33 会議室1
投稿した作品を読み直していたところ、抜け落ちがありました。大変申し訳ありません。
一章26話目の直後の話――閉店後の談話――が抜けていました。26-2として割り込み投稿したのでよろしければ読んでください。
着替えや鎧を取りに行く間もなく、役員の男と共に宿屋を出て行った透は、街の騒ぎが予想以上だったことに驚かされた。役所に続く道が、各人持てるだけの荷物を持った住民の列で埋まっている。
細い裏路地の様な道はもちろん、『役所参り』と呼ばれている普段は使われることのない広い道も大勢の住民の成す長蛇の列で埋め尽くされていた。役所の人員がほぼ全員投入されているかのように道の橋端に、列を整理する役員の姿が見える。
事態は騒然としてはいるが、混乱は見受けられていない様に思える。役員と共に歩いていると、自分まで特殊な立場になった様な気がして来て、なんとなく得意げに思えてくる。足早に歩いていると、後ろからスティルが追いついてきた。
「父がトオル達について行くようにと」
表通りを歩いて行く二人を追って慌てて走ってきたのか、彼は少しばかりの汗と息切れを伴いながら言った。透が不思議そうな顔をして聞き返す。
「いいの? オヤジさん達と一緒の方が安全な様な気もするけど」
何気ない一言だったが、彼は普段の無表情から少しだけ目を座らせて言い返した。
「――貴女より弱いと言う自覚はありませんが?」
「……これは、手痛いことを言われてしまった」
前を向いたままそう答える透の呟く声色は、幾分か落ちていた。役員の男は何か気付いている様な、何かを言いたげに口を開きかけたがその手前で彼の注意は反れる。役員の視線の先には、番人の様に道に立って、役所への道に住民が入らない様にしている役員ら三人だった。
ここの位置は大体『役所参り』から正反対……大体南東あたりの場所になる。
「レティエテリジィナのトオルを連れてきた」
相手の役員がこちらに気付いたのとほぼ同時に、彼は言った。道を止めていた役員の内女性の役員は、透を見てそれからスティルへ視線を移した。
「彼は、テルバンの御子息では?」
「おそらくは、最前線よりも……という考えなのだろう」
怪訝そうに聞く彼女に、彼は考え込む様に答える。「だが……」道を止めるために横に立っていた他の男性役員が首を振りつつ口を開いた。
「今回は『どこが最前線』なんて関係のない話になるだろうな」
役員の表情は重い。普段から彼らは厳格な姿勢を誇示するようにいたが、今はそれに合わさって暗い物を思わせている。
「それ以上に、君は今や重要な戦力だ」
もう一人の男性役員が言った。透は彼に見覚えがある。バグの群れで一騒ぎがあった時、透に調書を取っていた役員だ。
「さぁ急いでくれ。先程、三度目の連絡が来たばかりだ」
「そうだな――こっちだ」
二人を連れてきた男性役員が頷くと、彼らの脇を通り抜けて人気のない道へ入っていく。
「これで全員か?」「いや、あとまだ居た気がするが……なんにせよ、戦力はまだまだ少ないくらいだ」「例の緊急要請の件はどうなったのだろうか」「ああ、それなら既に――」
女性役員と男性役員のやり取りを聞きつつ横を通り抜けると、役員の後を追って路地へはいっていった。
役所のある中心区は、ビル並みの高さを誇るレンガと木造、そして所々に鉄板や鉄柱を入れて補強された建物が天に向かって伸びている。特に、その建築物を構成する建築方法と不釣り合いな高さの建物が作りだす影が、こちらに倒れてきそうな不安をあおりたてる。
中世ヨーロッパの街並みにやっつけで付けた様なそれら鉄板等がとてもちぐはぐな印象を与え、そして不思議にも懐かしい気もした。
木材と煉瓦で立てられた建物の間を、細く迷路の様にうねりながら上るゆるやかな坂道を歩いて行く。路地は高くそびえる建物たちの成す影によって夜の様に暗く、ランタンの灯る炎によって照らされていた。
「スティル」
役員が振り向きもせず唐突にスティルへ声を掛ける。呼ばれた彼は短く返事をした。しかし、役員は話しかけたにも関わらず、何もなかったかのようにだんまりとしている。話しだしそうにない様子に不審に思うスティルが口を開きかけたところで、彼はやっと声を発した。
