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第17話 お前らの謝罪を受け入れる

 翌日——朝早くに出発した俺たちは森を迂回するように進み、夕方前にロッカの街に到着した。

 その途中で魔獣に襲われる事がなかったのは、時間が早かったからか、それともフィズの蹄の音のお陰だったのだろうか。


 街の門衛に冒険者タグを見せると、問題なく中に入る事が出来た。

 依頼中の出入りには税金がかからないらしく、すんなり街に入る事ができたのは良かった。


 二人目の乗客の女性を連れて、依頼主の元へ戻ると大変喜んでくれた。

 どうやらあの手紙には『孫が結婚式を挙げる』ということが書いてあったらしい。


「おばあちゃん、無理して来なくても良かったのに……でも、嬉しい」


 そういって笑顔が弾けていたのが印象的だった。

 こんな笑顔を運べたのを見ると誇らしい気持ちになるな。


 運賃の銀貨を受け取って依頼主の家を出たら、次は冒険者ギルドで依頼完了の報告だ。


「はい、これで依頼は完了です」

「あと常時依頼のマグウィードと魔獣の素材を納品したいんですけど」

「それではここに出して下さい

「ここって……ここのカウンターに出していいんですか?」

「ええ、そうですが……どうかしましたか?」

「…………わかりました」


 ギルドの人がここに出せ、というのだから仕方ないか。

 俺はまずマグウィードを馬車から取り出した。

 ドサ、ドサッというおよそ草が出す音とは思えないような音を立てながらマグウィードがカウンターに積まれていく。

 束を増やしていくのに比例してギルド内のざわめきも増えていく。


「とりあえずこれで百束。同じ数があと四つはありますけど、出しても大丈夫ですか?」


 一気に青臭くなったカウンター前で俺は一応確認を取る。


「え、ええと……。今、どこから出しました?」

「それは企業秘密で。で、出して大丈夫そうなら出しますけど……」

「あ、ちょ、ちょっと待って下さいっ! さ、先に魔獣素材を貰っちゃいます」

「わかりました。じゃあまずはキングボアの牙です」

「キ、キングボアですかっ!?」


 受付嬢さんが大声で叫ぶとギルド内のざわめきが増した。


「キ、キングボアだと……?」

「おい、あの変態はただの変態じゃなかったのか!」

「まさか魔王城っていうのも本当だったのか!?」

「何言ってんだ、偽物に決まってるだろ。はは」


 なんて声があちらこちらから聞こえてくる。


「ええ、それが二体分で四本。それに一応毛皮も二体分剥ぎ取ってありますね。買い取れますか?」

「だ、大丈夫なのですが……一応本物かどうか確認させてもらいますっ!」


 受付嬢さんはそういうと、牙と毛皮を持って裏に走っていった。

 しばらくすると、この前俺を変態呼ばわりした受付嬢さんと一緒に戻ってきた。


「はぁ……みなさん早速やってますね。ミルルちゃん、この人達は登録したててで星無し(ノースター)だけどこれくらいは簡単に討伐できちゃう人達よ」

「そ、そうなんですか……てっきり偽物かと」

「確認出来ましたか?」


 俺がそう聞くと焦ったようにカウンターに座り直した。


「すみませんでした。確認できましたので買取させて頂きます」

「ああ、ちょっと待って下さい。他にも色々あるんですよ」


 そういって俺は牙や、爪、毛皮などをカウンターに置く。

 そして最後にフェンリルの尻尾を置いた。


「あと、フェンリルの……尻尾だけなんですけどこれも買い取れます?」


 そう聞くとざわめいていたギルド内がピタっと静まり返った。

 受付嬢さんも「ふぇ?」と言ったまま目を見開いて固まってしまったな。おーい。

 そんな受付嬢さんの後ろから野太い声がした。


「なんか騒がしいと思って見にくりゃ……フェンリルとはなぁ」


 そういって現れたのは薄くなった頭髪が逆に貫禄を醸し出している体格のいいおっさんだった。


「フェンリルといや竜種よりも珍しいからウチのギルドですぐに買い取るのは難しいな。おちおち値段も付けられやしねぇ」


 俺はもう珍しいという言葉は信用しないぞ。

