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僕は死んでいたらしい

「ところで次の質問に進む前に、君に少し情報提供をしておこうと思う」

「これは質問集の質問ではないよ」

「君は自分が死んでいることに気づいている?」


「そんな顔(もう無い)をするとは、やっぱり気づいてなかったか」


「一応聞いておくけど三途の川は渡った? あ、渡ってない」

「お迎えは来たり、見たりした? あ、来てないし見てない、と」


「そうか。君は色々ショートカットしてしまっている様だね」

「ん? 君が死んでいる夢を見てる可能性はあるか? もちろん学者的にはその可能性は0とは言い切れないけど、ほぼ無い話だと思う」

「理由? たとえばボク自身の存在とかかな。ボクはボクの存在を信じているし、君がそれほどまでに重要人物と感じていない。これが君の夢というなら君がボクの創造主という事でしょ? そんな重要人物、ボクなら会った瞬間に何かしら気付けるはずだよ」


「ん、次の質問集2は、君自身がいわゆる亡くなっていることを知っている前提の質問集だからね。先に認識を合わせておかないと、トンチンカンな結果になるかも知れないからね。それは困るから」


「そんな落ち込まなくても――あ、落ち込んでない? ごめん、君の表情(もう無い)が分かり辛くて……」


「じ、じゃあ改めて質問集2に行くね」


 ◆ ◇ ◆


 学者さんの衝撃のネタばれを喰らってしまった。

 どうやら僕は亡くなっていて、ここは死者の世界の「冥界(めいかい)」という場所らしい。


 とはいえ、まだ夢の中じゃないと証明された訳じゃないけど。

 ていうか、「ボク自身の存在が夢じゃない根拠 (キリッ)」とか、それ論理的にすぐ論破されるんじゃないですか?

 美少女だから、ギリ許されるかもだけど。


 でも、結構冷静に受け止めることが出来ている自分がいる。

 あと、こんな美少女な学者さんとおしゃべりできるなら、死後も悪くないのではないか……とか。

 もし死んでるとしたら、この学者さんはもしかして天使さんだったりするのだろうか。


 stay cool.

 うん、なんとか落ち着けたかも。




「では、質問集2を始めさせてもらうよ」

「あなたは、ここに来ることになった原因、すなわち死亡理由はなんですか。または何も覚えていないですか」


 なるほど、死んだ理由ですか。

 少々無理やり話を進められている感はあるけど、その線で話に付き合ってあげますか。

 死んだ原因……まったく何も覚えてない。


 "すみません、何も覚えていません"


「謝る事はないさ。成る程、何も覚えてない――ね」

「ちょっと質問がさっきと重複するけど。生前のあなたのご自身の事で何か思い出せることはありますか」


 "日本人、男性、位です"


「この質問はもっと頑張って思い出してみて。それか想像してみて。たとえば、どんな性格だったと思う? 短気だった? 穏やかな性格だった?」


 "性格……は、素直、単純、穏やか、という感じだと思います"


「ふむ。まぁ、今のその性格そのままの感じだね」

「生前のあなたは友人と呼べる相手は何人いましたか。これも頑張って思い出すか想像してみて」


 "友人……と呼べるのは子供時代には何人かいたと思いますが、人生を通しての友人はゼロだったかもしれません"


「成る程、成る程。ゼロ――と」


 ぼっちキャラでしたか。

 うん、そんな感じがする。

 思春期で色々拗らせてた気がする。

 今も友達そんなに欲しくないし(強がり)。


「次の質問には少し慎重に答えてください」

「生前のあなたは犯罪を犯した事がありますか。またはあると思いますか」

「この質問にも頑張って思い出すか想像してみて」


 お、どうだろう。

 自分はどんな人間だったのだろうか……。


 "まったく記憶してないのですが、少しの悪いことはした事があるような気がします。子供の頃の万引き、空き家侵入、車のスピード違反とか、駐車違反、自己保身の為の嘘とか、落とし物の金品を猫ババしたりとか……でも、殺人とか詐欺とか大きな犯罪はしていないと思います"


 僕の口が僕の知らない情報を学者さんに向かってベラベラと話した内容に驚いた。

 無意識下で記憶していることを何でも話してしまう催眠術をこの学者さんに掛けられてしまったのだろうか?


