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連なるもの ~菅田の事件簿~  作者: こでまり
偶然か?

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対象

「はい。すみません。退院日が決まりましたら連絡します」

 菅田は電話を切る。


 病院の談話室にある公衆電話から職場の上司である田辺譲に連絡を入れた。


 菅田は地元の老舗ホテルの副支配人をしている。田辺は総支配人で菅田が尊敬している人物の一人だ。もう一人、ホテルには菅田が目標にしている自分がいる。その人がカフェ責任者の佐伯雅之だ。菅田に何も考えない時間を作れといった人物だ。


(佐伯さんと鍋島さんが怪我のことを知ったらどう思うかな)


 菅田は二人が自分の責任だと負い目を感じるだろうかと考えたが、二人の性格からしてそんなことはないと思い直した。


 自分の携帯電話が見当たらなくてどうしようかと思っていたら、昨夜乗って帰った車の中に落ちていたようだ。それを父が今日、仕事帰りに持ってきてくれると連絡があった。

 菅田は田辺に急ぎ連絡をしたくて、車椅子に乗り同じフロアを回って見た。そこで談話室の端にある公衆電話を見つけ、田辺に連絡を入れたのだ。


 昨夜、菅田を襲った者は『副支配人の部下たちを』と言っていた。

 菅田には、その部下たちが誰のことを言っているのかわからないが職場であるホテル『星華』の従業員のことだと考える。用心の為、田辺には昨夜のことを伝えた。


 菅田の上司である田辺はホテル『星華』の総支配人だ。きっと何か手を打ってくれるだろう。菅田が退院するまで何も無ければいいと願いながら。


 周囲を見渡すと入院しているのは菅田を含めて三人だ。その二人も特に菅田を気にする様子もなく、思い思いのことをしている。

 菅田は車椅子を操作して病室に戻る。ベッドに横になりながら腕を見た。しっかり固定されて動かすことは出来ない。


 高梨が言った二週間とは多分、足のことだろう。襲われた時、どうやら足を捻ったみたいで、捻挫だと言われた。


 二週間で退院出来たとしても、この腕では出来ることは限られるだろう。

 どうしたものか。


 陽が沈み辺りが闇に包まれ始めた時、父の圭介が菅田の携帯電話と着替えを持ってやって来た。


「二週間だってな。ここに居れば安全だ」


 圭介は何があったのか聞く事はない。しかし、昨夜菅田が怪我の事を内緒にして欲しいと言ったことから、何か問題が起きていることだけは理解しているようだ。


「突然、襲われた」


 菅田の言葉に圭介の眼は大きく開いた。さすがにいつまでも隠し通すことは出来ない。いずれ警察の捜査が始まる可能性だってある。その時に、父には迷惑をかけてしまうだろう。


「ホテルの従業員が狙われている」

「警察に連絡するか?」


 圭介が聞いてくる。


「総支配人に連絡した。田辺さんが警察に連絡すると言っていた」

「そうか。襲われる理由は分かるのか?」

「わからない」


 圭介はどうする事も出来ないのかと溜息をついた。


「取り敢えず、怪我を治せ」


 圭介はそう言い残し帰っていった。


 菅田には襲われる心当たりがない。今日一日、ずっと考えていたが、その兆候もなかったと思う。

それに、襲われたときに襲ってきた人物のさらに後ろに人がいたような気がした。何かが光って、それに気をとられた襲撃犯たちの隙をみて菅田は逃げ出すことが出来たのだ。


(あそこって防犯カメラがあったはずだよな)


 菅田は記憶を探る。防犯カメラに写ってくれていれば犯人を捕まえることが出来るはずだ。


 数日は何事もなく過ぎていった。

 足の腫れはすっかり引いて、自分の足で歩けるようになった。

 寝てばかりいても体力が落ちてしまうので、病院内を許される範囲で歩いて回った。


「なんだ。通路を歩いていたのか」


 振り返ると高梨が白衣を着て立っていた。


「じっとしていると体力が落ちて仕事復帰が出来なくなるんじゃないかと心配で」

「はははっ。そんなことならリハビリに行ってみるか?」

「えっ? いいのですか」

「いいよ。ただし、無理はしないように」


 高梨について診察室へ行く。


「ちょっと待ってね」


 高梨はそういいながらカルテと書類を書き始めた。


 机の上には写真が二つ並べてあった。一つは三人が映っている。高梨とその妻、娘だろうか制服姿だ。もう一つは高梨と私服の娘の写真だ。


「娘さんがいたんだ」

「あれ?覚えていない?小さいころ一緒に遊んだことがあるよ」


 高梨に言われて記憶を探る。


「三つ編みにいつも赤いリボンをつけていた女の子?」

「そうだよ。バレエを習っていたから、髪を伸ばしていたんだ。覚えてくれていたんだね。ありがとう」

「僕の方こそ、高梨のおじさんにはよく遊んでもらったよ。ありがとう」


 菅田はもう一度写真を見る。あの三つ編みの女の子はとても優しい笑顔で写真におさまっていた。


 高梨からもらった書類をもって、リハビリテーションに行くとスタッフは菅田の怪我の状態を見て怪我をしていない部分を使ったトレーニングメニュー作成してくれ、菅田がトレーニングをしている間、サポートについてくれた。


 二週間と言う期限まではまだあるがこれで退院出来るかと思っていた時、携帯電話が鳴った。


「菅田、今西さんが襲われた」


 田辺からの電話だった。


 田辺は知り合いの吉村刑事に菅田が襲われた事を話し、吉村たちは内密に捜査を初めていたと言う。


 菅田が聞いた、副支配人の部下たちということで該当する従業員に捜査員をつけて警護もしていた矢先の出来事だった。しかし、襲われたのはホテルとは関係のない今西だった。


 今西は地元のケーブルテレビのカメラマンだ。

 菅田や田辺とも知り合いの今西が襲われた事で、田辺と吉村はある人物を思い浮かべたようだ。


 その人物は一年程前、ホテル星華を乗っ取ろうとした瀬田和馬だ。忘れる訳がない。前総支配人の柏木孝司が瀬田に不正の濡れ衣を着せられ辞めさせられた。


 柏木の従兄弟で地元のケーブルテレビの鍋島学とその同僚の今西明と、当時副支配人をしていた田辺が柏木の濡れ衣を晴らす為、不正が擬装された証拠を集めて瀬田を追い詰めた。


 瀬田は最後まで自分はやっていないと言い張っていたが、瀬田は人を上手く使い、自分が手を下さないように仕向けていた。


 前総支配人の柏木が集めた証拠と田辺たちが調べた物で瀬田の容疑は固まり、今は刑務所にいるはずだ。

 瀬田の共犯で愛人の松川明美も殺人の容疑で刑務所にいる。それに松川にホテルの情報を売っていた水川志保もあの後、事故を起こして亡くなったと聞いている。

 あの事件に関わった者たちではないことは分かる。


 あの時襲ってきた者は瀬田ではない。瀬田であれば菅田はすぐ分かったはずだ。暗がりでよく見えなかったが声の調子から瀬田よりも、もっと若い。それも男と女の二人だ。


『副支配人の部下たち』


 菅田はその言葉が気になっていた。

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