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異世界。  作者: yu000sun
序章 
6/44

その文章は、過去をふり返りながらも最後は意味深に締めくくられた遺書にも感じられた

 透は今、暇そうにテレビのゲーム画面を眺めていた。

 

 場所(ダンジョン)は寒さを感じさせるような、灰色の大地が広がる不毛の大地。そこに建てられた広すぎる砦――というよりも、砦の外壁が立っているだけの様な場所――だった。

 由久が守備を固めながら隙をうかがい、松之介が敵に突っ込んで切り崩しているところを、由久が一人だけついてくるNPCノンプレイヤーキャラクターに指示をだして敵の殲滅を図る。 いつもの戦法ながら、少し攻め(にく)いのか、由久がひっきりなしに松之介へ、飛び移っていくような速さで次の攻撃の要請をしている。 指示する一方で、常に回復と自身からの攻撃もこなしている。


 ……なんというか、ゲームなのに物凄く忙しそうだ。


 いつもは、ここは透が遊撃と回復を兼ねて飛び回っているところなので、後ろから眺めていると、なんだか二人の余裕のなさがヒシヒシと感じられた。 すぐにでも参加すれば良いところなのだが、仕様なのか、途中参加がしにくいところがある。一旦、近くの街まで戻らなければいけないのだが、今のところ、それはできないようだ。

 倒されればダンジョンの途中からだろうし、引き返すにも道のりが長そうだ。何しろ今までクリアできなかった所だけに敵が強いらしく、倒されて道のりの途中から復活しても敵も復活しているために、復活地点から戻るのも面倒臭い。 おそらく、このまま続けるとして、ボスと勝てる目処が立たないようならば、捨て身の逃げ帰りで――逃げ帰りなのに捨て身というのもおかしな話だが――街にかえるだろう。

 ……何度か透が言えば、その場合も街に引き返すかもしれないが。ここは二人の頑張りを尊重して見守っておこうと透は決めた。


 眺めている透の課題は、既に終わっている。


 真剣な態度で臨むことに苦痛しか感じられなかった透は、やけっぱちになって、一歩自分を遠のかせた「どうにでもなれ」と言わんばかりの気持ちで作文を書きなぐった。

 問題の作題は「自分について」である。

 道徳、哲学、倫理(りんり)、自己診断おいて如何(いか)に己を第三者からの視点で見ることが出来る、客観的な観察が出来るか等など、難しく考えれば色々と思惑のありそうな問題で、考えれば考えるほどに、透は底なし沼につかるかのよう、思考の渦へ落ち込んでいく。


 (はなは)だ、馬鹿馬鹿しい。


 嫌々心理テストでも受けさせられている様な、理不尽な思いに()られた透は、適当に過去の話を書いた後、最後に 「自分自身とは、生涯もっとも身近に有り、もっとも理解しにくい生物なのかもしれない」 などと、意味深な一文を書き加えてしめた。 実のところ、最低文字数に届かなかった末、悪あがきの様に書き加えた一文だったのだが、これが中々、こんな問題を作った先生への皮肉にぴったりな気がして、妙に気に入ってしまった。


 我ながら、結構良い一文だと思う。画面を眺めながら、彼は細く笑んだ。


 一人っ子の透の過去話は、はっきり言って暗い部類に入る。

 寝ている最中の呼吸困難などを始め、精神的な異常をきたし、心療内科のカウンセリングを受けた話や、ある時期から過去の記憶が全くないことなどなど。 作文の為に、多分に誇張している部分もあるが、その根底にあるものは全て事実である。付け加えて、最後のあの一文である。

 自分の過去に特に思うことはないが、他人からすればそうでないかもしれない。こんな意地悪――考え込むと泥沼に嵌る透からすれば、最大の敵――を課題として問題に出すなんて、恐ろしいことだ。先生も、透の予想しうる良心や同情と言った気持ちがあるなら、これで得も言われぬ、哀愁に似た思いに駆られることだろう。


「あ」


 ぼんやりと画面を眺めていた透が呟く。画面端で、味方のNPCが背後から来た敵にほぼ一撃で倒されてしまったのだ。元々NPCもお飾り程度のゲームだったので、仕方ないといえば仕方ないことなのだが。 由久が唸る。いつもはすぐに蘇生させるのだが、もう、回復させるのが面倒らしい。一方で珍しいことに、松之介がなかなか敵に切り込みにいけずにいる。

 がんばってるな~と透が少し笑いながら眺めていると不意に由久が口を開いた。


「そっちは終わったのか?」

「ああ、終わったよ。 ――で、どうする?」


 透は、「まだ挑戦するのか?」といった感じのニュアンスで言った。画面から目が離せない由久はまた危機に陥っているようで、透が答えても、すぐには何か言ったりせずに唸りはじめる。 そして今、二人の会話の間に松之介の操作するキャラクターまでもが、倒れる。突然凍りついたかと思うと瞬時に囲まれ、敵の猛攻撃によってあっというまに半透明な幽霊になった。


「またそこでか……」

「チッ――ひでぇなこれ……」


 由久が眉間にしわを寄せて呟くと、若干イラついた様子の松之介は、あきらめたようにコンロトーラーを投げ出すとため息を吐いた。いつもは、苦戦しても楽しめる範囲だったし、なおかつ持ち主の透が下見をしていたりしているので、結構うまくいくのだが……。

 今回、二人が挑戦している場所は、透が下見に入って最初の敵を発見した直後、圧倒的な戦力差に一瞬にしてつぶされた場所だった。


「よし、戻るか――」


 一人残った由久が反転してダンジョンのスタート地点に走り始めたその直後、引き返した先から弓矢と共に魔法が飛んできたかと思うと、侵攻していた時と同じくらいの敵がうじゃうじゃと現れた。

 由久が驚愕に思わず叫んだ「あぁあ?」と素頓狂(すとんきょう)な声と共に、全滅を知らせるメッセージが暗転していく画面に大きく表示された。


 絶句する。


 しばらくして、画面が復帰し、三人のキャラクターが武器を持ったまま立っている。復活していることを忘れていたようだ。 少しすると、NPCが近くをうろつく敵へ突撃し、それこから二人の方へ敵の大群が津波の様に押し寄せてくる。 逃げても後ろからも敵が傾れ込むように追いかけてくる。前にも敵の壁がいる。


 由久は静かに、ゲーム機のリセットボタンを押した。


 その後、透が加わった三人とNPC(ノンプレイヤーキャラクター)の、合わせた四人パーティで挑んでみたが、状況は多少良くなっただけで快進撃とはいかなかった。 深夜の一時過ぎまで粘って、やっとの思いでボスステージにたどり着く。が、ボスの圧倒的な力の前に、通常の弱い攻撃で由久以外の全キャラクターが一撃死になってしまうという窮地を味わうことになる。

 数時間後、幾度かの全滅にもめげずになんとか戦略を練るも、ジリ貧な展開な上、小さなミスが即全滅に直結するというシビアさに、三人は見事なまでに轟沈された。

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