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STORY:006 Bastards' nest

 雷斗と哀南の二人はジョアンに続きアジトへ繋がっているのであろう階段を降りて行く。壁には松明の火が焚かれていた。ぴちょんぴちょんと水滴が天井から滴り落ちて、それが雷斗の頭に直撃した。

 

 三十秒程階段を降りると漸く階段が終わり、大理石で出来ている真っ白なドアが目の前に現れる。そのドアは四人が現れるとゆっくり開き、アジトの中へ行けるようにする。

 完全にドアが開くと、彼らはアジトの中へ足を踏み入れた。


「……広い」

「ああ」


 そのアジトは、地下にあるとは思えないくらい広い倉庫の様な場所であった。恐らく高さは五階建ての建物くらいはありそうだ。壁には灰色の煉瓦が敷き詰められ、赤、黄、緑と様々な色の扉が高低様々な位置に取り付けられ、その真下には梯子が取り付けられている。

 目の前に広がるその倉庫の様な広さの場所では見た事の無い様なガラクタばかりが放置されている。この世界特有の魔法道具とかそういうのであろうか?


「此処はアジトのリビングみたいなもんだ。……と言ってもリビングって言うには馬鹿みたいに広すぎるか」

「そりゃそうネ。此処、昔、倉庫ヨ」

「あ、倉庫だったんですか、アジトって」

「そうさ。さっき言ったみたいにこの地区が放置された後に俺たちが此処を買い取ってアジトに改造したんだよ」


 そう言ってジョアンはリビングの中を歩き出して、少ししてから立ち止まり、大きく息を吸い込んだ。


「白髪頭に不愛想女、耳塞ぐネ」

「しッ……え? あ、ハイ」


 素早く両手で耳を塞ぎ二人にそう告げる(ジン)。少々戸惑うが二人も続いて耳を塞いだ。次の瞬間、吃驚するくらいの大声でジョアンが叫んだ。


「団長ゥゥゥゥゥゥゥゥ‼ 起きてますかァァァァァァァァ‼」


 その大声は尋常じゃない程大きく、全身をビリビリと刺激する。余りにも大きなその声に驚いた雷斗は思わず転げて、哀南もぽかんとした表情になる。


「ったく、これだからカステリアの熱血野郎は嫌いアル」


 ぼやきながら静は耳から両手を離す。

 すると、真黒に覆われたドアがゆっくりと開いた。そこから、少し背の高めのウェーブがかったブロンドの女性が現れた。


「ジョアン……その大声、もうちょっとボリュームを落としてくれないかしら……?」


 その女性は耳を抑えながら、困った表情で言う。


「ハハハ、すみません。元気が有り余ってて」

「元気なのは良い事だけれど……あら、そのお二人はどなたかしら……?」 


そう言って彼女はジョアンの後ろに居る雷斗と哀南をひょいと覗き込む。


「ああ、その子達を団長に見せたくて。きっと気に入ると思いますよ。なんせ、自称『異世界から来た』コンビですから」

「異世界……? 成程ねえ。それは団長さんより博士の方が喜びそうな事案だこと。団長さんは部屋の中に居るわ。初めまして、わたしこの『フェンリル』の副団長をやっております、ジェニー=アルマーロです。どうぞよろしく」

「し、白銀雷斗です……」

「……百鬼哀南」

「まあ、大和の国の人達みたいなお名前ね」

「そういやジェニーさん、今日博士は部屋から出てきてそう?」

「博士なら今丁度団長さんの部屋に居るわ」


 そう言って彼女は先程自分が出てきた扉を指差す。


「へえ、そりゃあ珍しい。さあ、白銀に百鬼。こっちだぜ」


 ジョアンは二人を手招きその黒い扉の向こうへくぐって行った。二人も一度顔を見合わせると、意を決して彼に続いて扉の向こう側へ足を踏み入れた。


「あら、静ちゃん? 何処に行くの?」

「眠いから眠るアル。アイツラが【咎人】のスパイだったら起こして頂戴ヨ」


 一人違う方向へ進む静にジェニーが尋ねる。すると、彼女は眠そうに目を擦ってそう答えた。


「【咎人】のスパイって……?」

「アイツラ、【黒洞(ホール)】の向こうから来たって言ってたネ。きっとスパイに決まってるアル」

「でも、そんな風には見えないけど……」

「そんな風に見えたらスパイになんかなれないヨ」


 そう言い切って彼女は自分の部屋があるであろう扉に向かって歩いて行った。


「静ちゃん……」


 

  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 雷斗と哀南とジョアンの三人、そして少し遅れてジェニーは黒い扉の向こうにある団長が居ると思われる部屋に居た。そこは広々とした書斎の様だった。分厚く、拍子に装飾を施された本が棚だけではなく床にまで溢れ、足場が少ない。

 彼らの正面にある大きな机の前にドーナツを二個対照的にくっつけた様な頭をした背の小さい少女が水晶玉を持って、椅子に座ってパイプをふかす無精ひげを生やした男性になにやら語り掛けていた。


