第7話 ミカルの名前…
朝ご飯を作るミカル。
塩を取ろうと手を伸ばした時に…
「……!!」
またか、胸を押さえるミカル。
アネモネが異変に気づいて唇を動かす。
どうしたの?
「…ちょっとね。大丈夫だよ」
ミカルが苦しそうに微笑む。
…………。
アネモネが心配そうにミカルを見る。
朝食を食べて終えてアネモネはニワトリとの追いかけっこ。ミカルは村人に薬を売る。
昼食を食べ終えてアネモネが庭で遊んでいると…
「アネモネ、今から薬を届けに行くからちょっと出るよ。」
アネモネがミカルに近づき唇を動かす。
わたしが行く。
「いや、いいよ。ぼくが…」
ミカルが持っている袋に手を伸ばすアネモネ。
「……ありがとう。酒屋のおじさんの所に届けてね。」
うなずくアネモネ。
酒屋のおじさんの家に向かって歩く。
小さな田舎の村。何もないが自然が豊かだ。
アネモネが育った町とは正反対だ。
人も物も溢れかえっていた。
幸せだった日々を思い出す。
あの頃と違うけど……今も幸せ。
…ミカルがいる。
「あれ?アネモネ?」
村の人が話しかけてきた。
「お使いかい?」
笑顔でうなずく。
さらに歩いていると村の子供たちが遊んでいた。
「あっアネモネだ。」
「…なにしてるの?」
子供たちに薬の袋を見せる。
「お使い?…後で遊ぼうよ♪」
遊んであげたいけど…
早く帰らないとミカルが心配するし…
「……だめ?、遊ぼうよ~」
うーん、ちょっとだけならいいかな?
……笑顔でうなずく。
そして酒屋のおじさんの家に着いた。
「ああ、アネモネが持ってきてくれたんだな。ありがとうな。忙しくて取りに行けなくてな。これはお代だよ。」
お金を受け取るとさっきの子供たちの所へ向かう。
夕方まで子供たちと遊ぶアネモネ。
日が暮れようとしていた…
「ばいばい、またねー」
「また遊ぼうね、アネモネ」
子供たちに手を振る。
家に帰る頃にはすっかり暗くなっていた。
早く帰らないと……遅くなっちゃった。
玄関でミカルが怒っていた。
ごめんなさい…
「遅いから心配したよ!用事が終わったらすぐに帰ってこないとダメだよ!」
子供たちと遊んでた…
「暗くなるとケモノとか変なのが出てくるんだよ、危ないからね。分かった?」
はい、ごめんなさい…
「すぐに手を洗っておいで。夜ご飯にしよう。」
夕食を食べ終えて片付けをしていると…
ガタッ!
「…!!!」
ミカルが両膝をついて苦しそうにしている。
アネモネがそばに行く。
「……最近、力のコントロールが上手くいかなくて……」
心配そうにミカルの背中をさする。
「…少し、すれば落ち着くから……先に寝てていいよ。」
アネモネが家中のカーテンを閉める。
「…?、アネモネ?」
人間の姿じゃなくていいよ…
アネモネの唇が動く。
「……ごめん、、」
ミカルの体が黒く大きく変化する。
「……どうシてかな?、サいきん、、コんとロールが、キかない……へ屋二、戻っテていイヨ……」
ミカルの黒い体に寄り添うアネモネ。
ミカルがアネモネを抱える。
「……コワくナイの?、コノすガタ。」
アネモネが微笑む。
「……あリガとウ。」
ミカルの黒い手がアネモネの頬に触れる。
「…コン夜ハ、ズット、一緒にイテくレル?…アネモネがイッショだと、オチつク……」
ミカルの黒い手に触れるアネモネがうなづく。
アスタロトがその様子を黙って見ていた。
次の日の朝。
目が覚めると自分のベッドの中にいた。
あれ?……ミカルは?急いで下に降りる。
キッチンにミカルの姿があった。
「おはよう。」
人間の姿のミカルがいた。
大丈夫?
アネモネの唇が動く。
「ありがとう。…もう大丈夫だよ。」
アネモネの頭をなでる。
アネモネが朝ご飯を食べ終わると庭に出てアスタロトを探す。
「…どうした?」
アスタロトが現れた。
ミカルの様子が変。…どうして?
「………本当に勘のいい娘だな。」
アスタロトが右手に力を込めるとアスタロトとアネモネの周辺が真っ暗になった。
!!……ここは?!
「外界と遮断された空間だ。……ミカルに聞かれるとまずいからな。」
ミカルの体は大丈夫なの?
「悪魔は死なない。大丈夫だ。……アイツはある悪魔の転生した姿だ。」
ある悪魔?
「……ああ、名前は言えないが上位クラスの悪魔だ。」
生まれ変わり?
「悪魔は肉体が滅んでも影からまた生まれてくる。」
そうなの?
「あいつは自分の本当の名前を知らない。………力のコントロールがきかないのは魔力の解放が多くなってきているからだ。」
魔力が解放?
「あいつが転生してすぐに俺がほとんどの魔力を封じた。その封じた魔力が解放されているという事だ。」
ミカルの本当の名前は?
