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異世界。  作者: yu000sun
一章 テストプレイ
42/44

34 会議室2

「お、オヤジさん……?」


 無意識のうちに透が呟く。確かに『準備が有る』とは聞いていたが……、まさかこれほどまでにだったとは! アーウィンと同じ様に見事な真紅の鎧を身にまとい、背には装飾の成された鉄板に柄を付けたとしか思えない様な赤黒い巨大な剣、黄色の裏地を覗かせる深紅のマントを翻しながら歩く様は……圧巻である。

 開け放った扉からバラザームに続いて、同じく深紅の甲冑に身を包んだダットが現れ、役員のローブの下に紅いの(彼女の体格からして、恐らく軽い)鎧を覗かせるエルフィンが部屋の出入り口の傍に立った。


「あとどれくらいだ」


 鎧の騒音を響かせながら歩くバラザームが聞いた。町長はバラザームへとふり返る。


「時間の猶予は」

「報告の間隔、移動距離からして、明日の朝から明後日の夕方までと報告が上がっています」

「なるほど――魔物の情報は?」

「半年前のフォグリア陥落時のおよそ三倍。

 報告に上がってきた魔物の種別は大型――おそらくゴーレムでしょう――四十七ほど。

 竜族の存在……地竜種、飛竜種の混在を確認。内、地竜の数は十五体以上確認されています。主要の魔物はこれくらいでしょうか。他の雑種は、侵攻ルート上に生息する魔物たちと衝突、吸収を繰り返しており、減ったか増えたかも定かではありません」


 町長が答える。「そうか……」とバラザームが厳しい表情で頷く。近寄ってきたバラザームとの身長差に、町長は見上げて言った。


「貴方に指揮を任せてもよろしいですね?」

「ああ」


 バラザームは周囲を見渡している最中だった。顎を撫でながらここに集まった者を左から品定めするように見て行く。途中、正面に座る面々に少しだけ目を止め、過ぎると今度は四人を見つけて片眉を吊り上げていた。「では」と言って町長は歩いて離れていくと部屋の壁際にある椅子に腰を下ろした。


「――誰か、この中で俺が指揮を執ることが気に食わない奴は居るか?」


 何かを言おうか戸惑いのざわめきと沈黙が流れる。どちらにしろ、一部を覗いて素人しかいないこの場所に置いて、例え三人の様にバラザームが宿屋の店主をしていることを知っていても、彼の甲冑姿と堂々とした雰囲気に何も言えることはできそうになかった。

 もう一度周囲を一瞥して、誰も何も言わないことを確認してから、彼は頷いた。


「ではまず、確認しておきたいことがある。魔法使いはどれくらいだ? 魔法を扱える者はこっちに――エルフィンは役所の魔法使いを呼んできてくれ」


 バラザームが言うと、アーウィンが立ち上がる。続いて三人の反対側から一人――『プレイヤー』の久島が立ち上がる。薄灰色にほんのり水色を混ぜた様な髪に、魔法帽のとんがりをテンガロハットと組み合わせた様な帽子、きっちりとしたスリーピース・スーツとスーツパンツを着た全体的に青紫の印象を思わせる。

 前回あった時は、シャツにベストを重ね着した程度の軽装だったのが、今やダンスパーティーにでも出向くかの様な()()ちである。


 彼の服装を見てリシアと呼ばれた少女が不機嫌そうに顔を顰める。今は所々で小さく話す声が聞こえてくることも相なって、彼女のドスの利いた呟きはロイン、アーウィンの耳に入るだけに済んだ。


