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STORY:004 Encounter with God

 時間を少し遡ろう。パズズの手によって瀕死の状態に追い込まれた雷斗(らいと)。彼は、崩れた建物の瓦礫の上でぐったりと横たわっていた。パズズの裏拳に直撃したせいで内臓は破裂し、口からは大量の血が溢れる。意識も次第に薄れ、激しい痛みも同時に薄れていく。そして消えゆく意識の中で、彼は溢れ出る過去の記憶を見つめる。


「お……れ、こん……な……ところ、で……し……ぬ……?」


 やがて視界が白んでいき、彼は力を振り絞って口を動かす。

 突然、謎の『穴』に吸い込まれたと思えば見知らぬ世界に放り出され、訳の分からない訳の分からない『バケモノ』に一瞬で殺されかける……。実に、実に無残で悲惨な最期に成り得る。しかし、それは雷斗の望みでは無い……というか、全人類探したってこの様な生の終わり方を望む者は居ないだろう。

 普通に生きて普通に死ぬ、それが夢も希望も持たない雷斗の望みであった。


「い……や…………」


 嫌だ、そう呟こうとした時、彼の意識は完全に途絶えた。――かに思えた。

 

「……? あれ、俺……生きて?」


 彼が目を覚ますと、そこは完全に時が止まっていた。青白い靄が、世界を覆っていた。パズズによって致命傷を負ったであろう身体は何故か何事も無かったかの様に元通りになっていた。脳内に疑問符をいくつも浮かべながら、彼は立ち上がる。そして、横たわっていた瓦礫の山を下り、煉瓦で舗装された道に足を踏み入れる。そして、動きを止めているパズズの方を見る。そのパズズの目の前には、地面に倒れ込む哀南の姿があった。


「百鬼……!」


 その姿を見た彼は、彼女の近くに駆け寄ろうとする。その時だった。


「おい、待ちなよ少年」


 男とも女ともどっちでも取れる様な声が響く。雷斗は歩みを止めて、声のする方向へ顔を向ける。そこには、腰まで伸びた紫色の髪を揺らし、雷斗よりも小柄な少女……? が立っていた。


「……誰だよ、お前」

「おいおい、失礼だなあいきなり。人に……いや、カミサマに名を尋ねる時は真心と誠意と敬意を有りっ丈込めて土下座しながら聞けって習わなかったかい?」


 ケラケラと薄ら笑いを浮かべながら、自らを『カミサマ』だと名乗るその少女は言う。


「残念ながら俺の国じゃお前みたいなカミサマは居なくてね。紫の髪のちっちゃい女の子がカミサマとか、冗談も程ほどにしてくれ」

「全く、君の国はとても愚かしいね。それに『カミサマ』に対する口の利き方もなってない。良いんだぜ? このまま君を死なせてもさ?」

「なっ……⁉」


 自称『カミサマ』から放たれた言葉に思わず雷斗は声を上げてしまう。


「おい、それ……どういう事だよ?」

「ボクは優しいからね、君みたいな無礼者であってもちゃんと説明してあげよう。君は今、瀕死の状態だ。というか、もうほぼ死んでる。限りなく黒に近いグレー状態なんだよ。ほら、この世界を見てごらん。青白い靄が掛かって、時が止まってるみたいだろう? 此処は魂と肉体が切り離されかけてる時に生み出される、物質と精神の狭間みたいなものさ」

「やっぱり俺、死んでたのかよ……」と、声を震わせて彼が言う。

「話聞けよ。まだ完全には死んでない。指一本で突けば完全に事切れちゃう、そんな危ない状況だ。だから、ボクが……正確には、ボクが君の意識に介入して治療魔法を発動させたんだよ」

