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殺し屋と少年A

俺が仕事を終え、家に着くとなぜかいつも以上に騒がしかった。

誰か来ているのだろうか。

俺は少し慎重に玄関をくぐった。

玄関をくぐり、靴を脱いでる時に、


「おかえり、綾斗」


と、後ろから声をかけられた。

俺の一つ上の姉、梓だ。

梓はなにか楽しそうに頬を緩めてはいるが、少し辛そうにしている。


「ただいま。誰か来てるのか?」


靴をきちんと靴箱に戻し、来客者数を確認する。

二人か。

しかも、男。

この靴からして、同業の・・・。


「うん。ちょっとあってね」


梓についていくような形で俺もリビングに入る。


「おかえり~」

「綾斗、遅かったね」

「綾にぃ、ご飯食べちゃってるよ~」


うん。ここまでは俺の兄弟たちだ。

しかし、その兄弟たちの前でどんぶりをかっ食らっているのは一体誰だ?

俺が思わずしかめ面になると、どんぶりをかっ食らっている男の隣に座った男がこちらを見た。

俺は溜息を吐いた。


「戒斗、朔斗」

「ちゃんと守ってるよ」

「いざという時もちゃんと考えてるに決まってるでしょ」


二人がどんぶりを食いながら答える。

なら、いいんだが・・・。


「綾斗、いますぐ食べちゃう? それとも先にお風呂入る?」

「いますぐ食べるよ」


俺は荷物を棚に置いて、いつもの席に着く。

すると、いつものように梓が夕飯を俺の前に並べた。


「今日は大したもの作れなかったんだ。ごめんね」


梓が申し訳なさそうに言ってくる。


「カツ丼か。これで十分だと俺は思うんだけど」


俺がちらと戒斗を見る。

すると、物足りなさそうに空になった自分のどんぶりを見つめていた。

はあ・・・。

こいつの胃袋はブラックホールか。

いつもいつも、バカ食いして。

食費がどれだけかかると・・・!

俺のこめかみがピキという音を立てた。

落ち着け、俺。

アレが近くにあるんだ。

理性を保たないと、楓のトラウマになる。

俺が溜息を吐いて、頭を抱えていると、


「戒斗。いい加減、食費のこととか考えてよ」


と、梓が代弁してくれた。

さすが、俺たちの姉。

それに対して、戒斗が口を尖らせて反論する。


「いいじゃねえか別に。食費は俺が払ってるんだしよ」

「払ってもらったことはたったの一度もありませんが?」


梓が黒いオーラを後ろに纏い、笑みを戒斗に向ける。

こういうときの梓は俺でも怖いと感じる。

それを直接受けている戒斗は毎回冷や汗を流す癖に懲りない。

だから、怒られるんだ。


「え、ちょっと待った。振り込まれてねえの?」

「はあ・・・戒斗。振り込まれてるのは自分名義の口座であって、梓の口座じゃないんだよ」

「そうなのか? んじゃ、オレが稼いだ数千ま・・・」

「おい、戒斗!」


戒斗が禁句を言おうとしたので、思わず大きな声を上げてしまった。


「なんだ・・・。あ、そっか」

「?」

「綾斗。私は知ってるよ。綾斗たちのバイトのこと」

「え?」


ど、どういうことだ?

なんで梓が知って・・・。

もしかして、戒斗が口を滑らせたか?

はあ・・・。

なんのために梓に隠してたのか・・・。


「綾斗。あとで話があるんだけどいい?」


梓が小さく言ってくる。

梓の後ろには黒いオーラはない。

しかしなぜか、俺の背を冷や汗が伝う。

・・・戒斗の気持ちが少しわかった気がする。



そして、梓が楓を寝かしつけてくるとリビングに戻ってきた。

リビングには、俺、戒斗、朔斗、梓。そして、なぜか、来客者までもがいた。


「・・・それで、なんで梓が俺たちのバイトのことを知ってるんだ?」


俺は戒斗を睨む。

戒斗は首を横に振る。

じゃあ、朔斗か?

朔斗を見る。

朔斗も首を振った。

じゃあ、誰だ?


