表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/58

第21話 フィズの異変

 名もないほど小さな村に着いたのは、その日の夕方前だった。

 村に入る直前に、ジャックとローズも合流できたので、そのまま馬車で村の入口をくぐった。

 どうやら結構な素材が取れたらしいので、後が楽しみだ。


「とーちゃく……したわ」

「フィズ、お疲れ様。顔色が悪いけど大丈夫か? 馬車は小さして運べるんだからもう人になってもいいぞ」

「うん。本当はまだまだひけたんだけど……ね」


 そういいながらフィズは人間形態になると、いきなり俺の胸に飛び込んできた。

 着替えていないから久々に全裸で、だ。

 ぐへへ……と普段なら思うところだったけど、どうもフィズの様子がおかしい。


「フィズ?」

「ちょっとだけ(ここ)で休んで……いいか、しら?」

「おい、体がものすごく熱いじゃないか」

「ううん……大丈夫、なのよ」


 こりゃ大変だ。

 考えてみれば出会ってからずっと馬車をひかせ続けていた。

 ロッカで休ませようと思っていたのも結局出来なくて……。

 どう考えても無理をさせすぎているよな。


 高熱を出しているというのに全裸のままというのはまずい。

 俺は急いで馬車から毛布を取り寄せるとフィズを包んだ。


「すまん……フィズ。すぐに泊まれるところを探すからな!」

「いつもみたいに馬車の中で大丈夫……のよ」

「せっかく村にいるんだからそういう時くらいはちゃんとした部屋で寝た方がいいだろ」


 全員が馬車から降りたのを確認すると、俺はすぐに馬車を小さくしてポケットにしまう。

 それからフィズをお姫様抱っこで持ち上げると、近くで家畜に餌をやっていた村人に話しかけた。


「すみません、この村に泊まれる場所はありますか?」

「ああ、旅人け? んなら村長のとこさ行けば大丈夫だぞ」

「村長さんのお宅はあの大きい家ですか?」

「んだんだぁ」

「ありがとうございます!」


 礼をいうと、村人から教えてもらった村長の家まで急いで向かった。

 ここで急いだところで何も変わらないのは分かっているけど、焦る気持ちが抑えられない。

 この気持ちは……なんだろうか。


「すみません!」


 フィズを抱えながら、村長宅の扉をノックするとややあって扉が開いた。


「はい、なんでしょう?」

「僕らは旅人なのですが、ここで宿を貸してくれると聞きまして。今日泊まらせていただけますでしょうか?」


 そう尋ねると、村長は鷹揚(おうよう)に頷いた。

 おそらく村には宿がないだろうし、旅人を泊めることも多いのだろう。


「二部屋しかないが足りるかね?」

「ええ、大丈夫です。馬車を置いておきたいのですが……」

「はて、馬車はどちらに?」

「え? えっと、今は村の外に置いてあるんです」


 ちょっと無理筋だが、これで納得してもらうしかない。

 そもそも隠す必要があるのかもよく分からないが。


「ああ。では、この家の横に置いておけばいいじゃろう」

「ありがとうございます。さっそく部屋を使っても大丈夫ですか?」


 少し焦りながらそう聞くと、村長は俺に抱えられているフィズに気付いたようだった。


「……病人かね?」

「ええ、疲れが出ただけだとは思うのですが……」

「そうか……。この村には医者がおらんで、なるべく広まらんようにしておくれ」

「すみません。気をつけますので……」


 俺は村長に頭を下げると、案内された部屋にフィズを運び入れ、ベッドに寝かせた。

 確かに医者がいないという事はちょっとした病気でも、驚異になり得るか。

 特に高齢であろう村長らにとっては死活問題だろう。

 フィズは疲れで熱が出ただけだとは思うが、この世界で旅をするならそういった事も頭に入れておかないといけないかもしれないな。

 

