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神の雷(トール・ハンマー)〜家族を奪われた天才物理学者の逆行転生。未来の知識で四大勢力に復讐する〜  作者: 天音天成
第3章:宇宙の覇権奪取

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第41話 民間宇宙開発の覇者と、反抗期の天使

 西暦2025年、春。

 私が四大勢力の首脳陣に『死刑宣告』を突きつけ、地球上の暗闘に終止符を打ってから、およそ九年の歳月が流れていた。


 南太平洋の赤道直下に位置する、旧フランス領の無人島。

 青い海と熱帯雨林に囲まれたその島――秘密結社『ヴァルハラ』の巨大な地下要塞ニヴルヘイムの表向きの姿である『イージス宇宙開発センター』から、轟音と共に巨大なロケットが天を衝いた。


『ハッハッハ! 完璧だぜ! プラズマ推進エンジンの出力、第一宇宙速度到達までコンマ一秒の狂いもなし!』

 コントロールルームで、白髪交じりになったDr.クリス・ウォーカーが、相変わらず血走った目でモニターを見つめて狂喜している。


 イージス・イノベーションズの放つロケットは、従来の化学燃料を用いたNASAの機体とは根本的に次元が違った。

 クリスの開発したプラズマ推進エンジンと、超軽量・超高強度の未知のチタン合金で作られた機体は、既存のロケットの『十分の一のコスト』でありながら『三倍の積載量ペイロード』を誇る。

 私たちはこの九年間、月六回という異常なペースで、地球の低軌道上に向けてロケットを打ち上げ続けていた。


 表向きの目的は、『次世代超高速通信衛星網イージス・リンク』の構築だ。

 数千基に及ぶ小型衛星を地球の周囲に網の目のように展開し、世界のどこにいても、砂漠の真ん中や深海からでも、完全無料で超高速のインターネット接続を提供する。

 この甘い果実に世界中が熱狂し、発展途上国から先進国に至るまで、人類の通信インフラは完全にイージス社に依存(隷属)する形となっていた。


 だが、真の目的は通信網の構築などではない。


「――ボス。今回の打ち上げで、『本命』の第八十四番フレームの軌道投入が完了しました」

 東京、六本木ヒルズ。イージス本社の社長室。

 三十代半ばを迎え、ますます洗練された冷徹な美しさを纏う橘玲奈が、タブレットを操作しながら報告を上げる。


「ご苦労。宇宙空間での自動連結プロセスは?」

「順調です。通信衛星に偽装して打ち上げたパーツ群は、光学迷彩とジャミングを展開しながら、軌道上の暗黒空間で自律型ドローンによって組み立てられています。……現在、全体の六十パーセントが完成しました」

「よし」


 私が本当に打ち上げているのは、四大勢力の喉元に突きつける悪魔の兵器――『神のトール・ハンマー』だ。

 大気圏外から、プラズマの爆圧と共に超質量のタングステン合金弾を地上へ撃ち下ろす純粋破壊兵器。

 その巨大な砲身とジェネレーターを細かいパーツに分割し、通信衛星の中に隠して九年間少しずつ打ち上げ、宇宙空間で密かに繋ぎ合わせてきたのだ。


「完成まで、あと数年といったところか」

 私は窓の外、青空の広がる空を見上げて目を細めた。

「ええ。ですがボス、最近アメリカの動きが少し不穏です」

 玲奈が眉をひそめる。


「2019年に創設されたアメリカ宇宙軍(USSF)が、我が社のロケットのペイロードと、軌道上での衛星の『質量』に疑念を抱き始めています。彼らのレーダーには映らなくとも、重力異常やわずかな軌道のズレから、我々が通信衛星以外の『何か巨大なもの』を宇宙に浮かべているのではないかと勘繰っているようです」

「九年経っても、まだあの忌々しい好奇心を捨てきれていないか」

 私は冷たく鼻を鳴らした。


「放っておけ。彼らに物理的な手出しはできない。宇宙そらはすでに、完全に私の領域だ」


     * * *


 その日の夕方。

 私は仕事を終え、都内の超高級タワーマンションへと帰宅した。


「ただいま」

「あ、おかえりなさい、宗一くん」

 結衣が笑顔で出迎えてくれる。彼女も年を重ねたが、私の手配した最新の医療とケアのおかげで、若々しく美しいままだ。


「サチは? もう帰っているのか?」

「ええ、自分の部屋で宿題をしてるわよ。……最近、少し難しくなってきたみたいだから、あまりしつこく構わないであげてね」

 結衣の苦笑い交じりの忠告に、私は内心で首を傾げながら、娘の部屋のドアをノックした。


「サチ、入るぞ」

「……うん、いいよ」


 ドアを開けると、真新しいセーラー服に身を包んだ少女が、机に向かって教科書を広げていた。

 今年の春、サチコは名門の私立中学校へと進学し、十三歳の中学一年生になっていた。


 背も伸び、顔立ちもすっかり大人びてきた娘の姿を見るたびに、私は前世の記憶と重ね合わせ、胸が熱くなるのを感じる。

 前世の2065年。五十三歳になった彼女は、私の孫であるユウキと共に、あの一瞬の閃光の中に消えてしまった。

 だが今世では、彼女はまだ十三歳。私の力によって、完璧に安全な揺り籠の中で、無傷のまま成長しているのだ。


「勉強、頑張っているな。数学でわからないところがあったら、物理学の権威であるパパが何でも教えてやろう」

 私が満面の笑みで近づき、彼女の頭を撫でようとした、その瞬間だった。


「……パパ、やめてよ。もう子供じゃないんだから」

 サチコは、私の手をそっと、しかし明確に避け、少しむくれたような顔で言った。


「え?」

 私の手が、空中でピタリと止まる。


「パパは過保護すぎ。学校の行き帰りだって、いっつも黒いスーツの怖い人たち(シャドウの警護部隊)が遠くからついてきてるし。友達に『サチコちゃんのお父さんって、裏社会のドンなの?』ってからかわれるんだからね」