「俺が、嬢ちゃんにバラした」


来客者の一人で、年のいった男が横柄な態度で言う。


「・・・。っていうか、なんでここに鷹さんがいるんですか」


俺はその男を見て眉をひそめる。

鷹は気にもせず、懐の煙草に手を伸ばす。

鷹は懐から煙草を取り出したが、俺がその煙草を握りつぶした。

小さく禁煙です。と加えて。

すると、鷹が苦虫を噛んだような表情をした。


「綾斗はこの人のこと知ってるの?」

「お前ら・・・裏の業界のことくらいは勉強しておけよ。じゃないと、命取られるぞ」

『・・・すみません』


二人が素直に頭を下げる。

よろしい。

いつも、これくらい素直だと楽なんだけどな。


「この人が殺し屋だってのは知ってるよな」

「おう」

「うん」


よし。ちゃんと聞く態勢だ。


「鷹さんは殺し屋業界では伝説と評されるほどの凄腕だ。この人の手にかかった人間は首が落ちても一分は生きているという噂がたつほどだ」

「ま、それは迷信だがな。人間首が飛びゃ、すぐに死ぬ」


鷹が口寂しいように楊枝を咥えている。

その隣の男は興味なさそうに梓が作ったデザートを食べている。

・・・すごく嬉しそうに。


「それで、鷹さんが梓に俺たちのことをバラした理由はなんですか? というか、なんで殺し屋がここにいるんですか?」


俺は少し睨むように鷹を見る。

鷹は気にもしてないようで、あくびをした。

ふざけているのか?


「オレが梓ちゃんを殺そうとしたから」

「・・・」


デザートを食べていた男が、食べおわったのか話に加わる。

うん?

今、こいつ梓を殺そうとしたって・・・。


「・・・」


俺は思わず、男にアレを向けた。

男は微動だにせず、俺を見据える。


「・・・」

「・・・」


アレを包んでいた布がするりと床に落ちる。

布に隠れていたアレがあらわになった。

アレとは俺の商売道具だ。

いわば、人を殺すための道具。

それは俺の場合、刀だ。

その刀を向けられているのに男は動かない。恐れない。動揺もしない。

こいつ・・・腕がたつようだ。


「・・・それで?」

「それはどういう意味だ?」

「どうして梓を殺そうとした? 梓を殺そうとした奴がなぜ、ここにいる?」

「ああ。依頼だったからだ」

「依頼したのは誰だ?」

「誰が教えるかよ。守秘義務ってもんが殺し屋にあんのは知ってるだろ?」

「言え」

「言わねえ」

「・・・」

「・・・」


こいつ、殺したい。

梓を殺そうとしたのなら、殺されたって文句はないはずだ。

殺してやろうかこいつ。

俺の眉間に皺が寄っていくのがわかる。

俺の手が刀を強く握りしめる。

その時、


「綾斗待って!」


と梓が俺とあいつの間に割り込む。

自然、刀は梓に向けられる。

俺は急いで刀を引く。


「梓・・・」

「ほら、私生きてるし、殺されてないから落ち着いて。ね?」

「・・・。はあ・・・お前、わかってるのか? こいつは殺し屋だ。まあ、俺も殺し屋だが」

「わかってるよ。どっちも。それに二人とも私を殺さないでしょ? 綾斗は家族だし、烏さんとは取引が成立してるし」

「取引?」


俺は首をかしげた。

梓は烏と呼ばれた男をちらと見た。


「嬢ちゃんは見事、烏の弱点をついてな。凄腕の殺し屋を屈服したんだよ」


鷹が口さみしいのか、爪楊枝を咥えながらいう。


「鷹。それはひどい言いようだな」

「さっきも言いましたが、私は屈服なんてしてません!」

「じゃあ、服従か?」

「鷹さん!」


梓と烏が鷹を睨むように見ている。

今はどんな状況だ?

どうも頭が追いついていないらしい。


「とりあえず、嬢ちゃんは烏と取引をして、それが成立した。取引っつうのは、烏の好物を烏の好きなだけつくるっていうもんだ。それが有効の間は殺しやしない」


鷹が面倒そうに溜息をはく。


「・・・その取引は本当に有効なんだろうな?」


俺は烏を睨みながらいう。


「ああ。今、殺してもオレにとっては損しかない。得がない今、殺すつもりはない。さっそく取引のやつは実行されたし」

「実行?」

「これ」


俺が首をかしげて、聞き返すと烏がどんぶりを指さす。

まさか、実行ってカツ丼のことか?