「……おい」


 変な格好をしているなぁと久島をじっと眺めながら座っていた透を、由久が肘で小突く。「なんだよ」透が眉間に皺を寄せると、由久は「行けよ」と顎でバラザームを差した。


「お前、魔法使えるんだろうが」

「あ、忘れてた」

「忘れんなよ……」


 はは、と笑いながら立ち上がると、松之介が呆れたようにため息を突きながらぼやく。慌てて急ぎ足にバラザームの所へ歩いて行った。


「他には?」


 アーウィン、久島、透を順に見たバラザームは他に居ないか確認を取る。「俺は魔法を扱えないが――」正面席に座っていたアップポニーの黒髪男が口を開いた。


「俺達が護衛している『探求者』のハイウェント・アスヴァイターという男なら」

「『探求者』か……」


 バラザームは少しばかり驚いた様子だった。アーウィンが「それなら」と口を挟む。


「『探求者』であるなら魔法の知識は深いはずよね? 障壁は生成できるかしら? 特大で」

「規模と、威力による――が、取り敢えず、街全体はハイウェントでも不可能だろうな」

「なら……ここ周辺だけでも出来ないかしら? 避難している人たちが居る以上、周囲を壊されるのは避けるべきことよ」


 彼女の提案に彼は「わからない」と答えた。


「ここ周辺と言えど、街の半径ほどの範囲を半球形に保護しなければならない。安易に俺が『出来る』と応えられる規模ではない」

「うーん……」


 アーウィンが悩ましげに唸る。どうしようかしら、と言った感じでバラザームにふり返る。


「兎に角、ハイウェントという魔法使いをここに呼んで来てくれるか」

「ああ」


 彼は頷くと腕組を解いて立ち上がった。会議室を出て行く間際「ああ、その前に」とアーウィンが慌ててひきとめる。声に立ち止まった彼は半身を退いて首を曲げて振り向いた。


「貴方、名前は?」

「……アリフォリア。アルフォリア・エデム・パスジュラグ、だ」


 アルフィリアはそう言い残すと会議室を出て行った。「アルフォリア・エデム・パ()ジュラグ……」アーウィンは覚えようとするも、途中で間違えた。透がこっそりと耳打ちする。


「パスジュラグ、ですよ」

「え? ああ、そうね」


 アーウィンがキョトンとした後、少しだけ笑って頷いた。 身長が一六〇を下回っている今の透が背伸びをするも、一七〇後半のアーウィンには届かなかったが、会議室が静かであることもあって透の声を彼女は聞きとったようだ。

 ふと、立ち去って行ったアルフォリアの足音と入れ替えに複数人の足音が近づいてくる。


「バラザーム、連れてきたわよ」


 少しばかり息を弾ませたエルフィンが会議室に入ってくるとともに、バグの群れの時に調査をしていた五人の魔法使いが現れた。 バラザームの前まで歩いてきたエルフィンが横へ退いた。緑色のローブを纏った白髪交じりの渦巻いた髪の壮年の男性がバラザームに近づいて行く。エルフィン越しに、透が少し横に傾いて覗きこむように見ると、彼らは微笑したり、軽く手を上げるなど各々の反応を返してくれた。透も笑って手を小さく振り返すと元に戻る。


「顔を合わせるのは久しぶりだな」

「ああ」


 お互い、あまり明るくはない表情の挨拶だった。ウェンガの差し出す手を、籠手を外して握手で返す。再び籠手を着け直しながらバラザームは頭数を数えた。六人と三人。『探求者』のハイウェントを含めて一〇人。


「――魔法使いはこれで全員か?」

「いや、本当はもう一人探してたんだけど……」


 確認を取る彼に、エルフィンは申し訳なさそうに言った。


「ちょっと見当つかなくて取り敢えず戻ってきたの」

「なるほど、ご苦労だった――で、リシア、ロイン。どちらかの団にも魔法使いはいるか?」


 頷き(ねぎら)うバラザームは、二人の方へ首を回した。


「もち。ちょっと地方において来た所為で――今は五人程ね」

「こちらも七人いる」


 リシアは指折り数えながら応え、ロインは彼女が応え終わるのを待ってから即答した。


「合わせて二十二人、か――障壁を形成できるのはどれくらいなんだ?」

「あ~壁か~」


 バラザームの言葉に、リシアは顔を顰めて唸った。


「向こうに置いてきちまったし。今連れてんのは後方からの攻撃支援のために連れてきたからなぁ……、二人かな。ロインは?」

「こっちは七人とも大丈夫だ」


 リシアが横を向いて聞くと彼が頷き返す。「二人はどうなんだ?」バラザームが透と久島へ視線を移した。


「残念だけど。最近、扱え始めたばかりで、鎧の代わりくらいにしかならんかねー」

「……あ、俺は試したことないんでわかんないです」


 ため息交じりに久島が肩を竦めて首を振る。すっかり話しを聞く側に回っていた透は少し反応が遅れた。「そうか」とバラザームが頷く。


「十人でなら、ここ周辺を守る位は出来るか――よし。大まかな作戦をたてるが、その前に役割を分けよう!」


 考え込む様に呟いた後、全体に聞こえる、吠える様な声で強調して言った。


「主な種別は、前線、後方支援、拠点防衛、そしてその他の組みわけだ。

 前線は街の外壁を利用するために北西門の周辺。 後衛は遠距離攻撃手段を持った者で構成する。 拠点防衛は障壁を張る魔法使いを中心に避難施設への被害を抑える。 その他は大型の討伐を主眼に、臨機応変に対応する。

