入学式
「冒険者」
ダンジョンに潜って様々なお宝を持ち帰り、それを売る者たちの事だ。
危険は多く、命を落とすことだってある。
だが、そのぶん収入は大きく、上手くやれば一攫千金。
夢を見るバカがダンジョンへ飛び込むのは当然のことだ。
かくいう私――広田未来も、その一人である。
◆
実家から少し離れたところにある私立高校に進学し、春休みのうちに学校近くのマンションに引っ越した。
独り暮らしを始めて、大変なこともあったけど…なんとか学校が始まる前にこの暮らしにある程度慣れることができた。
そして、今日から高校生活が始まる。
『―――みなさんが実りのある高校生活を送れることを、心から願っています』
無駄に長い校長の話も終わり、入学式も終盤。
そんな時、『ガラガラガラ…』と重い音を立てて入学式の会場である体育館の扉が開かれた。
みんな退屈してボーッとしていたこともあり、沢山の人が驚いてそちらに顔を向ける。
みなの視線が集まる中、入り口に立っていたのは良く目立つ明るい緑色に髪を染め、天井の強い照明を反射させるピアスを両耳につけた子が入って来た。
(うわっ、不良っぽい…)
入学式という大事な行事に遅れてくるどころか、あんな格好。
もう、見るからに校則を守る気がない不良っぽい子。
先生に促されて目立たないように外側を回って席に着くみたいだ。
けれどあんな格好で目立たないように、なんて無理がある。
その一人だけ浮いている奇抜な格好から多くの視線を集め、私と同じクラスの列に座った。
(流石『底辺高校』って呼ばれるだけはあるね。入学早々飛ばしてるなぁ…)
そう、この私――広田未来が進学したこの高校は、『応募すれば誰だって入れる』と言われるような底辺校。
その凄さ(?)というものを入学式からいきなり見せつけられて、どこかワクワクしていた。
入学式が終わり、各クラスでの自己紹介も終わった。
時間は12時過ぎ。
お昼時ということもあり、昼休みを挟んでから学校説明会があるらしい。
その間に友達を作れ、ということだろう。
クラスのみんなは自己紹介で何となく気が合いそうな人を見つけて、その目星をもとに声をかけている。
もちろん、私も話しかける人の目星はつけてある。
緑髪の子。
入学式で沢山の人の目を奪ったその明らかに不良な彼女を追いかけ、私は教室を出た。
声を掛けようとすると、露骨に避けられるので追いかけていると…いつの間にか誰もいない場所まで来ていた。
そこで彼女は振り返り、私を睨んでくる。
「……なに?」
明らかに不機嫌そうだ。
不満アリアリな声色でそう言う彼女。
多分、『もしかしたらお友達になれるかも…』とか考えてる馬鹿な女を負い張るためにわざとやってるのかもね。
けれど、私は臆することなく彼女に話しかける。
「私、広田未来。あなたは?」
彼女の名前を尋ねると、ものすっごく不愉快そうに睨まれた。
「どうでもいいでしょ」
そして、吐き捨てるようにそう言って歩いていく。
もう話は終わった。話すことはない。
そんな風に言いたげな背中だ。
…そっちに話すことは無くても、私にはあるもんね!
「ねぇねぇ。入学式遅れて来てたよね?寝坊?」
「ついてくんな」
「私ちょっと遠くから来たんだけど、どこから来たの?」
「………」
「あなたとお友達になりたいなぁ~。高校のお友達第1号!」
「うるさい」
しつこく追いかけ回し、ひたすら話しかける。
めっちゃイライラしてるけど、振り返って私の話に付き合ってくれればいいだけの事。
だから諦めずに追いかける。
そのせいだろうね。
「ちょっと待ってよ~!お話しよ?」
「チッ…!」
急に立ち止まったかと思えば、バッ!と振り返って私の首にある制服のリボンを掴んできた。
「ついてくんなって言ってるだろ!!」
いきなり怒鳴られた。
…まあ、これに関しては私が悪い。
なんて考えてると、ひそひそと話す声が聞こえてきた。。
「なに…いきなり喧嘩…?」
「あの子…遅れてきた子じゃない?」
「胸ぐら掴まれてるぜ?」
「こっわ…」
どうやら気付かないうちに一周して、人のいる場所まで来てしまったみたいだ。
しかも状況が状況。
『初日から喧嘩?』って視線が集まり、凄くヒヤヒヤする。
「クソッ!」
「ああ!ちょっと!?」
それを嫌がったのか、緑髪の彼女は私のリボンを手放して走って逃げていく。
私もそれを追いかけて走った。
「なんでついてくるんだよ!?」
「お話したいから!」
「嫌がってるのがわからねぇか!?」
「私はそっちに用があるの!話聞いてもらえるまでやめないから!」
「うざいんだよ!」
「そりゃどうも!けど、話聞いてくれたら早く済むよ?」
「ふざけんな!そんな無茶苦茶な話あるか!?」
「ここにありますぅ~!」
初日から廊下を走り回るなんて悪い子だ。
でもここは有名な底辺校だから大丈夫。
先生に見つかっても怒られるだけで済む。
だから話聞いてくれるまでやめないから!!
