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異世界。  作者: yu000sun
一章 テストプレイ
24/44

17 14日目のこと

 それからの数日間は瞬く間に過ぎて行った。毎日、日替わりで手伝い、その一方で魔物探しをする日々。

 ここへきてから、七日目のこと、やっと魔物と分類される生物の群れを見つけることが出来た。


 だが、それは狩っても馬鹿にされてしまう様なほど弱い『少・害的生物群階層(セィ・リヴィリリ)(=Eクラス)』と呼ばれる生物群の、更に弱い『無害生物群階層(グォア・リヴィリリ) (=Fクラス)』の生物だった。

 無害生物群階層(グォア・リヴィリリ)は、普段、人間などの中型サイズの生物に害を及ぼさない大人しい、もしくは非力な生き物の総称である。犬や猫がここの分類に入る。


 つまり、魔物と呼ばれる存在が含まれるのも稀な生物群。


 とはいえ、ピンク色の毛玉のお化けが、外敵(= 喜びのあまり、群れに突っ込んでいった透)を見つけると、途端に全身真っ黒で目を真っ赤にし、ギザギザな口を開けて飛びかかってくるのは、初めてみた時は腰を抜かしたものだ。(慌てて逃げ出した透の腕に、群れを守ろうとした一匹が齧り付き、歯型を残した)


 群れでフワフワとしていた、このバクと言われている生物も透の思わず吐いた炎によって、黒に変色した毛皮が勢いよく燃え上がり、あっと言う間に消し済みになった。


 後には、言い知れぬ罪悪感と、アイテムとして価値のある目玉が残っていた。この目玉は一個、一ウィックで取引される。アイテムとしては泣きたくなるほど激安商品だ。


 このバクの瞳は加工すれば宝石のような輝きをもち、そのままでも良いし、砕いて粉末にして武器に練りこめば、微弱な『狂気』を帯びることになる。 微弱な狂気は戦いにおいて、恐怖を取り除くことができるため、見習いの戦士などが携帯することが多いという。

 だが、大量に必要な消費物ではない上にとても手に入り易いので、その価値はとても低い。


 宝石として価値を持たせるにも、その目は宝石の類にしては非常に傷が付きやすく。また、狂気を纏わす危険なものにもなるため、バグの宝石は特殊な場合でない限り出回っていない。


 一方で、バクの毛皮はふわふわと、きめ細やかで衣服などにも使われるし、新鮮なものは特殊な魔法技術で加工をすると、自在に変色する迷彩効果を持つマントになる。 よって毛皮は、五ウィックから質の良いものは二ヴァーリィまで跳ね上がるなど、馬鹿にされるが、バクは取りようによっては『中・害的生物群階層(レデシィェ・リヴィリリ)(=Dクラス)』のアイテムと同じくらいの価値がある。


 ……と、初めてアイテムを納品してお金を受け取った透と松之介から、ロドの受付嬢から説明された後、同じく受付を任されている青年に(「森に入ってまで(・・・・・・・)こいつを仕留めてくるとはな」と言われて)冷やかされたので、透はとてもよく覚えている。


 悔しいが、何と言われてもお金になることは、少しでもしなくてはならないと自分に言い聞かせてその場はやり過ごした。

 さて、話は戻り、その瞬く間に過ぎて行った二週間の間に二つの事件が起きた。


 まず、脱ぎ終わった由久の衣服から『サーブ銀板貨幣』が出てきたことだ。


 給料がもらえると透から聞いていた松之介だったが、透は半日で五ヴァーリィを渡されかけたと言っていたので、何故、その十倍の五十ヴァーリィのサーブ銀板貨幣が出てきたのか、由久は相当な問い詰めにあった。

