第10話 変態 in the 冒険者ギルド
変態をひと目みてやろうと周りをキョロキョロ見回したけど、どうにもそれらしき人物は見当たらなかった。
変態がいる、そう叫んだ受付嬢さんをみるとその視線は——え、俺!?
視線に気付いた俺は、自分の格好を思い出した。
「あ……」
あの時、うしろにいる二人の魔法でボロボロにされたままだった。
でも大事な部分は隠れているはず……。
恐る恐る下を見ると、大事な部分を隠していた布がぺろりと下にめくれていた。
だ、大丈夫。セーフだ、この下にはパンツがあるんだからな。
なんとかギリギリ自尊心は保たれたけど、それでもやっぱりこの見た目は犯罪に近いか。
「す、すみません。魔王城で戦って来たもので……」
「えっ、魔王城ですか!?」
俺がたまらず本当の事をいうと「え、何言ってるのこいつ」というような顔をされた。
そしてギルド内が一瞬の静寂に包まれ、それから笑い声が爆発した。
「おい、聞いたか? 魔王城だってよ」
「ぷぷ、行って無事に帰ってこれる訳ねーだろがっ」
「自分の変態行為の為に大袈裟な嘘つくんじゃねぇよ」
「でもあの後ろの子は可愛いぜ?」
ギルド内には酒場が併設されていて、そこにいる男どもが好き放題いっている。
「あのゴミどもを黙らせますか?」
後ろに控えていたジャックが物騒なことを口にしたので慌ててそれを制する。
黙らせるっていうのは、いつも食事時に持ってきてくれる動物達のように物言わぬ肉塊にするということだろう。
ここを血の海にする気か!?
やっぱりジャックには気を付けないといけないな。
「いや、魔王城に行こうとして逃げ帰ってきたというか……まぁそんな状態でして」
「あ、あらそうだったんですね。それは失礼しました。では冒険者タグを」
「……いえ、はじめてなので、登録をしにきました……」
俺がそういうと二度目の爆発が起こった。
「おいおい、冒険者でもないのになんで魔王城に行くんだよ!」
「あの辺は魔界って言われてて俺たちでも近づかねえのになぁ」
「ま、あの後ろに連れてる女の手前、カッコつけたいお年頃なんだろ!」
「でもあのもうひとりの女も可愛いぜ?」
なんかやたらと女旱している奴が一人いるが、あいつだけは肉塊にしてもらった方がフィズとローズの安全上いいかもしれない。
「捻り潰しますか?」
今度はローズがそんな事をいってきた。
おいおい、一体ナニを捻り潰すつもりなんだ!?
ぐちゃっとなるのを想像したら……ああ、怖い。
冒険者とやらに登録したいだけなんだから穏便に、穏便にいこう。
「——という形で、しばらく依頼を請けないと自動的に降格となります。冒険者のランクは星で表され、下から新米、一ツ星、二ツ星、三ツ星となります。その上にいけばそれぞれ特別な星の名前が付きますが、今は知らなくてもいいでしょう。ここまでで質問はありますか?」
「しばらくっていうのはどれくらいの期間になりますか? 俺たちは旅をすることも多いので、この街を空けることも多いのですが」
「ランクによって若干違いまして、新米であれば半年、三ツ星であれば三ヶ月となります。ですが、他の街で依頼を請けることも出来ますので、旅先のギルドをご利用いただいても構いません」
「ああ、それなら大丈夫そうです」
「では四人分の登録料として銀貨を四枚頂きます」
そう言われて俺はちょっと焦った。
だってお金は馬車の中に置いてきちゃってたんだから。
「ええっと……」
俺は焦りながらポケットの馬車をまさぐった。
よしんば、このミニチュアの中からお金が出せたとしても、それもまたミニチュアであるはずなのを忘れて。
「お金、お金……っと……ん?」
俺は不意に感じた指先の冷たい感触を指の腹でもう一度確かめて、ゆっくりポケットから引っ張りだした。
そこから出てきたのは紛れもなく金貨だった。
「あれ? 馬車の中においておいたはずだけど……まぁいっか」
俺はポケットから出てきた金貨をカウンターに置いた。
受付嬢さんはその金貨が本物であるかしっかり調べると、受付を済ませてくれた。
「はい、では金貨一枚お預かりしましたので、銀貨六枚のお返しです」
なるほど、つまり銀貨十枚で金貨が一枚分の価値って事だな。
「こちらがみなさまの冒険者タグになります。それぞれのお名前が書いてあるのでご確認下さい」
そういって渡されたのは首から下げるようなタイプの、所謂タグペンダントだった。
俺は刻まれている名前を確認し、それぞれに渡した。
「それではタグに名前以外の情報を記憶させますのでこちらの魔道具へ手を置いて下さい」
それ言われたので俺は素直にその板のような道具に手を置いた。
魔道具なんて響きがいかにもファンタジー感あってちょっとワクワクしてしまった。
「……えっ?」
俺の情報とやらを見ていた受付嬢さんがなにやら絶句している。
まさか前世の情報も出てしまったとかか?