「…………知らない方がいい。」
アスタロトをじっと見るアネモネ。
「…………魔王に並ぶほどの力を持つ悪魔は数少ない…その中の1人とだけ言っておこう。俺などでは全く歯が立たないほどの力を持つ悪魔だ。」
魔王と並ぶ力の悪魔!
「もちろん、ミカルには言うなよ…」
アスタロトがそう言った瞬間にニワトリ小屋の前にいた…
あれ?…ここは?
小屋の中からニワトリの目が光っていた。
!!!
今日も1人と3羽の追いかけっこが始まる…
ミカルがアネモネを見ながら後ろにいるアスタロトに聞く。
「……アネモネに何を言ったんだ?」
「…お前を心配してたから悪魔は死なないと教えてやっただけだ。」
「それだけの為に外界と遮断してまで話す必要があるか?」
ミカルの目が赤く光る。
「…心配性だな。…あんな小娘に手を出したとでも?」
「……?どういう意味だ?そうじゃなくて何を言ったのかと…!」
アスタロトが消えた。
「まーた、はぐらかす。何を隠してるんだ」
アスタロトはずっと自分の周りをウロウロしている。何故だ?……それにアネモネを取り戻す時は協力してくれた。
何を考えて…いや何を隠している?
アネモネが家に入ってきた。
「今日も大変だったね。」
ミカルが微笑む。アネモネの唇が動く。
体、大丈夫?
「大丈夫だよ。昨日の夜、人間に化けるのをやめたから落ち着いたよ。」
ホッとするアネモネ。
「ピザ、焼いてきたよ!お昼にしよう。」
隣のおばさんがやって来た。
3人でピザを食べた。
「アネモネに似合いそうな服が出てきたんだよ。後で取りにおいで。」
アネモネがうなずく。
「ありがとうございます。」
お昼を食べ終えておばさんの家に行くアネモネ。
「これはどうだい?」
可愛い洋服が並んでいた。笑顔になるアネモネ。
「あんたは、本当にかわいいね。…先生とうまく意思疎通とれてるかい?」
「……………。」
首をかしげる。意思疎通………とれてる?
うーん、、、
「先生、鈍いところもあるからねぇ~」
たしかに、そうかもなぁ?
「まぁ、あんたはまだ子供だしね。まだまだこれからだよ。」
………まだまだこれから。………アネモネの顔がくもる。
「どうしたんだい?具合、悪いのかい?」
笑顔で首を振るアネモネ。お辞儀をしておばさんの家を出る。
…これから、どれくらいの時間、ミカルと一緒にいられるのかな?…アネモネは空を見た。
家に帰ると見知らぬ男の人が来ていた。
「旅の途中でね、急に腹が痛くなって…」
「そうでしたか、すぐに用意しますね。」
!!!……この男は!
男がアネモネに気付く。
「お嬢ちゃんも薬を買いに来たのかい?」
「…うちの子です。アネモネおかえり。」
男にお辞儀するとミカルの後ろに隠れた。アネモネの顔色の変化にミカルが気付く。
「可愛いですね。」
「ありがとうございます。人見知りなもので…はい、こちらをどうぞ。」
「助かります。」
男は金を払って帰って行った。アネモネはミカルにしがみついている。
「アネモネ?」
顔色が悪いな…。
「…大丈夫?」
ミカルの服を掴む手が震えてる。膝をついてアネモネの頭をなでる。
「…大丈夫だよ。ぼくがいるから。」
人買いの男、、さっきの人…
アネモネの震える唇が動く。
アネモネを買った奴か…嫌なことを思い出したんだな…。アネモネを抱きしめる。
「…もう大丈夫。ここにいれば安心だよ。」
ミカルの腕の中のアネモネがうなずく。
夜、アネモネが寝静まった頃ー
フードのついた服を着たミカルが外へ出ようとしていた。
「…どこへいく?」
アスタロトが現れた。
「…さっきの男、しばらくこの村にいるって言ってた。アイツがいるとアネモネが怯える。」
「……不必要に人間に手を出すな。」
「……どうして?…性根の腐った匂いのする人間なんていなくても誰も困らないだろう?」
「村の人間に見られたらここにいられなくなるぞ…」
「……うまくやるよ。」
アスタロトがため息をつく。
「…分かった。俺がやる、お前は寝てろ。」
「どうして、そこまで手を貸してくれるんだ?」
「……気まぐれだ。」
「嘘つけ、、」
アスタロトが消えた。
酒を飲んで上機嫌の人買いの男が歩いていた。男の前に1人の女が現れる。
「なんだ?…村の娘か?」
女は妖艶に笑い。男を手招きする。
「…娼婦か?」
男はニヤニヤしながら着いていく。村から少し離れた人気のない場所で女が止まった。
「…いくらだ?」
男が女に触れようとした瞬間に闇の中から黒く大きなケモノが現れて男を頭から食べた。女の姿がアスタロトへと変化する。
「不味そうだったが腹の足しにはなったろう?」
そう言うとケモノの頭をなでた。
旅の男が姿を消しても村人達は特に気にもかけなかった。
夜のうちに村を離れたのだと思っていた。
ミカルはキッチンで朝ご飯を作る。
アネモネは何もないところでコケる。
いつも通りの朝が来ていつも通りに1日過ぎていった。
つづく