 受け取ったあの夜、二人に説明する間もなく寝てしまったのを後悔しながら説明した後、しばらくして透がオヤジに呼ばれて下に降りて行く。

 意外と時間が掛ってから帰ってきた透は、なんだか納得の行っていない表情で、手にはヴァーリィ金貨五〇枚入った袋を持ってきた。


「……なんだかなぁ」


 あまり嬉しそうにないところを見ると、むしろ断ろうとして折れたようだ。

 ゲームなんだから気楽に構えろ、と言っても聞きそうにない透を見て、二人はただ「仕方ないか」などと言いながら苦笑するのだった。


 そしてもう一つ。この事件がきっかけで良くも悪くも、三人はこの街に住む人々と、一部の噂・冗談好きの|旅人(ルタエ-ラザ)・ハンター(レティエテリジィナたちの笑い話として有名になった。


 それはここにきてから十一日目、店の手伝いを始めてから九日目のこと。

 その日は、松之介が当番で店の手伝いをし、いつものように残った二人は宿を出て、街の外へ狩りをしに行った。


 だが、その日はバクすら見つからず、二人は昼も近づいてきたので一旦宿に戻ることにした。 宿に着いてから昼食をとった二人は、雑談をしている内に「腕試しをしたい」という話へ流れて行く。すなわち、由久と透。どちらが強いのだろうかと。

 実際には、有事の際、透の魔法がどこまで有効なのか、由久の実力自体が衰えていないか。そういう話だったのだが、透は対決するとして話を聞かない。


 そこで二人は、街の中でやっても仕方のないことだし、街から出た街道から少し離れたところに移動する。


 門で護衛している四人程の衛兵たちは、はしゃぐように走って門から出て行く二人を見て、「今日もか?」などと互いに離しながら狩りに行くのだろうと和んでいた(主に剣を背負った透が、子供っぽいはしゃぎ方をしていたからだが)。そうして、語らいながら門兵たちが二人を見守っていた――二人が始めるまでは。


 二人が門と街道から距離を離して五十メートル地点のところで、なにやら話し込んでいる。

 その様子を一人が「何やってるんだろうな?」と言って「そりゃぁ、あれだろ」と含んだ言い方で一人が笑う。「案内した三人はどうやら普通(・・)だったらしいな」と透たちが初めて来たときに立っていた衛兵が言い「それは何よりだ」と言葉の意味を理解したうえで頷きあっている。

 剣を出した。どうやら素振りの練習……おそらく少年が、彼女に向かって剣の指南をしているのだろう。


 遠くで二人が立ち位置を決めた後、由久が足元の何かを拾って透に何か話しかけている。手からぽいっと上に投げて――


 ドォォォオン……


 突如、腹の底にまで響き渡るような轟音が鳴り響いた。驚愕、悲鳴、騒然とする門周辺の人々。笑って話していた衛兵は度肝を抜かれて目を見開いた。和み笑いながら見ていた先で、突然、爆発が起きたのだ。


「ま、魔物か!?」「馬鹿言え、どこにいるんだよ?」

「くそ、遠距離から狙ってるのか? あの二人、無事なのか!?」

「門を閉めろ! 警報の鐘を鳴らせ!」「早く! みんなさん街の奥へ!」


 門周辺の人々は慌てて街の中に走っていく。慌てて他の兵たちもそれぞれの持ち場につき始めたころ、(やぐら)の上で魔物の影を探していた兵士が叫ぶ。


「魔物じゃない! 襲撃じゃないぞ!」

「なんだって?!」

「だれかあの二人を止めろ! 門を出て斜め左の方にいる馬鹿たちだ!」


 櫓から身を乗り出し、兵が指差した先には、片手剣を両手で振るう透と、片刃の直剣を峰に持ち、剣戟(けんげき)を往なす由久の姿だった――。


「ったく、『奴ら(・・)』はほんと、面倒ごとばかり起こしやがる!」



 その後、偶然(・・)通りかかったオヤジと、武器屋の時にお世話になった女性ハンター、アーウィン・ル・テラスが止めに入るまで、シャレにならない激闘を繰り広げ、これがきっかけとなり「バケモノ」「お騒がせ者」「可愛いなにか」扱いの透と「腕はそこそこ」「美形」と好評な由久の、「新人ハンター(レティエ)たちの」噂が出回ることとなる。ちなみに、街からの評価は軒並み低い物になった。