 ――では、部隊編成にうつる」


 一通りの説明の後、質問を待つかのように間を置いた彼は、特に異議はないと判断すると「まずロイン」と続けた。


「はい」張りのある声でロインが返事を返しながら立ち上がった。

「お前の兵団を二分して、前衛と拠点防衛の二つに分けろ。拠点防衛側は魔法使いを中心に遠距離攻撃の手段を持つ団員も混ぜるように頼む。分担して減らした分、そこの五グループ」


 バラザームは左側のグループを差した。ロインが指差しを追って彼らを見る。一方で、不意に指名された彼らは一様に驚きを隠せない様子でいた。

(三人メンバーを組んでいる内の一人が、ビクッと椅子の上で跳ねた。女の子だった。男ばかりの群れの中に居るせいか、その挙動が酷く可愛らしく思える。)


 三人の冒険者(ルタエ・ラザ)のグループ。2人のハンター(レティエテリジィナ)。四人のハンター(レティエテリジィナ)。一人の冒険者(ルタエ・ラザ)。五人のハンター(レティエテリジィナ)


 彼らの内の一部を冒険者だと思ったのは、手首にハンター(レティエテリジィナ)の証である水晶の腕輪がないので、透はそう思ったのだが……。もしかしたら間違っているかもしれない。透はなんとなくポケットを叩いた。彼自身の水晶の腕輪は、今はズボンのポケットにしまってある。


「彼らを部隊に加えて、前線、後方支援に分けてくれ。部隊わけには必ず、指揮能力のある団員を監督役につかせろ」


 バラザームが言うと、ロインは静かに「わかった」と了承すると彼らの方へ歩いて行く。事態の把握が遅れている五グループの彼らは、ロインが甲冑の音を響かせながら近づいて来て慌てて立ち上がる。


「これから、よろしく頼む」

「「はい!」」


 会議室に威勢のいい返事が響き渡る。大体一八から、二〇代後半の歳に見受けられる彼らは、はしゃぐ(・・・)子供の様なテンションの上がり様だった。中には三人程の女性も混じっているが、まるで幸福な夢の中にでも居るような表情を見せている。


「――リシア」


 ロインの様子を眺めていたバラザームが、今度はリシアの方を見る。


「そっちも同じようにしてくれるか。残り右側のグループと合流するんだ」

「ああ~? ――ウチんところで扱うには、なぁ……」

「リシア……」


 彼女は面倒臭げに顔を歪めた。その様子にアーウィンが困った様な声で呼びかける。「わぁーた(分かった)。わーってるって!」リシアは苦々しい顔つきで頭を項垂れさせた。


「……あたしが目を掛けたわけじゃないんだ。責任はとりきれんからな」


 ぎりぎりと歯ぎしりしそうな勢いで言う彼女は、立ち上がりつつ座った目でバラザームを見据えた。


「新人だ。これからの人材だぞ」


 バラザームは腕を組んで彼女に念を押す様に言うと、彼女は観念したかのように盛大なため息をしながら歩き出した。透よりも身長が低いと見受けられる彼女が、指示されたグループに近寄っていく。


「先に言って置くぞ」


 彼女は後頭部を掻きむしりながら言った。


「あまり出しゃばるなよ? 襲撃までまだ時間が有りそうだし、あとで動き方を説明するから死に急ぐ真似はするな――返事ぃいッ!」


 ロインとは逆に、ぽかんとしているハンター(レティエテリジィナ)冒険者(ルタエ・ラザ)たちに、少女が身の毛のよだつような一喝をすると、慌てて返事を返す声が会議室に響き渡った。二人は、彼女から離れた位置に座っている。由久は面倒臭そうに目を瞑り、松之介は癪に障ったのか反抗的に顔を(しか)めた。


