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前世界の証明者  作者: 沖岳凄
2/2

【1-2】 encounter

「……………………ヒマだ」


 日の高さがそろそろ一番高い位置に到達しようというころ、トナ・ヴァークス王国のとある王宮魔導師執務室の椅子に一人の青年が座っていた。

 撫で付けても意味の無さそうなボサボサした赤髪に野性的な顔立ちという、豪華な部屋にはとても似合わぬ風体をしている。

 しかし、この青年はこの部屋の主でもあった。

 

「少し前までは息つく時間さえ無かったってのに……まぁ、平和が一番か」

「それじゃあ、仕事をあげよーか?」

「うおぉっ! いてっ! シ、シーファいつからそこにいた!?」


 驚きのあまり椅子から落ちた青年の後ろには、長い水色の髪を二つに纏めた少女が立っていた。


「フォルが『ヒマだ』って言ったあたりにこっそり入ってきたの」

「気配を消すのがうますぎるだろ……いや、この場合は気づかない俺が悪いのか?」

「致命的だね。もし私が暗殺者だったらフォルは今頃死んでるよ?」

「……その呼び名も止めろって言ってんだけどな。で、シーファ。結局何の用だ?」


 何故か王国の密偵並みに隠密技術のある自らの補佐官に、王宮魔導師であり火属性の最高権威、『火の賢者』と呼ばれるフォルは尋ねた。


「王妃様からの指令を伝えに来たよ」

「!…………何かあったのか?」


(皇国が何かしらの行動を起こしたか、それとも王宮内に裏切り者が出たか……?)


 王妃が命令を下すのはよほど重大な問題が発生した時のみである。フォルはシーファに問いかけながらも頭の中で高速で考えを巡らせていた。


「えーと、王妃様から預かった命令書を読むよ。」


『面倒ですので何時もの口調で書くことにいたします。王国の宝物庫に保管されている魔法遺物アーティファクトに昨日反応があったので調べてみると、世界規模の転移魔法がこの国で使用されたことが分かりました。貴方にはその転移魔法の使用者、及び魔法陣を発見してもらいます。相当な術者である可能性があるので、捜索の際にはくれぐれも油断をしないように。この任務は極秘任務なので他の者には漏らさぬようにお願いします』


