嘘
久しぶりに書いてみたら予想以上に長くなってしまいました!
が!ぜひ読んでみて下さい!!!
久しぶり!!!
…どうしようもない。どうしようもなく、救いようがない奴だなぁ。
そんな事を思っていた。
私は生まれてから独りだった。
名ばかりの母親。物心着く頃には居なかった父親。そんな二人の間に誕生して、普通の子が小学校に上がる頃に私は施設に入った。
母親はよく家に連れ込んでいた何人かの男の中から、一番のお気に入りの所に行ったみたいで、私は邪魔だったらしい。元々いい扱いはされていなかったが、最後の方はそこに転がっている空いた缶ビールよりも下に見られていた。
私が入った施設は、私と似た境遇の子供から、親が犯罪を犯して保護されている子供、生んだはいいけれど育てられそうにないといって置いて行かれた子供などが入る、世間一般で言う孤児院のような場所だった。
ただ、ひとつだけ、違いがあった。
派遣戦闘員。
私たちはこの施設に入った時点で、イラクやシリア、アフガニスタン、イスラエルなど、今尚紛争が続いている国や地域への戦闘員、兵士として送り込まれる、派遣戦闘員という存在になる。
私は、強くなるために、ひとりでも生きていけるために、そう言われて、トレーニングをさせられていた。今考えればおかしな話だが、子供なんて大人に従ってなんぼで、そもそもこんな所に来る子供はワケありで、反発する者なんて誰一人として居なかった。
私が初めて派遣されたのは十四の時。
「これから普段やってることの成果を見せてもらうからね。」
ママに、ただそう言われて、迷彩のやたら丈夫そうな服を着せられて、トラックの荷台で眠っている内に現地に着いた。ペラっと開けられて見えた景色は地獄のようだった。
悲鳴が銃声に掻き消され、いとも簡単にアタマが吹き飛んでいて、自分が生き延びるのに必死なくせに誰かのためだと言い張っている人間たちが溢れ返っていて、込み上げてくる何かを両手で押さえていると、乱暴に荷台から引っ張られ地面にぶつかった。怖くて怖くて仕方なかった。死にたくない。帰りたい。それしかなかった。でも何もしなければ死んでしまう。帰ることはできない。いつの間にか右手に握られていたライフル銃を両手で構えて、喉が擦り切れるくらい叫んだ。叫びながら撃った。ぎゅっと目を閉じていた。ライフルからの衝撃で体が震える。全身が痛い。肺に溜まっていた酸素を全て吐き出してしまい、それと同時に正気を取り戻して、目を開ける。何体か、人っぽいのが真っ赤っかで転がっていた。私より小さい人っぽいのもあった。それは、私より大きい人っぽいのと手を繋いでいた。
その後は、おそらく私を雇ったのであろう現地人に腕を引かれ、そいつに連れて行かれる先々でひたすら撃った。そうしないと私が死んでしまうから。殺されてしまうから。仕方ないから。
すぐに帰れると思っていたのだが、それはとんだ見当違いだったらしく、雨風を凌げる程度のおんぼろい建物の中で、私の拳サイズのパッサパサのパンと、味のしない何かのスープを飲んで、ほとんど床と変わらないタオルの上で眠った。が、眠れるはずはなかった。
次の日、銃声で無理やり起こされた。急いでライフルを構えると、昨日私の腕を引いていた男にナイフを渡された。今日は、ライフルでひたすら乱射し、それでも息がある人っぽいのを、ナイフで確実に仕留めた。
そんな日々が一週間続き、私は痩せこけ、風呂になんて入れるわけもないので、ベットベトの油と土と赤黒い乾いた何かに塗れて、施設に帰ることになった。
ママはそんな私を、何も言わず、嫌な顔一つせず、ただ抱きしめてくれた。嬉しくて、優しくて、落ち着いて、泣きたくて、苦しくて、怖くて、色んな感情や思いが込み上げてきて、その腕の中で泣きじゃくりそうになったが、何故か、本当は泣いているつもりなのに、涙が一滴も出てこなかった。
