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「イオリさんごめんなさい。この辺ど田舎だからあまりそういうの気にしないので」
ラサイはあっけらかんと言った。
いやいや、謝る必要はないですよ。むしろ…
「むしろ礼を言った方が良いくらいよねえ、イオリ」
これでハッキリした。アルページュは敵だ。
「ラサイが特別無頓着なのよ」
「久しぶりに会ったのに何プンスカしてんの?ノーマ」
「別に〜」
珍しくノーマが拗ねているのが可愛い。
同じ幼馴染でも、フランチェスカとは少し違う親密感なんだな。
「あーそうかノーマごめんね!イオリさんてノーマの番候補なのね?そうかぁ。そろそろそういう時期だもんねぇ」
「な!何いきなり言ってんの!そそそそ、そいうんじゃなくてぇ!」
へえ、そろそろそういう時期なのか…
「あらそうなの?じゃあそろそろ私も本気を出さないとね」
「アルペーーーーーーージュ!」
ノーマもアルページュを正式に敵認定したようだ。
騒がしい俺達を乗せて、石舞台はゆっくりと村に向かって泳いでくれている。
くれている、というのは、俺達が降り立った石舞台が、デカい亀の甲羅の上に設置されていて、その亀が俺達を運んでくれているからだ。
もうこれくらいでは驚きません。むしろ楽しい。
岸に上陸した亀は、俺達が地面に降りると、小さく一礼して湖に戻って行った。
むしろ可愛い。
ラサイが先導して村に案内してくれたのだが、村の中は思ったよりも閑散としていた。
どうやらこの時間は、ほとんどの村人(転移竜達)が農場へ作業に出ているらしい。
村の真ん中には広場があって、中心に大きな銅像が立っていた。何匹かの竜がブドウの房を支えている姿の像だ。
房は俺の倍近い大きさがある。果実一粒だけでも充分スイカより大きい…
いや、まさかな…
「ノーマ、あのブドウってもしかして実物大なの?」
「そう!すごいでしょう!」
なんかノーマは自慢げだが、なるべくわかりたくはなかったなぁ。
まあもうこれくらいでは驚きません。
前向きに考えれば、一房でもブドウがあればワイン作り用の果汁は充分足りるという事だ。
「なぁラサイ、去年収穫したブドウって、保管庫に残ったりしてないのか?」
「ブドウですか。いえ、収穫分は全部出荷してますけど…」
ラサイによると、村のブドウは特別にすべて国の機関が買い上げているらしい。
「なんでしたっけ、特別保護農産物とか呼ばれてて…」
なるほど、呼び名からすると特別な名産品を政府管轄で管理して、値崩れや他の土地での栽培を防いでいる感じか…
それはつまり、転移竜の生活を保護するのが目的、なのだろう。
それほど転移竜は国にとって大事で貴重な存在だということだ。
「じゃあ、その機関になら、ブドウが保管されてるんじゃない?」
「そうか、そうかもしれない。ラサイ、その国の機関て?」
「魔法治安機関です!」
だめだぁ…
「そんなにブドウが必要なの?」
「実はそうなの…」
ノーマがラサイに事情を説明した。
「なるほど、そういうことか」
ラサイは暫く考え込んだ後、何か言おうとして、それを一旦飲み込みながらノーマを見た。
その合図に、ノーマがあからさまに険しい表情を浮かべた。
「それは駄目!」
「でもそれしかないんじゃない?」
「駄目!駄目駄目!」
ノーマが頭を大きく横に振りながら全力で否定した。
「どういう話なの、それ?」
二人にアルページュが割り込んでいった。
「ここは今収穫時期じゃないんですけど…」
「だからやめて!ラサイ!」
ノーマは何をそんな頑なに拒否ってるんだ?
「丁度気候が反対の収穫地があるんですよ」
「…ラサイ、もういいから、お願い」
なんか涙声じゃないか…
「へえ、そんな場所があるの?いいじゃない」
アルページュは通常運転を崩さない。
流石だ。
「それってどこなんだ?」
ノーマが俺の両肩をガシリと押さえつけてきた。手加減はしているのだろうが、まぁまぁの力だ。
これ以上は駄目です。そういう切実な涙目が、俺に向けられた。
「それ詳しく聞かせて、ラサイ!」
アルページュがノーマを後ろから羽交い絞めにして静止した。
その顔に薄笑いを浮かべながら。
流石だ。
恐らく本気を出せば一瞬でアルページュを振り解けるのだろうが、それをすると逆にアルページュを葬ってしまいかねないので、ノーマはそれが出来ないでいる。
「ぎりぎりぎり…」
ついにノーマが歯ぎしりを始めた。
「オステリアの東端にある村なんですけど、ここと同じ竜の一族が住んでいる村で、同じようにブドウの名産地なんです」
なるほど…地球の裏側的なそれか!
「で、なんでノーマはこんなにその村の話を嫌がってるのかしら?是非聞きたいわ」
アルページュはノーマの首に手を回して、頬をペチペチ叩いた。
ほんと流石だな。
「それなんですけど…」
ラサイが一度ノーマの様子を確認した。
そして…
ラサイが浮かべたのは、子供が悪戯をする前の悪い笑顔だった。
「そこの村長に息子さんがいるんですが…」
「ぎりぎりぎりぎり…ギリギリギリギリギリ…」
いよいよノーマの歯ぎしりが佳境を迎えた。
「去年の発情期に、ノーマに求婚してるんですよねぇ」
「へ?」
「へえ~」
アルページュの楽しそうな声をきっかけに、ノーマががっくりと膝を落とした。
なるほど、そろそろそういう時期か…