「お前は、大丈夫なのか?」
「……侮るな」
その言葉の意味することを透には分からない。ただ、スティルは一度深呼吸をすると、驚くほどはっきりとした口調で言い返した。役員の男は、鼻で笑うと首を回してスティルを一瞥した。
「そうか。気概はアーウィンといい勝負だ。お前は強いな」
ちらりとスティルを盗み見る。彼は唇を噛んで怒っていた。一か月と言う短い間の中で、そこまで感情をあらわにした表情を見たことがなかった透は、驚きに思う反面、彼も人なのだなと思う。
一つ外れれば大勢の人の雑踏が聞こえてくる路地を、三人の足音が足早に歩いて行った。
透は何度か役所にお世話になっている。
立派な佇まいを見せる役所の建物に、初めて訪れた時は『国会議事堂の縮小スケール』と言う文字が浮かんだ。実際は、透の記憶に置いてそれくらいしか例えが思いつかなかったのだが。 ともかく、煉瓦造りの街並みに飾り彫りされた石柱や、ギリシャ文明を思わせる建築物は異様だった。
あれから無言のまま役所の近くまで来た三人は、表側には行かず裏口から中へ入っていった。裏口から入るのは透も初めてで、少しわくわくとした。中に入ると並べられた参列の職員テーブルと受付の奥に、大正門のエントランスから左へ流れて行く長蛇の列。重々しい黒鉄の両扉から続く階段を、避難してきた人々が入っていく。
「やっぱり、これって……」「訓練、とかではなさそうだしなぁ……」「なんでこうもいきなり……」
「ここどこー?」
「ああ、こんな時に……なんて、ついていない……」
「私語は慎んで! この先は階段になっています! 気をつけて慎重に――そこ、押さないで!!」
不安そうな住人の呟き、不思議そうな子どもの声、悲痛に上がる商人の呻き。 それぞれのしゃべる声で騒がしい中、役員が負けじと声を張り上げていた。
そんな様子を横目に見ながら右の方へ歩いて行く。廊下に出て曲がり角を曲がると、エントランスの右側へ出る。大正門から入ったエントランスの左側は、役員達が壁を作って誘導しているので人に埋もれていなかった。役員は曲がって、エントランスから離れて行く廊下を歩いて行く。
「この街ってこんなに人が居たのか……」
ゆっくりと流れて行く人の壁を見ながら、透が呆けたように言う。
「そうですね」
スティルは後ろを向きながら歩く彼を危なっかしく思いながら相槌を打つ。
「この街に立ち寄った商人とかも、避難してきているはずです」
「馬車はどうしたんだろう?」
喧騒が遠ざかっていき、足音が廊下に響く。前に向きなった透が横のスティルに聞き返すと、彼は逡巡した後「よく覚えてはいないですけど……」と確信の持てなさそうな口調で口を開いた。
「……確か、東南東門から繋がる表通り広場から内奥へ入って行った所に、馬車を搬入する大きな門があったはずですが」
「あったっけ?」
「さぁ……あの辺りはあまり入っていかないので」
彼の反応は、誰かから聞いた話を透に説明しているようだった。ふと、扉の取っ手を回す音が廊下に響く。見ると、役員が飾り彫りされている木製の両開き扉を開いた所だった。
「ここだ。あと少しで始まる」
扉を開ける彼は、身を退かせて二人に入るよう促す。
部屋は広く、会議室の様だった。 部屋の中央、手前には空間があり、それを囲い込む様にコの時に続く長いテーブル。そこへ並ぶ四列ほどの椅子がづらりと並んでおり、各々一般人とは思えない顔ぶれが座っている。そして、そのほとんどに見覚えがあった。
誰が入ってきたのかと集中する視線だったが、透が部屋を見渡しているうちにその視線は自然と解かれていた。
席の埋まり方が先頭から後ろへデコボコとしている所から、おそらくグループごとに座る区画があるのだろう。
「入って右側から回って向こう――アーウィンが立っている辺りだ」
案内してきた役員が耳打ちする。突然に驚いて少し身を退かせながらふり返ると、彼はすでに他の役員へ話しかけていたところだった。
「バラザーム達も了承してくれた。準備してから来るとのことだ」
「なるほど」
案内してきた役員が言うと、部屋の管理に立っていた様子の役員は幾らか浮ついた声で反応した――が「いや、しかし……」と声を落とさせる。
