚されているのなら、その弟さんは、あなたの一家の戸籍から抜けて、新しい戸籍が出来る事になります」

 私は、自分の一家の戸籍について質問しに来た六十近い気の弱そうな男性に説明した。

 有名人の結婚の事を「籍を入れる」と言う場合が有るが、実は、この表現は不正確だ。

 ()籍とは文字通り、家族単位に管理されている。

 そして、結婚により新しい戸籍が作られる。

 逆に言えば、結婚しない限りは別の場所で長年暮していても、親の一家の戸籍に入ったままだ。

「はぁ……」

「で、弟さんは、結婚されてるのですか?」

「それが……よく判りませんで……」

「えっ?」

「おっしゃる通り……結婚()しとったなら……弟の名前がウチの戸籍から消えとる理由は判るとですが……」

「何かの理由で、長年、音沙汰が無かったのですか?」

それ(そい)が……有ったような無かったような……」

「弟さんは……どう言う方なんですか?」

「えっと……私の知っとる弟は……就職氷河期と云う(ちゅ〜ん)ですか? それ(そい)で……五十過ぎまで、マトモに就職も結婚出来んで、ウチに居候しとったとですが……この前……」

 そう言って、その男性は風呂敷包みを解いた。

「交通事故で、こげな事になりまして」

 中から出て来たのは、骨壺らしい白い壺だった。

「は……はぁ……それは、お気の毒に……」

「ですが……弟の名前がウチの戸籍に無く(のう)て……死亡届()受け付けてもらえんかったとですよ」

 なるほど……それで、この人は、こちらに盥回しにされた訳か。

「はぁ……。知らない間に婚姻届を出されてたなんて事は……」

「あるかも知れません……」

「弟さんが、御家族の知らない間に誰かとの間に婚姻届を出されてた、という心当りが有るのですか?」

「はぁ……TVにも出てますし……Wikipediaにも……」

「えっ? 弟さんは有名人だったんですか?」

「いえ……ずっと、たまたま、出身地が同じで、同姓同名じゃと思うとったとですが……」

「ああ、そうだ……弟さんの御名前は?」

 返ってきた、その名前は……。

「何か……おかしかとですよ……出身地も同じ、名前も同姓同名、誕生日まで同じで……」

「え……えっと……」

「そりゃ、ウチの名字は、こん辺りでは良く有る名字ですけん、たまたま、同姓同名になる事も有ると思いますが……警察ん方で出生届とかも調べてもらったら……()らんとですよ……。この市内の出身で、弟と同姓同名で生年月日まで同じ人は……」

「あ……あの……」

「一体全体、どっちが(おい)の本当の弟……今村正次郎なんでしょうか? ず〜っと、ウチに居候しとった穀潰しと……()()()()()()()()()()()()()()()

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