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神の雷(トール・ハンマー)〜家族を奪われた天才物理学者の逆行転生。未来の知識で四大勢力に復讐する〜  作者: 天音天成
第3章:宇宙の覇権奪取

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第57話 最強の矛(ガラクタ)と、未来の電磁パルス

 スイス・アルプス山脈の奥深く。『シャトー・デ・エーデルワイス』の地下に設けられた絶対の密室では、G4(臨時四ヶ国協調体制)の首脳陣による、イージス・イノベーションズ排除のための具体的な軍事作戦会議が続いていた。


「イージス社の防衛網を突破し、神盾宗一を確保するためには、まず奴らが展開する宇宙の目――『イージス・リンク』の通信帯域を完全に飽和・麻痺させる必要がある。……そのための『矛』は、我がアメリカ合衆国が用意しよう」


 アメリカのCIA長官が、円卓の上に置かれたアナログの海図を指差しながら、自信に満ちた声で宣言した。


「三ヶ月後の合同軍事演習において、太平洋上に展開する我が国の空母打撃群から、最新鋭の第六世代ステルス戦闘機『NGAD(次世代航空支配支配機)』と、電子戦機『EA-18Gグラウラー』の後継機を数十機規模で発進させる。これらが極東の空域で一斉に広域ジャミング(電波妨害)を放射し、奴らの衛星との通信リンクを物理的に断ち切るのだ」

「ふむ。しかし、イージス社の通信は未知の量子暗号技術を使っているという報告もあるが? 既存のジャミングで防げるのか?」

 欧州連合の安全保障トップが、慎重に疑問を呈する。


「問題ない」

 CIA長官は、傲慢に鼻で笑った。

「我が国の最新鋭の電子戦技術は、ペンタゴンの総力を結集してアップデートされたものだ。いくら未知の暗号通信であろうと、周波数帯そのものを圧倒的な出力のノイズで埋め尽くしてしまえば、通信の遅延と『死角』は必ず発生する。……その死角が生じた数時間の間に、我々の合同特殊部隊が東京と伊豆諸島へ降下するのだ」


「なるほど。ならば我がロシアは、最新鋭の原子力潜水艦と、極超音速ミサイルを搭載した巡洋艦を日本海側に展開させよう。……イージス社の注意を北へ引きつける陽動デコイとしては十分すぎるはずだ」

 ロシアのFSB高官が、獰猛な笑みを浮かべる。


「中国の国家安全部は、すでに東京湾周辺のダミー会社を通じて、特殊部隊の潜入ルートと武器の隠匿を完了させている。空の通信が遮断された瞬間、彼らが一斉に蜂起し、六本木のイージス本社へ突入する手はずだ」

 中国の諜報トップも、冷酷な目で自国の手駒の配置を誇った。


 四人の権力者たちは、互いの国家が誇る最高峰の軍事力と情報網をパズルのように組み合わせ、完璧な包囲網を作り上げたと確信していた。

 最新鋭のステルス戦闘機、圧倒的な出力の電子戦機、極超音速ミサイル、そして数千人規模の精鋭特殊部隊。これら人類が持つ最強の『武力』を一点に集中させれば、いかに未来の技術を持つ極東の企業であろうと、必ずすり潰せると信じて疑わなかった。


 彼らは円卓の上で、すでに勝利の美酒の味を想像しながら、互いの健闘を誓い合っていた。


     * * *


「――大国が誇る『最強の矛』とやらも、未来の視点から見れば、哀れなほどに原始的なオモチャに過ぎないな」


 地球の裏側。東京、六本木ヒルズ。

 イージス本社の地下に広がるサイバー・コントロールルームで、私は特注のレザーチェアに深く腰掛けたまま、冷酷な嘲笑を漏らした。

 壁面の巨大モニターには、ナノ・ドローン『ベルゼブブ』が傍受した密室の謀議がリアルタイムで映し出されている。


「第六世代ステルス戦闘機に、最新の電子戦機ですか。……アメリカも、国家の威信を懸けて虎の子の戦力を投入してくるようですね」

 隣に立つ橘玲奈が、タブレットでアメリカ軍の公開されている兵器スペックを呼び出しながら、呆れたように肩をすくめた。

「彼らは本気で、あの旧時代的な電波ジャミングで我が社の『量子レーザー通信』を妨害できると考えているようです。……光で通信している相手に、音波で妨害しようとしているようなものなのに」


『ヒャッハー!! 全くだぜ! あのアメリカのタヌキ親父の自信満々な顔、最高に笑えるギャグだな!』


 暗号化通信の分割画面で、南太平洋の要塞ニヴルヘイムにいるDr.クリス・ウォーカーが、腹を抱えて大爆笑していた。

『俺の組んだ量子通信アルゴリズムは、電磁波のノイズなんざ最初から干渉すら受けねえ! 連中がどれだけ大量の電子戦機を飛ばして空をジャミングで埋め尽くそうと、我々の通信速度はコンマ一秒すら遅延しねえよ!』