それからというもの、私は、自分より年下の子供を訓練する側になった。もちろん自分のトレーニングもかかさないが。
そしてある程度の年齢になった子供と一緒に、色んな戦地に派遣された。
普通の子供なら、怖がって泣いたり、失禁したり、叫んで暴れ出したりするかもしれないが、生憎、こんな所に派遣される子供はみんな普通ではないので、多少怖がったり、戸惑ったりはするが、状況を受け入れ、自分がどうしたら生き延びられるか、死なないか、を瞬時に判断し、適応する。
ある日、初めて同年代の子供と一緒にやることになった。17の時だった。
その子は私よりも一年早く派遣を経験していたらしく、歳は同じだが一つ先輩、ということらしい。
「ねえ」
「…あ、え、なに」
「あんた後輩なんでしょ?一応」
「そうらし…そうみたいですね」
「別に、歳は同じなんだしタメでいいよ」
「あ、うん」
「素っ気ないなぁ。これから二人で頑張るんだから、仲良くしようよ。同年代なんて滅多に居ないし」
容姿を見ただけの段階での第一印象は、綺麗な人だなぁ、だった。
今は、苦手そうだ、に変わってしまったが。
「そういえば、なんであの施設に居るの?いつから居る?」
「あんまりそういう話はしたくないんだけど」
「あ、ごめんそうだよね、人に聞くなら自分から言わないとね」
そういう問題じゃないんだけどなぁ。
「私ね、母親が風俗嬢だったんだけど、デリヘルとか店舗型のとかじゃなくて、店と契約して売り込んでもらって、仕事は家でする、っていうスタイルで」
「…」
「それでまぁ、あたしがそういう事とかを知る全然前、保育園に上がる前からずっとそんな仕事をしてて、夜になって寝付けないから母親の所に行こうとすると、そういうことしてる声とか音とか聞こえてきて」
「…」
「もちろん構ってもらえるはずなんかないし、仕事の邪魔しちゃいけないって思って、半べそかきながら部屋に戻って、っていう日々だったの」
ここまでずっと顔を逸らして目線を逸らして聞いていたのだが、相手が一旦話を区切った所で、ちらっと目を合わせてしまった。いつもと変わらない表情、さっきまでと変わらない調子で、あくまで普通に話すその姿は、少しだけ、格好よく、美しく見えてしまった。一瞬だけれど。
「それでまぁ、あたしが保育園卒業して春休みの時かな、お客さんが来る時は大体部屋か外に居て、お客さんと会わないようにしてるんだけど、たまたまトイレかなんかに行くタイミングでばったり会っちゃって、そのまま、レイプとは言わないけど、それっぽい事されちゃったんだよね」
へへ、と笑いながら話す彼女に、私はもう目は向けていなかった。
「そんで、母親がお客さんの戻りが遅いから、つって寝室から出てきてそうなってるの見つけたんだ。お客さんは流石にやばいと思ったのか、焦って離れて、あ、あの、これは、とか言い訳探してたんだけど、叩かれたのはあたしの方だったの」
「ひどい…」
「え?」
「…」
黙って聞いてようと思っていたのに、思わず口から漏れたらしい。それに、多分その時の私は、とてつもなく嫌悪感に満ちた表情をしていたと思う。
「まぁそれで、なんで?って見てたら、人の客に手ェ出してんじゃねえよ!って怒鳴られちゃって、そのお客さんが後日、母親が居ない時に家から出してくれて、そんで連れてこられたのがあそこってわけ」
長くなってすまね~。とへらへらして言う彼女を、私は直視出来なかった。言葉も返せなかった。色んな境遇の子供が集まるあの場所でも、特に酷いものだと、失礼だけれど思ってしまった。
「そんで?そっちはどういう経緯で?」
「……父親は、元々居なくて、というか、私の記憶があるうちには居なくて、母親は、私が小学校に上がる前に、遊んでた男たちの中のお気に入りの所に私を置いて出て行って、帰ってきたと思ったら、あそこに連れて行かれた。そんだけ」
