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STORY:007 The criminal invasion

 全ての始まり――。それは、この世界が誕生してから間もない頃、【第一魔法民族(だいいちまほうみんぞく)】なる者たちもまたこの世界に生まれた時だった。

 彼らはその名の通り、超自然現象を操る人知を越した力――即ち魔法を使う事の出来た民族であった。【第一魔法民族】の子孫である、マギア族はやがて世界に伝播しやがてこの世界に住まう人類は皆魔法を使う事が出来る様になり、文明は魔法と共に発展した。マギア族の持つ魔法は、世界に光をもたらしたのだ。

 

 しかし、光が在れば同時に影――闇も存在した。

 マギア族の作り出したマギア帝国の一部は魔術の暗黒面、即ち黒魔術の力に溺れ、魔法を選ばれし民族のみに与えられる神の贈り物と考え、魔力を持っていなかった他の民族や、純血ではない魔術師を皆殺しにしようと考えた。多くの人々は彼らを黒魔術という名の咎に堕ちた【咎人(とがびと)】と呼称した。

 

 【咎人】達はその計画を実行に移した。し

 時に前紀百二十五年、『他民族大虐殺』である。【咎人】のみで構成された軍隊は近隣の半純血魔術師国家を一夜にして滅ぼすと、翌日には遠方の魔法を持たぬ民族の国家を滅ぼした。


 しかし、それは時の英雄・スパルトル・レイガン=オーディオスにより阻まれた。彼は反【咎人】の勢力を各地から集めると、【咎人】の操る空間魔法を解析し、その空間魔法と自らの命を犠牲にして【咎人】達を『冥界(めいかい)』へと封印した。

 英雄の犠牲により世界には平穏が持たされたのだ。

 

 以後約二千年の時が流れ、【咎人】による脅威は起こらなかった。しかし、その代わりに国が、人種が、私利と私欲が、人と人同士が争い合った。戦乱の世が二百年もの間続いたのだ。とある国が国を滅ぼし、その国を別の国が滅ぼし、またその国を別の国が滅ぼし――終わる事のない、憎しみと争いの輪廻。【咎人】をこの世界から追放する事で漸く平和を得たというのに、人々は再び争いの道を選んだ。それは確実に人々の心を削っていった。


 何百年もの間続く血で血を洗う様な争いを止めたのは皮肉にも【咎人】の存在であった。今から十六年前、ガリア含めた世界各国で後に【黒洞(ホール)】と呼ばれる黒い穴が開き、黒魔法を操る魔術師――【咎人】達がこの世界へ侵攻を始めたのだ。圧倒程な黒魔法の力に一瞬で敗れ去って行く国々。これを見かねた君主たちは漸く争いをやめ、手を取り合い【咎人】達へと対抗を始めた。


 時の覇権国であった神聖シュヴァルツヴァルト帝国、バトゥーユ共和国、ブリテリア大王国、カステリア王国、ルシア帝国の軍事同盟……後の【魔法国家連合】と【咎人】による争いは三年で幕を閉じ、引き分けに終わった。【咎人】達の君主を殺したわけでも、【咎人】達を全滅させたわけでもない。彼らは黒い穴……【黒腔】の向こう側、『冥界』で潜み続けている……この事実は君主達に常に危機感を持たせた。


 【咎人大侵攻(とがびとだいしんこう)】以降、世界は協調の路線へと向かい、【咎人】に対する為の力を備えようとしていった。まずは各国の最強の魔術師――つまり賢者を集めた国家に囚われない組織である世界賢者機関『ユグドラシル』の設立。そして、各国に存在する魔法騎士団への入団試験を一斉に行い、国籍に関係なく魔術師を受け入れるシステムである。

 


  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「以上が、簡単に説明したこの世界の歴史ですッ!」


 『魔術師による魔術師の為の魔術史』というタイトルの本をアンジーは読み上げた。その本に書かれていいたこの世界の歴史は壮大なものであった。魔術を得た一部の民族の暴走から始まり、それは今でも常にこの世界の人類を滅ぼそうと今でも『冥界』に潜んでいるのだ。雷斗はただただ驚くしかなかった。


「そして『咎人大侵攻』が終わってもなお奴らは【黒洞】を開いては【悪魔】を送り込んで来ている……そんな【悪魔】をぶっ殺す専門で作られたのがこの特命魔法騎士団『フェンリル』だ」


 ふう、とゆっくり煙を吐き出すとヨハネスは語った。


「あの……確か、この国には他にも騎士団があるんですよね? その騎士団は【悪魔】と戦わないんですか?」と、雷斗が尋ねる。

 このアジトに来る時にジョアンが『城を拠点にする騎士団が居る』と言っていたのを思い出す哀南。


「居るさ。第一魔法騎士団『ケテル』と、第二魔法騎士団『ビナー』。だが『ケテル』の主な任務は皇族含む周辺貴族を守る事、『ビナー』は帝都の民を守る事で、帝都以外に現れる【悪魔】との戦闘は無視する様な連中だ。だから俺が作ったんだ」

「ヨハネスさんが……?」

「ああ、何時でも何処でも【悪魔】が現れれば狼の如く神速でで駆け付けてぶっ殺す、それが俺達『フェンリル』だ」

「元々はオレも団長もジェニーさんも『ケテル』の団員だったんだけどね、当時の皇帝はとても保守的な考えの持ち主で、それが嫌で『ケテル』を抜けて『フェンリル』を作った訳さ」

「そういうこった。『フェンリル』の目的は出てきた【悪魔】をぶっ殺す。そこらの城に篭りっぱなしの騎士団に比べりゃ充分この国に貢献してる。だが人手不足でな、俺の目に適う様な奴が少ないが……お前達は気に入った」