「だとさ。王妃様も相変わらずだね」

「……………………………………。それで、場所はどこだ?」


 フォルは自らの就任当初から変わらぬ王妃の態度に頭を抱えたい気分になったが、気を取り直してシーファに尋ねた。


「んーと、ここは……ガルバドス近郊の森だね。片道に三日くらいはかかりそうだよ」

「よし、行くぞシーファ」

「へ? いや、ちょっとフォル?」

「久しぶりに暴れてみたくなった。片っ端から森にいる魔獣を焼肉にしていくぞ」

「で、私はフォルの料理で起きた火災の消火をしなきゃならないの? あ、そうだ。いいこと思いついた。元凶を先に消火しておけばいいんだ」


 どこか不自然な笑顔を浮かべるシーファの右手には、人の頭ほどの水塊が浮かべられていた。


「…………すいません。自重します」

「じゃ、行こっか。ね? 賢者さま」

「…………」


 王宮魔導師補佐官に続く形で 火の賢者(フォル)は執務室を後にした。






∇∇∇


「伝説の魔獣が出たって話だったから来てみれば、ただの人喰い鳥(ベルグナ)の群れか」

「少し期待してたんだけど。一応、信頼できる筋からの情報だったし」

「報酬が高いのがせめてもの救いだ。これで銀貨一枚だったりした日には、俺は絶対に集会所を潰すよ」

「お願いだから本気でしないでね」


 軽い口調で会話する男女の足元には、無数の鳥の死骸が散らばっている。

 木々の間から僅かに漏れる日の光が死骸から流れ出る血に反射して光を放っていた。


「しっかし最近は魔獣が多いな。討伐にあたる傭兵は少ないってのに」

「皇国と一触即発の状態になってるから騎士団が動けないのよ。でも――」

「――多すぎだろ?」

「……ええ」


 以前は魔獣討伐の仕事など十日間に一件くらいだった。それが最近になって毎日のように依頼が出されている。


「この町は傭兵が二人もいるからいいけど、聞いた話によると傭兵がいない所為で危険な町もあるらしいわ」

「自衛団を作っても素人では魔獣には対抗できない。それこそ竜種になんか勝てるはずも無い」

「考えてもしょうがないわ。自分に出来るだけのことをすればいいのよ」

「そうだな。疲れたし、今日は引き上げるぞ」

「数秒で葬ったくせに何を言ってるのかしら。そもそも――――」


「きゃああああぁぁぁぁぁ!」


 森の中に響く絹を裂くような悲鳴。それを聞いた瞬間、二人は悲鳴のした方へ走り出していた。


∇∇∇


「…………うう」


 龍哉は顔をしかめながらも、ゆっくりと体を地面から起こした。


「っ!…………夢じゃない、か」


 ふと肩に手を伸ばすと、鋭い痛みが走る。負傷した肩からはまだ血が出ていた。

 そのとき龍哉は違和感を感じた。握った右手が何かの感覚を伝えているのだ。


(これは……砂時計?)


 開いた手の中にあったのは、銀色の砂が封じられた小さな砂時計だった。

 龍哉は砂時計を見ること自体が久しく、一つも所持していない。


(一応持っとくか……僕は元の場所に帰ってこれたのか? 信吾たちは何処にいるんだ?)


 砂時計をジーンズのポケットに入れた龍哉は、周りを見渡し近くの木の陰に倒れている影を見つけた。すぐさま駆け寄り、声を掛ける。


「桐原、起きろ!」

「……ん」


 龍哉の声に、僅かに身じろぎした後、由美は目を開けた。


「……風谷? 何で私こんなところに寝てるの?」

「神殿での事は覚えてる? 僕達は、また変な場所に来たらしいよ」


 由美は起き上がると、立ち上がってズボンに付いた土を払った。その際に由美の右手から小さな光るものが、地面に落ちて転がる。


「何これ?」


(! それは……)