「そういえばローズの魔法でフィズを治したりすることはできないのか?」

「ええ。私の魔法は怪我の治癒しかできないのです。魔族は滅多に病気になりませんので……ご期待に沿えず申し訳ありません」

「なるほど。ならないものを治せるようになる必要はないか」


 切れるほど唇を噛みしめるローズに「大丈夫だから」と声をかけ、残りの部屋割をする。


「それじゃ隣のもう一部屋はリリアとミルカで使ってくれ」


 そういうとミルカは胸に手を当てて「ハッ!」と了解を示してくれた。

 なんか騎士のように様になっていて格好いいな。

 ああ、「ように」じゃなくて本物の騎士だったんだっけ。


「ゴンザさんは悪いんですけど、俺と馬車で寝る形でも大丈夫で……ん?」


 不意に袖が引っ張られた。

 なんだろう、と見るとベッドに寝ているフィズが引っ張っていたようだ。


「ご主人さまぁ、フィズと一緒に……いて?」

「はは、大層好かれてるじゃねえか。俺は一人で馬車に寝るから問題ねえぞ。自分用のベッドも出来たしな!」

「……すみません。じゃあ俺はここでフィズの看病をする事にします。ジャックとローズの二人はいつものように警戒を頼んでもいいか?」

「ええ、マスター。お任せ下さい」

「ワタクシはついでに滋養効果のありそうな薬草を探して参ります!」

「ああ、頼んだ」


 ローズは病気の治療が出来なかったのを挽回しようと目をギラつかせていた。

 そんな二人を外まで見送るついでに馬車を村長さん宅の横に出現させておく。

 村の中は人が少なかったからおそらく見られていないはずだ。

 まぁ仮に見られていたとしても俺の天職の能力だといえばなんとかなるだろう。

 

 フィズの所へ戻ると、ベッドの上では可愛らしいピンクゴールドの髪をした女の子がうんうんとうなっていた。


「こちら、お使いになられますかな?」


 村長さんが気を聞かせて布と水を持ってきてくれた。


「ありがとうございます。……助かります」


 そういって受け取ると、汗をかいていたフィズを拭くことにする。

 明日にはよくなるといいが……。

 そう呟きながら、その顔を、体をしっかりと、そして優しく拭いてやった。


 フィズのうなされている姿を心配しながら見続けていると、ドアがノックされた。


「村長さんに台所を借りて食事を作りましたのでどうぞ。フィズさんとお食べになりますよね?」

「あ、ああ。いつもありがとう」


 じっとフィズを見ていたから知らないうちに結構な時間が経ってしまっていたようだ。

 なにやらリリアの後ろではミルカが赤い顔をしていきり立っているが……ああ、姫様に料理をさせるとは何事だ、みたいなことを言っているのか。

 それでもしっかり自分の分を持っている所をみるとなかなかちゃっかりしている。


「ゴンザさんには俺から届けておくよ」

「いえ、もう持っていきましたので大丈夫ですよ。フィズさんを見ていてあげて下さい。フィズさん……ここまでずっと頑張っていましたもんね」

「ああ、ありがとう。俺が分かってあげられてなくて、無理させちゃったみたいで恥ずかしいよ」

「そんな事ないですよ。フィズさんはカケルさんの事、とっても信頼しているじゃないですか。期待に応えようと頑張っちゃったのかもしれませんね。ちょっと妬けちゃう……」

「え、何だって?」

「い、いえ。なんでもありません。ではお大事に、とお伝え下さいね」


 そういってリリアは慌てたように部屋の扉を閉めた。

 両手に持たせてくれた皿をみると、片方はチキンのハーブソテー、片方はくたくたになるまで煮込んだパン粥だった。

 これはフィズの分だろうな。

 このミルクは村長さん辺りに融通してもらったのか?あとでお礼をいっておかないとな。



 フィズ、早く元気になってまた笑顔を沢山見せてくれよ。

 俺はそう願いながら、リリアが作ってくれた料理に口をつけたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