「へぇ、割と似てんだね、あたしたち」
「似てないよ。私のなんて、そっちに比べたら」
「比べるとかねえじゃん」
「え…?」
「あ、ごめんねキツい言い方して。別にどっちの方が酷いとか、悲しいとか、辛いとか、そういうのないと思うんだよ。みんな、あそこに居るのは、親からロクに愛してもらえなくて、寂しくて、どうしようもなく独りの子達なんだよ。過去に重さの違いはない。みんななんかしらあって、それ乗り越えて、今日を必死に生きてる。それだけで、素晴らしいじゃん」
彼女の言葉は、とても重く、深く、私に刺さって、私に居座った。
「ありがとう。生きて一緒に帰ろ」
感謝なんてロクにした事なかった。誰かと一緒になんて考えた事もなかった。涙が出そうになるなんて、思ってもなかった。
「…、おう!一緒にちゃんと、ママとチビ達の所に帰ろう!」
ふふ、と笑って、私に手を差し出してきた。厄介な人と知り合ってしまったもんだと思いながらも、その手が嬉しくて嬉しくて、堪らなかった。初めて、暖かい握手をした。
今回の派遣は今までより酷かった。中心地に程近い場所だったらしく、過去最高に人っぽいのを撃ったし、刺した。死にかけた時もあったし、食べ物がなくて意識がなくなりそうになった時もあったし、寝る場所も確保できなくなって、精神をやられそうになった。
でも今回は一人じゃなかった。もう一人居た。心強い、友達が。
いつもより更に汚れて、塗れて、痩せて、死にそうになって施設に帰ると、ママは、私と友達をいっぺんに、思いっきり抱きしめてくれた。
初めて、生きてて良かった。そう思った。
彼女の名前はつばさというらしい。素敵な名前だ、と私が言うと、そんなに好きじゃないんだけどね、とつばさは笑った。
私とつばさは、派遣でペアになる事が増え、施設内でもよく一緒に居るようになった。
今まで色んな子達と一緒に現地に行ったりしたけど、それ以外でも一緒に居たいと思ったのは、あんたが初めてだって、照れたように笑っていた。
一緒にお風呂に入り、お互いの背中を流しあって、一緒に湯船に浸かり、つばさの鼻歌を聴きながら幸せだと思ってみたり、私みたいなのが、こんな生活出来るなんて、考えてもみなかった。本当に幸せだった。
もう、派遣には行きたくないと思うようになっていた。
このまま、つばさと一緒に施設を出て、二人で暮らしたい。もう、死にかけるのなんて嫌だ。人を…違う、人っぽいのを撃つのも嫌だ。血を見るもの悲鳴を聞くのも銃声で起きるのも全部嫌だ。朝、目覚まし時計のうるささに目が覚めて、眠気と戦いながら布団から出て、隣で二度寝しようとしてるつばさを起こして、一緒に情報番組を見ながらご飯を食べて、歯磨きをして、顔を洗って、寝癖ついてるよって教えてあげて、それぞれ服を着替えて、一緒に出掛けて、一緒に笑い合って、他愛のない話をして、そんな日々を過ごしたい。つばさと一緒ならなんでもできる。なんだって乗り越えられる。つばさと一緒じゃなきゃ嫌だ。もう無理だ。生きていけない。つばさと一緒に生きていきたい。
つばさに思いを打ち明けて、ママに言って、一緒にここから出よう。ママは納得してくれるはず。ママなら、後押ししてくれるはず。認めてくれるはず。ママなら。
「つばさ」
「なあに?」
「話があるの」
「どうしたの改まって」
「一緒にここから出よう」
「…え?」
「私、もう嫌だ。つばさが死にかけるのも、私がつばさと離れ離れになるもの、もう嫌だ。ここから出て、普通に暮らそう。紛争なんかとは関係ない所で、普通に、幸せに、一緒に暮らそう」
「…」
「つばさとなら大丈夫な気がするの。ううん、大丈夫。私とつばさなら、大丈夫だから、一緒に生きていこう」
「…」
「ママに相談して、ここから出してもらおう。卒業しよう。一緒に、それで、一緒に暮らそう。私とつばさなら―」