 一方で松之介は、その二人と親しい間柄であると「家猫」に来る一部のお客が広めて行き、こちらはこちらで、有名になった(きっと苦労人だろうな、と言うのが大体の噂である)。問題を起こさない彼は、街からの評価は真面目そうな性格と二人の件もあって、妙に高評価である。


 アーウィンによって宿に連れ帰られた二人は、彼女にこっぴどく説教をされた後、仲直り会などと称してひたすら雑談をした。

 そんなおり、オヤジの本名がバラザームであると、うっかり口にしてしまう。

 アーウィンはとてもバツの悪そうな顔をして、二人に「彼はオヤジと呼んでもらいたいらしいから、くれぐれも名前で呼ばないようにね?」と忠告して終わった。


 そんな瞬く間に過ぎて行った二週間の中で、三人が有名なったおかげで普段来ないようなハンターたちなども、見物がてらに来るので、さらにお店は忙しさを増し、手伝う内容も変わっていった。


 今ではお客の食事の精算や接客、空いた時間には旅道中で作れる様、料理の手ほどきをして貰った。 丸一日かけて働いていると、二日ごとに働いていても、すぐに三人は仕事を覚えた。


 由久と松之介は瞬く間に上達して行ったが、料理にそれ程強く興味の無い透は、一人暮らしだった事もあって、最初は「良い腕だ」と言われたが、それっきり余り進歩しなかったが。


 手伝い始めて一六日目の事。

 透が手伝いの当番で、客のオーダーを聞いていると、四人ほどの旅人がお店に入ってきた。街でも初めて見る人たちだ。


「いらっしゃいませーっ!」


 透が威勢の良い挨拶で迎える。エルフィンからは「可愛いんだから、挨拶もそれなりに」と、可愛い気のある対応を要求されたが、透は断固として拒否した。

 四人は特別な反応を返すわけでもなく(普通のお客と同じような反応と言う意味)透に促されて、店の大きな入口のすぐ近くの角の席へ座った。


 この街は標準より豊かな街で、物流拠点である。(情報提供者、アーウィン・ル・テラス)


 その為人の出入りが盛んであり、初めて見る人の方が多いが、この店に来る人は、だいたいが顔を覚えられるような町の住民だ。 三人を目当てじゃない、ふらりと来たような旅人がここに立ち寄るのは珍しい。表通りにはたくさんの魅力的な飲食店が立ち並んでいるからだ。


「よかったな、上級魔法の会得。これで賢者とまでは行かないが、|位(『クラス』)も上がるんじゃないか?」

「ああ。これで保管された術書も、読める数が増えるよ」


 どうやら、魔術師を職にしている青年と一行らしい。恥ずかしそうに照れ笑いしている好青年がその『上級魔法を会得した人』みたいだ。 翠髪をした額に傷の見えるショートヘアーで、服装は少し煤けた箇所のある薄い灰色のポンチョ(ポンチョは四人とも来ていた)の下に、全体的に緑色と白の豪華な服を着ていた。


 透は咄嗟に、どこかの巨大な宗教団体や修道院の、とても位の高い僧侶じゃないかと思った。 それほど立派で、透の中での知識(主にゲーム関係)では魔法使いと言うより聖職者のように思えた。


 お客からの注文をメモに書き留めつつ、頭の端っこで彼らのことを考えていた透は、思わず注文を書き間違えてしまった。 お客からは名前ではなく、番号で注文する人が多い。メニューには名前の左隣に番号がふってあるのだ。


「あ、野菜サラダ(セッツェ・オリア)じゃなくて肉野菜炒め(ヤネィゼセレィチア)ですか? す、すみません!」

「たのむよ〜トオルさん、そんなんで大丈夫なのかい?」


 噂に導かれた好奇心旺盛な白髪交じりの青年が透に困ったように笑いながら言った。


「すいません……」

「お、おい、そんなこと言ってると、いつぞやの新人レティエテリー(レティエテリジィナ……ハンターの別略称)のようにボコボコの死闘に巻き込まれるぞ!」


 謝る透の横で、連れの少し太りぎみの青年が危機迫った顔つきで白髪交じり青年に忠告する。話に出てくる相手は、由久である。 もちろん、冗談だ。最近はこの手のからかいで透の反応を見ては楽しむ客が多い。


