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STORY:005 大地を駆ける狼

「【悪魔】って……?」


 ジョアンの発した【悪魔】と言う言葉に反応する二人。二人は自分達の背後に倒れ黒い霧と化して消えゆくパズズの姿を見る。確かに見た目は悪魔にも見える。【悪魔】と言う呼び方は、この世界での『バケモノ』の呼び名らしい。


「ああそうさ、そこにぶっ倒れてる【悪魔】。【黒洞(ホール)】の向こう側からやって来て人を襲うバケモノだよ」

「【黒洞】……」


 彼の発した【黒洞(ホール)】の言葉に、また反応する二人。彼の台詞からするに、『バケモノ』が通って来る『穴』の事を言ってるのだろう。


「パイセン、アイツラ何も知らなそ。アホみたいな顔ネ」

「というか……見た事無い服を着てるな。シュヴァルツヴァルトに来てからも見た事無いし、カステリアに居た頃ですら見た事無いぞ?」

「ウチの国でもあんな服、見た事ないアル」


 そう言ってジョアンと(ジン)の二人は、雷斗達の着る制服をじろじろと見つめる。


「で、どうなんだい? あの【悪魔】は、お前さん達が殺ったのか?」

「――そ、そうだ」

「だろうなあ。倒れて消えゆくパズズの近くに、怪我を負った女の子とそれを直そうとする男の子。お前さん達じゃなきゃ誰だって話だ。じゃあ次の質問――お前さん達は『何処』から来たんだ? その服に、お嬢ちゃんが持ってるその変な石板? この国じゃ見た事無い」

「ウチの国もネ」と、静がジョアンに被せる様に言う。

「……わ、私達は『穴』の向こう側から――」


 哀南が口を開いた瞬間、二人の視線が鋭くなって二人を睨む。


「『穴』の向こう側……つまり【黒洞】の向こうから……? ならお前さん達は――【咎人】か?」

「と、【咎人】……?」と、ジョアンから放たれた新たな単語に雷斗は首を傾げる。

「さっさと白状するネ。一瞬で殺してやるネ」


 そう言って静は背中に携えた槍を手に取り構えて、先を雷斗達に向ける。


「ちッ、違う! 俺達は突然『穴』……その、あんた達の言う【黒洞】に吸い込まれて……それでッ……」

「信じてくれるかは分からないけれど……私達は別の世界から来た。けれど、そこは『バケモノ』……【悪魔】の住む様な世界じゃないわ」

「成程ねえ……。嘘を吐いてる様には見えねえが、その別世界から来たっていうのは……なんとうかなあ」


 ジョアンは困った表情を浮かべ頬を掻く。


「パイセン、さっさと殺っちまうネ。【咎人(やつら)】のスパイかもしれないアル」

「まあまあ落ち着け、静。そうだなあ、どうすっかなあ……」


 ウキウキの表情で槍を構える静を抑えるジョアン。彼は顎を触りつつ考える。


「よっしゃ、一回アジトに連れて行こう」

「パイセン正気か?」


 ジョアンがそう言うと、「こいつアホか?」と言わんばかりの表情で静は彼を見る。そんな彼女を意も介さず彼は続ける。


「おい、お前さん達……ええと、名前は?」

「……し、白銀雷斗」

「……百鬼(なきり)哀南」

「白銀雷斗に百鬼哀南……名前は大和(ヤマト)の国の奴らに似てるんだな。あー……今からお前さん達をオレ達のアジトに連れて行く。【咎人】じゃないのかそうじゃないのかは多分そこで分かると思うから、大人しく付いて来てくれ」

