婚約者を奪った女と奪われた女 〜ちょっと様子が変です!〜
「レーニア様!助けてくださいっ!」
学園の生徒に開放されている談話室でくつろいでいたら、ソラ様が駆け寄って来ました。
「まあ、今度はどうされましたの?」
あまりの勢いに、周りの方々もびっくりしていらっしゃいます。彼女と私は取り立てて親しくはないのですが、ちょっとした縁があって時々こうして泣きつかれるのです。
「で、殿下に贈られたドレスを着ていたら、剥き出しの肩を執拗に撫でてくるんです…なんとか我慢していたら、服の下にまで手を入れてきて…」
なんだ、そんなことですか。
肩から力が抜けました。
「まあ、そうでしょうね。殿下なら」
私に対しても、度々そういうことをしようとしてきましたもの。毎回なんとか頑張ってかわしてましたが。
「っ!殿下ってそういう方なんですか!?」
「ええ、そういう方ですよ?ご存知なかったんですか?」
だとしたら浅はかと言うほかありませんが、殿下は彼女のそういうところを気に入られたのかもしれませんわね。
「知りませんよ!あんなエロオヤジみたいな!しかも人前で!」
あらあら。
「ふふっ、可愛らしい恋人に浮かれていらっしゃるのでしょう。仕方のない方ですわね」
相手が自分でないのであれば、気が楽です。思わず笑みがこぼれてしまいます。
「笑いごとじゃないです。なんとか言ってくださいよ!」
「私が?殿下に?何故?」
言われたことが理解できずに首を傾げました。
「だってレーニア様の言うことなら殿下聞くじゃないですか!」
ああ、それは当時は婚約者だったからですよ。
「それは昔のことですわ。私と殿下は婚約を解消したのですもの。何の関係もなくなった私が殿下に意見するだなんて恐れ多いことできませんわ」
そう、殿下はソラ様と恋人になる為に、私との婚約を解消したのですから。
「そんな…」
「別によろしいじゃありませんか。恋人なのでしょう?仲睦まじくて微笑ましいですわ」
年相応にいちゃいちゃするカップル、いいじゃないですか。
「よくないですよ!人前で胸揉まれたんですよ!?」
「あら、まあ…」
相応以上でした。
殿下ったら随分はしゃがれていらっしゃいますのね。でも
「私にはどうとも」
できないですし、今さらそんなこと言われても困ります。ソラ様がご自分で殿下の恋人になることを選ばれたのですから。当時の婚約者を押しのけて。
「殿下もストレスが溜まっていらっしゃるのでしょう。癒して差し上げるのも恋人の役目ではないかしら?」
私は婚約者ではあっても恋人ではなかったので、よくわかりませんが。
「だからってあんな痴女みたいな真似…」
そんなにひどいのでしょうか。
もしかしたら……
「殿下は人に見られるのがお好みなのかもしれませんわね?」
つい思ったことをそのまま口にしたら、ソラ様が真っ青になりました。
「そんな……」
ふらふらとして倒れそうでしたので、ソファを勧めて差し上げます。目が虚ろですわね、お可哀想に。
…ソラ様が立場を代わってくださって本当によかったわ。
「まあ、そのうち慣れますわ」
多分。
「無理です。なんとかしてください〜」
泣きながら抱きついて来ましたが、それこそ無理です。
「一介の貴族の娘が殿下に意見などできませんわ。首が飛んでしまいかねませんもの」
殿下もお年頃ですからね。邪魔をするなんて自殺行為です。そもそも、そんな事をする義理も全く無いですし。
「私、いったいどうしたら…」
そうですわね。
「気がすむまで付き合って差し上げたらいいんじゃないかしら?」
私と違って彼女の家は男爵家。強く出るのも難しいでしょう。そうなるとあとは受け入れるのみです。
「そんな…」
「大丈夫ですわ」
泣きじゃくる姿があまりに気の毒だったので安心させるようににっこり笑うと、彼女は縋るように私を見つめてきました。
「どれだけ恥ずかしい思いをしても、それで死ぬことはありませんもの」
「いやー!!!!!!!」
彼女は私のドレスの胸元を掴んで号泣してしまいました。いったい何を想像したのでしょうか。
可哀想なので髪をそっと撫でて差し上げました。
お読みいただきありがとうございました!