 透は軽い皮肉じみた台詞で死闘を繰り広げるような猛獣ではないが……。でも、そこは会話のノリに乗る。


「ははは……光り輝く(やいば)でズタボロの三枚おろしに差し上げてもいいんですよ?」


 自分の言ったことに笑いながら答える。 ズタボロの三枚おろしって、相当切るのが下手な上に、剣の刃が欠けているんだろうな〜と思っていると、いつの間にかし〜んっとしていた。


「……。」

「……じょ、冗談ですよ」

「だ、だよね〜?」


 透の周囲のテーブルが急に静まり返ったので、透は慌てて付け足した。途端に空気が和やかになる。それら含めて、全てが客と透とのノリ(・・)なのだった。


 ――さて、楽しいお客さんにあわせた会話はやめて仕事をしなければ。


 最近は仕事の内容もきつくなってきたので、透はすばやく、キビキビと仕事をこなすことを覚えた。 しかし、仕事をこなすその一方で、先程入店してきたここら辺では珍しい「魔法使いをつれた一向」に聞き耳を立てる。


「上級魔法までくると、練習用の魔法や下級魔法なんてのは、口に出さなくても発動ができるんだよな」


 羨ましげに同年と見える黒っぽい茶髪の人が言う。よくみると汚れたポンチョの下に、大きめ両手剣を背負い込むように携えている。


 ――魔法か……。俺の使っている魔法は呪文なんてないけど?


「次は古代魔法と最上級魔法か?」


 隣で笑っているのは、恰好だけはまるで何処かの童話に出てくる凶戦士のような大男だ。街中だと言うのに斧を担ぎ、兜を被っている。 この街に着いたばかりでここに来たのだろうか?


「いや、古代魔法は少し無理があるんじゃないか?」


 黒い長髪の人が言う。後ろ髪を細く縛り、肩幅が広く声も低い。長い髪の合間に隠れたように細い剣が見え隠れする。


「すでに、古代魔法に関する書物は殆ど消されたと聞く。一つも――伝承すらない」

「でもさ、もしかしたら何所かに……」


 魔術師にドワーフモドキ(っぽい人)、それに剣士が二人。水晶がないところを見ると、ハンターではないらしく旅人だと伺える。道理で透のことを見ても、驚かないわけだ。


 その一行は魔術の話や今後の話で盛り上がっていた。


「おい、ちょっと聞いてんの?」


 聞き耳を立てていると、不意に不機嫌な声で言われた。そうだ、今は仕事中だ。


「は、はい、すみません」


 慌てて謝る。お客の声は、茶化すようなものではなく本当に不機嫌さがにじみ出ていた。 透は、聞き耳を立てるどころか、全神経を集中させてしまっていたことに深く後悔した。

 今はオーダーを聞いていた最中だったのだ。何度か謝って、もう一度メニューを言ってもらう。


 ――今は仕事中だ。集中しなくちゃ。


 しばらくすると、また、魔術師一行の近くに寄った。今度は聞き耳ではなくオーダーだ。


「お客様、お料理の注文はお決まりですか?」


 この前、気恥しく思いながら何度も練習したのがこの台詞。お客の前で言うのは前回の手伝いからだが、何度も言っているうちに、もうどうでも良くなっていた。


 最初に聞きに行った時、「お、お、きゃ……おかく様、何を食べますか?」と緊張がっちがちに噛みまくり、店中の人に大爆笑された。


「どちらのカク様で?」 や 「あなたを食べたい」など


 悪い冗談な注文もしばらく続いたがために、恥ずかしく思っていたのだが数をこなすうちにどうでもよくなった。


 翌日、その大失敗の噂を聞きつけた輩が、はりきってこの店に来たらしいが、当然、当番は松之介に変わっていて、それはもう落胆の色が濃かったそうだ。


 ――おっと、思い出に浸ってる場合じゃない。取り合えず、失敗のないようにやらなきゃ。 バイトで働いていた時も、透はいつも「失敗しなければ成功」ということで済ましてきた。


