第5話「洞窟の入口と最初の選択」
湖を抜けた三人は、ついに父の地図に示された洞窟の入口にたどり着いた。岩肌に絡まる蔦が、不気味に揺れている。
桐生は紙片を握り直し、深呼吸する。
「……ここが、父さんの残した場所か」
葵は銀色の髪をかき上げ、淡青の瞳で洞窟の奥を見つめる。静かだが、わずかに眉を寄せて警戒していた。
「暗いわ……でも、行くしかない」
凪はオレンジ色の髪を跳ねさせ、明るい声で言った。
「わー、洞窟だー!面白そう!桐生くん、先に行く?」
桐生は少し戸惑った。紙片には、洞窟の奥には仲間に危険が及ぶ可能性があることが書かれていた。しかし、凪の目の輝きを見て、全部話すことはできなかった。
「……危険はあるけど、特に問題ないと思う」
ほんの少しぼかして言う。
葵は目を細める。
「……桐生くん、あなた、本当に全部話していないわね」
桐生は息を呑むが、頷くことはできなかった。
「うん……でも、行動してから考えよう」
三人は洞窟へ一歩踏み込む。ひんやりと湿った空気が肌に触れ、足元の岩が水滴で滑りやすくなっている。
入口から少し進むと、細い道が二手に分かれていた。片方は狭く、足場が悪い。もう片方は少し広く、光が奥に届いている。
「……どっちに行く?」凪は嬉しそうに岩を蹴りながら笑った。
葵は慎重に観察する。
「狭い方は危険だけど、光の届く方は安全に見える……でも、罠かもしれない」
桐生は地図を見ながら考える。紙片には、どちらの道を選んでも「小さな試練」が待つ、とだけ書かれていた。
「……狭い方に行こう」桐生は決断した。
「えっ、なんで?」凪は驚き、眉をひそめる。
「……ちょっとした判断でしか先に進めないから。安全そうに見える方は、逆に何もないかもしれない」
三人は狭い道を進む。途中で足場が崩れ、桐生は凪を抱き留める。凪は驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑った。
「桐生くん……ありがとう!私、ついていくよ!」
葵は淡青の瞳を細め、桐生を静かに見つめる。
「……あなたの決断、正しいと信じるわ」
狭い道の先には、小さな広間があった。岩に刻まれた古い文字、そして微かに光る宝石のようなもの――父の残した手がかりが、三人を待っていた。
桐生は紙片を握り直す。
――善意の嘘で守ったのは小さな安心。しかし、この洞窟で待つのは、もっと大きな選択と試練だ。
三人の影が、洞窟の奥に伸びる。外の光が届かない暗闇の中で、最初の試練が静かに彼らを待っていた。