「う、裏社会のドン!? 馬鹿な、パパは世界をより良くするクリーンなIT企業のCEOだぞ!」

「とにかく! もう中学生なんだから、少しは一人にさせてよ。宿題に集中したいから、パパはあっち行ってて」


 サチコはため息をつき、私に背を向けてシャーペンを走らせ始めた。


「…………」

 私は、開いた口が塞がらないまま、よろよろと部屋を退室した。


「……どうしたの、宗一くん。魂が抜けたような顔して」

 リビングで紅茶を淹れていた結衣が、私の無惨な姿を見て吹き出した。

「ゆ、結衣……。サチが、私の頭撫でを拒否した……。過保護だと言われた……。あんなに『パパのお嫁さんになる!』と言っていた天使が……」

「あははっ! 当たり前でしょ、もう中学生よ? 健全な反抗期じゃない。喜ばしい成長よ」


 結衣は笑っているが、私にとっては世界経済が暴落するよりも遥かに深刻なショックだった。


 ……だが、同時に。

 少し生意気な口を利くようになった娘の背中を思い出し、私はふと、目を細めた。

 前世の記憶の中にあるサチコも、中学生の頃は私によく反発していた。研究に没頭して家庭を顧みなかった私に、彼女は何度も冷たい視線を向けていたのだ。

 その記憶が、目の前の現実のサチコの姿と完全に重なる。


「……そうか。サチは、本当に成長しているんだな」


 私が守り抜いた命が、こうして確実に未来へと時を刻んでいる。

 その事実が、私の心臓の奥底で、何よりも熱い炎となって燃え上がった。


 この反抗期も、この平和な日常も、すべてが愛おしい。

 この『当たり前の成長』を、前世では私のエゴと大国の傲慢さによって奪われてしまったのだ。

 ならば、今世では何があっても、宇宙の果てから悪魔が降りてこようとも、私が盾となってすべてを弾き返してみせる。


「パパは、少し嫌われても構わないさ。君の未来を守れるのならな」

 私は誰にも聞こえない声で呟き、書斎へと足を踏み入れた。


     * * *


「――緊急報告です、ボス」


 書斎の暗号化モニターに、ヴィクトル・イワノフの険しい顔が映し出された。


「どうした、ヴィクトル。日本国内の防諜網に穴が開いたか?」

「いえ、地上は我々の完全な支配下です。……問題は、宇宙そらです」

 ヴィクトルの言葉に、私は眉をひそめた。


「アメリカ宇宙軍(USSF)が、ついに物理的な実力行使に踏み切りました」


 モニターに、イージス社の追跡レーダーが捉えた宇宙空間の軌道図が表示される。

 高度四百キロの低軌道上。我が社の通信衛星(偽装された『神の雷』のパーツ群)が密集している暗黒の宙域に向けて、所属不明の一機の人工衛星が急速に接近していた。


「これは……軍事偵察衛星か?」

「はい。アメリカのヴァンデンバーグ宇宙軍基地から極秘裏にコントロールされている、最新鋭のキラー衛星(対衛星兵器)です。光学迷彩を展開しているため各国のレーダーには映りませんが、我が社の量子レーダーは完全に捕捉しています」


 ヴィクトルの声に、明らかな怒りが混じっていた。


「彼らは、我々の通信衛星網の中心に『不自然な質量(神の雷)』が集積していることに気づき、直接カメラで撮影し、あわよくばハッキング用のアームを接続して内部データを物理的に抜き取ろうとしています」

「……九年前の死刑宣告を、忘れたわけではあるまい」


 私は、モニターに映る迫り来るアメリカのキラー衛星の軌道を見つめ、極低温の殺意を放った。

 彼らアメリカは、地上での暗殺やサイバー空間でのハッキングが不可能だと悟り、今度は自分たちが唯一『優位に立っている』と信じている宇宙空間から、私の領域を侵そうとしているのだ。


「地球上のルールが通用しない宇宙空間なら、誰にもバレずに我々の機密を盗めると、そう錯覚しているのだろうな」

「いかがなさいますか、ボス。このままでは、数時間以内に『神の雷』の建造現場がアメリカ軍のカメラに捉えられてしまいます」


「撮らせるな」

 私は特注のレザーチェアから立ち上がり、宇宙の暗闘の指揮を執るべく、サイバーコントロールチームへの回線を繋いだ。


「アメリカの軍産複合体は、宇宙を自分たちの庭だと勘違いしている。……ならば、その庭の持ち主が誰なのか、物理的かつ絶望的な形で教育してやる必要があるな」


 愛する娘の成長を脅かす影は、地上であろうと宇宙空間であろうと、私がすべて焼き尽くす。

 極東の悪魔による、星空を舞台にした圧倒的な無双劇サイバー・ウォーの第二幕が、今静かに火蓋を切ろうとしていた。

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