その後も彼女を追いかけ続け、学校の色々な場所を通った。
校舎や中庭、別館、体育館、武道場。
学校紹介で巡るであろう場所を先に見て回り……お互い疲れて足を止めた。
するとお昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、校内放送で体育館に集まるよう呼び掛けられる。
「あ~あ。お昼ご飯食べられなかったじゃん」
「お前のせいでこっちもなんだが?」
「『お前』じゃなくて広田未来。ミライって呼んで」
「はぁ…何でもいいだろ…」
ようやく諦めてくれたのか、私と話してくれた。
2人で壁を背もたれに廊下に座り込み、一緒にお昼のコンビニパンを食べる。
彼女のお昼も同じ店のコンビニパンだった。
「…細川輝良理」
「え?」
「私の名前。さっき自己紹介で言ってただろ」
「ごめん。その時聞いてなかった」
「はぁ…友達作る気あるのかよ…」
「いや、キラリちゃんにだけは言われたくないね!」
「いきなりちゃん呼びかよ…普通は『細川さん』だろ」
キラリちゃんかぁ…
見た目の割にかわいい名前だね。
もっとこう…ヤンキーらしい名前かと思ったんだけど。
まあ、そんなことはどうだっていい。
「ねえキラリちゃん。お友達になろう?」
「いいよ」
「ホントに!?」
「断ったらしつこく追いかけてくるだろ…」
「よくわかってんじゃん!」
「はぁ…」
私の頑張りのおかげでキラリちゃんは友達になってくれた。
よし、これで第1歩。
この感じなら、すぐ第2歩に行っても許されるかも。
「ねえキラリちゃん」
「なんだよ」
「私と一緒に冒険者やろうよ」
「やらない」
「え~?なんで?」
いきなり断られた…
やっぱすぐには駄目だったか…
「冒険者なんて馬鹿のやることだろ。私らには関係ない」
「こんな高校に来たのに?」
「うるせぇ。大体なんで冒険者なんかになりたいんだ?」
「一攫千金!人生逆転!」
「そうか。頑張れよ」
「キラリちゃんもやるんだよ!」
「やらないって言ってるだろ?」
「うぅ~!!」
全然首を縦に振ろうとしないキラリちゃん。
どうやったらキラリちゃんが冒険者をやってくれるか…
悩んでいると、呆れた様子のキラリちゃんが私に提案をしてきた。
「…そうせ何回断ってもしつこく勧誘してくるんだろ?だったら条件を設けろよ」
「条件って?」
「そうだな。冒険者をやるからには4人パーティーだろ?なら、今日中にあと2人見つけてこい」
「そうしたら一緒に冒険者やってくれる?」
「ああ。信用ならないなら録音するか?」
「する!」
キラリちゃんが提示した条件。
それは、『今日中に仲間をあと2人見つけたら参加する。見つけられなければこれ以上勧誘しない』というもの。
ちゃんとその事を録音もしたので、言質は取った。
今日中に2人か……うん、なんとかなりそう!
「じゃあ仲間を探してくるね!あっ、連絡先交換しよう?」
「はぁ……ほらよ」
「ありがとう!っていきなりブロックしてるじゃん!?」
「スタ連とかやないだろうな?」
「しないよ。こういうのは真面目な連絡以外では使わないから」
「ホントか…?」
「ホントだってば!」
一応ブロックは解除してくれたキラリちゃん。
これで、先に帰られても仲間を見つけたって報告できるね。
私はコンビニパンの残りを急いで食べきり、立ち上がった。
「じゃあ、今度こそ行ってくるね!」
そう言って走り出し、あと2人の仲間を探しに行く。
とりあえず会う人あう人全員に声を掛けよう。
そしたら、2人くらいすぐ見つかるはず!
「……めんどくせー奴だな」
私が居なくなった後にキラリちゃんがぼやいた言葉は、当然私に聞こえなかった。
放課後
「見つけたよ!」
「マジかよ…」
私は見事一緒に冒険者をやってくれる人を2人見つけた。
そして、宣言通りキラリちゃんと冒険者をすることになった。




