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殺し屋と少女A

「さようなら」

 銃を構えながら明るい笑みを浮かべて男が言う。

 その男の前で少女が目に涙を浮かべる。

「お願い! 助けて」

 少女は必死に懇願している。

(嫌だ、死にたくない。もっと生きたい。私が一体何をしたっていうの? 私は殺されるようなことはしてない! 何で、なんで、ナンデ……殺されなきゃいけないの?)

「助けてを求めても無駄。俺は人を殺すことで生計を立ててるんだ。依頼をこなさないとこっちが餓死する」

 その懇願も男には何も響かないようだ。

 男はげっそりしながら言う。

 それでも少女はなお懇願する。

「死にたくないんです!」

「人間は遅かれ早かれ死ぬもんさ。早く死んで生まれ変わりな」

 男は面倒そうに、耳に指を突っ込んでいる。

「じゃあ……」

「ん?」

「じゃあ、あなたは死ぬのが怖くないんですか!」

 少女はうっすらと涙を流しながら男に聞く。

 男はうーんと考えるように目を瞑った。

「正直に答えよう。俺は……」

 少女は男を見つめる。

(どうせ、怖くないと言うんだろうな。それで、私を殺すんだ)

 少女が少し諦めかける。

「死ぬのが怖い!」

 背景にドォーンという効果音が付きそうな態度で男は言い放つ。

「え?」

 あまりの衝撃に少女がぽかんとする。

「だってさ、俺の殺し方が悪いのかなんなのか殺した奴らみんな苦しそうな顔で死ぬんだぜ? それ見たら、うわー死にたくねえって思うんだよ」

 男は銃を構えたまま、どこかを見て語る。

(今なら逃げられるかも)

 少女は隙を見て逃げようと画策する。

「……」

 少しずつ足を動かす。

(あと少し、あと少し動いたらあそこの物陰に走ろう。)

 じりじりと移動する。

 今バレたらすぐに殺される可能性が高い。

 それでも少女は一抹の希望に賭ける。

「それにさ、俺食うの好きだから世界中のうまいもん食わずに死ぬのは絶対嫌だし。まあ、食った後なら死んでも後悔はないんだけど。あ、でも毎日うまいもんが増えてるんだよな。うーん……悩ましい所だな。うまいもんを残して死にたくはないし……」

 考えることに集中して男の持つ銃が少し下がった。

 その隙を少女は見逃さず、駆け出した。

 男は逃げた少女をすぐに撃たない。

 それどころか追ってきさえもしない。

(逃げ切れるかも……!)

 少女が嬉しそうに少し口角を上げる。

 少女が目的の物陰まで走り切り、物陰から男を見る。

 すると、男は少女を睨みつけるように見ていた。

「ヒッ!」

 少女は短い悲鳴を上げて、口をすぐに押える。

 少女の背中に汗が流れる。

「君、話はちゃんと最後まで聞けって教わらなかった?」

 いつのまにか男が少女の目の前に立っていた。

 そして、少女は知らぬ間に縛られて木に吊るされていた。

「!?」

 少女はパニックに陥った。

「よし。これでちゃんと話が聞けるな」

 吊るされた少女を見て、男が満足そうにうなずく。

「あ、そうだ」

 男が何かを思い出したように手を叩く。

(殺される!)

 少女が身構えると、予想もしない言葉がかけられた。

「君、和・洋・中で一番好きなの何?」

 男は少しわくわくとした表情を浮かべている。

 少女は訳が分からず、黙っていた。

 男と少女の間に沈黙が流れる。

「……は?」

 思わずこんな声が漏れる。

 すると、男は苛立たしそうに聞き直す。

「だから、和洋中で好きな食べ物は何?」

「……………和食」

 意味が分からないまま答える。

「和食か~。俺は断然中華だな。ていうか、量が多くてうまけりゃ何でも好き」

 男はよだれを垂らして笑っている。

 一応イケメンの部類に入るであろう男の顔が台無しになっている。

「ああ……、カツ丼食いてえ。大盛りで」

 男が腹を鳴らしながら言う。

「ということで、死のうか?」

 男が満面の笑みを向けて言う。

 少女はほんの少し口角を上げて笑った。

 男は少女に銃口を向ける。

「さあて、仕事を終わらせようか」

 男がまたよだれを垂らしている。

 どうやら、少女を殺した後に食べるであろうカツ丼の事を考えているのだろう。

「ストップ!」

 少女は急に大声を出した。

「?」

 男は訝しげに少女を見る。

「……私の家、大家族だからたくさんご飯作れますよ。弟たちからは絶賛です!」

 少女が突拍子もないことを言った。

 少女の頬に一筋の汗が流れる。

「………………………」

 男はごくりと喉を鳴らして、躊躇している。

(あと一押し!)

「それにレシピさえあれば、何でも作れます」

「……………っく」

 効果的とは思えない少女の言葉は男にダメージを与えているようだ。

 男の反応に少女はドヤ顔をしている。

 自分の緩んだ表情に気づいた少女はすぐに引き締める。

「……あなたの好物もいくらでも作ってあげますよ」

 男の反応を待つ。

 男はゆっくりと口をあける。

「本……」

「烏」

 パンッ。

「あ」

 第三者の声によって銃弾は放たれた。

「お、俺の飯~!!」

 男ががくりと倒れている少女を揺さぶる。

 どんなに揺さぶっても少女は答えない。

 すると男は、烏と呼んだ人物に掴みかかる。

「お・れ・の・メ・シ!」

 リズミカルにその人物を揺さぶる。

「おい、烏」

 男の掴みかかる手を、するりと解きながら声をかける。

「返せ俺の飯!」

 男は殴りかかった。

 それを軽く受け流した。

「わかったわかった」

 殴りかかられていた人物が少女に近寄り、少女の首に手を当てる。

「まだ生きてる。弾は急所を外れたんだな。ジジイのとこに連れてけば助かるだろ」

「じゃあ、連れてく」

 男は少女を縛っていた縄をすぐに解き、抱えると駆け出す。

 そんな男を見た人物は呆れた様に頭をかいていた。

「やれやれ」

 撃たれた少女は意識を失い、男にどこかに連れて行かれた。

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