「もし、そうではなくて――」
「言うな」
役員は鋭く言葉を制した。
「御子息が来ている」
「……だが、アレを経験しているのなら――」
低く抑えた声は少し震えていた。彼は、他の役員達よりもよりも明らかに顔色が優れない。ふと、彼が透に視線を移すと、透は後ろから腕を引っ張られた。
「何してるんです」
「何と言われても……」
スティルが声を潜めて神経質に言いつつ透を引っ張って歩いて行く。透はなんと答えようかと迷いながら、露骨に盗み聞きしてたのは不味かったかと反省する。ふと、大勢のハンターたちが居るのにも関わらず、静かな会議室に気付く。冒険者も居るようだが……。皆、顔を厳しくさせて黙り込んでいる。祭り騒ぎの件があったので、『魔物の群れ』と聞いたら逆に喜びそうな気がしていた透は驚いていた。
紅い鎧を身にまとったアーウィンが付き添いの保護者の様に後ろで立っている場所まで歩いて行くと、横二列のスペースが空いている事に気付く。横二列奥四列の八席の戦闘に由久と松之介が座っていた。
「その格好で来たのか?」
アーウィンに挨拶してからスティルの隣に席に座った透に、一番前の列に座る由久は開口一番、片眉を吊り上げて言った。その隣の松之介が不思議そうに聞く。
「確か、ギリアム騎士と試合した時に鎧貰ったはずだよな?」
「持ってきたかったけど……」
少しばかり俯かせて言葉を濁す。
「部屋に取りに行く前にこっちに連れてこられちゃった」
肩を竦めて言う透に「まぁ、いきなりでしたし」とスティルが同意する。実際は、取りに行きたいと言うことすら忘れてついて来ていたのだが、あの急ぎ様だと、あの場で言ったとしても微妙な線だ。
「ねぇスティル」
アーウィンが後ろから彼に耳打ちする。怪訝そうな面持ちでアーウィンを見上げた。
「オヤジさんも参加するの?」
「――もう、逃げるのは……」
「……、……。……そうね」
顔をそむけたスティルの言葉に、彼女は悲痛そうな面持ちで頷く。透たち三人は、二人のやり取りを見て、透は不思議そうな顔をし、松之介は怪訝に目を細め、由久は何かを察したのか黙していた。
アーウィンは暫くの間の後、三人の視線に気づくと困ったように笑う。彼女が何かを言おうと口を開けかけたところで、大きな音がし、部屋の中の者は一斉にその音の発生元に注目した。
大きく開け放たれた扉に、白髪と鼠色の髪の入り混じった老人が立っていた。部屋の出入り口の脇に立っていた、あの頼りげのなさそうな役員が、老人に耳打ちをする。彼は聞いているうちに目を細める。「そうか、まぁ仕方あるまい」首を振りながら小さく漏らした。
「――諸君、ここに集まってくれたその勇気、そして緊急の依頼を受託し駆けつけて頂いたことを感謝いたします」
咳払いをして話し始めた老人は姿に違わず、多少枯れつつあるも厚みのある落ち着いた声が静まり返った会議室に響く。
「私が、貿易第二拠点ラス・ナイク。ルビナ第五番街、町長のブラザ・エルラムです」
ブラザ町長が後ろ手に腕を組みつつ、名乗った。
「『ルビナ第五番街』ってなんですか?」
透が振り向いてアーウィンに聞いた。振り向いた彼女は町長を見ながら席から離れようとていたところだった。説明しようか少しばかり悩んだ後、声を潜めて行った。
「後で説明するわ」
その声はとても小さい声だったが、会議室全体が静かであるためにはっきりと聞えた。彼女は自分の席があるのか、静かに歩いて離れて行く。アーウィンを目で追って行くと、部屋の奥――出入り口から正面の席に座り、隣の少女と親しげに挨拶を交わしていた。
「恐らくは既に知っている方もいるかと思いますが、先日、ルビナ北方の国境観測地点にて、魔物の群れの動きを感知したとの報告が来ました――」
微かにかすれ始めた老人の声が会議室に響き渡る。その言葉に俄かに会議室にざわめきが起きた。
「北方? 北西の山脈ではないのか?」
茶けたローブをまとった男が解せないといった顔つきで問いだした。
「北方は東にわたって垂れこむように、防壁があるはず。あそこにはバクザ辺境騎士団がいる筈では――」