「アジト……って? あんたら一体……何者なんだ?」


 アジトへ連れて行くと語るジョアンに、雷斗が尋ねる。


「オレ達か? オレ達はだな……」

「ウチ達の事も知らないて、おかしいアル。世界を知らな過ぎネ。そんなんじゃスパイなんて出来ないヨ?」

「いや、スパイじゃないですから……」と、困った表情で雷斗は言う。

「まあ来たら分かるさ。おい静、そっちの怪我してそうなお嬢さんを直してやれ」

「えー……」


 なんでウチが、という表情を浮かべる静。


「先輩命令だ。ほら、早くする」

「分かったアル……」


 渋々彼女は言う事を聞くと、屋根から飛び降りて地面に着地する。そして雷斗達の元へ近付くと同時に、槍を哀南の右足首に向ける。


「ったく、何でウチが【咎人】のスパイなんかを……それも大和の出身ぽい奴を……」


 ブツブツと呟きながら、静は槍先から治癒魔法を発動させる。


「氷治癒魔法:冷たき癒し風」


 槍先が白く輝くと一瞬で哀南の右足首を氷が覆う。その氷は彼女の右足首の腫れを直ぐに冷却し、炎症を抑えて歩けるまでに回復した。


「冷たッ」と、哀南は思わず声を出してしまう。回復が終わると、その氷は溶けてしまった。

「文句言うな。治して貰ったんだから有難く思うネ」と、槍を背中に携えると、彼女は哀南にそう言った。

「……ありがとう……ございます」


 哀南は小さくそう言った。それを聞いて満足したのか、静は大きく欠伸をしてジョアンの居る屋根の上を見る。


「百鬼……俺達、この人達にホイホイ付いて行っても良いのか……?」

「何か情報を得るにはそうした方が良いでしょう? それに、私達が敵じゃないっていう事を証明しないと」

「確かに、そうだけど……」

「それに、もしかしたら元の世界に戻る方法を知っている人が居るかもしれないじゃない」


 哀南は淡々とそう述べると、すっと立ち上がる。同時に、ジョアンは懐から真っ白で歪な杖を取り出すと、空に向かって赤い煙を打ち上げる。すると、何処からか「オオオオオオオオ」と、何かの鳴き声が聴こえた。


「メアリー! こっちだ!」


 ジョアン空に向かって叫ぶ。

 次の瞬間、大型の白色をしたドラゴンが羽ばたきながら屋根の上に舞い降りる。そして「キアアアアアア‼」とまた鳴き声を上げる。


「ド、ドラゴン……⁉」

「ドラゴンはドラゴンでもホワイトドラゴンネ。そこらのノーマルドラゴンと格が違うアル」

 

 姿を現したその生き物に、雷斗は度肝を抜かれた。ファンタジー小説や映画にしか出てこない様な伝説上が今こうして目の前に現れれば、当然そうなるだろう。彼らの目の前に現れたドラゴンは、白くて美しい煌めく鱗で覆われ、美しくも威厳のある雰囲気を醸し出していた。


「よしよし、お疲れさん。メアリー、この近くに他の【悪魔】は居たか?」


 ジョアンがメアリーと呼ばれるそのドラゴンの頭を撫でながら尋ねると、「いいや」と言わんばかりにその首を振った。


「そうか、ありがとう。よし、じゃあメアリー、あの三人も乗せてやって欲しいんだが……。いけるか?」


 彼が尋ねるとメアリーは首を縦に振った。「流石俺達の団の最高戦力だ」と言えば、ひょいっとメアリーの背中に乗る。彼が背中に乗ったのを確認すると、メアリーはぴょんと屋根から飛び降り、地面に着地する。見た目通りに重いのか、敷き詰められた煉瓦が砕け少し地面がめり込んだ。そして三人の前に辿り着くと歩みを止め、背中に乗れるように屈む。


「さあ白銀に百鬼、メアリーに乗ってくれ。なあに大丈夫さ、メアリーの乗り心地は帝国一さ」

「お前達に乗せるのが勿体無いくらいネ。さっさと乗るヨ」


 静はそう言うとさっさとメアリーの背中に乗る。そして雷斗と哀南も続いてそのドラゴンに乗った。彼らに、ドラゴンは鱗で覆われているからか、ひんやりとした感触が伝わる。


「こ、これがドラゴンの……感触……」

「何か言い方がキモイよ、白銀君」

「さあ羽ばたいてくれ、メアリー。行先はアジトで宜しく!」


 ジョアンがそう言うと、メアリーは一気に羽ばたき、空へ舞い上がる。


「うおおおおおおおおおおおおおおお⁉」


 一気に彼らの身体にGが掛かりジェットコースターよりも激しいその感覚に、思わず雷斗は叫ぶ。さっきまで視界に映っていた瓦礫や建物は消え去り、青い空が映し出されていた。


「たかがドラゴン乗っただけで煩いアル! 突き落とすぞ!」

「ごッ……ごめんなさいッ」


 キッとした表情で静が振り向くと、雷斗は片手で口を押えた。急激な上昇も終わり、安定した飛行が始まったため、雷斗もある程度落ち着きを見せる。


 真下に広がる風景は目まぐるしく変わり、街が現れたと思えば仄暗く見える森、農場が広がり、再び建物が密集した街が現れた。白い煉瓦で組み立てられ、赤やオレンジの屋根を被った高低様々な建物の間に、灰色や白の煉瓦が敷き詰められた道が広がりその上では屋台が出され、多くの人々が行きかっていた。


「こんな発展した街が……」と、哀南がボソっと呟く。

「そりゃ此処は神聖シュヴァルツヴァルト帝国の帝都・ルベリンだからな。発展してない訳がねえぜ? 悔しいが、流石ガリア一の魔法帝国さ」

 