「待って」
「え?」
「その提案は嬉しいし、あたしもそうしたいし、なんならあんたがそう思う前から思ってた事だけど、ママに許してもらえるかな。お世話になってるんだし、そんな急に」
「大丈夫だよ!だって私たちのママだよ?反対する訳ないって」
「うん」
私はこの時、つばさの表情が曇っていたのを、感じ取る事ができなかった。
結局すぐには抜けられないらしい。ママには、次の任務が終わったら、それと同時にって事にしましょう。って言われた。
正直もう絶対に行きたくないと思って居たからとてもとても断りたかった。嫌だった。でもこれを乗り越えればつばさと一緒になれるんだって、自分に言い聞かせて、なんとか頑張る事にした。
「ねえつばさ」
「なに?」
「どんな家に住みたい?」
「そうだなぁ…あんまり広くない家がいいなぁ」
「え、なんで?」
「だって、広いと寂しいし、同じ部屋に一緒に居られる方がいいでしょ?」
「そうだね」
私もつばさも、笑っていた。
「外に出たら、ファミレスに行ってみたいなぁ」
「行ってみたいね」
「カラオケとかも楽しそうだよね」
「よくお風呂で鼻歌、歌ってるもんね」
そうやって、他愛もない、幸せな会話を続けていると、つばさの視線が、私の目から時折外れているのに気が付いた。位置的に、おそらく唇。総意識してしまうと、私もつばさの唇を見てしまう。
「どこ見てんの?」
つばさがいたずらに笑った。
「そっちこそ」
そうやっているうちに、つばさが顔を近付けてきたので、私も同じようにして、私たちは唇を重ねた。
そして、二人して照れ笑いしながら、おやすみ、と言って、眠りに就いた。
今日が最後の派遣の日。二人で気合を入れあって、お揃いで作ったミサンガをそれぞれ右手首に着けて、いつもの車に乗り込んだ。
これをやりきって、一緒に抜け出すんだ。何も怖い事はない。大丈夫、大丈夫。
そう自分に言い聞かせて、右手首のミサンガを触った。つばさを見ると、浮かない顔をしていた。
「つばさ?」
「…あ、な、なに?どうしたの?」
「そっちこそどうしたの?」
「あ、ううん。なんでもないよ」
「本当に?」
「…うーん、実は、これ終わったら一緒に暮らせるのかって、現実味なくて」
「そうだね。でも、これ乗り越えたら、もう終わりだから、頑張ろう」
「…うん。今日もやれる」
「生きて帰ろう」
つばさ、と名前を呼ぼうとしたが、衝撃に邪魔された。名前の代わりに、小さい呻き声が喉から直接出た。
降りた所は、地獄を超えた絶望だった。本当はここが目的地ではなかったらしいのだが、襲撃され、やむを得ず止まったらしい。いきなり死にかけ。崖っぷちから片脚がもう先に出かかってる状態。でも、私は死なない。死ねない。こんなのさっさと終わらせて、普通の人みたいになるんだ。
何も怖くなかった。しかし、心のどこかで、この状況を怖がっていない自分を怖がっている裏っ側の自分も居た。でもそんなのどうでもよかった。私はもう独りじゃない。一人でもない。信じてる人が居る。信じてくれてる人が居る。愛してる人が居る。愛してくれてる人が居る。それだけで、自分の事なんかどうでもいい。人を殺してしまっても、仕方ない。そう、仕方ない。私のためじゃないから。これはママのため。つばさのため。私の自分勝手な思いはない。そもそも私はこんなの望んでない。仕方ない。仕方ない事。こんなの早く終わらせて、つばさと一緒に生きて―
「 !」
バァン、
私の名前を叫ぶ声と、ひどく耳障りな、耳慣れた破裂音が、ほんの少しズレて私の耳に入ってきた。
重たいものが地面にぶつかる音がした。ドサっと。砂埃が舞い上がる。酸素と一緒に砂が入り込んで、煙のようになって、咽せる。前屈みになって咽せて、視線の先に人が倒れているのを確認する。誰だろう?
