アイドル
飲み会に参加したら終電を逃し、大学近くのアパートに入居している友人の部屋に泊めてもらう。
深夜、寝ていた私の耳に部屋の外から響く人の声が聞こえた。
「み! ん! な! ちゅーもーく!
えー何でー!
誰も私を見てくれないのー!
なら死んでやるー!」
そのあと電車の急ブレーキ音が響き、人の悲鳴が幾つも上がる。
私は慌てて隣で寝ている友人を揺り起こす。
「何だよー」
「人身事故だ」
「ああ、あれな、言い忘れていたわ、無視しろ」
「え?」
「アパートの前の路線はとっくの昔に廃線になっていて、駅も取り壊されている」
「じゃあ、あの声は?」
「注目されようと飛び込み自殺をしたけど、新聞の片隅に小さく載っただけの、遥か昔のアイドルの成れの果て。
因みに俺達が生まれる前の事だからな」
「芸能界に未だに未練があるから出てくるのか?」
「そういう事だろ」
「でもよく知っていたな、遥か昔のアイドルだって」
「それはさ、年金で悠々自適な生活を営んでいる曾爺さんがコレクションしている、アイドルのお宝DVDに映ってたからだ」