 そう言ってヨハネスは初めて笑顔を見せる。


「でも……良いんですか、俺達みたいな別世界から来た人間なんかを騎士団に入れても」

「あー……それは大丈夫だ。なんとかなる。で、どうだ? さっきの俺達の身分も明かして、事情も話し終わったが……さっきの交換条件、受け入れるのかどうか、どっちだ?」


 彼はパイプを口に咥えたまま二人をじっと見つめる。

 迫られる決断。哀南はあっさりとその交換条件を飲んだ。


「私は良いです。元より、私の目的は【悪魔】を殺す事、ですから」


 そう言う彼女の目線は冷たかった。

 唯一の友人を【悪魔】によって殺された恨みは今でも強く彼女の心の奥に刻まれている。故に、【悪魔】を、ひいては【悪魔】を生み出す【咎人】を殺す事に特化したこの騎士団は彼女にとっては好都合であった。


「で、そっちのお前は?」と、ヨハネスは雷斗を一瞥する。


 彼は脳内で様々な考えを浮かばせていた。

 それは、妹の事である。彼の妹・光莉(ひかり)は小学六年生の時、突如として姿を消した。以後、何の証拠も無く捜査は打ち切られていた。しかし、今回自分が【黒洞】に吸い込まれた様に、妹ももしかすればこの世界に飛ばされているかもしれない。最悪の場合、『冥界』に飛ばされている可能性もあるが、生きている可能性が少しでもあれば構わなかった。

 だとすれば、この騎士団で【悪魔】や【咎人】に妹に関しての情報を引き出せるかもしれない。そう考えると、それは雷斗に取っても良い条件であった。


「――入ります。俺も、この『フェンリル』に」


 意を決して、雷斗もそう告げる。すると、ヨハネスは笑みを浮かべた。


「よし、決まりだ。お前達二人を『フェンリル』に引き入れる。――が、ジョアン、ジェニー。幹部のお前らにも聞いておくが、意義は無いか?」

「オレは特に何も。戦力が増えるなら大歓迎ですぜ」

「わたしも異論は無いです。団長さんに従います」


 ジョアンとジェニーの二人がそう言うと、ヨハネスが立ち上がる。


「白銀雷斗に百鬼哀南。お前達二人を『フェンリル』の団員として認める――と、言いたい所だが一応規則がってな。団長の意思による途中入団でも一応試験はやらねえといけねえ。だから――ジェニー、朝に言ってた音信不通の村からの新しい情報は?」

「依然として何も連絡が無いままです。【悪魔】若しくは【咎人】が現れて村人が襲われている可能性もあると思われます」

 

 彼女は分厚い本を取り出すと、その本を開き画面の様なものを表示させる。そこには恐らくこの神聖シュヴァルツヴァルト帝国であろう国の地図が映し出されていた。


「そうか。よしそろそろレイ達も返って来る頃だろ。雷斗に哀南、今からお前達の入団試験を教える。今から【悪魔】が現れたと思われる村にお前達の先輩になる奴の二人を一緒に使わせる。合格条件は簡単だそれは――」


 哀南と雷斗の二人は、ヨハネスから言い出される合格条件が何なのかに緊張し、息を呑む。


「生きて帰る事、以上だ」



  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 同時刻。神聖シュヴァルツヴァルト帝国北方:ブランベルク村。

 そこは他の都市とはかけ離れた山奥に存在していた。とはいえ、魔法があるこの世界。遠くに離れた者と会話の出来る通信魔法や作物を運ぶ箒屋もあるため、そこまで隔離された場所ではない。

 しかし、今日の朝からブランベルク村との通信や輸送が途絶えていた。心配した何人かの他の村人や都市に済む市民達が様子を見に行くも、村に入った途端彼らとも音信不通となった。


「はあっ、はあっ……な、なんでこんな事に……!」


 砂利道をふらふらと走る青年・バリーもまた、村に住む友人が心配になり村へやって来た一人だった。

 約一時間前村へやってきた彼は、友人の家を訪ねた。そこで見た友人は、酷い有様をしていたのだ。全身に噛み傷が付き、血を流して絶命した変わり果てた友人の姿。彼は絶叫した。そして友人の家から出たその時だった。


「なっ……⁉ なんだよお前ら……⁉」


 先程まで人影すら無かった村の通りに、溢れんばかりの村人達が現れ、全員が自分の方へ向かってのろのろと詰め寄る。村人達の目は正気が失われているのか全員白目を剥いていた。言い知れぬ狂気を感じたバリーは僅かな隙間を辛うじて通り抜けて逃げ出した。それと同時に、正気を失った村人達も彼を追いかけ始めたのだ。

 それから十数分後、流石に体力も奪われヘロヘロになった彼は、不安定な砂利道に足をすくわれて転げる。箒さえあればこんな狂った場所から直ぐにでも逃げれるが、箒は山の入り口に置いて来てしまっていたのを思い出し、彼は後悔する。


「ひッ……、く、来るなッ……!」


 バリーは木で出来た杖を懐から取り出し、村人達に向ける。しかし、既に正気を失った村人達にはそれが認識出来ないのか、動きを止めずバリーに近付く。


「うッ、う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 魔法を繰り出そうとするもその圧倒的な多さに心折れたバリー。数秒で彼は村人達に囲まれ断末魔を上げる。しかし、その叫びは誰の耳にも届かず、空しく空に響くだけでった――。


 数分後、そこには先程目にした友人と同様に、体中に噛み傷を付けられ血を流し横たわるバリーの姿があった。既に息絶えたのか、彼の目は白濁としていた。

 すると、彼の指先がぴくりと動く。徐々に手、腕、足と動き出し、ぎこちなく立ち上がりると周りを一瞥する。そして、出口へ向かう方向とは逆に歩き出し、村がある方へ向かって行ったのだった――。


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