 由美が拾い上げた物は龍哉の予想通りのものだったが、一つだけ違う点があった。

 砂時計の中に封じられている砂の色が由美の砂時計は漆黒なのだ。


「僕も同じものを持ってる。知らないうちに手に入れたみたい」


 自分の砂時計を見せながら龍哉は言った。


「ふーん。いちおう貰っておこーと。ところで澪奈と林崎は?」

「それが――――」

「クエェェ!」


 龍哉が答えようとした時、不意に頭上から鳥の声が響いた。


 見上げると、木の枝に三羽の巨大な鳥が止まっていた。鮮やかな青色をしたその鳥は、龍哉と由美を狙っているように見えた。


「これってヤバイんじゃ……」


 嫌な予想ほどよく的中するもので、そのうちの一羽が由美に向かって一直線にダイブしてきた。


「きゃああああぁぁぁぁぁ!」


 叫び声を上げた由美は駆け出そうとするが、石に躓き手をついてしまう。

 それを嘲笑うかのように、鳥は嬉々として由美との距離を縮める。

 それを見た龍哉は、近くにあった石を鳥に向かって振りかぶった。

 放物線を描き飛んでいった石はうまい具合に鳥の頭に当たり、空中でよろめく。

 その隙に龍哉は由美の腕を掴むと木の陰に引っ張り込んだ。


「クエッ! クエエエェェェェ!」


 どうやら鳥を怒らせてしまったようだ。龍哉は意外と冷静な自分に少し驚いたが、異形のせいで慣れたのだろうと考え、落ちている比較的太めの木の枝を構えた。

 龍哉は剣道などしたことが無い。その為か、とりあえず『構えて』いるにすぎないのだが、警戒したのか鳥は龍哉を高めの枝から見下ろしている。


「今のうちに逃げられないかな?」

「戦えないの?」

「無茶言うなよ、僕は高橋みたいに強くないんだから」


 あくまで『たたかう』のコマンドを選ぼうとする由美に、『にげる』を選びたい龍哉は言った。


「クエッ!」


 膠着状態に業を煮やした鳥が、龍哉に向かって飛び込んでくる。

 龍哉が迎え撃とうと棒を握る手に力を込めたその時、不意に背後に気配を感じて振り返った。

 眼前に迫る鋭い爪。持ち前の反射神経をフルに使って龍哉は棒でそれを弾いた。


「……ははっははは。忘れてた。そういや、三羽もいたんだっけ」


 一羽はけん制だったようで、元の枝に戻っていた。どうしようかと龍哉が思案していたその時、目の前に飛び出してきた影があった。

 刹那、虚空に炎の剣が現れ一羽の鳥を切り裂く。

 反応することも出来ずに絶命した鳥は、煙をあげながら地面にドサッという音を立てて落下した。


「クエッ! クエクエッ!」


 仲間の死に激昂した残りの二羽が現れた人物に襲い掛かるが、一陣の風が吹いたかと思うと次の瞬間には二羽とも地面に叩きつけられていた。


「へ?」


 呆然とする龍哉の目の前に、いつの間にか青髪の青年と茶髪の女性が立っていた。


∇∇∇


 龍哉の目の前にいる二人は異様な風体をしていた。二人とも動物の革を固めたような服を着込んでいる。これは革鎧と呼ばれる防具なのだが、この時の龍哉は知る由も無かった。


 青髪の男はまるで鋭い剣のような雰囲気を纏っており、左目は完全に前髪によって隠されてしまっている。腰に血で赤く染まった鈍く銀色に光る一対の剣を下げていることが異様さをより一層引き立てていた。


 先程の炎の剣を生み出した張本人だろう。

 背中まで流れる長いストレートヘアを持つ茶髪の女性は、何も持たずに龍哉と由美に近づいてきた。


 どう考えても銃刀法違反な男と、なにやらファンタジックな力を使った女に警戒し、龍哉はいつでも逃げることの出来る体勢を作る。


「大丈夫? ケガとかしてない?」


 茶髪の女が心配そうに由美に問いかけた。


「あ、えっと、助けてくれてありがとうございます」

「気にしないで。それにしても、処理し損ねた小さな魔獣の群れがあったみたいね」


 意表を突かれたような、その由美の返答に茶髪の女は緑色の瞳を細めて微笑んだ。その様子に龍哉も緊張を解く。龍哉は二人が悪人だとはとても思えなかった。


「待て。ローザ、素性を確かめておいた方がいい」


 青髪の男がローザと呼ばれた女に警戒したような口調で言った。長い前髪に隠されていない方の蒼い右目が、龍哉と由美を冷たく見据えていた。


「必要ないと思うわ。この子達からはそんな気配はしないのよ」

「……そうか。お前が言うならそうなのだろう」


 ローザとは恐らく茶髪の女性の名前のことだろう。

 その言葉に、青髪の男は納得したように頷いた。


「けど、君達はこんな所までどうやって来たの?」

「それが……ここが何処だか分からなくて困ってて……」

「もしかして遭難しちゃった?」

「そーなんです。――じゃなかった、正直迷ってる状態です」

「……風谷。寒い」

「……………………」


 親父ギャグが思わず口から出てしまった龍哉に、容赦なく由美の言葉が突き刺さった。


「ということは、何かしら? 君達は迷子って訳ね?」

「そうなるのかなぁ……」


 正確に言えば変な力でこの場所に飛ばされたことになるのだが、信じてもらえるかどうかが疑わしい。最悪の場合、精神異常者認定だ。


「なら早く町に戻りましょう。こんな魔獣だらけの場所、さっさと出た方がいいわ」

「あの……さっきから魔獣、魔獣って何の事ですか?」

「何言ってるの? 魔獣は魔獣。特異な力を持った獣の総称よ」


 さも当然とばかりに言い切ったローザに、龍哉は何とか思考を追いつかせようとして――断念した。


「ローザさん? さっき出した炎の剣って一体……」


 由美がローザに龍哉も聞きたかった事をおずおずと尋ねた。


「あら、もしかしてテウルギアを見るのは初めてだったの? 珍しい環境で育ったのね」

「……ローザ。まさかとは思うが「貴族の子だと思ってるのなら、それも違うわ。確かにこの子達の服装や肌は綺麗だけど、貴族然とした態度や言動が全く無いのよ」……」


 何かを言いかけた青髪の男に、ローザが被せるように言い放った。


「なら、一つ聞かせてくれ。お前たちが持っている、その魔法具まほうぐは何だ? テウルギアを知らないと言うのなら、何故魔法具を持っている?」

「ウィアドはやっぱり気づいてたのね。――――原則として魔法具の所持は禁止されているのは知ってるでしょう? その大きな力故に、よからぬ事を考える輩も少なからずいるのが現状だから」