「ああ。こっからここまで。お願いします」


 そう言って焦げ茶髪の剣士がメニューを指でなぞった。 うん、とてつもなく大雑把だ。透は何となく気が合うような気がした。


「ええと…………六番の(カバネ)肉のソテーから二十五番のリェッテ(酸っぱい野菜スープ)までよろしいですか?」


 改めて言うが、メニューの横には数字がある。言い難い料理名や、多く注文する時にお客が楽なようにあるわけだ。


「ん。それ――」


剣士が頷く。と、長髪の剣士がメニューの上に手を差し出し止めた。


「おい、少しはものを考えて行動したらどうなんだ! 毎回、毎回……旅道具に必要な予算だって――」

「まぁ、大丈夫だ。グラァズ」


 大男が笑いながら長髪の剣士の言葉をさえぎった。どうやらこの長髪の剣士は名を『グラァズ』と言うらしい。


「またっ……『(グラァズ)』なんて変なあだ名をつけるんじゃない!」


 ここで分らなくなった。(グラァズ)は本名ではないのか。それに、色で名前が付けられるとは……大男は、焼けた肌の露出部が多いから褐色君か? いや、ドングリ君か。


「んじゃ、頼む」


 焦げ茶髪の剣士は仲間の制止を無視してそういうと、透の手にメニューを押し渡した。


「少しは人の話を聞いたらどうなんだ――」


 ――ふむ……(グラァズ)さんには悪いが、ここは取り合えず従っておこうか。


(かしこ)まりました」


 軽く腰を曲げて丁寧に頭を下げて言うとささっと厨房の近くまで行き、注文を報告する。


「オヤジさん、注文。六番(カバネ)肉のソテーから二十五番のリェッテ(酸っぱい野菜スープ)まで、三番テーブルのお客さん!」

「分った! その前に九番テーブルの御客に、食用獣ソテー(ランド・ヤネィジィ)。五番テーブルに魚コマ切り肉の焼き(グラッドロゴ)野菜煮込みソース(キョック・ルノ)、味付け蒸かし芋のサラダを!」

「はい!」


 オーダーを聞いては、出来た料理をお客の下まで運ぶ。運んだらその料理分の料金をその場で受け取る。透はこの時、ここはレストランではなく食堂の方が合っているような気がした。


「トオル! 次、六番テーブルにキノコスープ!」

「はい! 只今(ただいま)!」

「あ、食べ終わったんだけど、食器よろしくね」

「…………! はい、お客様――」


 ――過労死しちゃいそう……


 少しばかり過剰な心配をしつつ、ついこの間までは皿洗いでとても楽だったのにと、悲しむ透であった。 その後、働きつめて終了時間の夜十一時頃。透はお客のいないお店のテーブルにうつ伏せになっていた。


「つ、疲れた……は〜」


 一日中、笑顔のせいで顔がつりそうだ。今日もかなり疲れたな……と思い返していると、お昼の魔術師たちのことを唐突に思い出した。


 ――そういえば、上級魔法がどうたらこうたらって言っていた。


 彼らが会得したと話していた上級魔法とはどんな物だろう。そして古代魔法や最上級魔法とは? 気になりだすばかりである。


「お、ここにいたのか」


 店内は一応ランプをつけているが、閉店しているので殆ど消してある。そんな薄暗い中、透は微動だにせず物深けていたのをバラザームが見つけた。


「はっは、今日も疲れただろ。いつも通りの額だが、ほれ」


 透は報酬を受け取るこの時、毎回申し訳ない気持ちになるが黙って受け取るようになった。バラザームに抵抗しても結局は由久か、松之介の元に行くのだ。

 ならば、静かに貰っておく――というのが透の決めたことだった。


「はい、ありがとうございます……――アダッ」


 消え入るような声でお礼を言うと、再び頭を突っ伏す。勢いあまり、テーブルにゴンッと頭をぶつけた。


「おお? 相当参ってるようだが……まぁ、明日はゆっくり休むといい」


 ぶつけた額をなでながら、透は重要な事をおもいだした。ああ、日替わりだったんだ!

