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神の雷(トール・ハンマー)〜家族を奪われた天才物理学者の逆行転生。未来の知識で四大勢力に復讐する〜  作者: 天音天成
第2章:暗闘と影の軍団

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第38話 逆流する罠と、崩壊する大国の心臓

 イージス・イノベーションズのメインサーバーに対する、人類史上最大規模のサイバー攻撃。

 中国の強引な飽和攻撃(DDoS)、ロシアの狡猾な破壊工作、そしてアメリカの隠密裏の情報窃取。世界を牛耳る三大国が、国家の威信と全リソースを賭けて極東の民間企業へと牙を剥いた。


そして彼らは、自分たちの『棍棒』がイージス社の分厚い防壁にわずかな亀裂を生じさせ、見事に突破したと信じて疑わなかった。


中国、北京。

 国家安全部(MSS)の地下サイバー司令室では、歓喜の怒号が響き渡っていた。


「やりました! イージスのファイアウォールに遅延が発生! その隙を突いて内部ネットワークへの侵入に成功しました!」

「ターゲットの深海プラント制御コード、および関連する機密データ群のダウンロードを開始……完了しました! 全データ、我が国のメインサーバーへ無事に転送されました!」


何百人ものハッカーたちが歓声を上げ、作戦指揮官は狂喜のあまり拳を突き上げた。

 極東の島国が独占していた黄金の海の鍵を、ついに自国が手に入れたのだ。これで再び、中国が世界の覇権を握ることができる。


「よくやった! すぐにデータを解析班へ回――」


指揮官の言葉は、最後まで続かなかった。

 突如として、司令室の壁面を覆う巨大なメインモニターがブラックアウトし、直後に真っ赤なエラー画面へと切り替わったのだ。


「な、なんだ!? どうした!」

「だ、駄目です! ダウンロードしたファイルが……勝手に自己解凍し、我々の基幹システム内部で展開しています! ち、違う、これは制御コードじゃない……ウイルス(悪魔)だッ!!」

 ハッカーの一人が、血の気を失った顔で絶叫した。


「未知のアルゴリズムです! 我々のファイアウォールを内側から食い破り、システム権限を次々と乗っ取っています! 防御プログラムが一切反応しません!」

「遮断しろ! ネットワークの物理ケーブルをすべて引き抜け!!」

「遅いです! すでに管理者権限ルートが奪われました! 軍事ネットワーク、治安維持システム、さらには国家主席の極秘回線まで、すべて外部からロック(暗号化)されています!」


彼らがイージス社から「奪った」と思い込んでいたデータは、宗一が意図的に仕込んでいた最凶の『トロイの木馬』だった。

 彼らが自らの手で国家の心臓部に持ち込んだその未来のウイルスは、現代のセキュリティソフトでは検知することすら不可能であり、瞬く間に中国の国家機能を完全に麻痺させてしまったのだ。

 先ほどまでの歓喜は一瞬にして消え去り、司令室は阿鼻叫喚の地獄へと叩き落とされた。


* * *


同じ頃、ロシア、モスクワ。

 連邦保安庁(FSB)のサイバーテロ対策本部でも、全く同じ絶望が産声を上げていた。


「よし、中国の馬鹿どもが防壁の囮になった隙を突いて、ゼロデイ攻撃のプログラムを流し込んだぞ! これでイージスのプラントは暴走し、自壊する!」

 司令官が冷酷な笑みを浮かべた、まさにその瞬間だった。


「――し、司令官! 攻撃プログラムが……こちらのコマンドを受け付けません! それどころか、逆に我々のシステムが逆流リフレクション攻撃を受けています!」

「なんだと!? ハッキングを弾かれたというのか!」

「違います! 我々が送り込んだ『攻撃経路ルート』を伝って、相手がこちらの内部に侵入してきたんです! 信じられない速度でセキュリティが突破されていきます!」


オペレーターが、信じられないものを見るようにモニターを凝視して悲鳴を上げた。


「クレムリンのメインサーバーが乗っ取られました……! さらに、戦略ロケット軍の指揮統制システムに、外部からのアクセスが確認されました!」

「馬鹿な!! 軍のシステムは外部ネットワークから物理的に隔離エアギャップされているはずだぞ!」


「相手は……通信の概念を超越しています! あ、あり得ない……! 核ミサイルサイロのハッチ開閉プロトコルが、勝手に起動しています! 我々の権限では止められません!!」


「な……ッ!?」

 司令官の顔から、文字通り一切の血の気が引いた。


イージス社の技術を破壊し、日本の海を死の海に変えようとした彼らの傲慢な手は、逆に自国の『核のボタン』を外部の何者かに完全に握り潰されるという、国家存亡の絶対的な危機を招き入れてしまったのだ。