「ステータスが魔力以外カンストしているなんて……故障かしら? それに天職が【御者】ってなによそれ……」
なんか小さな声でブツブツいっているけど全部聞こえているからな?
まぁ前世の情報は出てないないようだったので少しは安心か。
「で、でもこの魔道具の情報は絶対なはずよね……」
目の前の女性はパンパンっと自分の顔を叩くと気を取り直したように作業を進め、それが終わったのか、タグを返してくれた。
続けて他の三人の情報を見て、顔を青くしたり、赤くしたりしていたから倒れてしまわないか心配してしまうほどだった。
他の三人も俺ほどじゃないけどなかなかの能力だったようだな。
フィズは信託の儀なるものを受けていないはずだけど【馬車馬】という天職があって、受付嬢さんに憐れむような目で見られていた。
当の本人は「ええ、そうでしょうとも」なんて嬉しそうに胸を張っていたけどな。
「はぁはぁ……ではこれで登録は完了です。依頼、は……あちらの依頼掲示板から……ご確認っ、ください……はぁはぁ」
事務仕事しかしていなかったはずなのにやたらと疲れて呼吸を荒げている受付嬢さんに礼を告げると、一応見ておくかという気持ちで依頼掲示板へと向かった。
もしかしたらあのカウンターの下には誰かがいてナニかをされているのかもしれないな、なんて下世話な妄想を働かせながら掲示板を見ると、そこには色々な依頼が貼ってあった。
並べて貼ってある依頼書がところどころ抜けているのは、誰かがそこにあった依頼を受けたからだろうか。
「ええっと、畑の開墾、モンスター退治、人探しにそれから配達かぁ……冒険者っていうのはこんなことまでするんだな」
「私達スレイプニルを捕まえようとしにくる冒険者たちもたまにいたのよ」
「へぇ、捕まったりはしなかったのか?」
「まあみんな強いからね、問題なかったわよ。ただあの時は——」
俺たちはそんなフィズの武勇伝を聞きながら、冒険者ギルドを出た。
身分証の為に登録はしたけど、依頼を請けようと思っていないからな。
少なくとも金があるうちは。
「さて、せっかく街に来たんだし飯でも食うか」
そういうと三人は微妙な顔をした。
あ、そういえばフィズは草が好きだし、残りの二人は食べないんだった。
「私たちのことはお気になさらずっ!」なんてジャックは言っているけどそれはさすがにないな。
ということで、さっき来る時に目をつけていた屋台で煮込みを一つ買った。
なんの煮込みかはよく分からなかったけど、久しぶりにちゃんとしたものを食った気がしたな。
煮込みは銅貨二枚。銀貨で支払うと、予想通りお釣りとして銅貨八枚渡してくれた。
前の感覚でいえば銅貨一枚で百〜二百円ってとこか?となるとグレイズさんは五万円払ってくれたことになるのか。
と、なるとまだ残りはそこそこあるから服を買おう。
「よし、それじゃあ次は服屋だ!」
今も厳しい街の視線を受けていたから早い所着替えてしまいたいたかった。
着替えて変態じゃないことをアピールするんだ。
ついでにフィズにも可愛い服を買っちゃうぞ!
俺はそう心に決めて、街を歩きながら服屋を探すのだった。
たくさんブクマ、評価を頂き筆が乗ったので夜にもう一話更新できそうです。
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