「ああ、成程……俺の意識にお前が介入して治癒魔法をね、成程成程……って、え?」

「どうかした?」

「今、治癒魔法って……?」

「そうだよ。君に宿る魔力を使って、治癒魔法を発動させた。君は魔力がとっても高いからねえ、直ぐに回復するだろう」

「ちょ、ちょっと待ってくれ……俺に魔力って、一体どういう事だよ⁉ 今まで生きてきて、魔法なんか使った事無いんだぞ? というか、さっきのさっきまで魔法が本当に存在する事すら知らなかったしな!」


 生まれてから今日(こんにち)に至るまで、雷斗は一度たりとも魔法を使ったことが無いのは明白であった。もし使ったことがあれば、カミサマの言葉には驚かないし、そもそも魔法を使ってあの『バケモノ』と戦っているからである。


「だろうねえ。そりゃあそうだろう。だって君自身、魔力を持っている事に自覚が無かったようだからね。時々居るんだよ。『科学界』で魔力を持って生まれる【特異点(アブノーマル)】ってのが」

「『科学世界』……?」

「ああそうか、君にはまずこの世界の構造から教えないといけないのか……はあ、本当手間をかかせるなあ。なんでこんなウスノロマヌケで頓珍漢なメス顔の【光霊(ゴースト)】にならなきゃいけないんだ……」

「い、言わせておけばお前……」


 マシンガンの様に放たれるカミサマの罵詈雑言に雷斗は青筋を立てる。しかし、下手な事は出来ない。もしカミサマの機嫌を損ねれば魔法を解かれて死なされるかもしれないからだ。

 カミサマはパチンと指を鳴らすと、掌の上に、青、赤、黒、白の球体を表わして、それを浮かばせる。


「いいかい、この世界……というよりも、宇宙は四つの世界で構成されているんだよ。知らないと思うけど」

「ああ、初耳だよ」と、雷斗は直ぐに答える。

「まずこの青色の球体……これが君の住む故郷、科学の発展した『科学界』だ。ほら、言わなくてもわかるだろう、兵器(ミサイル)だの戦艦だの核ミサイルだの。科学で溢れてるのが君の世界だ」

「もうちょっと他の例えは無かったかのかよ」

「そして、赤い球体が『科学界』に並行して存在する『魔法界』だ。どういう世界か言わなくても分かるよね?」

「魔法が発展した世界なんだろ?」

「そう。科学の逆で、魔法が発展した世界だ。この『魔法界』こそ、今君が居る世界だよ。なんで『科学界』に居るべきはずの君が『魔法界』に居るのか……流石に詳しい事は分からないが。説明を続けるよ。この二つの世界で死んだ人たちが行く場所、それがこの黒い球体に値する……『冥界』だ」

「『冥界』、ね……俺も死んだらそこへ行くのか?」

「勿論。それがこの世界のシステムさ。この宇宙が誕生したころからの普遍だよ。さて、最後は此処さ」

「その白い球体がお前の住む世界って事か?」

「正解! この白い球体に値する場所こそ『神界(しんかい)』……! ボク達が住むのがこの世界さ。基本的にボク達カミサマが『魔法界』や『科学界』に干渉する事はダメなんだけどね」

「なのになんでお前が態々俺の意識に介入してるんだ?」


 雷斗はカミサマに尋ねる。

 カミサマの言う事が本当であれば、今こうやって瀕死状態の自分を救おうなんてしない筈だからだ。


「ああ、それはね、どこぞのどいつ……多分『管理委員』なんだけど……なんか面倒になってきたな、説明」

「は?」

「は? じゃないよは? じゃ。何もかも一から説明するのだって大変なんだぞ、ちょっとは自分で調べなよ、ほら『科学界』じゃインターネットってのがあるんだろ? それで検索しなって」

「俺は今『魔法界』に居るんだが?」

「この世界の博士か誰かに聞けば教えてくれるよ、多分。そろそろ君の回復も終わりそうだし……ほら、世界が再び動き出した。君の魂と肉体がもう一度繋がった証拠だ」


 そう言ってカミサマは辺りを指差す。雷斗もそれに従って見回すと、カミサマが言った通り徐々に世界が動き出していた。完全に止まっていたパズズや哀南、その他建物から燃え上がる炎や煙も、次第にゆらゆらと蠢きだす。