「――ウェンガ」


 リシアの調子を見て大丈夫だと判断したのか、腕組を解いたバラザームが振り返る。


「拠点防衛の指揮を頼んでも良いか? 一〇人で防壁を張る上に、借り入れた団員の指示を頼む」

「借り入れは得意だ。万年人材不足だからな、この街は」


 バラザームの提案に、彼は皮肉に笑って応えた。バラザームは未だ目を瞑って黙している男へ視線を移した。茶けた麻のポンチョの下にはあずき色の軍服らしきものを着ており、袖がまくられて筋骨隆々の腕が見える。伸ばしたままの長髪の間から、日焼けした様なこげ茶色の顔や腕には古傷があった。


「そこに座っているのは――」

「彼はオズ=クロブ・ジェジャ・ツェレイチェィグ」


 バラザームが彼を見ながら呟くと、町長が空かさず答えた。


「オズ=クロブ。あんたは傭兵か?」

「……まぁ、そんなところだ」


 バラザームの問いかけに男が目を開くとぶっきらぼうに応えた。バラザームは少し考え込む様子をみせる。


「あんた、対魔物の戦闘をしたことはあるか?」

「専門は対人だが、苦手というわけでもない。普段は西の北方に居る」

「西の北方?」


 バラザームが驚いて聞き返した。


「随分と遠出だな」

「……用が有ってこちらの方まで来ていた。帰る途中でこの街に寄っただけだ」

「そうか……。なら、オズ=クロブ。ダット。アーウィン。三人は俺と合同で大型の魔物を相手する」


 バラザームの提案に、彼は一度だけ頷くと再び目を瞑った。何やらやる気のなさそうに見える。バラザームはオズ-クロブに対して怒って良いんじゃないか? と透は、少しばかりムッとしながら思った。

 バラザームは透と久島へ視線を移す。


「二人は――いや、トオルさんはないんだったな。君の実戦経験は?」

「ちょぉっとばっかし」


 指の先をすぼめて小さくさせながら久島が応える。


「剣が刺さるやつなら、とりあえずは殺せるんじゃねーかな」


 ははっと笑って頭の後ろで腕を組んだ彼は、楽天的に言った。


「その前に、君の脚にささるんじゃねーかな」


 同じ調子で透が(なじ)った。途端に彼はバツの悪そうな顔をして透を見る。透は意地悪くニヤリと笑った。 バラザームはその様子を、顎を撫でながら眺め、それからリシアのグループに入った由久、松之介に視線を移した。 


「――リシア」


 リシアは、長テーブル越しに由久と松之介に絡んでいる所だった。どんな奴なのかと話しかけている所へ、バラザームが声を掛ける。


「なんだ?」


 不意に呼ばれ、ふり返った彼女はテーブルに腰かけながら片眉吊り上げて聞き返す。


「この二人も頼んで良いか? 魔法を使える分、まだ戦力として扱いやすい」

「二人?」首を傾げてバラザームに聞き返す。

「そこの二人を、か?」


 彼女は透と久島に視線を移した。「ああ」と、バラザームが頷く。


「ついでに、お前が今話しかけていた二人と、この二人を纏めて監督してやってほしい」

「まとめて?」


 リシアは疑問に思うところがあったのか、ふっと眉間に皺を寄せる。


「お前、名前は」

「ん? 俺は久島。名字だけで構わないよな?」


 彼は快活に答えた。妙に浮き立った感じのする彼の態度に、少しばかり疑問を抱きながらも「名字だけで」と付けくわえた一言の方が気になった。名字だけ……。なんで名字だけなのだろうか?


「――そっちは?」

「あ……。あ~、透です」


 少しばかり考え込んでいた透は、フルネームで答えるか少しだけ迷い、名だけ答えた。二人の名前を聞いたリシアは「そういうことか……」と納得するように呟いた。


「それなら、あたしが監督役を引き受けるよ」

「いいのか?」バラザームが意表を突かれたように聞き返した。

「そっちの方が都合いいんだろ?」

「なら、任せる――」

「待たせた」


 リシアが肩を竦めて、仕方ない、と言った感じに答えた。丁度その時、廊下を早足に歩いてくる足音が聞え、アルフォリア・エデム・パスジュラグが会議室に入ってきた。 一歩遅れて、(くだん)の魔法使い、ハイウェント・アスヴァイターが現れ、その後ろから二人身長百七十前後の眼鏡を掛けた黒茶髪の青年と、バラザームの様に巨体の大男が入ってくる。

