第1話「遺された記録」
桐生 恒一は、薄暗い屋根裏の埃を吸い込みながら、父の遺品の箱を開いた。
古びた革表紙の手帳、黄ばんだ書類、鍵のかかった小箱。指先でそっと触れるたび、心臓が少しだけ高鳴る。
「……これが、父さんの秘密か」
手帳の表紙には、鉛筆で小さくこう書かれていた。
> 『見つけてはいけないもの』
桐生は眉をひそめた。
「……見つけちゃったのか、俺」
ふと、窓の外から柔らかな日差しが差し込み、黒髪に光が絡む。琥珀色の瞳に反射する光は、いつもより少し鋭く、彼の胸の奥の不安を映していた。
箱の中の紙片をめくると、古い地図と奇妙な暗号のような文字列が並んでいる。見れば見るほど、現実とは思えないほど不可解だった。
「……でも、見なきゃいけない」
その瞬間、懐かしい声が外から聞こえた。
「桐生、こんなところにいたの?」
振り向くと、月白葵が立っていた。銀色の髪が日光で淡く輝き、淡青の瞳が桐生を静かに見つめる。小柄で華奢な彼女は、まるでこの世界の一部のように自然にそこに立っていた。
「葵……久しぶりだな」
葵は軽く微笑むが、その口元にはわずかな緊張が見える。
「随分、色々探していたのね。……これ、見てはいけないもの、かしら?」
桐生は地図と紙片を握りしめ、うなずいた。
「うん……俺、父さんが残した秘密を見つけちゃった」
そのとき、窓の外で凪の明るい声が響いた。
「おーい!桐生くん、こんなところで何してるのー!」
オレンジ色の髪を風になびかせ、エメラルドグリーンの瞳がキラキラと輝く凪が現れた。身軽な体で元気よく跳ねながら近づいてくる姿は、まるで太陽そのものだった。
桐生は思わず息を飲んだ。
「……この二人となら、何が起きても立ち向かえるかもしれない」
だが、手に握る紙片の文字列は、彼の心に冷たい波紋を落とす。
「――本当に、見つけてはいけないものだったんだな」
屋根裏に差し込む朝の光と、三人の影が長く伸びる。
この日を境に、桐生の人生は、そして彼らの未来は、大きく揺れ動き始めるのだった。




