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悪魔のおくすり屋さん  作者: とまとまと
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第2話 ミカルの本性

ミカルは朝からキッチンで悩んでいた。


今まで食事を作ったことがない!


何を作ればいいのか…

悪魔に食事は必要ないので隣のおばさんが差し入れに持ってきた時だけ食べていた。カルミヤがいた時は作ってもらっていた。

とりあえずパンは買ってきたが……とにかく卵を焼いてみるか。




2階の部屋でアネモネが目を覚ました。


……ここは?……そっか、昨日森で…ミカルに助けてもらったんだ……


寝ぼけながら階段を降りてダイニングキッチンへ向かう。テーブルの上にはパンとスクランブルエッグ、ホットミルクが用意されていた。



「おはよう、よく眠れた?」


ミカルが声をかけるとアネモネはうなずいた。アネモネに合う服がないのでミカルの服を着ている。12歳のアネモネには大きすぎるので動きにくそうだ。



「服は隣のおばさんがなんとかしてくれるらしいから少し我慢してね、さぁ食べようか?」



2人とも席について食事を始める。ミカルはコーヒーを飲みながら気が気ではない。上手くできたかな?アネモネの様子を伺う。スクランブルエッグを口にしたアネモネの顔がくもった。



「……塩辛いらしいぞ。」



2人の頭上でフワフワ浮かぶアスタロトが言った。



「……塩、入れすぎたか…ごめん。」



ミカルが困った顔で謝る。アネモネが笑顔で首を横に振った。




コンコン(ドアをノックする音)



隣のおばさんが洋服を持ってやってきた。


「先生、女の子の服持ってきたよ。」


「ありがとうございます。」


「この子だね。可愛らしい子じゃない、名前は?」


「……アネモネと言うらしいです。声が出ないようなんです。」


「……そうかい。先生の服じゃ動きにくいもんね、お着替えしようか?…先生、隣の部屋、借りるよ」


「はい、お願いします」



ミカルはアネモネが隣のおばさんと着替えている間に片付けを終わらせ今日の分の薬を確認する。






「どうだい、先生。似合ってるだろ?」


着替えが終わったアネモネが隣の部屋から出てきた。首元にリボンのついた可愛らしいワンピースを着ている。



「よく似合ってるよ、アネモネ。」



ミカルが笑顔で言うとアネモネは少し頬を赤くした。その2人の様子をみて隣のおばさんが微笑む。



「他にも何着かあるから置いていくね、先生。」


「ありがとうございます。」


「いいんだよ。孫娘の着れなくなった服が役に立ててよかったよ。」




コンコン(ドアをノックする音)





「先生、おくすりください…」


薬を求めて村人がやってきた。


「用意出来てますよ。」



ミカルは笑顔で対応する。

アネモネは次から次へとやって来る村人達に笑顔で対応するミカルをじっと見ていた。


昨日と同じく昼食は隣のおばさんの差し入れを3人で食べた。ミカルは昼から薬の調合を始める。アネモネは窓際で外をぼんやりとながめていた。



フワフワ浮いているアスタロトがアネモネに話しかける。


「お前はどこから来たのだ? なぜ声が出ない?」


「…………。」


アネモネはアスタロトを見つめる。










薬の調合が一段落ついて作業部屋からミカルが出てきた。

アネモネはソファーで眠っていた。



「……この家に誰かがいるのは久々だな…」


ミカルが独りつぶやく。



一年前はカルミヤがいたが彼女に育てられたので人間で言う親代わりの様な存在だ。気を使わなくてよかったがアネモネは違う。よく来る隣のおばさんや薬を買いにくる村人相手にうまくやってきたが生活を共にするとなるといつまでごまかせるか…



「……早く人間の里親を探さないとな。」


ため息混じりにつぶやいた。




「なぜだ?このままそばに置けばいいのではないか?」


アスタロトが言った。相変わらず無表情だ。



「…人間は人間と一緒にいた方がいいだろ?ぼくら悪魔と暮らすのはよくない。」


「カルミヤは人間だったがお前を育てたぞ。何も問題なかったろう?」



「……そうだけど。」









ーカルミヤと初めて出会ったのは20年前ー



「アスタロト、何よその子。」



20代の若いカルミヤの目の前には1メートル程の黒いスライムに手が生えた様な悪魔がいた。先代のカルミヤは視える人間だ。



「こいつを育ててくれないか、カルミヤ。」



「は?私が悪魔を育てる?なんでそうなるのよ?」



「前にタチの悪いヤツらに殺されそうになった時に助けてやったろ?」



「……なるほど、恩を売るために助けたのね。なんかおかしいと思ったのよ!悪魔は利己的で合理的。なんの理由もなく人間を助けたりしないものね。」



「……そういう事だ。」



「……で?この子は何なの?あんたがわざわざ連れて来たってことはなんかあるんでしょ?」


「………。」



「今は魔力は強くないけど……何か強いオーラ?を感じるわ。」


目の前の黒い悪魔の頭を撫でる。


「名前はなんて言うの?」


「……ナマ、エ?」



黒い悪魔が答える。悪魔はある日突然、影の中から生まれる。この悪魔は生まれて間もないようだ。



「……名前はない。」


アスタロトが答える。


「…名前がない?、本当に?」



「……ない。」



カルミヤはそう言うアスタロトをじっと見る。ここ最近自分の周りをウロウロするアスタロトは悪魔の中でも上位クラスだ。そのアスタロトがわざわざ連れてくるという事はこの悪魔には何かありそうだとカルミヤは考えた。



