プロローグ
この小説「異世界。」は「僕らの旅」を新規投稿しなおした、書き直し投稿の作品です。
以前、公開しておりました「僕らの旅」は、設定などを根本的な部分から手直しを何度も入れており、結果、公開されている後半の話と前半の話で、書き直しでは吸収しきれない、辻褄の合わない状態になってしまい、今回の新規投稿へとなりました。
旧作品「僕らの旅」を応援してくださった読者の皆様、本当にありがとうございます。この新規投稿に至るまで長らくお待たせして申し訳ございませんでした。
また、今回、新規にお目にかけてくださった読者の皆さま、「異世界。」連載作品を、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、 異世界。物語の始まりを、どうぞごゆるりと。
プロローグ
――「日記」(字を消した後の様な汚れの上から字が書かれている)今日はここの言葉で日記を記そうと思ったが、止めた。やっぱり母国語の方がしっくりくる。
こうして、『あいつ』から貰った手帳に、日記として記録に残すのは何日目となるのだろうか。とても分厚いこの手帳は、今更ながら日記帳にしては少々役不足かもしれないと思うようになった。
さて。
突然だが、冒険は好き? 世界中の様々な景色の中を歩いて行く旅路は?
旅と言えば、危険なこともままあった。こうして終わりに近づくと、二度と遭遇したくないと思った魔物との戦いも、再び憧れに近い思いを抱いているのを感じる。魔物と人類の戦争も、深く関わることはないままに終わりそうだ。
思えば、あっという間の時間だった。
そうだ、ここにきてから、もう――
「もう、一月、か……」
そう呟いて、日記を書いていたその手を止めた。立て膝に抑えつけるように持っていた手帳には幾つかの色違いの便箋が挟まっている。膝元には、手綱が置かれていた。
一つの大きな月と、小さな二つの月が寄り添うように夜空に上る平原を、大きな岩を削りだしたようなつぶれ顔の犀の魔物が、小さな小屋の様な幌馬車を引く。見上げる月浮かぶ空には、月明かりに黒い影を負った無数の岩が流れていた。
――向こうの夏季休暇の終わりも近い。自分たちは今、今回の旅の終着地点であるシステム側の中継基地、「プレイヤー」たちの集う場所へ向かっている――
「良い夜だ」
書き終わった手帳を「パタンっ」と勢いよく閉じると、馬車の運転席に座り直し、手綱を握ると、夜の街道へ遠い眼をやりながら思い出に耽り始める。
三日月の月明かりと満点の星空の下、ガタゴトと車輪の音や、ギィ……ギィ……と軋む木の音が耳へ心地よく鳴っていた。