「ああ、わかっている。だがクリス、彼らがその『勘違い』をしたまま太平洋上に最新鋭機を集結させてくれるのは、我々にとってこれ以上ない好機だ」

 私は、手元の冷めたコーヒーを口に運びながら、モニターに映るG4のトップたちを氷のような視線で見下ろした。


「彼らが演習という名目で空へ飛び立ち、意気揚々とジャミングを開始したその瞬間に……お前の創り上げた『神のトール・ハンマー』の力を見せつけてやる。……EMP(電磁パルス)照射のシミュレーションはどうなっている?」


『バッチリだぜ、ボス!』

 クリスは血走った目でキーボードを叩き、メインモニターに宇宙空間から見下ろした太平洋のシミュレーションマップを展開した。


『タングステン弾を使わずに、プラズマジェネレーターの出力を一瞬だけ限界まで絞り、特殊な磁場レンズを通して特定の空域に指向性の電磁パルス(EMP)を照射する。……これなら、地上のインフラや民間人に被害を出すことなく、彼らの航空機や艦船の『電子頭脳』だけを正確に黒焦げにできる!』


 クリスのシミュレーション映像の中で、軌道上の神の雷から放たれた見えない不可視の光が、太平洋上空の特定の座標にピンポイントで降り注ぐ。

 その直後、空を飛んでいた戦闘機のアイコンがすべてエラーを示し、コントロールを失って海面へと墜落していく様子が描かれていた。


『現代の最新鋭機ってのは、フライ・バイ・ワイヤ……つまり、高度なコンピュータ制御がなけりゃただの重たい鉄の塊だ。俺のプラズマEMPを浴びれば、何百億ドルかけたステルス機だろうが、一瞬で電子回路が焼き切れて操縦不能アンコントローラブルになる! まさに、空飛ぶ棺桶の完成だぜ!』


「素晴らしい。……彼らが絶対の自信を持つ『最強の兵器』が、我々に指一本触れることもできず、ただの鉄屑として海に落ちていく。それこそが、大国の傲慢な心を完全にへし折るための最高のデモンストレーションだ」

 私は、シミュレーションの完璧な結果に深く頷いた。


「ですがボス」

 もう一つの分割画面で、ヴィクトル・イワノフが火傷の痕が残る顔を引き締め、冷徹な声で口を挟んだ。

「中国の諜報トップが言っていた、『すでに東京湾周辺に潜入させている特殊部隊』という言葉が気になります。……彼らは通信が遮断されるという前提で、事前にアナログな時計合わせだけで動く潜入部隊を用意しているようです」


「なるほど。宇宙からのEMPで彼らの航空戦力を無力化しても、すでに日本国内に潜り込んでいるネズミどもが、私の家族やイージス本社へ向けて物理的なテロを起こす可能性があるということか」

 私は目を細め、ヴィクトルの懸念を受け止めた。


『はい。我がシャドウの防衛網は鉄壁ですが、相手は国家の総力戦です。民間人に偽装して事前に潜伏し、自爆テロのような捨て身の戦法を取られれば、街中に被害が出る恐れがあります。……サチコお嬢様と結衣奥様の絶対的な安全を確保するため、作戦当日は、お二人を安全なシェルターへ避難させるべきかと』


 ヴィクトルの進言は、警護のプロフェッショナルとして極めて正しい。

 だが、私はゆっくりと首を横に振った。


「いや、避難はさせない」

「……よろしいのですか?」


「サチコと結衣に、自分たちが大国から命を狙われているという恐怖を教える必要はない。彼女たちには、今まで通りの平和な日常を過ごしてもらう」

 私は、デスクの上の家族の写真を見つめ、絶対零度の決意を込めて告げた。


「その代わり、ヴィクトル。……三ヶ月後の作戦決行日までに、『神のオーディンズ・アイ』の監視レベルをさらに二段階引き上げろ。中国やロシアの特殊部隊がどこにアジトを構え、どこに武器を隠しているか。彼らが行動を起こす前に、すべてを完全に把握しろ」

『了解いたしました。……そして、彼らが蜂起する直前に、我々の方から先制して潰すのですね』


「そうだ。EMPの照射で彼らの通信と指揮系統が混乱したその瞬間に、お前の率いるシャドウの精鋭たちで、国内に潜伏しているネズミの巣穴をすべて強襲しろ。……私の家族から半径十キロ以内に、武装した敵対者を一匹たりとも生存させるな」


『御意のままに。極東の影の底で、完璧な掃除クリーニングを実行いたします』

 ヴィクトルの瞳に、獲物を狩る狼の獰猛な光が宿った。


 宇宙空間からの圧倒的な電磁パルスによる、最新鋭航空戦力の無力化。

 そして地上では、事前の監視網によって完全に動きを読まれた特殊部隊の殲滅。

 彼らが『完璧な作戦』だと信じて疑わないG4の総力戦は、私が用意した未来の技術と圧倒的な情報の前に、始まる前からすでに完全に詰んでいる(チェックメイト)のだ。


 私はレザーチェアに深く腰掛け、目を閉じた。


 脳内のナノマシンを通じて、宇宙空間で待機する『神の雷』のジェネレーターの微かな鼓動が伝わってくる。

 太平洋上空でのEMP照射準備。そして日本国内での防衛網の再構築。イージス社とヴァルハラの持つすべての機能が、目前に迫る『総力戦』に向けて一切の無駄なく組み上がっていく。


 歴史の修正力と、極東の悪魔。相容れない二つの運命が激突する日まで、残された時間はあとわずかだった。

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