第13話 失くした記憶…
いつも通りの朝。
ここ数日、ガーベラは来ていない。
庭でぼんやりしていると……
「先生、おはよう。」
隣のおばさんが声をかけた。
「おはようございます。」
「…最近、いい事あったのかい?」
「…え?」
ミカルが驚く。
「いい顔してるよ。」
おばさんがニヤリと笑う。
……いい事、あったのかな?
…………そうかも、しれないなぁ…
ミカルが微笑む。
「………あのヒトは、人間よね?」
ミカルの後ろで声が聞こえる。
振り向くとガーベラがいた。
「…ごめんね、遅くなっちゃっ………!」
ミカルがガーベラを抱きしめた。
ガーベラが驚く。
「どうしたの?……また苦しくなった?」
ガーベラが不思議そうな顔でミカルを見る。
「…いや、あれからは大丈夫だよ。」
ミカルがガーベラから手を離す。
…どうして、抱きしめたんだ?
自分の行動に驚く。
「そう、よかった。」
ガーベラが微笑む。
ミカルが薬の調合をしたり村人に薬を売ったりしていた。
ガーベラが屋根の上にいるアスタロトの所へ飛んでいく。
「……なんだ?」
「やっぱり、いたわね。」
「…?」
「どうして、あの悪魔のそばにいるの?」
「……。」
ガーベラがアスタロトをじっと見る。
アスタロトがため息をつく。
「…まったく、勘のいい娘だ…」
「もったえぶらずに早くいいなさいよ。」
「…世界の均衡を守るためだ。」
「……世界の均衡?」
「お前は転生したてだが妖精だ……少しは分かるだろ? 妖精の国、魔界、天界、色んな世界が存在する。それぞれが自分たちの領域を守りながらほかの世界との均衡を保つようにしている…」
「……そうね。それがあの悪魔のそばにいるのとどう関係あるの?」
「…お前の言うあの悪魔ががそのバランスを崩す可能性があるとしたら?」
「…………管理する必要があるわね、、」
「そういう事だ。」
「でも……」
「…なんだ?」
「あの悪魔、魔力は強いけど、…そんな無謀な事するかしら?」
「…記憶も奪ってある」
「そうなの?」
「もうすぐ、全ての魔力が解放される。…そして記憶も。」
「…あの悪魔の本当の名前は?」
「………。」
「……相当な大物ね。」
…父さまは知ってそうね。
まぁ、聞かないけど。
「……おまえはあの悪魔の…昔からの付き合いみたいね♪」
ガーベラがニヤリと笑う。
「…なぜ分かる?」
「何となく♪」
…なんだ?
全部、見透かしたような態度は?
不思議なやつだな。
ガーベラが家の中に入るとミカルがあたりを見回していた。
「……どうしたの?」
「あっ、、村の人からクッキーを貰ったから一緒にどうかな?」
「…食べる♪」
ガーベラが笑顔でクッキーを食べる。
「美味しい♪」
「…そうか、よかった。」
ミカルが微笑む。
「…この赤い液体はなに?」
「紅茶っていう飲み物だよ。熱いから気をつけてね。」
「そうなの?……!」
ガーベラが紅茶を飲もうとコップを持ったが手を滑らせ紅茶を床に零す…
「……あっ!」
ミカルが驚く。
……どうして、そうなる?
ため息を漏らしながらも思わず笑う。
「…君も、おっちょこちょいだね。」
「…ごめんなさい。」
…アネモネと同じ事するな。
手間がかかるけど…
どうしてだろう?
何だか………楽しい。
次の日の朝。
ガーベラがミカルの家の方向に向かって飛んでいた。
ふと下を見ると草木が枯れている場所があった。
「…何かしら?」
草木の枯れている場所に降り立つ。
何かが通った後、みたいね。
…闇の者、、悪魔かしら?
ガーベラが手をかざすと枯れた草木が生い茂る。
「…後で父さまに、言っておいた方がいいわね。」
そしてミカルの家に着くと…
「おはよう。朝ごはん食べる?」
「…今日は何かしら?」
「パンケーキだよ。」
2人で朝食を食べる。
半年前に戻ったみたいだな…
姿は違うけど、アネモネが帰ってきたみたいだ。
ミカルは村人に薬を売る。
ガーベラは家の中をうろうろ飛んでいた。
ひと段落ついたミカルがガーベラに声をかける。
「隣のおばさんからマフィン貰ったよ。」
「…まふぃん?」
「おばさんの作るマフィン、好きだったろ?」
「………。」
…まふぃん?ってなんだろ?
