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異世界キタコレ(プロローグ)

 目の前に、不思議なドアが有った。

 もしくは、目がおかしくなった。


 このドア、右目には何も映ってないのだが、左目ではハッキリと見えているのだ。

 これはどうしたのだろう。

 僕の目か頭がおかしくなったのだろうか。


 回すノブもついていて、右手で握ると、普通にノブの感触がある。


 左目を 閉じて 右目だけ 開く。

 ドアは見えなくなる。

 ノブの存在も感じなくなる。


 右目を閉じて 左目だけ 開ける。

 ドアが出現する。

 ノブも触れられる。


 両目を 開く 左目だけに ドアが見える。

 ノブを回す。

 右手の感触、というか右手の存在がブレる。

 なんじゃこら。


 左目だけ開けた状態でノブをひねってみた。

 そのままドアを押すと普通に開いていく。

 ドアの向こうは暗くもなく明るくもない。

 危険な感じはしない。

 妙な安全感が漂っている。

 小心者な僕は逆に危機感を覚えた。

 だが、ドアの向こうに既に興味を持ってしまっていた。


 両目を開いたまま、このドアの向こうに行ったらどうなるだろうか。

 僕は興味の赴くままに、その思いつきを実行した。

 その瞬間、あちらの世界とこちらの世界で、僕という存在は二つに分離してしまった――。



 ――そこまで想像してしまって僕は、ぶるりと震えた。

 二つに分離するなんてとんでもないことだと感じた。

 となると残された選択肢は2つだ。

 左目だけを開けてドアの向こうに行くか。

 それとも右目だけ開けて一生やり過ごすかだ。


 一生は無理だと思った。

 僕の性質に合わない。

 とりあえずドアの向こうに行くことにしてみようと決めた。


 それにこのままこのドアを放置するのも、何か危険な気がするし。

 僕(か誰か)がいつか寝ぼけたまま、両目を開いた状態で、向こう側にドアを開けて行ってしまうかもしれない。

 いやきっとそうなる。

 ナントカの法則だ。


 そうと決まれば、さっそく。

 僕は慎重に恐る恐ると、しかし大胆に、左目を開けて右目を閉じて、右足から一歩踏み出した。


 ドアの向こう側に一歩入ったとたんに、もう違う世界に来たのだと感じた。

 そして、右手に持っていたノブの感触がいつの間にか消え去っていた。

 周りを見渡すと、感覚がおかしくなっているのだろうか、そこは明るくもなく暗くもなく、色彩もあるか無いかという、なんともいえない変な雰囲気の場所だった。

 危険は感じないが、先ほどまでいた場所とは全く違う「場所」だった。


「異世界」という単語がふと頭をよぎった。


 後ろを振り返っても、右目で見ても左目で見ても、目をつぶっても、ドアのようなものは何も見つからなかった。


 突然とても恐ろしくなった。


 しかし、生存本能が僕に「ここで恐怖に負けたら、気が狂ってそこでゲームオーバー」と警告した。


 僕は急いで理性を総動員し、よかった探しをした。


 そうだ自分が二つに分離するよりもずっといいじゃないか。

 そうだ僕は異世界に憧れていたんだった。

 そうだこれで明日は休みだ。


 すると根が素直で単純な僕は、すぐに少し落ち着いてきた。


 せっかくだから異世界を探検してみよう。

 妙な勇気を持って、僕は前に踏み出した。


 ◆ ◇ ◆


 視界は晴れているのに先が見えない、そんなところを恐る恐る歩いていく。

 すると、左斜め方向に何か棒のような物が見えて来た。


 近づいていくと、僕の背の高さより少し高くて頭が大きくて体もがっしりしていそうな影が現れてきた。


 第一村人発見。

 人見知りの僕だがここは声をかけないという選択肢は無いかもしれない。

 少し遠目だが、元気に挨拶した。


「こんにちは!」


 割りと大きめに声をかけたのに、何の反応もない。

 異世界だとしたら言葉が違うのかもしれない。

 せっかく勇気を振り絞っての挨拶が空振り、心が折れそうだ。

 どうする?


