第1章 コボルトさんの悩み(その1)
魔王軍の捕虜の待遇はとても良かった
牢屋ではなく客室に軟禁状態ではあるものの
食事は出るし掃除はしてもらえるし拷問されることも無い
正直に言えば勇者パーティーの時よりも良い生活が出来ていた
そして捕虜生活を何だかんだ満喫しつつ一ヶ月が過ぎ季節も変わろうかという頃
「おはようございますリュードさん。最近冷えてきましたねぇ」
「ああ、おはようございます。毎朝朝食とお掃除ありがとうございます。そろそろ秋ですかねぇ」
話しかけてきたのはこの一ヶ月間私の監視兼世話役を任されたというコボルトさんだった。
(最初のうちは余所余所しかったが一ヶ月も居ると慣れてくれるんだなぁ)
一か月前は魔王を討伐しに来た一人ということでかなり警戒されていたし、私としても迎えが来てくれるのではないかと期待を胸に馴れ合いなどはしまいと思っていたのだが…
「まさか一週間経っても半月経っても迎えが来ず、挙句魔王様から同情されるなんてなぁ」
「ははっリュードさんどんどん目がゾンビみたいになっていくんですもん。敵と云えども可哀相になっちゃいますよ」
掃除をてきぱきとこなしながら独りごちた私に返答してくれる
「捕まった時は殺されると思ったんだけどなぁ そういえば何故私は生かされてるんでしょうか?」
「今更な質問ですねぇ…魔王様は貴方を殺さないというより今回襲撃してきた勇者一行を殺す気がなかったみたいですよ?」
「へ?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまったが構わずコボルトさんは続ける
「魔王様は強者としか命のやり取りをせず、弱者に対してはとても慈悲深い方なのです。あなたの待遇も置いて行かれたのを不憫に思われた魔王様が決めたんですよ。」
「そうだったのか…と言うか私のパーティーは弱者判定だったのか」
「はっきり言ってしまえばそうみたいですねぇ。私ごときでは勝てそうにありませんが」
はっきりと言われてしまい思わず項垂れてしまう
(これでも王国に認められた者として勇者と共に冒険してきたんだがなぁ…ん?)
項垂れた事で自然と視線が下に行き、私はふわふわした丸い物体が複数落ちているのをを見つけた
「これは何でしょうか?」
手に取ってみると何かの毛のようだ
「わー!そんなの拾わないで下さいよぅ。この季節は毛が抜けちゃって毛並みがごわごわしちゃって困ってるんですから」
そう、このふわふわしたのはコボルトさんの毛玉だったのだ。