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低能な料理番  作者: ミツル
第四章 帝国の美魔女

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3

 ノブルハットは帝都の北東に位置する大都市で、ノーマによると魔法治安機関だけではなく、帝国民保安機関(警察のようなもの)や防衛騎士機関(防衛庁的な)等の多くの政府機関が集まっている、いわゆる官庁都市、とのことだった。

 これはそういう政府機能が帝都にすべて集まってしまうと、万一の災害等で機能が麻痺する可能性があり、それを危惧したカーンが皇帝時代にとった方策らしい。


「もともとは商業が盛んな街だったそうですが、それで新しく整備されたそうですよ」

 

 その言葉通り、帝都同様にメインの街道は広く整備されていた。が、一方で狭い路地も結構目立ち、後付けで開発された感は否めない。人口だけで言うと帝都よりもかなり多いらしい。


 俺達は街の中心近くで宿を取った。


 というか、取らざるを得なかった。


 街に着いてすぐに、俺達は真っすぐ魔法保安機関の建物を訪れた。

 建物は直ぐに分かった。

 帝都同様に石造りの建物が多いこの街の中で、それは異彩を放っていた。

 円筒形の高層ビル、そう表現するしかない。

 しかもほぼ全面がガラス張りだ。

 異彩というか、異世界感というか…

 まさか六本木辺りに来てしまったのかと思わず辺りを見回したほどだ。

 だが、入り口に立っていたのは甲冑姿の衛兵で、そこだけは安心の帝国感だった。


 そして、その衛兵が問題だった。


「イコイ様に謁見したいだと?約束は?」

「いや、特にはしていないが…」

「じゃあダメだ、イコイ様は約束の無い方とは決してお会いにならない。帰れ!」

「あーでも、皇帝陛下のご用事で来たんですけど」

「あ?何をほざいている。ならば約束があるはずだろう!嘘をつくな!」

と、完全無欠の門前払いを受けたのだ。


 ここで紗友里なら暴れるなり大騒ぎするなりして何とかするのだろうが、残念ながらその紗友里を助ける為に俺達はここに来ているのだ。


「これ以上あまり騒ぎは起こさない方が…」

というノーマの提案で、俺達は一旦引き下がり、エルブジに謁見申請のタムルを飛ばして返事を待つことにした。


「何か飲み物でも買ってきますね」

 そういう経過で、街道の中心にある広場のベンチでタムルが帰ってくるのを待つことにした俺達だが、返事のタムルはなかなか帰ってこなかった。

 

 まぁ謁見の申請だ、そう簡単にはいかないか…紗友里は大丈夫かな?暴れてなきゃいいが、いや暴れてるだろうな…

 

 そして気が付くと、飲み物を買いに行ったノーマも帰ってこない。


 見渡すと、広場の端に並んでいる軽食の露天商前になにやら人だかりができていた。

 何事かと近付いてみると、人だかりの中心でカップを両手に持ったノーマが、引きつった顔を浮かべていた。

 人だかりを作っているのは全員こぎれいな恰好をした男性ばかりだった。


「私はけっして怪しい者ではありませーん。帝国の重要機関に務める、国の官僚、そう、精鋭中の精鋭帝国民なのですよお」


 ん?こいつは何を言ってるんだ?


「いーやいや、私だってこの年で防衛騎士団付きの経理責任者としてひとかどの…」

「私の父は帝国民保安機関の上位官僚で、当然私も将来が約束された…」

「僕なんか、家も由緒正しい貴族で、おかあさまは魔法治安付属学校の理事を務め…」


 何を一生懸命アピールしているんだこいつらは?


「いや、そういうのはもう分かりましたので…」


 ノーマが暑苦しそうな顔で応えた。が、男達は一切怯む様子がない。


「あなたのような美しい方こそ、私のような男にふさわしい女性だ!是非一度お茶でもいかかですか?」

「いーやこの私と!もちろんご馳走いたします!経費でなんとでも…」

「父おすすめの超高級店で一緒にご夕食でも!」

「うちにご招待します!おかあさまに会って下さい!」


 んー、あ、ナンパだ、これ…


 俺は人込みをかき分けてノーマの傍らに立った。


「すみません、この娘は俺の連れなので」


「はあああ?」

 男達は一斉に、見事な上から目線で俺をねめつけてきた。


「イオリ様!」

 ノーマが嬉しそうに俺にくっつくと、男達は一斉にお葬式にでも参列してるような表情になり、「このような方が…世も末だ」「お金ならいくらでもあるのに…」「父の威光が分からないなんて」「おかあさま…」などと呟きながら解散していった。


いったい何なんだ…


「ねぇ貴方達…」

 露天商のおばさんが心配顔で声をかけてきた。

「この街にはああいう鼻持ちならないお坊ちゃん達がいっぱいいるから、あんたみたいな綺麗な娘は直ぐに声を掛けられちまうよ。なるべく顔を隠して歩きなさい」

と親切にもスカーフを一枚手渡してくれた。


 とはいえマスクにサングラス、というわけではないから、移動した先々でノーマはお坊ちゃん連中にナンパされまくった。彼らはなかなかアグレッシブで、横に俺が歩いていても構わず声をかけてきた。


「そんなつまらない男とは別れて是非私と」

 すでに何十人目か分からないその坊ちゃんがそう口にして、ノーマが拳を握りしめた時、ああ、もうこれは駄目だ、と俺は直ぐに宿を探したのだ。


「あーもう、なんなんですかあの人たちは!餌に集まる鳥の群れじゃあるまいし!」


 ノーマはうんざりとした顔でスカーフをほどきながらベッドにボスンと腰かけた。


 小さい頃に神社でハトに餌やりをして、恐怖を感じる程の大群に襲われた事を思い出した。


 まぁ、これで落ち着いてエルブジからの返事を待てる。


「なあノーマ、色々と聞いてて思ったんだが、その、イコイ様っていうのは難しい人なのか?」

「あー、そうですね」

 ノーマが視線を逸らした。


 あ、そうなんだな…


「難しいというか、その、とても厳格な性格の人で…あまりご意見を変えないというか…皇帝どころかカーン様にもひるまないような…まぁ、いうならば、頑固?」


 ああ、完璧そうなんだな。


 となると、一筋縄ではいかないか


「で、そもそも魔法治安機関というのは、具体的にはどういう機関なんだ?」

「それはですね…」


 ノーマが答えようとした時、ドアの外で微かに物音がした。


 俺はノーマに静かにとゼスチャーすると、ゆっくりとドアに近付いて、一気に開けた。


「あ!」

 ノーマが驚いて声を上げた。

 

 俺は、予想通りだったので苦笑いをした。


「ど、どうも、イオリさん」


 そこには、フード付きのマントを羽織った、朽木が立っていた。


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