 ジョアンが振り向くと、哀南に向かって自慢気に言う。すると、次は静が不満気そうに会話に割り込む。


「こんなの、ウチの千帝国(せんていこく)に比べたら屁みたいなもんネ」

「神聖シュヴァルツヴァルト帝国のルベリンに、千帝国……どことなく、俺達の世界で出てきた昔の国と似てるな……」と、静の台詞を聞いた雷斗は後ろに振り向き、哀南に話しかける。

「……そうね。君の……その、カミサマから聞いたって言う話が本当なら、此処は並行世界みたいなものなんだし、似てるのも当然じゃない?」

「それもそうか」

「おーいお二人さん、そろそろ到着するぜ」


 ジョアンが小声で喋る二人に向かって話しかける。


「アジトって……ええ⁉ こんなにデカいんですか⁉」


 雷斗が前に視線を戻すと、そこには巨大な城が現れる。いくつもの青い屋根の塔が(そび)え立ち、城壁は白色で覆われていた。城の周りには広い池が配置され、そこには噴水が置かれている。


「いやいや、違う違う、此処は皇帝様のお城でアジトじゃない。一応、此処が拠点の騎士団も居るけどな」

「皇帝の城、かあ……」


 ますますファンタジーじみた世界だな、と思う雷斗。

 魔法が主流の世界に世界史の教科書に載ってそうな建物や城、皇帝に【黒洞】から現れる【悪魔】……こんな世界が自分達の住む世界と並行して存在してるなんて、思いもしなかった。あの自称カミサマに教えてもらわなければ死ぬまで知らなかっただろう。


 その皇帝の住むという城を通り過ぎると、メアリーは街の郊外の、人通りの少ない――というよりも、全く人が通っていない寂れた一角に静かに着陸した。メアリーが屈むと、四人はヒョイっと背中から降りて地面に着地した。枯れ葉が多く、パキッと乾いた音が響く。


「びっくりするくらい人がいないですね、此処……」


 辺りを見回しながら雷斗が呟く。そこは、多くの建物が半壊し瓦礫の山が築かれた場所であった。


「そりゃあねえ、昔此処に【黒洞】が開いて住人が皆殺しにされて以来放棄された地区だからねえ。誰も住みたがらないんだよ」

「皆殺し……⁉」


 ジョアンの口から放たれたその言葉に驚く雷斗。


「ハハハ、そんなに怖がらなくてもいいさ。その事件が起きたのは十三年前だ。そら、アジトはこっちだ」


 ジョアンがそう言って枯れ葉で覆われた道を進んでいく。哀南が後ろを振り向いて見る。この地区への入り口と思われる門は鎖や岩等で固く閉ざされていた。


「一体何時から【悪魔】はこの世界に現れているんですか?」


 先頭を歩くジョアンに哀南が尋ねる。


「何時からか、か……そうだなあ。あいつら……【悪魔】を生み出す【咎人】自体、俺が、というかこの国が生まれる数千年前から居たのは確かさ」

「【悪魔】を生み出す【咎人】……?」

「ああ、【黒洞】を通ってよく現れるあの【悪魔】は、【咎人】の黒魔術で生み出された魔法生物さ。いわば【咎人】の兵器だね。で、今から――おっと、その前にアジトの前に着いたな。続きは博士にでも尋ねてくれ」


 ジョアンが立ち止まると、他の三人も歩みを止める。

 両側に半壊の建物が立ち並んでいた先ほどの道とは異なり、広々とした敷地が広がって、真ん中には大きな丸い池があり、その中には狼を模した石造が置かれていた。ジョアンは池にまで限りなく近付く。


「ここがアジトの前……? 何もないですけど?」と、雷斗が言う。

「まあまあ焦るな、ちゃんとアジトはある」

『……合言葉を』


 突如、しがれた老人の様な声が響く。どうやらその声の持ち主は、池の真ん中にある狼の製造である様だった。


「『葡萄酒にはハムとチーズ』」

『……正解だ。……ジョアン=ディアス。見知らぬ小僧と女が二人程居るが……?』

「ああ、あれは俺が連れて来た客だ。団長達に見て貰おうと思ってな」

『……そうか……ならいい……』


 狼の石像がそう言うと、ゴゴゴゴゴゴと振動と共に音が重く響く。


「……! 水が……!」


 彼らの目の前にある池の水がみるみるうちに消え去って行く。

 ものの数秒で池の全ての水が消えると、池底に大きな扉が嵌め込まれていた。その扉が、残った水滴をしたらせながらゆっくりと開く。その扉の向こうには、おそらく地下にあるであろうアジトへ続く階段が続いていた。

 そして、ジョアンが二人の方を振り向き言った。


「ようこそ、特命魔法騎士団『フェンリル』……そのアジトへ」


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