 会議室の注目は彼らに集中した。


「ハイウェント・アスヴァイターです」

「バラザーム・テルバンダードだ」


 そう名乗りながら彼はバラザームの前に進み出て握手を求めた。バラザームは甲冑を外して握手した。  ショートの翠髪に、額の左側に傷の見えるハイウェント・アスヴァイター。彼はあの時と同じく、汚れたポンチョの下に上質な白の下地に鮮やかな緑が映える服を着ていた。よくよくみると、すその部分はボロボロになっていた。


「彼は護衛のウォルト」


 ハイウェントがバラザームに黒茶髪の青年を紹介する。 ソバカスと眼鏡が特徴的な黒茶髪の青年は、『黒いコートに包帯巻きの上半身にジーパン』と言ったアルフォリアとは対照的に、『ポンチョ、黒のコートの下には甲冑』を着こんでいた。ポンチの襟口から、背中に背負っている剣の柄が斜めに飛び出ている。


「どうも。ウォルトです。俺たちは幾度も大型の魔物と戦ったことあるから当てにしてくれよ」

「なるほど。当てにさせてもらおう」


 透達と歳は大して変わらなそうな彼は、にっこりと陽気に挨拶ながら握手した。


「そして、彼も護衛のイョレトキッツァ・ダッガ」


 全身を覆う重厚な甲冑の上に薄汚れてボロボロのポンチョを着ていた。ポンチョの襟口からはウォルトと同じく得物の柄が斜めに飛び出ている。彼のポンチョは所々長く切り裂かれたように縫い目が付いていた。


「短い間だが、よろしく。長い方が名字で、ダッガが名前だ」

「ああ、よろしく」


 ウォルトが下がると、入れ替わりにダッガが進み出た。こうしてバラザームとダッガが並ぶと、周りに立っている自分達が小さい子どもの様な気がしてくる。歩いて進み出た時、ポンチョの合間から僅かに背中に背負う斧の刃が見えた。足元で見えた刃の位置と柄の長さからして大きいハルバードの様だった。

 がっちりと大男二人が握手をし終えると、「では」とバラザームは会議室全体へ聞えるように少しばかり声を強めた。


「細かいことは追々するとして、先に大まかな流れを説明する。初めは、前衛は街を出てすぐの平原で門を守る様に展開し、後衛は外壁上に布陣する。恐らく小型、中型の魔物、竜型が先頭を切って襲撃してくる可能性が高い。

 アーウィン、並びに、遠距離攻撃手段を持つ後衛は外壁上で待機。森から魔物の姿を確認後、攻撃に移る。攻撃目標は竜型を中心に。

 前衛は大型の魔物が平原に出現を確認後、前衛は門周辺へ後退する――町長、街の砲台はどうなっている?」


 バラザームは思い出したようにふり返ってブラザ・エルラム町長を見た。町長は頷いた。


「既に手配してあります。北西門周辺の外壁上通路、外壁内部三階に展開するように指示してあります」

「砲手はどうなっている?」

「門兵、役員たちが扱いを心得ております」

「そうか……なら、後で彼らにも伝えなくてはな。ありがとう」


 彼はふとどこを見ると言うわけでもなくそっぽを向いて考え込みながら独り言を言うと、町長へ向き直ってお礼を言った。


「我々の街ですから」


 物腰低い町長は穏やかに、しかしはっきりと答える。バラザームはその言葉に頷くと、説明に戻った。


「後衛は引き続き、竜型中心に。味方を巻き込まない様に注意するように。砲撃とアーウィンの魔撃で大型へ攻撃する。手の回らない個所を、オズ-クロブ、ダット、俺の三人と――アルフォリア、ウォルト、ダッガの三人で分担する。 前衛は街へ侵入しようとする魔物の食い止め、殲滅する。門周辺に来た竜型、大型の魔物はロイン、リシア各兵団の実力者を中心に対処してくれ。 これが大まかな動きだ。後は追々、指示を出す。