「ものの一刻も持たぬ間に全滅、だそうです――そして」
彼が言葉を言い終える前に、町長がため息混じりに答える。一瞬、ざわめきあがるも、続けざまに言う町長の言葉に、会議室の中は静かになって次の言葉を待った。
「つい先刻、侵攻意思が見受けられる魔物の群れが国境を渡って移動中と緊急の連絡がきました。
連絡は四度。国境越えをしたのが昨日」
町長は指折り数えて行く。
「進路報告が正午過ぎ。その後、随時侵攻する魔物の位置を知らせる連絡が一度――そして、監視部隊が襲撃されている最中の連絡が最後」
町長の言葉にざわつき始める会議室。「それって……」透も思わず呟いた。
「……間抜けな監視部隊もあったもんだな。監視するのに相手に接触するか? 普通」
由久はため息交じりにぼそりと呟いた。「まぁ、何かあったんだろ?」松之介が言う。由久の呟きは、不安そうな他のざわめきとやや違う性質だったが、よくよく周りの声を聞いてみると、同様の呟きが僅かに聞こえてくる。
「――で? あたしらが呼ばれたってことは」
町長に向けられてはっきりとした声が言った。ざわざわと話しだした声が止む。視線は入口から正面のテーブルに頬杖を突いていた少女に向けられた。鞣革と金属の鎧をまとった、褐色に銀髪ショートの少女。カチューシャにリボンが巻きつけられており、右耳にはピアスが付けられている。空いた右手の中指でテーブルを叩いている。
「どうなんだ? 魔物の群れってのは」
「正確にはわかりません」
少女の問いかけに、町長はため息と共に首を振った。
「侵攻途中で移動する魔物たちと、そこに生息する魔物たちが衝突したり、逆に群れの中に加わったりと変化するので」
「加わるって……異種族の魔物が?」
面倒くさそうに顔をゆがめた少女に対して「はい」と町長は静かにうなずいた。
「ああ、マジかよ……」
少女が舌打ちをして呻く。――あ、机を蹴った。
「――だとすると、アレが居るのか」
その隣に座る大斧を背中に背負いこんだ長身の男が立っていた。金の糸の様なさらさらとした金髪をなびかせている。立派な防具に赤茶色のマントを着こんで、騎士とも言えそうな風貌の男の表情は厳しいものだった。
『アレ』とは何なのだろうか。透の頭の上に疑問符が飛び出る――スティルが横目で透の頭上をちらりと見上げ、ふと眉間に皺を寄せた。暫く凝視して考えていた彼は、そのうちなにも見ていなかったかのように部屋の中央正面に視線を戻してやり過ごした。
「で、規模は?」
凛とした低い声が通る。黒髪の長髪。後ろで束ねられた髪は細く、髪を梳いて量を減らしてから束ねているのだと透は推測した。 革のコートを着ていて、その衣服の隙間から衣服のように白い包帯を隙間なく巻かれた胸板が見える。
「変化すると言っても目安くらいは立てられるだろう?」
腕を組んで冷静な声で男は言った。わずかに身を逸らして見据える際、後ろ髪がゆられてその下にあった細身の剣が見え隠れする。
アップテールの長い黒髪の男……黒髪の男に透は見覚えがあった。一週間も前のことになると思うが、彼は、他に三人の仲間と一緒に『家猫』に食事をしに来ていた。
アーウィンが右端に座り、その隣から金髪の騎士風の男、オレンジの布を巻いたカチューシャを付ける銀髪の少女、顔に古傷のある壮年の男、アップテールの長い黒髪の男。 腕を組んで黙する、顔に古傷のある壮年の男性は、目をつぶったまま何もしゃべらない――もしかしたら、寝ているのかもしれない。
「――そうですね」
町長は懐から書簡を取り出した。開いて数行か黙読した後、口を開く。
「半年前の『フォグリア壊滅』時の話しをご存じで?」
「――ああ、耳にしている……が、一応に聞いておこう」
彼の言葉に、町長は頷いて「では……」と話しを続けた。
「バグザの北西拠点が……城砦都市フォグリアが、隣国との出兵で出払っている間に、山脈伝いに南下してきていた魔物の群れに襲撃されました。
当時、今ここにいるテラス、ロインの両名を筆頭に滞在中だったレティエテリジィナたち、ルタエ-ラザたちが防衛を試みましたが……」
アーウィンことは分かるが、ロインとは誰だろうか? 顔見知りの様子だったあの少女か?
