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低能な料理番  作者: ミツル
第四章 帝国の美魔女

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17

 牛の鳴き声は本当に合図だったのか、絵本の家のドアが開いて、女性が顔を覗かせた。

 

 年でいえば多分中年よりも上なのだろうが、『おばさん』と呼ぶにはあまりにも気が引けるほどの美人だ。


「あら!」


 驚いている風な声だが、慌てている風には見えない。

 

 その感じ、佇まい、容姿、いや、間違いないだろ。この人は…


「ママ!久しぶり!」

 アルページュが叫びながら女性に抱きついた。


 ほら!


「おかえりアル。いつぶりかしら?」

「一年ぶりよママ。元気そうで何より。シュロスは元気?」

「ふふ、この通りよ」

 ドアを押しのけるようにして、一頭のセントバーナードがのっそりと出てきた。

「シュロス!会いたかったわあ」

 アルページュが首に抱きつくと、シュロスが嬉しそうにボフボフと鳴いた。


 えーと、これは()()()()のワンシーンなんだろう…


「感動の再会もいいけど、アル、お友達に私を紹介して頂戴な!」

「ごめんなさいママ!そうだったわね!私とした事が」


  もういいですよ。俺は笑顔を返した。


「イオリと、ノーマよ。イオリは日本人、知り合ったのはあっちでだけど。ノーマは、ジェーンのお孫さんよ」

「はじめましてイオリくん、ノーマちゃん。アルの母親のウリアよ」


 心が休まるような笑顔は、田舎暮らしのなせる技だろうか。


「そう、あなたがイオリくんなのね。ノーマちゃんはジェーンからよく話は聞いていたわ。ほんとにとても可愛らしい娘さんね。あれだけ自慢するのもわかるわ」

「そんなやめて下さい!もうおばあちゃんたら」

 

 照れたノーマのオーバーリアクションに誤魔化されてしまったが、ウリアの俺への反応はなんだろう?

 

 アルページュは前もって俺の事を伝えていたのだろうか?


「さあどうぞ!入って入って!」


「うわあ!」


 ドアを抜けると直ぐにノーマが歓喜の声を上げた。

 

 絵本に出てくるような家は、中も絵本に出てくるような内装だった。

 古い、しかし味のある木製の調度。窓辺に飾られた鉢植えには小さな花が揺れ、シンプルだがはっきりとした色使いのクロス類、やはりここはなんかの物語の中かもと錯覚してしまう。


「ここは元パパのお店だったのよ。今は面影はほとんどないけどね」


 だとしたら、こじんまりとしたいい店だったはずだ。きっと一日数組しか予約を取らないような、そんなこだわりの家族的なレストラン…


「いい料理人でいらしたんですね」


 俺の言葉に、ウリアが

「ええ、もちろん」

と自慢げに笑った。


 フランコが亡くなってから、ウリアは異世界から生まれ故郷のここへ戻ってきたらしい。


「今は何をされているんですか?」

「ここの特産物を主に海外に輸出する会社を経営してるのよ」


 なかなかやり手な奥様のようだ。


「そうはいっても、昔ながらの手作業で作っているものだから、そんなに量が出来なくて。細々とやっているわ」


「あの、その特産品ってなんなんですか?」

 シュロスの背中に乗っかるようにしてじゃれ合っていたノーマが聞くと、アルページュが無言のまま隣の部屋に入っていき、直ぐに分厚い円盤状の紙包みを抱えて帰ってきた。

 テーブルの上に置くと、ドスンと重みがある。


「これよ」


 開いた紙包みの中から、光沢のある、白色の塊が現れた。


「うわ、なんかとても美味しそうですね!」


 さすがはノーマ。初めて見たはずなのにそこんところは見逃さない。

 

 だが無理もない。包みを開けた瞬間から素晴らしい芳香が部屋中に広がっている。


「すごいチーズですね」

「ええ、これがチーズなんですか?」

「食べてみる?」

「はいいいいいいい!」


 いい返事が過ぎますよ。


 アルページュが切り分けたチーズを、ノーマが早速ぱくりと食べた。


「んんんんんん!」

 ノーマの背筋がピンと伸びた。


「ウオン!」

 シュロスが吠えた。


 瞬間、ノーマの感動が牧草を揺らす一陣の風のように、体を突き抜けて行った。

 

 やばい、さすがに犬には刺激が…

 

 そう思ってシュロスを見ると、なんか満足げにはっはしている。


 そうか、お前も美味しかったのか。


「これがジェーンの言っていたノーマが飛ばしちゃう感情ね。思ったよりも心地がいい物なのね」

「ふみましぇん。ほいしくてほいしくて」

「ありがとう。そう言って貰えると、ミラも喜ぶわ」

「やっぱりこのチーズ、ミラの工房で作ったものなのね」


 アルページュがチーズの欠片を口に運んだ。

 直ぐに満足げに口角を上げる。


「アルページュ、そのミラって人が例のチーズ職人なのか?」

「え?ええ、そうなんだけど…」


 ん?なんか困ってるぞ、もしかして問題のある人なのか?こっちは紗友里でそういうの慣れているが…


「アル、なんの話なの?」


 アルページュがウリアに一連の事情を説明した。


「なるほどね。あのイコイに喧嘩売るなんて、イオリくんもなかなかやるわね」

「どうかしら?ミラに少し力になってもらいたいんだけど…」


 ウリアもアルページュ同様に、少し困った顔を浮かべた。


「そうねえ、いまなら学校もお休みだけど…」


 ん?学校?


「親御さんにも了解を取らないといけないだろうし」

 

 親御さん?ん?


「こんちはあ!」


 いきなり勢いよくドアが開かれた。


「あら、丁度良かったわね」

「いいタイミングだわ」


 二人の反応に扉の方を見ると、扉の半分ほどの人物がそこに立っていた。


「あ、アル姉ちゃん、久しぶり!」


 元気よく頭を下げたのは、短髪の活発そうな、多分小学生位の少女だった。


「…また平均年齢が下がりましたね」

 耳元でノーマが囁いた。


 いや違うぞノーマ。正確に言えばヒシャはそれを桁違いに上げている。


 この子は、そうじゃないよなぁ…


 不思議そうに俺達を見ていたミラが、愛想笑いを浮かべた。


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