「それじゃあ、ボクは一旦『神界』に帰らせてもらうよ」


 そう彼に告げるカミサマの身体は徐々に透明になっていく。


「一旦って事は、また出てくるって事か?」

「ああ、そりゃあボクは君の【光霊(ゴースト)】だからね。呼んでくれたら、気分が良かったら来てあげるよ。呼ばれなくても多分出てくるけど」

「マジかよ……」

「そんなに喜ばなくてもいいじゃないか、照れるだろう♡」

「喜んでねえよ」


 くねくねと体をくねらせて、両頬に手を当てながら甘い声でカミサマが言うが、雷斗は冷たい目線で、消えゆくカミサマを見つめる。


「ああ、そうだ。君、今からあの『バケモノ』と戦うんだろう?」

「そりゃあ、そうだろ。いくらほぼ顔見知り状態の百鬼でも、見捨てるなんて出来ない」

「そうかい。なら、最後に一つだけ。君の魔力は今、何色にも染まってないまっさらな状態だ。だから、何も考えないまま突っ込めば、また死ぬ事になる、君程の魔力があってもね。だから、強くイメージするんだ。君があの『バケモノ』に対してどんな魔法を打つのか……きっとそれで、あの程度の『バケモノ』なら多少不安定な魔法でも勝てるだろうね」

「イメージ、か……分かった、ありがとう」

「礼を言われるほどでもないさ。じゃあ、また後で――」


 そう言って、カミサマの姿は完全に消えて行く。同時に、世界もまた動きを取り戻していく。


「待ってくれ、聞きたい事が――」



 STORY:002 Encounter with God


 

 カミサマの告げた、魔法を打ち出す一つの方法。それは、自身で作り上げたイメージを具現化する事。哀南の使っていた、文字を具現化する魔法を、自身のイメージで生み出すのだ。

 彼の脳内には、一つのイメージが出来上がっていた。

 昔、家族で見たとあるテレビ番組。その番組で映し出されていたのは、雷が何本も落ちるという衝撃映像だった。暗雲から地面へ打ち下ろされる神々しい光をした雷は美しくも感じ、また、幼かった雷斗に恐怖を感じさせた。

 その、雷のイメージ。

 それを彼は脳内で描いていた。完全に動きを取り戻した世界で、彼はパズズの真後ろに立つ。正面には怪我をしたのだろうか、倒れ込んでいる哀南の姿。彼女に向かってパズズは口に宿した炎を吐こうとしている。このままでは、彼女は消し炭にされてしまうだろう。


「待てよ」


 炎を吐こうとするパズズに向かって彼は声を掛ける。そして、雷斗は手をパズズに向かって(かざ)した。全身が奮い立つ様な、そんな感覚が走った。彼の身体の奥に眠る魔力が溢れ出す。

 これが、魔法を使うという事なのか――。彼は心の中で呟く。

 今まで怠く感じていた身体の感覚もビリビリと元気になっていっている気がした。


「喰らえ――」


 彼が呟くと、パズズの真上に真黒な雲が発生する。その雲は、バチバチと紫色の電流を走らせる。


「『バケモノ』……!」


 一瞬電流が消え去ると、眩い光が煌めき、刹那、炎を吐こうとするパズズ目掛けて、神々しい紫色の雷が落とされ、パズズに直撃した。

 ――『雷創造魔法(いかづちそうぞうまほう):雷光の裁き《ジャッジメント・サンダー》』

 目標の真上から強力な雷を落とす、雷魔法として最も基本的な魔法が今この瞬間、雷斗に目覚めた。


「グオ……オオ……」


 『雷光の裁き』が直撃したパズズは、口に宿していた炎が消え去ると、ゆっくりとその場に倒れ込む。しかし、そのままでは哀南があの巨体によって圧し潰されてしまう。


「百鬼!」

「ひゃっ⁉」


 雷斗は直ぐに走り出し、パズズの股下を抜けると、哀南の体を抱えてその場から離れる。間一髪、パズズの巨体に押し潰れずに済み、雷斗は大きく息を吐いて哀南をその場に降ろした。