「駐屯していた兵士達はおろか、街からも雇われていたレティエテリジィナたちもすでに消耗しきっていた中、一日を待たずして城はほぼ瓦礫の山と化し……。
当時、レティエテリジィナたちの中で著名だった5人がフォグリアに居ましたが、ここに居る御二方を残して、大勢の人命と共に失いました」
町長はそこまで話すと深呼吸し、やがて重々しく口を開いた。
「――現在、こちらに向かっている魔物の群れは、およそ、当時の三倍。監視するために移動していた偵察部隊も、侵攻ルート上に村が有った為に住民の避難と時間稼ぎを優先させた結果……」
町長はため息をするとそのまま閉口してしまった。会議室は今や重々しく沈黙している。これからの事を考えると誰もしゃべろうとはしなかった。
「――なら」
そんな中、声が上がる。声の主は金髪の男だった。
「ここは住民の避難が先ではないか? 何故、地下の施設を利用してまでこの街に留まらせる」
「周囲の森は今、魔物が――」
「異常なほど魔物たちが気立っているのは知っている」
「……なら、避難に裂く人手がいないことは分かるはずです」
「何のためにここに集まった人員が居る」
町長は非難がましい口調で言った――男はキッと鋭く睨む。怒鳴ろうとした声を務めて低くした調子で言った。
「頑なに守ろうとしても被害が多くなるだけだ。だが、街は作り直すことができる。ここは西のハーマスの村か、東のビジムの村に――」
「要点をまとめてもらうと」
黒髪長髪の男が突然話し始め、彼の言葉を遮った。
「尻尾巻いて逃げた方が得策だ、ということだな? 騎士団、団長アクラ・バド・ロイン殿」
「なら貴様は、この状況で応戦するのが得策だというのか?」
「ここを退いたら後が無くなるのは目に見えている。戦う術の乏しい地方にアレを押しつけるのか?」
「そうではない。だが、戦うならば守るべき非戦闘員は戦闘区域に居させるべきではないと言っているんだ……!」
アクラ・バド・ロインと呼ばれた長身の男と黒髪の男が睨みあう。その間に座る銀髪ショートヘアの少女は、脚をテーブルの上に乗せて腕を組みながら不快そうに目をつぶっていた。
「ロイン」
黙って睨みあう中、立ち上がったアーウィンが声を掛ける。
「前もって私がここに配置され、緊急で貴方やリシア――」
アーウィンが不機嫌そうに腕を組んだ少女を見る。
「――が呼ばれた。ここまでされてしまったら、もう退く場所なんてないわ。それに――」
話している途中、不意に扉が開かれる。ロインは扉を開けた人物を見て驚きに目を見開き、アーウィンは口元を微笑ませた。「あ、貴方は……」思わず立ち上がったロインがたどたどしく呟く。リシアと呼ばれた少女は少しばかり気になったのか、片目を開いてみると、ハッとして姿勢をただした。
会議室の大多数は「誰?」と言った様子で驚いている中、三人は違った。驚きのあまり、あんぐり口を開けて絶句している。
「遅くなった」
ガシャッガシャッと重厚な紅い甲冑が擦れぶつかり合う音を響かせながら、部屋に入ってきたバラザームは威厳ある声で言った。