「――で、これはなんと持ち主の……」

「ストップ。お客さんだ」


 熱く語るその少女を抑えて、その男性は部屋にやって来たジョアン達を見た。

 少女は両手で口を押える。


「どーも団長。ちょっと面白そうな奴らを連れて来ました。この子達なんスけど、どうやら自分達は『異世界』から来たそうで」


 彼はそう言って雷斗と哀南の背後に回り、二人の背中を押して団長と思われる男性の前にまで押し出す。


「はっ……初めまして……」と、厳つい表情をした男性に少し怯えながら雷斗は言う。

「俺は特命魔法騎士団『フェンリル』団長、ヨハネス=ブラッド。お前らは?」

「白銀雷斗です……」

「……百鬼哀南」

「大和人みてえな名前だな。で、『異世界』から来た、だあ……? 確かに見た事ねえ服装に……その手に持ってんのはなんだ? 石板か?」


 彼は哀南が手に持つスマートフォンを指差す。


「これは……スマートフォンです。私達の世界じゃ必需品で、これで遠くの人と話したり出来るんです」

「へえ。通信魔法みたいなもんか。そんな石板……というか鉄板か? そんなもんで出来るのは不可思議なこった」

「まじでこんな鉄板で出来るのか?」


 ジョアンが背後から覗き込む。


「はい。でもこの世界に来てからは使えませんけど」


 そう言って哀南はスマートフォンの画面を見た。上の方に表示される電波マークは消え去り、「×」と表示されている。当然だが、この世界にインターネットは通っていない様だった。


「で、そんな『異世界』に住むおめえらがなんで俺達の世界に来たんだ? その様子じゃあ、願って此処に来た訳じゃねえだろ?」

「実はその……『穴』……【黒洞】が俺達の世界にも開いたっぽくて、それで……」

「その中に吸い込まれていつの間にかこの世界に」

「そして凄いのがこの子達【悪魔】も倒しちゃってるんすよ」


 二人に続いてジョアンも喋る。


「【黒洞】から来ただあ? それだとてめえらは【咎人】って事になるが……こんな服装の【咎人】も見た事ねえなあ。……おい、博士」

 

 両手で口を押えたままの少女が首を傾げる。


「喋っていいぞ、口開け」と、ヨハネスはその少女に言うと、直ぐに両手を離して喋り出す。

「ふう、やっと喋れます! ああもう尋ねたい事沢山あったのにタイミング逃しちゃったじゃないですか団長! あ、初めまして異世界の来訪者さん! 私この騎士団の専属魔術博士(せんぞくまじゅつはかせ)のアンドロメダ・クラッド=ハルシュタインと言います、アンジーって呼んでくださいな」


 マシンガンの様に早いスピードで喋る彼女は自らを魔術博士と語った。

 リビングにあったヘンテコなガラクタは恐らく彼女の発明なのだろうか。


「仕方ねえだろ、お前が喋り出すと止まらなくなるだろうが……博士、さっきのお前の発明とやらの使い時だ」

「マジですか‼? 待ってましたよお~この時を! これを使えばどんな見知らぬ魔術師であっても魔力の高さと魔力属性が分かっちゃう優れモノ、『判別水晶(セパレイトクリスタル)』ッ‼ さあさあ、よってらっしゃいみてらっしゃい!」


 アンジーはまるで商品紹介をする店員の様な言い草で服の中からバスケットボール程の大きさの透明な水晶を取り出す。明らかに彼女の服の中に隠す場所など無さそうに見えるが、これも魔法なのだろうか? と雷斗は疑問に思う。


「……これで私達がその、【咎人】っていう人達じゃないって分かるんですか?」と、哀南が尋ねる。

「ああ。奴ら――【咎人】っていうのは魔術の暗黒面即ち黒魔術の力に身を落とした奴の事を言う。当然、そいつらの魔力属性も黒色を示す。その水晶でお前らの魔力属性が分かれば一応【咎人】の疑惑は晴れるってわけだ」

「成程……」


 アンジーは近くにあった本を何十冊か積み重ねて簡易の机の様なものを作り、そこに新たに服のポケットから取り出した水晶を置く台を置き、その上に水晶をゆっくりと置いた。


「さあさあ、ではこの水晶に手を触れてくださいな!」と、アンジーはウキウキとした表情で言う。

「じゃあ私が先にやるわ」


 哀南が雷斗よりも先に水晶の前にまで行くと、そっと水晶に手を触れた。ひんやりとした水晶の感覚が掌に伝わる。すると、水晶の色が透明から虹色になりぐるぐると目まぐるしく変われば、最後に紫色に変色した。そして水晶の真ん中には「Ⅲ」と黒く表示される。