「成る程、ふむふむ」

「次に生まれ変わったとしたら、また同様の犯罪を犯したいと思いますか」


 "出来れば、車のスピード違反以外はしたくないと思います"


 おいおい、そこは「車のスピード違反もしません」だろっ! と内心突っ込みながらも、バカ正直に答えてしまっていた。

 ああ、間違いなく催眠術掛けられてるわコレ。


「ふふ、君の絶望的な表情(もう無い)は何かそそられるものがあるね」

「ネタバラシをすると、君の様な魂の姿の状態だと、何でも答えてしまいやすいお決まりの質問があるんだ。自動回答系の質問と言えばいいのかな」

「それに、この冥界では相手を騙したり嘘をつくことが出来ないんだ。どちらもボクの研究結果によるとね」

「それから、君はボクに協力すると約束したからね。この冥界では約束には強制力が働くよ」


 なんと恐ろしい世界だ。

 美少女学者さんは天使さんかと思いきや、個人情報を吸い上げる吸血鬼の様なお人だった。


「残りの質問は4つ。残りは全て自動回答系だよ。あと少し、頑張って」

「あなたの生前の一番のやり残した事、心残りな事、無念な事があれば教えてください」


 ◆ ◇ ◆


「あなたの生前の一番のやり残した事、心残りな事、無念な事があれば教えてください」


 この質問をされた僕は、記憶がないのにも関わらず、寂しさとか切なさとか怒りとか、色んな感情が沸き起こってきてどうしようもなくなった。

 ヒトダマだから涙を流す器官は無いのだが、関係なく涙(の様なもの)をこぼした。


 滅茶苦茶呻き声を上げた。

 おいおい泣いた。

 転げ回った。

 そしてポツリと言った。


 "童貞を捨てれなかった事です"


 うあーっ、そうなん自分。

 それが一番なん?

 でもってマジ泣きするほど悲しい事なん? あ、やっぱり男として共感できます……。

 と、インチキ関西弁で自問自答しながらまた泣いてしまった。


 というか、何この恥ずかしいプレイは?

 何でよりによって、こんな美少女すぎる学者さんにカミングアウトさせられてるの。

 しかし涙が、無念さが、この感情が止まらない。


「ふふ、童貞のままだった事を悔やんでいる……と」

「そんなに気に病む事はないぞ。結構多いぞ元童貞は。ボクだって――だし」




 ――え、今聞いてなかった。何か言った?

 ようやく泣き止んだところで次の質問だ。


「あなたの前回の人生の良かった悪かったを比率で教えてください」


 "およそ1対9で、1が良い、9が悪い感じです"


 これも半分、自動で答えている。


「ふむふむ、1対9――と」

「3択です。次も人間として生まれ変われるとしたら、1、次回もまた前回の人生をやり直したい。2、次回はまったく別の人生を生きたい。3、また生まれ変わるのは懲り懲り」


 "2です。まったく別の人生を生きたいです"


 これもほとんど自動で答えている。

 ただ、不思議なことに、魂の奥底から涌き出ている感情、本心を伴った自分の言葉だと感じる。

 本当に不思議な現象だ。


「成る程、2番――と」

「最後の質問です。人間として生まれ変わったら、次はどのように生きたいですか」


 "前回の反省を生かして、もう2度と万引きをしません。商店のおばちゃんをきっと悲しませただけでなく、ずっと僕の人生に影を落としました"


 "そして、もっと色々と積極的に取り組みたいです。消極的な姿勢だった事でもったいない事が多い人生でした"


 "それから、叶うなら女の子とも付き合ってみたいです"


 "あとは出来れば、子供を授かって育ててみたいです"


 "これ以外は特に自分を変えたいとか反省点は無いです。これ以外は自分を変えたくないです"


 "もし叶うなら、次回はもう少しだけイージーモードを希望します"


 全て自動で答えている。

 何となく、僕という人間が分かった。


 僕はダメ人間だったんだな。

 でも、こいつ(生前の自分)の事嫌いになれない。

 友達別に欲しくないけど、こいつとならいい友達なれるかもな。

(自分だけど)




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― 新着の感想 ―
[良い点] ふむふむ、冥界だったわけですね。 記憶は魂に刻まれているということですかね。 [一言] 前回の人生ではハードモードだったけど、 割とよい人物だったのかと。 だとしたら、次は幸せになって…
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