 青髪の男――ウィアドを見ながらそう言ったローザは、龍哉の方に向き直った。


「持っている魔法具を見せてもらえるかしら?」

「…………」


 龍哉は当然『魔法具』なんて訳の分からない単語は知らない。何の事か分からず、途方に暮れた龍哉は由美に視線を向ける。

 ……由美は知らないとばかりに目を逸らした。


「そんな言い方したら警戒されるわよ。別に悪い物じゃないみたいだし、二人とも同じ物を持っているみたいだから、誰かから貰った物なんでしょ?」


 最後の方の言葉は龍哉と由美に向けられたもののようだ。


「ねぇ風谷。もしかして、あの変な砂時計の事じゃないの?」

「! それだ!」


 龍哉はズボンのポケットから、先程手に入れてしまった砂時計を取り出した。

 ローザはそれを受け取ると、しげしげと見つめた後、やがて口を開いた。


「αε%*/#? ξδиЯμΘ」

「……………………え?」


 龍哉の耳に入ってきたのは全く聞き覚えの無い言語だった。


「……ιйёфζ?」


 訝しげに言ったウィアドの言葉も、龍哉には全く意味が分からなかった。


「えーと、何を言ってるんですか?」

「風谷? どうしたの?」

「…………юб¥♯ы」

「! γщЭεЧ!」


 ウィアドの言葉で何かに気づいたように言ったローザが、砂時計を龍哉の手に戻した。


「言葉は分かる?」

「あ……分かるようになった。何でだろ?」

「たぶん、君達とこっちの使っている言葉は違うわ。この魔法具の力で通じるようになっているんじゃ無いかしら」


 全自動翻訳機みたいな物なのだろうか、と龍哉は考えた。


「効果を知らないということは、お前達はこの魔法具の所有者では無い訳だ。話している言語も違うのなら、いったい何処の国の生まれだ?」

「国って……日本ですけど?」

「ニッポン? そんな国聞いたこと無いわよ?」

「……辺境国か? 黒髪の人間は北の方でしか見たことは無いんだが……」

「そこまで、寒い国じゃない気がするけど……ローザさん達の生まれは何処ですか?」

「私はトナ・ヴァークス王国よ。って、この国だけどね」

「どこだ……」


 聞き覚えの欠片も無い国名だ。龍哉は別に全ての国名を記憶している訳では無いが、少なくとも日本から外に出た覚えは無い。


「何だかややこしくなってきたような気がするな……」

「風谷、私、頭痛くなってきた……」


 龍哉もいい感じに混乱してきた頃、ウィアドが口を開いた。


「少し、状況を整理してみようか」


∇∇∇


 龍哉と由美はここに至るまでの経緯をローザとウィアドに話した。


「ふーん。その変な魔法陣でここに飛ばされちゃったってワケね」

「転移魔法の一種だろうな。それもかなり大きなシロモノだ」

「詳しい事は分からないけど、君達は次元を超えた他の世界に来たのかも知れないわ」

「異世界……何て言うか、ファンタジーだな」


 読んで字の如く、異なる世界。ゲームや漫画でしかお目にかかるような事は無いであろうイベントである。

 普通なら到底信じることの出来るような話では無いが、今までの異常な出来事の所為か、龍哉と由美はすんなりと受け入れる事が出来た。


「この世界には魔法があるんですか?」

「説明すると長くなるから割愛するけど、三種類あるわ。一つはテウルギア。思い浮かべた現象を現実に反映する魔法よ」


 ローザが手をかざすと同時に、指の先に小さな火が灯った。

 タネも仕掛けも無い魔法に、由美は「おー」と歓声を上げ、龍哉は目を見開いた。


「二つ目はゴエティアで、精霊に力を貸してもらう魔法。はっきりと目に見えるような派手な効果は無いけど、結構便利なのよ」

「これは生まれつき素質があるかないかで決まるからな。俺は使えないんだ」

 やや残念そうな口ぶりでウィアドが言った。

「三つ目はマゲイア。魔法陣を編み上げて水晶に封じ込めた道具を使うのよ。複雑すぎて面倒だから使わないのよね」

「へぇ~」


 龍哉の隣で由美は目をキラキラさせて話を聞いていた。憧れていた面があったのだろう。