 戦闘は個人で動くことのない様に、周りを良く見ろ。孤立すれば真っ先に死ぬことになる。以上だ。何か質問は?」


 最後にバラザームが確認を取る様に周囲を見渡す。静かな会議室を、彼は肯定と受け取った。


「今話したことはあくまでも大まかな内容だ。戦況に応じて指示に従ってくれ。生き残るためにも、最善を尽くす様に」


 バラザームは一言一言の間を置きながら言い聞かせるように言った。ふと、彼は突然透に視線を移した。


「トオル、今何時だかわかるか?」

「え? あ……えーっと」


 意表を突かれた透は慌ててポケットから水晶の腕輪を取りだすと、せっせと操作して時刻表示に切り替えた。


「今は……十六時半ちょうどくらいですね」

「三期時間では?」

「あー……」


 透は困った様に眉間に皺を寄せた。『三期時間』という単語を初めて聞いた気がする。聞き返そうか迷ったその時、アーウィンが横から手を伸ばした。


「ここをこうして……」


 アーウィンが横から、透の持っている水晶の腕輪をいじった。どうやら、横にある摘まみを捻ったようだ。表示が揺らいで、煙の様に消えると別の表記法で時間が浮かび上がる。


「あ~ 『昼の部/九時/七……』――いや、『八分』くらいですね」


 読み上げた後、バラザームを見上げた。彼は「ありがとう」と一言言うと周囲に視線を移した。


「『夜の部/六時』まで各々、調整しておくように。時間になったら、北西門に集合だ――では、解散!」

「こちらのグループは私についてくるように!」

「こっちはロイン達が出てってから向かうぞ! 迷うなよ!」


 バラザームが言うと、ロイン、続いてリシアが自分のグループに対して叫んだ。会議室は突然とガヤガヤと騒がしくなった。


「二人とも、リシアについて行くんだ」バラザームが透と久島の背中を軽く押す。

「なぁ、寝る時間はあるのか?」


 久島が押されて前によろめきながらもバラザームに聞いた。


「魔物たちの進行速度に寄るが――一応、日の出前後までは休めるはずだ」

「そ。それ聞いて安心したぜ」リシアの方へ歩きながら、彼は肩を竦めて笑った。

「うちのしょうもない相方が全身打撲で動けないせいで、結構パシられてね。眠くて仕方ないんだ」

「――じゃぁ、オヤジさん。またあとで」


 透はぺこりと会釈するとリシアの方へ歩いて行く。


「――それ、放っておけばいいんじゃないの?」

「おいおい」


 話しを引き継いで透が突っ込むと、彼は首を振りつつ苦笑いをした。


「それこそ、放っといたら近づく女、そうでない女、所構わず手を出す」

「……そいつは娼婦館にでもつめこんどけよ」

「ざけんなよ。金がたらねぇわ」


 長テーブルに手をついた彼は少しばかり怒気の含んだ声で愚痴った。由久と松之介が何の話をしているのかと怪訝な表情で見る。


「あいつの所為で旅費がつぶれたんだ。治療費差し引いたって、大人のお店(・・・・・)の金使いが酷くてな」

「……あんたって結構、苦労してんだな」


 先程まで調子のよさそうな態度だったのが一変して、どんよりとしだした彼に、透は何と返して良いかわからず、取り敢えず慰めの言葉を送った。そこへ話しの区切りを見計らった由久が口開く。


「そいつが例の『プレイヤー』の?」

「ああ。彼は久島――俺と勝負した時にはサーベルが脚に刺さって、現在入院中の相方、抱きつき魔の風俗通いに旅費をすられた経歴を持つ、久島だよ」


 頷き、少しばかり芝居がかった言い方でスラスラと説明する透に、二人は引きつった笑みを浮かべ、次に憐みの目で久島を見た。


「若干、松之介と受難体質が似てるよね」

「――おい」


 透がにこやかに言うと、松之介は恨めしげに透を睨み返した。


「俺に振りかかる不幸の、最たる原因が何言ってんだ」

「へ?」


 透が驚いたように声を裏返すと、由久は呆れた目で彼を見据え、松之介はグッと拳を握りしめた。久島はその一連の流れで、透がどういう人物なのか理解したかのように「なるほど」と頷いた。スティルは、由久と松之介の後ろから訝しんだ目で久島を見ていた。


「おーしっ! うちの団員ところに行くからな! ちゃんとついてこい!」


 男勝りな口調のリシアが声を張り上げた。グループがぞろぞろと歩きだす。スティルと『プレイヤー』の四人は、リシアが先導する集団に紛れて会議室、廊下、エントランスと歩いていき、役所を後にした。


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