 あの狼だってリリアという生き餌にホイホイ食いついて来てたしな。

 それだけリリアの呪い……天職が強力なのかもしれないが。

 まぁ買い取れないもんは仕方ないか。


「じゃあこれはナシでいいです」

「おい、お前。ちょっと裏で話させてもらってもいいか? その間に他の素材の買取金を用意させるからよ」


 そういって連れて行かれたのは——ギルド長室だった。


「まぁ座ってくれ。俺はここのギルドを任されているギルド長のゼルディだ」

「俺はカケルといいます」

「とんでもねぇ新人が入ったってフラウが騒いでいたけどお前の事だったか」

「それってとんでもない変態、とかじゃないですよね?」


 俺が恐る恐るそう聞くと、確かにそんな話もしてたなぁと笑った。


「確か天職が【御者】だったか。しばらくこの街でやっていくのか?」

「いえ。もう御者の方の依頼がありますので、すぐにでも出ようかと思ってます」

「そうか……それは残念だな。その依頼が終わったら戻ってくるのか?」

「うーん、どうでしょう。まだそれは考えてないですね」


 俺の言葉に苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「ちなみにどこへ行くんだ?」

「確か、ドライエント王国ですね」

「あそこか……。確か王女が居なくなったから探して欲しいって依頼が全ギルドに通達されていたな……。お前達も見つけたらどこのギルドにでもいいから報告してくれ」

「あ、そのお姫様が次の乗客なんですよ」

「な、なんだって!?」


 ギルド長は興奮して椅子をひっくり返さんばかりの勢いで立ち上がった。


「お、おい。発見報告だけで金貨十枚、保護で百枚の依頼だぞ!」

「そ、そんなにですか!?」

「王女の身柄をこちらで預からせてもら——」

「嫌です」

「おい、国賓として扱わないといけないような身分の方だぞ!?」

「俺には関係ないですね。彼女に乗せてくれと頼まれたんだから彼女は俺の客だ! ……っと。すいません。でも必ず無事に送り届けるから安心してください」

「…………わかった。こちらでどうにかしておく。ドライエントに報告だけはしてもいいんだろ?」

「もちろんそれは構いませんよ。必ず無事に連れて行く、と伝えておいてください」

「聞かされていたよりもとんでもねぇ新人だな、こりゃ」


 ギルド長はそういって快活に笑った。


「じゃあもう行っていいぞ。姫さんに宜しくいっておいてくれ」

「はい、わかりました。この街に戻ってくるって話……考えておきますね」


 そういって俺はギルド長室を出た。

 カウンターに行くと、どうやら素材の査定が終わっているようだ。


「それでは依頼の分と、素材買取の分合計して金貨三十三枚と銀貨が七枚、銅貨が四枚になります」

「あ、ああ。ありがとう」


 三十三枚だって!?そりゃまたとんでもない金額だな。

 配達依頼とかマグウィードの採取をしていたのが馬鹿らしく思えてしまうな。

 でもあの依頼を請けてなかったら今頃リリアは……やっぱり請けてよかったか。


 受け取った金を馬車に入れて、台帳で確認するとぴったりだったので、礼をいってギルドを出ようとした。

 すると、最初に来た時に俺を変態だのなんだのと馬鹿にしていた冒険者達が一列に並んでいた。

 その横を通りすぎようとすると全員が一斉に口を開いた。

 なんだ?また馬鹿にしてくるのか?とちょと身構えた俺の耳に飛び込んできたのは——。


「「「この前はすみませんでしたっ!!」」」


 全員で声を揃えての謝罪だった。

 中には足を震わせている者もいるようだ。

 そうか、キングボアやフェンリルを狩れるやつを馬鹿にしてしまったと思ってビビっていたわけか。

 まぁ実際に肉塊にしようとしてた人や捻り潰そうとしていた人もいたしな。


 ただ謝ってもらったらこの件はもう終わりでいいだろう。

 だから俺はこう言おう。


「…………お前らの謝罪を受け入れる」

拙作「ぼくまじょ」の更新を再開するので、キリのいいところから一日一話にします。

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