第6話「洞窟の試練と最初の小さな犠牲」
洞窟の奥に足を踏み入れた三人は、ひんやりとした空気に包まれていた。湿った岩肌から滴る水の音が、静寂の中で響く。
「……思ったより狭いな」桐生はつぶやき、手に握った紙片をぎゅっと握る。
葵は銀色の髪を肩にかけ、淡青の瞳で周囲を慎重に観察した。
「油断はできないわ。光が届かない場所には、必ず何かが潜んでいる」
凪は岩を踏みながら嬉しそうに声を上げた。
「でも、ちょっとワクワクするね!桐生くん、先に行こう!」
オレンジ色の髪が光に映え、跳ねるたびに元気が伝わる。
桐生は少し躊躇した。紙片には、洞窟の奥で仲間に危険が及ぶ可能性が書かれている。しかし、凪の好奇心を止めるわけにはいかない。
「……大丈夫だと思う」
少しぼかして言う桐生の声に、わずかな迷いが含まれていた。
三人が狭い通路を進むと、突然、足場が崩れた。凪の足が滑り、岩の隙間に落ちそうになる。
「わっ!」凪の声に桐生は咄嗟に手を伸ばした。
「危ない!」葵も両手を差し出す。
桐生は凪を抱き留め、ぎりぎりで転落を防いだ。しかし、岩が崩れた衝撃で、桐生は軽い擦り傷を負った。血は少量だが、手に染みる。
「桐生くん、大丈夫?」凪は驚いた顔を見せる。
「……うん、大丈夫」桐生は笑顔で答えたが、心の奥では、ぼかした情報が一歩遅れで危機を招いたことを痛感していた。
葵は淡青の瞳を細める。
「……やっぱり、全部話していないわね」
桐生は言葉を返せなかった。嘘は小さな守りにはなるが、信頼を揺るがす危険もはらむ。
通路の先には小さな広間があり、光がわずかに差し込んでいた。岩に刻まれた古い文字、そして微かに輝く宝石のような石――父の残した手がかりが静かに光を放つ。
凪は興奮した声を上げる。
「わー、すごい!桐生くん、これ、何かの宝物だよ!」
桐生は微笑む。
「そう……でも、まだ危険もある」
葵は静かに二人を見つめ、言葉を選ぶ。
「この先、選択が必要になるわ。小さな嘘でも、未来に影響する――覚えておきましょう」
三人の影が広間の壁に揺れる。洞窟の奥には、父の残した秘密と、これから起きる不可逆の事件の兆しが静かに待っていた。




