ダンジョンへ
真っ白になった視界が戻ってくると、そこは洞窟だった。
ゴツゴツした岩壁には苔が生えていて、その苔が光を放っている。
そのおかげで、太陽の光が差し込まない洞窟でもそれほど暗くない。
懐中電灯が要らないくらいには明るいね。
「やってきました、ダンジョン~!」
「いぇ~い!」
テンション高めの私と、それに合わせてどこか棒読みなカナタちゃん。
心の底から楽しんでるわけではなさそうなのが伝わってくるけど…まあ、その辺は一旦触れないでおこう。
だって、何も言わないユウちゃんとバカバカしそうに私を見てくるキラリちゃんに比べたらマシだから。
ノリが悪いぞ~?そこ2人!
まっ、そんな話はさておき…
「さてさて、ダンジョンに来たわけだけど、今日は下見だけ。すぐに帰るから、雰囲気に浸るくらいの気持ちで居てくれたらいいよ」
「安心しろ。そこまでテンション高くてノリノリなのはミライくらいだから。そんなこと気にするな、行くぞ」
「ああちょっと!?先に行かないでよ!」
私を無視して先に進もうとするキラリちゃん。
彼女をを呼び止めるが、無視されてどんどん先へ進んでい。
走って追いかけて、先回りした私はキラリちゃんの目の前で仁王立ちして文句を言う。
「リーダーは私なの!だから私が先頭!」
「だったら早くいけよ。遊びで来てるわけじゃねえんだからよ」
「ぐっ…!わかったよ。行けばいいんでしょ、行けば」
色々と話したかったんだけど…キラリちゃんに邪魔されていしまった。
仕方ないので私を先頭に薄暗い洞窟を進んでいく。
洞窟は人が数人横に並んでも狭く感じず、天井も全く圧迫感がない。
また起伏もなく、平坦な道が続いている。
洞窟の探検、というよりはトンネルを歩いてるみたいだ。
そんな楽な道だから、特に疲れることもなく先へ進んでいくと道の隅にキノコが生えているのを見つけた。
「見て見て!キノコがあるよ!」
「そうだな。一応、採取してみるか」
道端に生えた青緑色のキノコ。
正直食べたくもなければ、触れたくもないくらいだけど…まさか初めから毒、なんてことはないだろう。
革のグローブを外し、手袋をつけてキノコを採取する。
それを肩から下げていたバックに入れていたステータスプレートを取り出し、キノコを近づける。
すると、ステータスプレートのガラス質な面が光り、写真と説明がついた図鑑のような映像が現れる。
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◆青ドウクツキノコ
洞窟に広く自生する青緑色のキノコ。毒はなく、火を通せば安全に食すことができる。ただし、とても苦いため食には適さない。薬品の原料になる。
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「青ドウクツキノコだって。これはキラリちゃん用だね」
「そうだな。だが、これだけだと薬は作れないな」
「とりあえずこのレジ袋に入れておくね。はい、どうぞ」
青ドウクツキノコをレジ袋に入れてキラリちゃんに手渡す。
すると、キラリちゃんは口をへの字にして軽く睨んでくる。
「なんで私に持たせようとするんだ?」
そう言って受け取ろうとしないキラリちゃん。
けど、これはキラリちゃんが持つべきだと思う。
「私別に使わないし、これが必要なキラリちゃんが持つべきじゃない?」
「なんだそれ。押し付けてくんなよ……」
やっぱり受け取り拒否するキラリちゃん。
けど、これをユウちゃんやカナタちゃんに持たせるのは忍びないし、私は持てない。
だから、何度か問答をして押し切ろうとする。
「はぁ…分かったよ。持てばいいんだろ?」
すると、キラリちゃんが大きなため息をついて折れてくれた。
私からひったくるようにレジ袋を奪うと、自分の持っているトートバックにレジ袋を丸めて入れた。
キラリちゃんがキノコを受け取ってくれたことを確認し、また歩き出す。
すると、すぐにまた別のキノコを見つけた。
「あのキノコ。見えるか?」
「どれ?」
「壁に生えてるやつだよ。ほらそこ」
キラリちゃんは壁に生えたキノコを手袋をつけてもぎ取り、自分のステータスプレートでどんなものか確認する。
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黄ドウクツキノコ
洞窟に広く自生する薄黄色のキノコ。弱い毒性を持ち、めまい、嘔吐を引き起こす。薬品の原料になる
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黄ドウクツキノコか…しかも有毒。
これと青ドウクツキノコを合わせると何かできるかもね。
キラリちゃんは青ドウクツキノコと黄ドウクツキノコ、そしてペットボトルの水を取り出し、鞄から錬金本を取り出した。
「せっかくだ。ここで一つ薬を作ってみよう」
「いいね。毒ができるのか薬ができるのか。楽しみだね」
みんなで地面に置かれた3つの材料を取り囲み、キラリちゃんが左手に錬金本を持ち、右手を材料にかざす。
「『薬錬成』」
そしてスキルを発動した。
すると3つの材料の下に魔法陣が現れ、材料が光になって消える。
ペットボトルは中の水だけ消えて、空になった容器は弾き出された。
「「「「おおー!」」」」
非現実的な光景に、みんな驚いて興味津々。
光になった材料は1つになって混ざり合い、ぐるぐる回っている。
