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凶土伝記

作者: 作者不詳



「凶土伝記?郷土伝記の間違いだろうな、ま、ネタにはなるか」


 オレの名前は風間 青、30歳。しがないフリーライターだ。

 ゴシップやパパラッチまがいなこともやったりするが今回は作者不詳の凶土伝記という本の取材で本州最北の地に来ている。

 何でも、その本によると蛇神城という城が今も健在でそこを訪れた人は蛇に食われるらしい・・・

「ただの伝説、売れない三文記事になりそうだな」

 自分で言って少し落ち込む。

 最近いいネタにありつけず、スランプ気味のオレにとっては今回の取材は気分転換の意味も含んでる。聞き込みなどの細かい移動だから車、半ばドライブ。

 心情は

「気分転換8対取材2か、9月なのにクーラーいらず、バカンスにはピッタリだな」

 そんな怠け心を思いつつ目的の店を見つけ、聞き込みと腹ごしらえにうつる。

「こんちは?やってますか?」

 店頭に8~10月開店とあったとは言え気の抜けた疑問形のあいさつに。

「いらっしゃい。こっちの席の方が涼しいから奥まで入んな」

 と気さくな声が返ってくる。

 店内は薄暗く、錆びれた感じ、その割には若い亭主だ。

 年は俺よりも5つ下くらいか。肌が以上に白いせいでもっと下にも見える。

「お兄さんどこから来たん?この辺の人じゃないよね?」

「ええ、仕事で東京から。やっぱりわかりますか?」

 とりあえずは世間話から。

「ここは田舎だかんね。黒のフェラーリなんて良い車走ってないんよ」

 

 黒?


 よく見えなかっただけだな気にすることでもないか。

「お気に入りなんですよ。取り合えずオススメお願いできますか?」

「あいよ、んじゃぁ、ちょっと待ってくんな。」

 気のいい感じだな。

 確か本だとここから城までは近いはずだから、来たら聞いてみるか。

 


 30分くらいして亭主が皿を持って戻ってきた。

「これがウチのオススメ海鮮カレーや。津軽海峡が近いからおいしいんで」

「ありがとう。そういえば、お城があるって聞いたんですけど知ってます?」

 食事をしながらの聞き込み。確かにオススメと言うだけはあるな。素直にうまい。

「もしかして、あの古い建物かね。この道を奥まで進んで行くとあるはずだわ。途中からは歩きだから結構きついで」

 やっぱり知ってたか。ある程度は有名な所なんだな。

「と、その卵は一口で丸ごとがおいしいで」

 言われるがままスプーンですくって呑み込む、ウズラよりは大きいし鶏よりは小さかったから気にはなってたんだが食べ方があったのか。

「蛇の卵だよ。この辺じゃよく食べられてるんだ」

 呑み込み。

 絶句し。

 息を飲みこんだ。

 そこからは必要なことだけ聞き場所を手帳に書いてもらい店を出る。

 何だか長居はしたくない。


 

 車で1時間。

 徒歩で2時間。

 確かにキツイな。でも、熱くはない。

 生い茂った草木が空を覆い進めば進むほど暗くなる。

 昼なのに夜みたいな暗さ。湿度が高くジメジメしてる。

 

 暗い道の中、白い門が見えてきた。

 あの亭主は古いと言ってたが最近作られたような綺麗さだ。

 門をくぐると白い城が目の前に現れる。

 城と言うか神社みたいな建物。そう思うと、さっきの門は鳥居みたいだ。

 

 オレは、もう一度手帳に書かれた道順とここまでの道程を確認し確信する。

「鬼が出るか仏が出るか蛇が出るか、どれが出ても笑えないな」

 ここまで来たら見ないわけにもいかず腹をくくる。

 ポケットからライターを取りだし火をつけて手帳片手に城の戸を開く。


「・・・・・・・」


 覚悟とは裏腹に何もない。

 あるにはあるが、柱が一本もない一面白の広い部屋の奥に絵が一枚、その前に机が一つあるように見えるだけ。

「逆に何も出なくても笑えないな」

 興ざめしつつ絵に近づく。

 机の上にはロウソクが乱雑に立てられ、戸からではわからなかったが絵は2メートル近くある。

 ライターでロウソクを灯し見上げ

「!」

 目が合い一瞬ひるむ。

 大きな一匹の蛇が描かれている。

 額一杯に広がる白い蛇。

 その目がオレを睨んでいる。

 

 蝋燭の明かりが揺れるたびその蛇が動いたように見える。

「これが伝説の正体か。動いたように見える大蛇、訪れた奴はこれを見て驚いて帰りの道でも迷ったんだろ。あれだけ暗いと夜だったら間違いなく遭難だろうしな。ネタにはなるが今一だな」

 内心安堵しつつ事の顛末を手帳へと書き記す。

 苦労の割には徒労となった取材だがバカンスだと思えばまずまずな旅だったと思う。


「?」


 帰ろうと少し離れて絵を見返したとき異変に気付く。


 目を凝らす。


「下にまだ何か書いてる?」

 机とロウソクで見えづらかったが絵は下へと続いている。急いで机を退ける。


 案の定下にも絵があった。

「何だこれ?人間が一人寝てるだけに見えるが?生贄か?」

 大蛇の下で横たわる人間。

 更に顔を近づける。


「違う。人間の腹に大蛇の尾が繋がってる?どちらかと言うと腹を食い破ってこの蛇が出てきたのか」

 言うと同時に激痛で後ろに倒れこむ。

 腹の中で何かが動いているような痛み。

 かきむしるように服を破き腹を見る。

 腹部は大きく膨れうごめいている。


                 昼の出来事が脳裏をよぎる。


この絵の蛇のように白い肌をした亭主

                 赤いフェラーリを黒と言った亭主

                                そして丸呑みした蛇の卵。


「まさか・・・・・・・・・」

 オレは最後の力を振り絞りこの事を手帳に記す。できることなら、この事を誰かに伝えてくれ。目も限界らしい周りの白い壁が人の骨に見えてきた。そろそろ痛みも感じなくなった。

                                        著 風間 青

                                              」


「・・・・・・・・・・・・」


 あまりの出来事に声が出ない。

 私はその手帳を読み終えて震える手で何とか警察に連絡した。

 

 1月、登山の帰り道にあった黒い神社。

 黒さに惹きつけられるように寄ったその神社。

 中には遺体があった。警察の話では死後2、3ヶ月らしい。



 仰向けに横たわる遺体の傍にあった手帳は書店からオカルト本として出版されベストセラーとなった。

                                


 タイトルは「凶土伝記」

           作者不詳の伝記である。


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