「……ふぅーん、なんか訳ありみたいねぇ~」



カルミヤがにやりと笑う。アスタロトは無表情のままカルミヤを見る。名もない悪魔に目をかけるとは考えられない。おそらく上位クラスの悪魔の生まれ変わりだろう。なぜ人間である自分に育てさせようとしているのかは分からないが…




「まぁ、いいわ!育ててあげる。アスタロト、アンタも手伝ってよ!悪魔の生態は人間の私には分からないんだから!」



「…常に冷静でいられるように育ててくれ。こいつの魔力は大きすぎる。今、ほとんどの魔力は私の力でこいつの中に閉じ込めているが少しずつ解放されていく…」



「ふぅーん、……名もない悪魔なのに魔力は強いのね?」



カルミヤがニヤニヤ笑う。アスタロトは無表情のままだ。



「……でも名前がないと不便ね~。」


黒い悪魔を撫でながらカルミヤが考える。




「…そうねぇ、…………ミカル!今日からあなたはミカルよ、私はカルミヤよろしくねミカル。」



「……ミ、カル?」


黒い悪魔が聞き返す。


「そうだ!ミカル、人間に化けて魔法使いのフリをしなさいよ!私の後を継いでちょうだい!」



「……ニンゲン?……マホウ………ツ……カイ?」



「そうよ!私が鍛えてあげるから大丈夫よ!」


カルミヤがミカルに微笑んだ。


それから少しずつ魔力が解放されていくミカルに魔力のコントロールの仕方、人間の化け方をカルミヤとアスタロトが教えていった。



「……だめよ、ミカル。アスタロトの真似をしないで!笑顔よ、笑顔!」


「……どうしてだ?別に面白くないぞ。無理に笑う必要があるのか?」



ミカルは少年の姿に化けれるようになっていた。カルミヤはミカルのほっぺを両手でつまむ。



「ニコニコしてるとね、相手もニコニコしてくれて仲良くなれるのよ!ほら笑顔!」



「痛いぞ、カルミヤ…分かったから離してくれ…」


カルミヤが微笑む。








「…そういえば、カルミヤがいつも笑えって言ってたな……」


笑顔……なぜ人間は笑ったり怒ったり、泣いたりするんだろう?悪魔であるミカルには理解できない。



カルミヤが死ぬ間際に言っていた言葉を思い出す。


「あなたがいつか、本当に大事に思える人に出会えたらきっと分かるわ。笑ったり泣いたりする理由が……」



本当に大切に思える人、そんな人に出会えるのだろうか……まだ出会えてないし、出会えるとは思えない。

自分を含めて何に対しても興味がわかない…。薬屋もカルミヤから頼まれたからやっているだけ。特にする事もないからただやっているだけだ。





ナゼ、コノムスメヲ ……タスケタ?





ミカルはあの時、彼女を抱えて逃げた自分の行動を理解できていなかった…



ソファーで眠るアネモネの綺麗な金髪を見てふと思い出す…… そういえばカルミヤに初めて会った時、頭を撫でてくれたな、何故かは分からないが。ミカルは右手を伸ばして眠るアネモネの頭を撫でた。



アスタロトはその様子を黙って見ていた。







「……父親に売られたそうだ。」


アスタロトが言う。



「…え?」



「お前が人間に薬を売ってる時に聞いた。母親が死んで真面目だった父親が酒に溺れ酒代欲しさにこの娘を売ったらしいぞ。」



「…それでカルト教団に買われた…という事か。」



「…そういう事だな。」



絶望の中で声を出せなくなったのかもしれない。人間の里親が見つかれば声が出るようになるかもしれないな。ミカルがそう考えているとアネモネが目を覚ました。目の前にいるミカルに気づき寝ぼけながらもアネモネの唇が動く…



「ん?……ワ、タ……シ?」



声は出ていないが喋っているかのようにアネモネの唇が動く。ミカルがその唇の動きを読む。



「私、の、前?……で、は、む……り………に……?」


ミカルの顔から笑顔が消える……


「ワ、ラ……ワ、な…く……て…も………イイ…よ………」




ー私の前では無理に笑わなくてもいいよー





うわべだけの笑顔を見抜かれた……出会って間もない人間の少女に。自分の本性を見透かされたような気がした。ミカルは言葉を失う。



アネモネが微笑む。



その言葉とアネモネの表情に自分の中の何かが動いたような気がした。ミカルは自分の胸に手を当てる。なんだ?身体の中心…をつかまれた?


ミカルの様子にアネモネが心配したように顔をのぞき込む。



「……大丈夫だよ。夕飯にしようか?」


アネモネが笑顔でうなずく。


「…さっき、差し入れでミートパイをもらったんだ。一緒に食べよう。」









窓の外から小さな妖精達が様子を伺っていた。




やっぱりあの子は私たちの子よ


何とかしなくちゃ


悪魔から取り返さないと…



つづく






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