誰なのか分かっていないのに、とてつもなく悲しくて、辛くて、耐えられなくて、重力に任せて、膝から崩れて、その人の髪を撫でる。サラサラで、少し癖のある、短い黒髪。綺麗な、大好きな人の一部。
「つばさ!!」
私は叫びながら、その人を、つばさを抱き起こす。まだ息はある。大丈夫、大丈夫。死んでなんかない。大丈夫。生きて帰れる。大丈夫。大丈夫だよね。目を開けて、大丈夫って笑って欲しい。大丈夫だよね。
「…、あ、あれ…あた、し…」
「大丈夫、大丈夫だから、大丈夫だから、すぐに、助かるから、大丈夫だから、大丈夫だから」
「だい、じょうぶ、かな…あんた、が、言うなら…っ、だいじょう、ぶ、だね」
「そう、大丈夫、何もかも、大丈夫、ここから早く二人で帰って、一緒に暮らして、幸せに、大丈夫、私たちなら、ね、大丈夫」
「バカだね、無理だよ…」
「なんで…?」
「あた、し、あんたのこと、信用し、してないよ…気付かな、かった?」
「何言って」
「やっぱり、だれも、信じられな、かった…あんただけは、他の、人と、違う、から、って…」
「うん」
「でも、ダメだね…あたしみ、たいなの、さ…」
「そんな事ない…これから二人で、またやってけばいいじゃない!これから、ゆっくり、お互いに、なんでも話し合えるような、もっと、ちゃんと、普通の人たちみたいに」
「信じきれなくて、ごめんね」
彼女の最期の言葉は、謝罪だった。
信じきれなくてごめん、と。いつもみたいに、何も変わらずに、へらっと笑って、目は泣きながら。
あのあとの私は、人目も憚らず、自分が置かれている状況を圧倒的に無視して、喉が擦り切れて一生声が出せなくなるくらいに、叫んだ。心は壊れていた。泣きたかった。泣き叫んで、どうにかして、心を覆い尽くす負の感情を、全て吐き出してしまいたかった。でも、涙は出なかった。人殺しの私には、血は辛うじて通っているものの、涙という概念は、ごっそり抜け落ちているらしい。
人っぽいもの。そう思い込む事で、自分を正当化し、保っていたが、私が銃口を向けてきたのは、どう足掻いても人間だった。人だった。ついさっきまで、必死に生きていた、人たちだった。
私は、彼女の死体のそばから動かなかったらしい。雇い主が、これは使い物にならないと言って、私は施設に戻され、彼女は、現地で、私の目の前で、燃やされた。綺麗な黒髪、整った顔、バランスのいい体格、お揃いのミサンガ。全部が、私の目の前で、灰にされた。
ママは、黙って私を迎え入れたが、初めてハグされなかった。使えない者は要らないとでも言うように、その目は冷たかった。
私はなんとなく、つばさの私物や、所持品を整理していた時に、一冊のノートを見つけた。
一枚、捲ってみた。
『この施設の実態について。
おそらく私たちは、それぞれの親や、ここに連れてこられた人たちに売られた。子供を連れてきた人たちには、毎月、私たちが現地で約目を成し遂げて帰ってくるたびに、報酬が渡されているらしい。
雇い主から施設へ。施設から人材提供者へ。そうやって、金は回り、新しい訓練兵が提供されてくる。
私たちは死ぬまでここから出られない。私たちが、この施設にとっての収入源だから。ここは政府や国に認められている訳じゃない。表向きは、優しいママが、一人でも多くの子供を救うために。その思いで立ち上げられたものだとされている。
でも実際は、ただ金を稼ぎたいだけ。自分は楽して、頼れる大人のいない子供を使って、善い人の皮を被って、私利私欲に塗れた汚い大人。
あの子はそれを知らない。一緒に出たいと、本気で思ってくれている。私もここから抜け出したい。二人で、暮らしたい。次の派遣が最後だと言うが、おそらくどちらかが殺されるか、両方殺されるか、その二つしか未来はないと思う。
でも、あの子となら大丈夫。きっと上手くいく。だって、私とあの子だもん。上手くいかない訳がない。
大丈夫。信じてる。大丈夫。私たちなら、大丈夫』
「あは、あはははははは、なんだ。なんだよ。ははは」
私の笑い声は、施設内に響いていたらしく、ついに気が狂ったかと話をされていたらしい。そんな事はどうでもいいけれど。
私はもうここから出られない。戦地で死ぬか、ここでママに殺されるか。とにかく、私の命が尽きない限り、私は抜け出せない。
ならやってやろうじゃないか。私一人だって、たとえ全員敵だって、私にはあの子が居る。このミサンガが切れない限り、私は大丈夫。
もう何も信じない。自分以外。
全部壊してやる。こんな世界。
それにしたって、死ぬ寸前であんな事を言うなんて、本当に、どうしようもない奴だよ。救いようがない。そんなあなたが、大好きだった。
私は、依然として笑いながら、目の前で消えていった愛しい相手を思い出して、下瞼では塞き止めきれなくなった生暖かい液体を、皮膚に感じて、右手のミサンガを、左手で握り締めていた。
いかがでしたでしょうか!長ったらしい上に駄作ですみません。
書きだしたら止まりませんでした。
感想など頂けたら嬉しいです!