 こんな事を忘れて無意識に落ち込んでいたのかもしれない。明日が休みだと分るとなんだか元気が沸いてきた。


「あ、そうだ。オヤジさん」


 うつ伏せになっていた透は身を起こした。バラザームという本名を知っているが、言わないのがアーウィンさんとの約束だ。


「ん? なんだ」

「あの……この町に図書館ってありますか?」


 バラザームは唸り声をあげながら腕を組み、思い出すように目が空を煽った。


「図書館か……確かにこの町にも、外見が小さい民家の様なのがあるが、面白い本なんて見つかんねぇと思うが――あそこは、この町や国の歴史書やら、意味のわかんねぇ魔法について記された本やらで……君たちの部屋に置いてあるような読書的なものないな」


 指でトントンと腕を叩きながら眉間にしわを寄せて言う。その様子だと、行ったことはあるが、それほど頻繁ではないということがうかがえる。


「ええ、ちょっと魔法について興味を持ちましたので」

 

 愛想笑いをしながら答える透は翌日、松之介と行ってみようと思った。そうなれば早速、体を休めなければ! バラザームが「そうか、魔法に……」と頷いている。透は「じゃぁ」と言いながら立ち上がって彼を見上げた。


「では、おやすみなさい」

「ああ、お休み」


 そう言ってその場を後にする透。階段の手前まで歩くと、明日の仕込みの為に厨房の奥に消えるバラザームに軽く頭を下げた。


 ――そうか、魔法に関して書かれた本か。俺の使っている魔法が一体どんなものなのか知ることができるかも!


 透は期待に胸をふくらませ、意気揚々に階段を上っていく。


「あ、終わった? 仕事」


 明日が楽しみだと階段を上った先に、なんとアーウィンが壁に寄り掛かって立っていた。ピンク色のパジャマを着て、エメラルドグリーンの綺麗な髪を下ろしていて――とても綺麗だ。 こんな綺麗な女性が、ハンターの間で恐れられていると聞いたが……、透は真意のところ分かっていない。

 取り敢えず、強そうなのはこの前の騒動で分かった。主に見た目に反して力が強いことが。美人であるからして、おそらく『プレイヤー』なのではなかろうか。


「ちょっと話があるの。この前のことなのだけれど」


 この前の話ということで、透は大体察しが付いた。


「……この前って、由久と街の外でやってたあれですか?」

「そんな嫌そうな顔をしないで」


 透は分かりやすく嫌な顔をした。アーウィンが苦笑する。


「あなたが十二分に反省しているのは分かっているわ。……実は、さっきまでヨシヒサからその時の話を聞いていたのだけれど……」


 迂闊だった。由久との対人戦による訓練をしていた事が、まさか、街の役所に連行されるか否やの大騒ぎになるなんて。 街の大きい外壁や、付き出るようにそびえる見張り(やぐら)。突如として大爆発が起きれば、魔物やその他の襲撃が来たものだと思っても仕方ないことだった。


 色々と話し合われた結果、二人は厳重注意に(とど)まった。……どうやら、松之介も含めた三人を、バラザームに加え、アーウィンも管理を持つということで決まったらしい。 監視……か。アーウィンとの談話で聞かされたことを思い出し、開始早々厄介なことになったなぁと、透はしげしげと思った。


「……で、今回は説教なんかじゃないわ」

「?」

「あなた、魔法を使ってた時、触媒や呪文を使った?」

「いいえ? あ、でも掛け声みたいなものはしたかなぁ……『痺れろ!』とか」

「そう――あなたの使う魔法ってどんなものか、知りたくない?」


 透は「え?」と思わず驚いた表情をした。

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