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低能な料理番  作者: ミツル
第四章 帝国の美魔女

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29

 いかに転移竜といえども、勝手に他国領に転移する事は許されていない。

 越領許可証を持って国境を正規に超えた後、それぞれの国内で転移をする、しかも一般の住民に見られないように、がルールだ。


「異世界への転移も許可が必要なのか?」

「…」

「もちろんですよ。でも異世界への場合は、許可を受けた特定の竜しかやっちゃダメって事になってます」

 答えないノーマの代わりにラサイが答えてくれた。


 因みにノーマは、もう半日以上口を開いていない。


「なるほどライセンス制って事か。という事はノーマもその許可証を持ってるわけだ」

「…………」

「ノーマは今のところ最年少の異世界転移竜なんですよ」

「へー、すごいわね」

「…………………………」


 荷台の床に直接三角座りしているノーマは、ピクリとも反応しない。


「…」

「…」

「…」


 ここは年長者である俺の出番だな。


「ノーマそろそろ…うわ!」

「ガルルル!」

 三角眼のノーマに噛みつかれる寸前で、俺は伸ばした手を引っ込めた。


 アニマル系ドキュメンタリーのレポーターなら、『もし一瞬でも遅れていたら、今頃私の手は胃袋の中だったでしょうね』的なコメントが出たところだ。


「もう!いい加減に観念しなさいノーマ!」

 ラサイがキレた。


 ガタリと馬車が動き始めた。

 門番が御者台のエルブジに、「良い旅を!』と手を振っている。

 門の向こう側に、賑やかな街並みが見えた。


「もう私達、オステリアに来てるんだから!」


 門をくぐると、喧騒が馬車を包んだ。


「ここは国境の街なので貿易が盛んで賑やかな街なんですよ」

 エルブジが振り返って言った。


 皇室にオステリアへの入国許可を打診すると、案内役を買って出てくれたのはなんとエルブジだった。

『私以外に適任はいませんからね』

『どういう事だ?』

『私はオステリア出身ですから』

 意外だったが、心強い。


 そのエルブジが、人型のまま竜属性を剥き出しにしているノーマを優しく見つめた。


「ノーマ、そんなにその人に会うのが嫌なのかい?でも、その村に行かないと、ブドウは手に入らないのだろう?」


 穏やかな口調に、ノーマの瞳孔が縦型から丸に戻った。


「はああー」


 お、唸り声がため息に変わったぞ。

 流石エルブジ、年の功だ。


「去年の春に、村同士の交流会があったんです。私もおばあちゃんに呼ばれて参加したんですけど…」


 ノーマは膝に頭を預けたまま話し始めた。


「その時向こうの村長と一緒に来てたのが息子のティムローで…」


「向こうの、ボラーゴ村の狙いはハッキリしてたんですよね。あの村、年頃の女の子が少ないらしくて、(つがい)探しが一番の目的で」


なるほど、嫁不足の農村のお見合いパーティーみたいな。


「おばあちゃんの顔を立てる為にしょうがなしに、のつもりだったんですけど…」


 いるいる、合コンの人数合わせ的な役割だ。


「はあああああ〜」

ノーマが過去一深いため息を吐いた。


「いやあ、アレは凄かったね」

 

 面白がるラサイを、ノーマがキッと睨みつけた。

 構わずラサイは背筋をピンと伸ばすと、左手で眼鏡を上げる仕草をしながら、右手をピンとノーマに向かって伸ばした。


「ノーマさん、一目見て僕の心はあなたに奪われました!貴方こそ私の相手に相応しい!どうぞ私と(つがい)になって下さい!」

「…マジで辞めて、ラサイを葬りかねない」

「あははは」


 なるほど、ティムローはそういう感じの奴なのな…


「…いけすかねぇな」


「え?何?イオリ様?」

 ノーマが顔を明るくして聞いてきたが、

「あ、いや、なんでもない」

と誤魔化してしまった。

 

「そんなにその人が嫌だったの?タイプじゃなかったとか?」

「えーでも村にはいない賢そうな見た目で、私は嫌いじゃなかったけどなあ」

「そういうんじゃなくて。私はお城での仕事もあるし、まだまだやりたい事もあったのに、そんなのお構いなしにしつこく言ってくるし。あと、それに…」

 ノーマがチラリと俺を見てきたが、俺はそのまま立ち上がって、御者台のエルブジの隣に移った。


「お金持ちそうだしいいんじゃない?」

「そういうのもたしかに大事だと思うわあ」

「いい加減にしてよ!」

 背後では女子トークが盛り上がっている。


 俺は組んだ足を支えに頬杖をついて、何処を見るともなく視線を泳がせた。


「街を出たら街道沿いに馴染みの宿屋があります。そこに馬車を預けて、明日朝にでも村まで転移しましょう」

「…ん、ああ、わかった」

「…気に入りませんか?」

「ん、いや、別にそうじゃないけど」

「そうですか…」


 顔は確認しなかったが、エルブジが微笑んでいるのは雰囲気でわかった。


「彼等も民族繁栄の為に、腹を括っているのでしょうな」

「そういうもんなのか…」

「イオリ様…」

「ん?」

「イオリ様も、そろそろ腹を括る時期かもしれませんよ」


…そうか、そろそろそういう時期なのか…


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