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低能な料理番  作者: ミツル
第四章 帝国の美魔女

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2

「急いで手を打った方が良いな。異世界からの招待客として証明すればなんとかなるかもしれない。私が正式な証書を作成しよう」

 そう言って皇帝自らが押印してくれた証書を持って、俺とノーマは急いでベルカントに転移した。


 アルページュからの知らせでは詳しい経緯が分からなかった。そもそもタムルが伝える事の出来る情報量には制限があるらしい。要は簡易的なショートメールのようなものだ。


 執事のキケに迎えられてガガンの執務室に行くと、ガガンとアルページュ、フリオ、そしてマイドが俺達の到着を待っていた。

 

 部屋に入った瞬間に、重い空気が俺を包んだ。


 ガガンの眉間の皺が、今朝の皇帝より深い。フリオは『考える人』と同じポーズで座り、マイドは俺とノーマを見るなり涙をこぼし始めた。

 そして、あのアルページュが、

「イオリ、本当にごめんなさい」

と頭を下げてきた。

 

 これは本当に結構ヤバい状況なんだな、と察知した。

 

 部屋を見渡した。

 朽木が、いない。


「いったい何があったんです?」


「港に着いた時の事なんだけど…」

 答え始めたのはアルページュだった。


 俺達と別れた後の航海は順調だったようだ。

 正確に言うと航海というか、釣行がすこぶる順調だったようで、ベルカントに着く頃には船の保管箱はどれも釣れた魚でいっぱいだった。


「これだけの魚を捌くのは私と朽木だけじゃちょっと手が足りないわね」

 アルページュがそう言うと、マイドか、ではいったん釣れた魚を市場に持っていきましょうと提案した。 

 市場なら、食べきれない魚を分けると言えば職員や漁師が喜んで手伝ってくれますよ、と。

 それでアルページュは船をガガンの桟橋ではなく、ベルカント側の港に着けた。


 そこで、事件が起きた。


「管理不足よ、完全に私のミス」

 アルページュはうな垂れながら言った。

 

 船を降りた紗友里が、その手に、あの白ワイン入りの瓶を持っていたのだ。

 いや、持っていただけでは飽き足らず、ぐびぐびとやりながら、いや大漁大漁、などと超ご機嫌な様子で岸壁を闊歩し始めた、そうだ。

 

 その姿、容易に想像できるな…

 俺もたまらずうな垂れた。


「で、運が悪いことに、同じ港に魔法治安機関の捜査船が入港していたんだ」

 フリオはまだブロンズ像の形を崩していない。


「それで港にいた捜査官の一人が、紗友里様に声をかけたんです」

 マイドが涙声で説明してくれた。


「なんて?」

「おいお前、それは何を呑んでるんだ!と」

「強めに?」

「ごく強めに、上からの感じで」

「うわあ…」

 俺は天を仰いだ。


 それから先の光景は、鮮明に想像できた。


「あ?お前何様だ?とか言って反抗した?」

 マイドがこくりと頷いた。


「なんだその態度は?とか言われて更に火がついて、胸倉辺りを、いや飲んでたんならいきなり顔面を鷲掴み、かな」

 アルページュが、うんうんと、大きく頷いた。


「で、捜査官の仲間が騒動に気付いて、止めようと割って入ったところを、そうだなあ、邪魔だ!とか叫びながら顔面にハイキック、てとこか。で、捜査官全員と大乱闘」

「イオリ、まさか見てたの?」

 見てた見てた、十六歳の時、まったく同じ光景を地元のコンビニの前で。その時の相手は日本の警官隊だったけど…

 

 結局やってんじゃないか、大立ち回り…

 俺はこめかみに痛みを覚えた。


「でも相手が大人数だったので、紗友里様は結局取り押さえられてしまって…」

「捜査官って何人だった?」

「え?確か七、八人位だったと…」


 優秀だな、こっちの捜査官…


 そこでワインの瓶も取り上げられて、飲酒が判明してそのまま紗友里は逮捕されてしまった、といういきさつだった。


「大体わかった。で、朽木は?」


 マイドとアルページュが顔を見合わせた。


「それが朽木さん、騒動の時にはまだ船にいたはずなんですが、気付いたらいなくなってて…」


 なるほど、乱闘に出遅れて参加できずに、気付いたら紗友里が連れていかれてて、なるほど…


「それで紗友里はどこに連行されたんだ?」

「それなんじゃがの…」

 ガガンが眉間の皺はそのままに、ため息交じりで口を開いた。


「連中、その直後ここを発っておるから、恐らく…」

「…ノブルハットだろうな」

「機関の本部がある、帝国で二番目に大きい都市です」

 ノーマが補足説明してくれた。


 そこにいる全員が申し訳なさそうに俺を見ていた。

 

 いやいや、そんな顔する必要はない。これは全部紗友里が悪い。

 

 もともと責任の発端は俺にもあった。異世界に来るにあたって、俺は紗友里に酒の持ち込みを禁じていた。かなり不服そうだったが、そうでもしないとこの姉は航海中ずっと飲み続けかねない。そう思ってのことだったのだが、俺とアルページュの料理中のやりとりを見ていたんだろう。その時のほくそ笑む紗友里の顔が、鮮明に浮かんできた。


「ふう…」


 俺のため息が深すぎて、全員が一斉にうな垂れた。


「いや、俺の身内が迷惑をかけてしまって本当に申し訳ない。後は俺が何とかします。幸い皇帝が証書を書いてくれたので、そのなんとか機関のお偉いさんに直接頼んで…」


 そこでまた全員が更に深くうな垂れてしまった。


「…それなんじゃがなぁ…」


 ガガンの眉間がもはや洗濯板の如く波打っていた。


「あれがそう簡単に話を聞いてくれるかどうか…」


 あれ?あれって、つまりなんとか機関のお偉いさん?


「えっと、イオリ様、その、魔法治安機関の、あの、機関長なんですけど…」


 ノーマの耳打ちがぎこちない。そういう時は大体ろくな話にならない。


「イコイ様、なんです」

「あー」


 聞いたことある、その名前。

 皇帝の妹でしょ。知ってます。


 薪会のメンバーですよね…


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