とんだ野郎だ。

殺し屋が食い物のためだけに殺すのを止めるか普通?

思わず俺は額を押さえた。


「まあ、そんなわけで嬢ちゃんの命は嬢ちゃん自身の手によって生き長らえたわけだ。ただし、取引が有効の間だけ。もう一つ言うと・・・」

「オレ、ここに住む」

「っというわけだ」


は?

こいつがうちに住む?


「ふざけんな! なんで梓を殺そうとするやつを住まわせなきゃいけないんだ!」


俺は思わず怒鳴った。


「理由か? 理由なら、取引が有効の間はオレの好物を梓ちゃんが作る。イコールオレの三食を梓ちゃんが作るってことになる。そうなったら、オレがここに来るか、梓ちゃんが届けにくるかになるだろ? だったら、一緒に住んでしまえば楽だと思ったんだけど」

「はあ?」

「まあまあ、綾斗。今更一人増えたところで・・・」

「梓は黙ってろ!」

「はい・・・」

「おい、黒陣」

「なんです、鷹さん」

「確かに、取引が有効の間は嬢ちゃんを殺したりはしない。だが、まだ命を狙われているっていう状況なのはわかってるよな?」

「当然でしょう」

「だったら、敵が近くにいた方が嬢ちゃんを護りやすいんじゃないのか?」

「・・・それでもだめです。俺は家族に異分子がいることが許せない」


俺は俯く。


「綾斗!」

「だったら・・・私も異分子だね」

「!」


目の前の梓が悲しげな笑顔を浮かべる。

そんなつもりで言ったんじゃ・・・。


「そうだよね。家族の中に家族じゃないやつはいちゃいけないよね。ごめんね」

「梓。お前のことを言ったわけじゃ・・・」

「ううん。本当の、こと、だから・・・ごめん!」

「梓!」


梓が部屋を飛び出していった。

俺は呆然として、梓を掴もうとした手は宙を切る。


「綾斗のバカ!」

「馬鹿野郎が!」


戒斗と朔斗が梓を追うように部屋を飛び出す。

二人の言うとおりだ。

俺は、本当に馬鹿だ。


「・・・どういうことだ?」

「・・・」

「おい、黒じ・・・」

「梓は俺たちの実の兄弟じゃないんです。兄貴たちと梓、楓は俺たちとは血がつながってません。俺たちは母さんと父さんの実の息子です。でも、梓たちは養子で・・・あんなこと言っちゃいけなかったのに」


俺は後悔した。

あれは絶対梓に言ってはいけないことだったのに。

家族をバラバラにするつもりか、俺は。

鷹と烏は静かに俺を見ている。


「・・・追わなくていいのか?」

「・・・・・・俺に追う資格なんてありません。それにどんな顔して会えっていうんですか。梓たちを否定した、俺が」


俺は顔に手を当て、うつむく。

すると、急に胸倉を掴まれた。

胸倉を掴んだ相手を俺は睨む。


「お前の姉さんだろ。本当の姉弟じゃなくても、家族だろ。ここで追わないとお前は一生後悔することになるぞ」


烏が苛立っているように俺を見る。

それに俺がなにも言えずにいると、


「お前がそんなんだから、梓ちゃんはいつも辛いんだ。お前は、梓ちゃんを家族として受け入れてないのか? 違うよな。受け入れているからこそ、後悔する。だったら、梓ちゃんを護るつもりでいるなら、ちゃんと護って見せろ。オレや他の殺し屋だけじゃなく、梓ちゃんの心も護ってやれ。それが、家族として受け入れたお前のやることだろうが」


烏は一息にそう言うと、俺を突き飛ばして部屋を出て行った。

それでも俺は何も言えなかった。

烏の言葉に俺は反論できなかった。


「はあ・・・まあ、なんだ。あいつはあいつなりにお前を叱咤したんだよ。お前も追いかけて行けよ? 家の留守は任されてやるから」


鷹がどこから出したか、また煙草を咥える。

俺はそれに笑った。

そして、また鷹の出した煙草を握りつぶし、


「ありがとうございます」


と言って、走った。

後ろで鷹が舌打ちしたのが聞こえた。

俺はそんなことにも笑った。

シリアス色が日に日に濃くなっていくのでコメディのジャンルから外しました。



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