 負けるな。

 異世界とは言っても、大きな意味で捉えれば、要は外国ということだ。

 ボディーランゲージでなんとか出来るかもしれない。

 それか、相手が日本語を知らない外国人の可能性もある。


 僕は右手を大きく上げて「こんにちは! ハロー! ニーハオ! グーテンモーゲン!」と知っている限りの挨拶の言葉を掛けながら近づいた。


 とても残念なことに、それは人ではなかった。

 バス停だった。


 周りを見渡す、誰もいない。

 顔に熱を感じた気がした。


 バス停を調べてみるが普通のバス停だ。

 裏側も見てみる、時刻表があった。

 古いのかだいぶボロボロに剥げていてほとんど読めない。


 しばらく何も考えずにバス停を撫で回していたと思う。

 すると遠くからヘッドライトのような2つの光がやってくるのが見えた。

 少ししてバス停の前に止まったそれは、やはりと言うかバスだった。


 バスのドアが開いた。

 するといつのまにか、バス停の前に人の列ができていて皆乗り込んで行く。

 そこで少し驚いたのだが、何人かに一人はヒトダマのような小さな炎の玉だった。


 これはどういうことだろう。

 皆普通にしているが、あのヒトダマは僕にしか見えてないのだろうか。

 僕が驚きながら眺めているうちに皆乗り終わってしまったが、まだバスのドアは開いている。


 僕を待っているのか。

 衝動的に、いや気がつくと、僕はバスに乗り込んでしまっていた。

 まだ僕が席に着いていない内に、バスは走り出した。


 席は2/3が埋まっていた。

 埋まっている席の内、1/3の席にはヒトダマが座っていた。

 というか漂っていた。

 僕は左側の席、後ろから見たら右側の席の後ろから4列目あたりの窓側に座った。


 そういえばこのバス、僕の地元の■■バスに似てるな。


 周りの人たちを盗み見ると普通の人とヒトダマがきちんと座っている。

 どういう意味かというと、普通の人とヒトダマは同じ席にすわったりせず別々の席に座っているということだ。


 人とヒトダマが共存している?

 中には普通の人とヒトダマがおしゃべりをしている席もあった。

 なんというか、思考停止状態になってしまった。

 僕はそれ以上考えることを止めて、ただその光景をぼうっと眺めていた。


 しばらくするとバスが止まり、皆バスを降りていく。

 僕も降りるのか。

 そういえばバス賃はどうなるのか。

 僕は不安になった。

 ズボンのポケットを探ると財布も小銭も入っていない。


 こうなったら無賃乗車しかない。

 僕はいつ呼び止められるかとドキドキしながら、自然な感じを装いバスを降りた。

 運転手は何も言わなかった。

 バスのドアが閉まり、そのままバスは発車した。


 無料シャトルバスだったようだ。

 到着地点にも出発地点と同じような、ボロなバス停の標識が立っている。

 周りを見渡すともうほとんど誰も見えなくなっていた。


 少し焦ってキョロキョロ探すと、視界の上の方にヒトダマが見えた。

 よく見ると、僕の目の前に色のはっきりしない、一段一段が大きい階段があって、その階段のだいぶ上の方に、さっき見えたヒトダマと数人の人たちが登っていくところだった。


 きっと僕もここを登っていけばいいのだろう。


 一段一段がやたらと大きい事に文句をぶつぶつ言いながらも、僕は階段を登り始めた。


 ◆ ◇ ◆


 一段一段が大きい階段を3階分くらい上ってきたところで、何か違和感を感じ始めた。


 この違和感はどこから来るのだろう?


 キョロキョロと周りを見渡し、上を見て下を見たところである事に気付いた。

 自分の胸の辺りにヒトダマが漂っていた。

 そして自分の足というか、身体のどこも何も見えないことに気づいた。


 いつからこの状態になっていたのか?

 僕の身体はいつから透明になってたのだろうか?

 再び得体の知れない恐怖が僕を襲う。


 相変わらず色のハッキリしない壁や床を触ってみようとするが、何の感触もしない。

 自分の手の感覚が存在がしない。


 しかし、身体が無くなって(見えなくなって)はいるが、僕の行きたい方向に移動することが出来るし、階段も上れる。


 ここに来て僕は一つの可能性に思い当たった。


 僕はいつの間にか死んでいたのかもしれない。

 だってヒトダマだし。


 その考えは絶望的過ぎて、僕の脳ミソ(もう無い)がフリーズしかける。


 はっ、とここでもう一つの可能性を思い付く。


 僕は夢を見ているかもしれない。


 僕はその可能性に飛び付いた。

 きっと夢だろう。

 明晰夢(めいせきむ)というやつだろうか。

 夢の可能性を思い付いた事で、少し落ち着いた。


 あとは、幻覚を見せられている可能性もあるかも。


 そんな事を考えながら色々動き回ってみた。

 手足を持たなくなったのにも関わらず、僕はヒトダマのまま自由に動くことが出来ていた。


 そして「そんなものか」と衝撃から立ち直ったことから、再び上を目指し上りはじめた。

 身体から解放されたからか、先ほどまですっかり疲れていたはずなのに、僕はすいすいと階段を上っていった。



 およそ10階分を上ったかというところでに、踊り場のような開けた場所があった。

 ヒトダマなので体力的にはまったく問題ないが、少しばかりここに留まってご休憩することにした。





明晰夢とは、睡眠中にみる夢のうち、自分で夢であると自覚しながら見ている夢のことである。―― ウィキペディアより





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― 新着の感想 ―
[良い点] まだ最初なので、ほうほうという感じで読んでいます。 さて階段の上には何があるのかな? [一言] とても残念なことに、それは人ではなかった。 バス停だった。 これはヤられました(*^_^…
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