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低能な料理番  作者: ミツル
第四章 帝国の美魔女

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「迂闊にも程があるわねえ」

「しょうがないですよ。だってイオリ様はこちらの季節とか知らないわけだし」

 

 気を遣ってくれているノーマの言葉が余計に辛い。


 三人で歩く森に挟まれたのどかな田舎道。

 左右の森はかなり樹高が高いが理路整然と生え揃っていて、道も広く作られているので、うっそうとした雰囲気は感じない。


 真上から降り注ぐ柔らかな日差しが…やけに心地良かった。

 

 確かにここは帝都とは違う気候なのだと感じる。

 

 ノーマの故郷、転移竜の里セプティムは帝国領の東の端、オステリア共和国との国境近くにある。

 普通に馬車で来ると三ヵ月はゆうにかかる距離らしい。

 さすがこの世界で二番目に大きい国だ。因みに一番大きな国がお隣のオステリア共和国とのことだ。

 

 広いという事は気候も地域によってかなり差があるらしく、四季の変化が乏しい帝都周辺と違って、セプティムははっきりとした季節変化がある土地柄らしい。


「でも雨や雪が少なくて土地が痩せているので、普通の作物が育ちにくいんですよね」

「なるほどね。だからブドウ農家が多いのね」


 さすがヨーロッパ種のアルページュ。そのあたりは詳しいな。


 一般的にブドウの栽培にはあまり肥沃でなく、水はけのよい土地が向いているとされている。

 

 ノーマに転移してもらったポイントからここまでけっこう歩いてきているが、汗をかくこともなく、空気はからりと乾燥している。

 

 とても気持ちの良い、『春』の空気だ。

 

 そう、今ここの季節は、『春』なのだ。

 道端には花が咲き、森の新緑が目に眩しい。

 きっとブドウの木にも、若葉が芽吹いている事だろう…

 

 『秋』の収穫に向けて…

 

 アルページュの言う通り、迂闊だった。

 ノーマの言う通り、この世界に来てから季節感という物を意識していなかった。

 

 服装に気を遣ったのも北方の海に行った時だけだし。あれは季節じゃなくて緯度の問題だろうに…


「イオリ様、そう気を落とさないで下さい。セプティムに行けば、ブドウの専門家がたくさんいるので、なにか手がかりがあるかもしれないですから」


 一番最初に思いついたのは、ヒシャの魔法でブドウ農園の時間を進めてしまおうというものだったが、

『うーん、それは難しいですね』

と即答されてしまった。


『それだけ広い範囲に魔法をかけるとなると、そこ全体を結界で覆う必要があるんですけど、ゼロから作るとなると、けっこう時間がかかる作業なんですよね』

『それってどのくらい?』

『突貫でやって一ヵ月てところですね』


 とても無理だ…


『特にブドウですから…』

『そうよねぇ…』

『そうですよねぇ…』


 最後の異世界三人娘の会話が気になったが、とにかくその案は消えた。


 そして代替案も見つからないまま、とにかくこのままではらちがあかない、ひとまずブドウの産地に行ってみれば何か、例えば果汁を大量に保存してあったりとか、そういうのがあるかもしれない、という藁にもすがる気持ちでここにやってきたわけだ。


「それにしてもノーマ、ブドウ畑ってまだ見えないのか?けっこう歩いてる気がするけど…」


 俺の言葉に、ノーマがキョトンとした。


「ふっ」

 アルページュが、笑いを堪えている。


「え?イオリ様?え?」

「え?何?」


 その時、前方から地響きのようなものが聞こえてきた。


 いや、『ような』じゃなくて地響きだ。

 待てよ、いや、これ足音か?


 ブレド程じゃないが、ドスン、ドスンと…


 その正体は、直ぐに現れた。

 右側の森から。

 木々の間を縫うようにして。


 それは、木より少しだけ背の高い、二足歩行の、竜だった。


 へえ~、麦わら帽子を被った、竜かぁ…


 その瞬間、俺は全てを悟った。


 悟って、森を見上げた。


 芽吹いた若葉が目に眩しい。


「あ、おーい!」

 ノーマが嬉しそうに竜に向かって手を振った。


 そうか、俺達はずっと、ブドウ畑を散歩してたんだな。



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