「そういえば、元の世界に帰るには、どうすればいいのですか?」


 一番確認しておかなければならない事を龍哉はローザに聞いた。これから人生に一度しか無いであろう異世界観光を楽しむにしろ、帰る方法は必要だ。

 龍哉は魔法があるのなら、当然のように存在すると思っていた。


「方法なんて無いわ。元の世界に帰るのは不可能よ」


 しかし、ローザの答えは龍哉達の期待を粉々に打ち砕くものだった。


「……そんな! こっちの世界に来れたのなら、元の世界にも帰れるんじゃないの!?」

 由美が金切り声を上げた。恐れと不安感が、龍哉にも伝わってきた。

「俺はアイツほど魔法に詳しくは無いが、転移魔法によって世界を渡る際には、無限ともいえる世界の中から、無作為に一つの世界が選ばれ、使用者を転移させる。つまり、同じ世界に帰れる可能性は皆無だ」

「………………嘘だろ……」

「嘘じゃない。真実だ」

「じゃあ私達はもう帰れないって!?」

「そういうことになるわね。こればかりは、どうしようも無いのよ」


 嘘だと信じたかった。目の前の二人は嘘をいているのだと。

 でも、まるでその言葉に偽りが無い事を証明するかのように。

 龍哉を見るローザとウィアドの目には、真っ直ぐな光だけが宿っていた。


 帰るのに必要なのは、どんなに難しい条件でも、血の滲むような努力でも無かった。

 出来ない。ただ、それだけだったのだ。


 押し寄せる不安感。

 龍哉は隣で由美が今にも泣き出しそうな表情をしているのを見て、挫けそうになる心を落ち着けた。


「これから、僕らはどうすれば?」


 元の世界に戻る手段が無いと分かった以上、この世界で生きていくしか道はないのだ。

 しかし、どうすればいいのか見当もつかない。


「大丈夫よ。魔獣だらけの森の中に置いてったりはしないわ」

「ああ。せめて、お前らがこの世界で生きていけるようになるまで、面倒を見てやるさ」


 そんな心境を察してくれたのか、ローザとウィアドが口々に言った。


「「……ありがとうございます!」」

「それと、敬語もやめてくれ。どうにも、慣れないものでな。ウィアド、と呼んでくれ」

「それがいいわ。ローザでいいわよ。あ、それと、貴方たちの名前は?」

「風谷……じゃなくて龍哉でいいよ」

「切り替えはやっ……えーと、桐原由美です」


 ローザの言葉に二人は自己紹介をした。龍哉の適応力が高いのは、その性格ゆえの恩恵かもしれない。


「リューヤとユミね。よろしくね?」

「そうだ、どうせならお前らも傭兵になったらどうだ?」

「よろしくお願いします……って、傭兵?」


 聞き覚えの無い単語に、龍哉は思わず聞き返す。


「それいいわね。ユミは無理だと思うから、リューヤ、傭兵になってみない? 楽しいわよ」

「いや、だから傭兵って何?」

「俺達のことだよ。町や国からの依頼を受けて、主に魔獣の討伐を行う仕事だ」

「今日は人喰い(ベルグナ)の討伐が目的で森に来たの。で、帰ろうとしたらリューヤ達が襲われてたのよ」

「ローザとウィアドが来てくれなかったら、僕達、食われてたのかな」


 その可能性を想像した龍哉は身を震わせた。


「危険度は低いが、執拗に群れで人を狙う習性は厄介だからな。犠牲者は毎年出ている」

「けっこう怖いな、それ」

「ま、傭兵にとっては、小鳥みたいなものだけどな」


 可笑しそうに口元を緩めるウィアド。その雰囲気からは既に刃物のような鋭さは無くなっていた。


「あ、そうだ。魔法があるなら、回復魔法は無いのか? ケガとかを一瞬で治せるようなのとか」

「あら、貴方が住んでいた世界にはそんな素晴らしいものがあったの?」

「魔法自体が無いから。黒魔術みたいなのはあったかも知れないけど……」

「よく暮らせたわね。それはともかく、傷を治すなんて事は不可能よ。出来るとしてもせいぜい消毒くらいかしら。町に戻って治療してもらうのが一番ね」

「町があるの!?」


 町と聞いて、由美が声を上げる。


「ああ。戻るとしようか」

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