「後でお茶にしようか?ああ、そうだ、奥の物置からあの薬草取ってきてくれる?」
「…奥の物置?…あの薬草って何かしら?」
「ほら、あの薬草だよ…」
「…………?」
ガーベラには何の話か分からない。
不思議そうなガーベラの顔を見てミカルはもっと不思議そうな顔をする。
「……先生、お薬ください。」
村人がやって来た。
「はい、すぐ用意しますね。」
ガーベラがその様子をじっと見る。
アスタロトは屋根の上で座っていた。
ガーベラがアスタロトの所へ飛んでいく。
「…どうした?」
ガーベラがアスタロトの横に座る。
「………やっぱり、ダメなのかなぁ~」
ガーベラがため息をつく。
「めずらしく、弱気だな…」
「…アネモネでないとダメ……なのかしら?」
「………アネモネとガーベラ、、そんなに変わっているようには思えんが?」
ガーベラが驚く
「あなたから、そんな事言われるとは思わなかった…」
「…そうか?もし違うところがあるとすれば……飛ぶ事と、、」
「飛ぶ事と?」
「よく喋ることだな、、」
「何よ!まるでうるさいみたいじゃない!」
「…思ったことを言っただけだ。」
アスタロトは無表情のまま言う。
ガーベラが笑う。
「………。もう少し頑張ってみるわ。」
「…あいつはバカだからな。無意識にガーベラにアネモネを重ねて見ているんだろ?」
「…バカって…たしかに、、そうかもね。……そういえば、あなた名前は?……私はガーベラ。」
「知っているぞ。……アスタロトだ。」
「アスタロトね、話を聞いてくれてありがとう。」
「…礼を言われるような事はしてないが?……そういえば、」
「なぁに?」
「どうして、ミカルの事を名前で呼ばないんだ?」
「………なんか、恥ずかしい…のよね、……」
ガーベラが頬を赤くする。
「…?」
「まぁ、いいじゃない♪」
ガーベラが家の中に入っていく。
「…やっばり、人間というのはよく分からん生き物だな。……今は妖精か。」
アスタロトがつぶやく。
ガーベラが家に戻るとミカルがお茶の用意をしていた。
「……あ、お茶にしようか?」
「うん。」
テーブルの上に紅茶とマフィンが並べられた。
「……これがまふぃん?」
「そうだよ。おばさんの作るマフィンだよ。」
「…美味しい♪」
ミカルがガーベラを見て微笑む。
マフィンを食べ終わるとガーベラが言った。
「…そろそろ、帰るわね。」
「どうして?もう少しいればいいのに…」
「ごめんね、また来るから…」
ガーベラが飛び立とうとすると
「…待って、アネモネ、」
ガーベラの顔が曇る。
……アネモネ、、
………やっぱり、アネモネでないとダメなの?
「………私は、、ガーベラ………アネモネじゃない、、」
「え?」
……あれ?、
ぼくは今、アネモネって言ったのか?
「……アネモネが……いいの?」
「え?」
「………私では………ダメなの?……」
「………。」
アネモネがいてくれたら…
でも彼女はぼくのそばにいる為に…
今、僕の目の前にいるのはアネモネだけど…
…アネモネ……じゃない、、
彼女は……
今の彼女は………
「……悪魔に愛なんて感情はない、分かってる…見返りなんて考えてない!……でも、それでも…それでも、そばにいたかった!……自分で決めた事、覚悟を決めてガーベラになった!後悔なんてしてない……」
ガーベラは自分の中にある不安や強い思いを吐き出した。
ミカルに会いに来てから思っていたことを言葉にする。
「でも、アネモネと重ねるのはやめて!……私はガーベラよ!今の私を見て!」
「…重ねる?、、」
ぼくはアネモネとガーベラ重ねてみていたのか?
ガーベラが驚いているミカルを見て確信する。
……無意識にしてたみたいね。
彼にはアネモネしか目に入ってない……
「………今まで、ありがとう。楽しかったわ。…………さよなら。」
ガーベラが飛んで去っていった。
「…待って、、」
ミカルが呆然とする。
ガーベラが妖精の国へ向かって飛んでいると何かの気配を感じた。
…なに?