「紫色……って事は、『特殊魔法』か」と、ヨハネスが言う。

「レイと一緒ですね。彼女は刀剣魔法でしたけど――百鬼、君の使う魔法はどの様な魔法なんだ?」


 ジョアンが哀南に尋ねる。

 雷斗は彼女の使っていた魔法がどの様なものか思い出していた。スマートフォンのキーボードに打ち込んだ文字を具現化する魔法だ。


「このスマートフォンに打ち込んだ文字を具現化する魔法です。例えば、『火』を打ち込んだら……」


 哀南は素早くキーボードに『火』を打ち込むと、赤い円が現れ、その中に文字が表示されると、ボワッと音を上げ火が出現する。


「へえ、こりゃあ面白い。様はそのスマートフォンとやらが魔法を出す為の指令を出す物になってるのか。それは火以外も出せるのか?」

「とりあえずは……後は槍とか、刀も」

「オールタイプの魔術師か、魔力レベルは『Ⅲ』……博士、『Ⅲ』はどのくらいだ?」

「ええと『Ⅲ』は他の騎士団の三柱レベルですね」と、物珍しそうな表情で水晶をまじまじと見つめながら答える。

「そうか。よし次、お前だ」


 そう言ってヨハネスはふかしたパイプを一度机の上に置いて雷斗を指差す。


「は、はい」


 哀南と入れ替わりで雷斗が水晶の前に立つ。水晶の色は既に元通りの透明に戻り、真ん中に表示されていた数字も消えていた。

 彼は心臓をバクバクさせながらゆっくりと水晶に手を触れる。

 水晶に彼の手が触れると、さっきと同様に水晶の色が虹色に代わり目まぐるしく変わっていくと黄色に色が固定された。かと思えば少しだけ紫色に変わりかけたりして、不安定であった。


「黄色……つまり雷魔法ですね」

「で、魔力レベルはどんなものだ?」


 水晶の真ん中に数字が表示される。その数字は『Ⅵ』だった。


「『Ⅵ』……おい、博士。『Ⅵ』はどのくらいだ?」

「す、すごい……『Ⅵ』は歴代皇帝レベルの魔力ですよ……マジで⁉ 自分で設定しといて言うのはアレだけど調整ミスってない⁉ ね、ねえ、ええと――」

「白銀です」

「白銀君、君……幽霊みたいに突然人が君に語り掛けてくる事とか無かったかい⁉」


 アンジーがウキウキとした表情で雷斗に詰め寄る。その時彼は、瀕死の状態の時に現れた自称カミサマと名乗るあの少女の事を思い出していた。アンジーの言っているのはその人の事なのだろうか? そういえば、あの自称カミサマも『自分が現れる理由はその世界の人間に聞け』と言っていた。


「ありました、一度……死にかけた時に、自分をカミサマだとか言う少女が。【光霊(ゴースト)】って言ってました。その娘から聞いたんです、この世界が俺達の並行世界だって」

「【光霊】ッ! 並行世界ッッ! 嗚呼、もう絶頂してしまいそうだよッッッッ!」


 そう言ってアンジーはその場で身悶える。

「大丈夫なんですかこの人」と、雷斗は団員達に尋ねる。

「何時もの事だ。大丈夫では無いけどね」

「その頭のネジが数本飛んでる天才はスルーして……。特殊魔法の使い手に魔力レベルがバカ高い自称『異世界』の来訪者……良いな、気に入ったぞ、俺は。おい、お前ら。『フェンリル』に入れ」

「『フェンリル』に入れって……ええ⁉ 入るって魔法騎士団にですか……⁉」

「そうだ。お前達はこの世界に意図せず来た、そうだろう?」

「ええ、まあ」

「なら、俺達……と言うか主にそこの博士だが、お前達が元の世界に戻れる様にサポートしてやる。何があっても他の連中からは全力で庇ってやる。その代わりに、俺達『フェンリル』に協力しろ――つまりは交換条件だ。どうだ?」

「信頼出来るんですか? それは」


 哀南が鋭い視線をヨハネスに向ける。

 彼はフハハ、と笑い声をあげる。


「そう睨むなよ嬢ちゃん。俺は生まれてこのかた三十年嘘を吐いた事は無え」

「そこまであなたが私達に肩入れする理由は?」

「簡単な話だ。俺達には戦力が必要だ。皇帝並の魔力を持つ小僧に、見た事ねえ魔法を使うお前。【咎人】共を皆殺しにする為にはマンティコアの手でも借りてえくらいだ」


 そう言って彼はパイプを再び口に咥えた。大きく煙を吸い込むと、ゆっくりその煙を吐き出す。


「【咎人】を皆殺しって……そもそも、この『フェンリル』は何をする為に存在してるんですか? それに、【咎人】や【悪魔】は何で人を……?」


 雷斗が彼に尋ねる。


「そうか、そういえばお前ら異世界の出身だったな。じゃあ教えてやろう。何故俺達『フェンリル』が存在して、何故【咎人】と【悪魔】がこの世界を襲うのか、をな――」


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