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低能な料理番  作者: ミツル
第四章 帝国の美魔女

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16

 俺が持っているヨーロッパの田舎のイメージが、ほぼそのまま眼前にある。


 牧歌的とはよく言ったもんだ。

 

 どこからかヨーデルが聞こえてきたような気がした。


「イオリ様、この動物って何ですか?」


 木の柵に手をかけたノーマが、目をキラキラさせながら聞いてきた。


 初めて見る異世界の動物だ、そうなるか…


「それは牛。乳牛だな多分」

「牛?」

「あー、あっちで言うブレド、かな」

「うわ!ちっちゃ!」

「え?これでちっちゃいのか?」

「はい。生まれたての子ブレドでもこれよりおっきいですよ」


 嘘だろ?会いたくないな、ブレド…


 土地がのんびりだと、動物達もそうなのか、乳牛達は騒ぐノーマを気にかけることもなく、のんびりと草を食んでいる。

 

 目の前にいるのが竜だとも知らず。


「ふう、もっとゆっくり歩いてくれないかしら」

 

 アウトドアスタイルのアルページュが背中に背負ったリュックを重そうに引き上げた。


『流石に会社が気になりますので』

という朽木を日本に置いてきたので、今日は荷物持ちがいない。

 因みに六十リットルのリュックの中身はやはりほぼ着替えらしい。


「久しぶりだわ。変わってない」

 アルページュが景色に目を細めた。

 

 ヒシャとの交渉に成功した俺達だか、まだまだ問題は山積みだった。

 まず何より俺とアルページュはチーズもワインも作った事がない。

 当たり前だ。俺達は使う側で作る側じゃない。

 もちろん知識は持っているが、まあ要するに素人なのだ。


『それなのにあんな大口をイコイ様に?』

『あきれたものね』

「意外と考え無しなんですね』

 お茶会では女性陣から痛烈なお声を頂いた。


『いやイオリさん。漢には引けない時もあります。かっこいいですよ』

 朽木、あんたいい人だな…


『でもそうなると専門家の力が必要ね…』


 俺もアルページュの意見に賛成だった。

 手伝ってもらえないまでも、色々と教えて貰うだけで全然違う。


『誰か心当たりでもあるのか?』

『あるにはあるけど…どうかなあ』


 アルページュは少し考えこんでから、

『まあいいか』

と、ノーマに顔を向けた。


『ノーマ、前した約束、覚えてるかしら?』

『約束…あ、はい!ガガン様のお屋敷でした約束ですね!』


 俺も思い出した。

 確かあの時、アルページュは俺達に協力する代わりにと、ノーマと何かの約束をしていた。


『あの約束、叶えて貰うわ』

『その約束って?』

『私を、両親の田舎へ連れて行って欲しい、て頼んだのよ』

『アルページュの両親の?』

『そうよ。ヨーロッパの片田舎だけどね…』

 アルページュが細い笑みを浮かべた。


『チーズの名産地よ』


 そうして俺達はいま、ヨーロッパの片田舎まできたわけだ。

 アルページュの父フランコは、異世界に召喚される前にはここでレストランを運営していたらしい。


「見えて来たわ。あそこよ」


 この風景に相応しい、絵本に出てくるような家が見えてきた。周りには花が沢山咲いているが、そこが庭なのかどうかは境が曖昧なのでわからない。


 どこから紛れ込んだのか、牛が一頭、家の脇で草をもしゃもしゃとやっている。

 

 俺達に気付いた牛は、まるで合図を送るかのように、一声鳴いた。


「イオリ様、こっちのブレドってモーて鳴くんですね!草なんか食べて、ほんとかわいい!」


 ますます会いたくなくなってきたなあ、ブレド…






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