やがてそれは細長いものにかわり、光が収まって全体像が見えてくる。
完全に光が収まると魔法陣が消え、そこにはコルクによって封をされ、液体の入った試験管が転がっていた。
その試験管にステータスプレートをかざすと、正体の説明がされる。
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ドウクツキノコの毒
品質:低
効果:ごく少量の毒ダメージを与える。
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「毒薬だね。ごく少量の毒ダメージを与える、だってさ」
「なるほど…で?これどうやって使うんだ?飲ませるのか?」
「どうなんだろう?ぶっかけてごく少量の毒ダメージを与えるなら使えるけど、飲ませないといけないならちょっと大変」
使えないこともないけれど、わざわざこれを飲ませるのはリスクが大きい。
仮にこれを投げつけてダメージがないなら…これは産廃かな。
「投げつけて目に入ったら失明、とかないかな?」
「そういう毒じゃねぇと思うがな。まあ、物は試しだ。モンスターを見つけたらやろうぜ」
何とか使えないか可能性を模索してみるけど、実際使ってみないことにはわからない。
モンスターが現れたら使ってみることになった。
すると、カナタちゃんが私の背中をチョンとつついてくる。
「ねえ、探知でモンスターの気配を見つけたよ?」
「えっ?ホントに!?」
「うん!ホントホント」
「ナイスカナタちゃん!早速そこに行ってみよう!」
どうやらカナタちゃんがタイミングよくモンスターを見つけたらしい。
やっぱり探知が優秀な斥候が居ると、こういう発見ができていいね。
脅威の早期発見とか、レベル上げのときに無暗に歩かなくて済む。
カナタちゃんの案内でそのモンスターのいるところまで歩く。
そこにたどり着くと…確かにモンスターが居た。
「お~!スケルトンだ!」
「なんだ骨か。毒は使えねぇな」
「アンデッド系に毒は効かない。有名な話だもんね?ミライちゃん」
「…ちょっと怖い」
私たちが見つけたモンスターはスケルトン。
つまり、白骨死体のモンスターだ。
武器も何も持っておらず、理科室に飾ってありそうな骨が歩いている。
筋肉も間接もないのにどうやって動いているのか謎だけど…まあ、私は研究者じゃないからどうでもいい。
ステータスプレートをかざすと、奴のステータスが明らかになった。
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種族 スケルトン
レベル1
HP 10/10
MP 10/10
筋力 5
防御 5
魔力 5
防魔 5
素早さ 5
スキル なし
ポイント 1
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HPMP は10しかなく、ステータスはオール5。
その上スキルもないときた。
うん、ゴミだね。
「じゃあ、私が倒してくるよ」
あんな奴微塵も怖くない。
ユウちゃんが怖がってたけど、それはガイコツが怖いだけだ。
ふたを開けてみたらこんなもの。
気付かれないように足音を極力立てないように近づく。
スケルトンは一向に私に気付く気配がなく、それほど苦労せず背後を取れた。
拳を握り締め、飛びつくように走り出す。
「やあああああっ!!!」
雄たけびを上げながら殴りかかる。
私の声を聴いてスケルトンが振り返ったが、もう遅い。
振り返った時には目の前に拳が迫っており、瞬きをする間もなく私のパンチが顔を直撃する。
革のグローブ越しに硬いものを殴った衝撃が伝わってきて、少し手が痛い。
そのくらい思いっきり殴ったので骨の接着が外れて、頭が取れて吹っ飛んでいく。
頭を失ったスケルトンの体は、まるで糸が突然切られた操り人形のようにバラバラに崩れた。
やがて骨が真っ黒になり、黒くなった部分から塵のようになって消滅した。
後に残ったのは、1センチあるかも怪しい暗い紫色の宝石。魔石というやつだ。
「よし!倒せた!」
スケルトンは弱い。
まあ、ステータスがアレなんだ、弱いのは当然だろう。
けど、まさかパンチ一発で倒せるとは思わなかったね。
「お疲れ様!流石ミライちゃんだね!」
「ふっふっふっ!すごいでしょ~?」
魔石を拾うと、みんなが私のところまで来ていた。
そして、カナタちゃんが笑顔で褒めてくれる。
「あの貧弱なステータスなら私でも倒せる。自惚れんな」
「もう!素直に褒めてくれたらいいのに!」
キラリちゃんはツンとした態度で、まったく褒めてくれない。
まあ、キラリちゃんはそういう子だから仕方ないね。
「えと…すごかった…」
「ありがとう、ユウちゃん。でも、多分ユウちゃんでも倒せるから自信を持ってね!」
恥ずかしそうにしながら、なんとか言葉をひねり出したユウちゃん。
ユウちゃんはこうして話してくれるだけで偉い。
だから、ユウちゃんにはちゃんと自信を持てるように励ましの言葉も付け加える。
まあ、みんなそれぞれの反応をしてるけど、共通しているのは私がスケルトンを一撃で倒したことで、自分でも倒せるかもと自信を持ってくれていそうなことだ。
この調子ならみんな冒険者をやってくれそうだね。
このメンバーで冒険者をできる。
そのことだけで十分だし、この先の将来に希望が持てた。
「さて、じゃあ次はみんなの番。一緒に頑張ろう!」
みんなにそう呼び掛けて、私たちは先へ進んだ。