 もし相手がその気になれば、今この瞬間にも、ロシアの核ミサイルが自国の都市に向けて発射されるかもしれない。

 世界を恐怖で支配してきた大国の権力者たちが、生まれて初めて、底知れぬ恐怖に顎を震わせていた。


* * *


そして、この罠の存在に気付けなかったのは、世界最高峰の情報機関を自負するアメリカ合衆国も同じだった。

 メリーランド州、国家安全保障局(NSA)本部。


「長官。中露の攻撃の隙を突き、裏口バックドアからのデータ窃取に成功しました」

「よくやった。これでイージスの次世代技術はすべて我々のものだ。世界の覇権は、やはりアメリカが握り続ける」

 NSA長官が葉巻を咥え、勝利の美酒に酔いしれようとした矢先だった。


「……ま、待ってください。窃取したデータの構造が、おかしい……」

 解析班のトップが、キーボードを叩く手を止めて呻いた。

「長官! NSAのメインフレームに不正侵入! 侵入元は……我々が先ほど持ち帰ったパケットからです!」


「なに!? ウイルスを検知できなかったのか! 即座に隔離しろ!」

「不可能です! 相手のコードは、秒間数万回という異常な速度で自己書き換え(ミューテーション)を行っています! システムがウイルスだと認識する前に、次の形態へと変化しているんです!」


フロア中の無数のモニターが、次々と警告の赤色に染まっていく。


「ペンタゴン(国防総省)の指揮統制システムがダウンしました! 北米防空司令部(NORAD)のレーダー網も完全に沈黙!」

「軍事衛星ネットワークのコントロール権を喪失! 中東で展開中の無人機ドローン部隊との通信、完全に途絶しました! すべて、正体不明の外部ユーザーによってロックされています!」


「そ、そんな馬鹿な……我々アメリカの国家防衛システムが、たった数秒で……一介の民間企業に完全制圧されたとでも言うのか……!?」

 長官は咥えていた葉巻を取り落とし、膝から崩れ落ちた。


世界最強の軍事力と情報収集能力を誇るアメリカ合衆国が、自らの驕りによって自国の心臓部を敵に差し出し、文字通り赤子のように手も足も出ない状態へと叩き伏せられた瞬間だった。


* * *


「――ボス。制圧、完了しました」


東京、六本木ヒルズ。

 イージス・イノベーションズ本社の地下、サイバー・コントロールルーム。

 防音ガラスの向こうで無数のサーバーラックが稼働音を立てる中、ヴァルハラのサイバーセキュリティチームを統括するチーフが、興奮で震える声を上げた。


「ペンタゴン、クレムリン、中南海。三大国の最高機密ネットワークの深層部(マスター権限)、完全に掌握しました。現在、彼らの軍事インフラ、通信、核施設へのアクセス権は、すべて我々の手の中にあります」


「ご苦労。見事な手際だった」


私は、特注のレザーチェアに深く腰掛けたまま、壁一面に展開された巨大なモニター群を見上げた。

 そこには、ハッキングを通じて奪取した、中国のサイバー司令室、ロシアのFSB本部、そしてアメリカのNSA本部の監視カメラの映像がリアルタイムで映し出されている。


モニターの中で、かつて世界を牛耳っていた超大国のエリートたちが、頭を抱え、泣き叫び、恐怖に震えながら走り回る滑稽な姿が、鮮明に映し出されていた。


「彼らは、自分たちの持つ権力と軍事力が世界で一番強いと信じて疑わなかった」

 私は冷めたコーヒーを口に運びながら、冷酷に呟いた。

「だからこそ、極東の民間企業が持つオーバーテクノロジーの恐ろしさを、頭では理解できても、本能では理解できなかったのだ。自分たちが絶対的な安全圏から棍棒を振り下ろしていると錯覚した結果が、この無様なザマだ」


彼らが私の家族を脅かし、私の愛する日常を破壊しようとした代償。

 それが、これだ。


「……ボス。この後、どうされますか?」

 チーフが、畏敬の念を込めた瞳で私に尋ねる。

「現在、彼らの国家機能は完全に麻痺しています。このまま金融システムを破壊し、インフラをダウンさせ続ければ、三大国は一ヶ月以内に内側から崩壊します」


「いや。それではただのテロリストだ」

 私は首を静かに横に振った。


「私が求めているのは、世界を無秩序な混沌に陥れることではない。彼らの手足をもぎ取り、私の前に完全にひれ伏させ、二度と私の愛する世界に牙を剥けないように『躾ける』ことだ」


私は立ち上がり、コントロールデスクへと歩み寄った。


「チーフ。すべてのネットワークを掌握したまま、彼らの司令室にあるすべてのモニターと通信機器の『出力権限』をジャックしろ」

「出力権限……画面を乗っ取るのですね」

「そうだ。音声回線もすべてこちらに繋げ。……そろそろ、神の見えざる手によって首を絞められている哀れな連中に、私の姿を見せてやろう」


「了解いたしました」

 チーフがキーボードを叩き、システムの設定を変更していく。


私は、傍らに用意しておいた『ヴァルハラ』の総帥としての威厳を示す、漆黒の仮面を手に取った。

 顔の上半分を覆い隠し、声のトーンを極低温の冷酷な響きへと変えるためのボイスチェンジャーが内蔵された特注品だ。

 表の世界の「親バカなCEO、神盾宗一」の顔を、彼らに見せてやる義理はない。


歴史の裏側から、世界を冷酷に裁く不可視の悪魔。

 それが、私だ。


「――回線、繋がりました。ボス、いつでもいけます」


チーフの合図と共に、私は仮面を顔に当て、デスクの中央に設置されたカメラを見据えた。

 そして、世界を支配する大国たちへ向けた、最後通牒にして絶対的な死刑宣告の言葉を、静かに紡ぎ始めた。

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