嫌な気配がする。
前にこの辺りで草木が枯れていたのと関係あるのかしら?
少し先に目線を向けるとまた草木がかれている所を見つけた…
ガーベラ!!すぐに帰ってこい!!
妖精王が頭に直接、話しかけてきた。
「…?…父さま、どうしたの?…………!!」
ガーベラの目の前に黒く大きな悪魔が姿を現す。
「…なんだ?……妖精か?、美味そうだな。」
黒い悪魔がニヤリと笑う。
「…何こいつ…。」
…まずいわね。
魔力が強い。
…私だけではどうする事もできない。
逃げなきゃ……!!
悪魔が無数の触手を伸ばして小さな妖精達を捕まえていた。
「その妖精たち、どうする気?」
「食うに決まってるだろ?」
「……そんな勝手なことをして魔王が怒るんじゃないの?」
「少し食ったら消えるから安心しろ」
「……少しでも食べるものじゃないはずよ…」
「うるせえなァ!…お前も食われたいのか?」
悪魔がニヤリと笑う。
「…………その妖精たち、、はなして…」
「はぁ?……何言ってんだ?」
ダメよ…
逃げて、ガーベラ…
捕まっている妖精たちがささやく。
「私が食われてやるから、その妖精たちを離しなさい!」
ガーベラ!ダメだ!
妖精王が叫ぶ!
「…ダメよ!父さま、あなたはそこにいて!!」
妖精の国にいる妖精王の腕を掴む女王
「……あなた、ダメよ…」
「でも、このままじゃ、、」
「妖精たちより私の方が美味しいはずよ…だから、離しなさい!」
「クックック、馬鹿な妖精だな…」
黒い悪魔は妖精たちを離すとガーベラに触手を伸ばした。
「……くっ!!」
触手にトゲが生えてガーベラの体を締め付ける。
締め付けられた場所から血が吹き出す。
「…いったーい!!…ちょっと、殺るならさっさと殺りなさいよ!!」
「…うるさい妖精だ」
黒い悪魔が笑う。
ガーベラ、、
どうして…
開放された妖精たちがガーベラのそばに行こうとする。
「……私はいいから、あなたたちは帰りなさい。」
でも……
「力を持つ者の、責任よ…。あなたたちを守るのは私の役目…父さまの所へ帰りなさい 」
ガーベラが妖精たちに微笑みかける。
少し前。
ガーベラが飛び立った後、ミカルは呆然としていた。
ミカルの目の前にアスタロトが現れる。
「…何してる?、、追わないのか?」
「………ぼくは、、」
アスタロトがため息をつく。
「…まったく、昔から変わらんなお前は。」
「…え?」
「転生前の話だ…。バカで優柔不断、自分勝手…」
「………へ?」
「お前の事だよ。……アネモネとガーベラ…何が違うんだ?」
「………何がって、、」
「見た目か?」
「……見た目は気にしてない。金髪でも黒髪でもどちらでもいい…」
「喋らない方がいいのか?」
「………喋っても、喋らなくても、、、」
「皿を割ったり、飲み物こぼしたり、鳥と追いかけあったり…アネモネと何か違うことをしたか?」
…………たしかに、アネモネとガーベラ、同じことをしてる。
「いつからそんなに後ろ向きになった?…カルミアはお前に後ろ向いて生きろって言ったのか?」
「………!!」
「ミカル、前向きに生きるんだよ。たまに後ろをむくのもいいけどね。……笑顔も忘れずにね♪」
…カルミアが言ってたな。
前向きに笑顔で…
…そうだ。
アネモネだけど
…アネモネじゃない、
彼女は…
今の彼女は………
ガーベラだ!
昔も今も関係ない。
ガーベラと…
ガーベラと一緒にいたい!
ミカルに迷いがなくなる。
「……やっと気づいたか?世話のやけるやつだ。…さっさと迎えに行って………!!」
ミカルとアスタロトが異変に気づく
「…ガキが暴れてるみたいだな……ん?あの妖精が飛んで行った方向だぞ…」
「…!!」
ミカルが家を飛び出す。
アスタロトも後を追う。
つづく