 倒れたパズズの体からは煙と同時に黒い霧が発生する。黒い霧が発生したという事は、完全に死亡したという事である。


「まさか本当に勝てるとは……というか――」

「き、君……魔法が使えたの……? というか、どうやって治療を……」


 信じられないという表情をする雷斗に、哀南は尋ねる。彼女からすれば、『穴』の存在も知らず、さっきもなす術無くパズズに倒されていたただの高校生の筈である。なのに、ものの数分で怪我を直し一瞬にしてあの『バケモノ』を倒してしまったのだ、不思議に思って当然である。


「どうやら俺にも……あったみたいだ、魔力が……」

「そんな、君と同じクラスになって一度も君から魔力を感じた事は……」

「【特異点(アブノーマル)】って言うらしいぜ、俺の様な『科学界』に生まれた人間が魔力を持っている奴の事だって、カミサマが言ってた。……信じられないと思うが」

「この際、君が魔力を持っていた事は別にどうだっていいわ。私だって、初めて魔法に気付いたのは中学生になってからだし……。その、カミサマとか『科学界』については良く分からないけれど」

「多分言っても信じてくれないと思うけど、まあ一応説明しておくよ」


 雷斗はカミサマの言っていた宇宙や世界の構造について、端的に説明した。


「つまり……私達が居たのは『科学界』で、今は『魔法界』っていう場所……つまり此処に居る、って訳ね?」

「ああ、そうなる」

「それが本当なら、あの『穴』の向こう側……『バケモノ』がやって来る世界は何処に居るの? それについて、カミサマとか言う人は何か言ってた?」

「いいや、何も……」

「……そう」


 そう言って哀南は小さく溜め息を吐いた。


「まあいいわ。とりあえず、その……ありがとう……助けて、くれて」

「へっ?」


 哀南は顔を真っ赤にさせて、小さく呟く。雷斗はそんな彼女を見て、自分も頬ほ赤くさせた。


「別に、お礼を言われる事の程でもねーよ、一回死にかけてるし……」と、彼は頭を掻きながら応える。

「さあ……気を取り直して、あの『穴』についてこの世界の人に聞き込みを……痛ッ」


 哀南が立ち上がろうとするが、右足の怪我が痛み、立ち上がる事が出来ない。


「おい、大丈夫か?」

「ちょっと捻っただけよ……これくらい……」

「無理すんなって、俺が治癒魔法で怪我を――」


 そう言って彼は屈むと、彼女の右足首に手を翳す。……が、何も起きない。


「ねえ、白銀君……治癒魔法のやり方、知ってるの?」

「……分からない」

「……はあ……」


 哀南は頭を抱えて大きく溜め息を吐いた。

 その時、二人の背後から男女の声が聴こえ、二人はそっちへ視線を向ける。


「ジョアンパイセン、ウチ達の獲物、もう、死んでる」


 その二人の男女は崩れていない建物の屋根の上から、哀南達とパズズの死体を見下ろしていた。

 一人はカタコトな喋り方をした、お団子ヘアーで槍を背中に携えたアジア系の女性だった。彼女は隣の筋骨隆々の男性に不満そうに言った。


「そうだな、(ジン)。メアリーの調子が悪いと言っても、そんなに遅れるとは思わなかったが……」


 ジョアンと呼ばれるその筋骨隆々の男性は頬をポリポリと掻いて答える。


「おい、そこのお二人さん……まさか、そこの【悪魔(あくま)】……二人だけで倒しちまったのかい?」


 そう言ってジョアンは、雷斗達を鋭い視線で見つめた。

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