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翌日、城にアルページュからタムルが飛んできた。
俺はその時ゲストルームで、机の上に積み上げた金貨十枚を見て、色々と思いを巡らせていた。
金貨は、言うまでもなく薪会の料理番としての報酬、その前払い分だ。
昨晩、俺は皇帝から正式に料理番として任命を受けた。
「薪会の再開は来月を目途に参加者の予定を調整するつもりだが、それでいいかな?」
「はい、問題ありません」
「あの、それならば…」
そう切り出したのはノーマだった。
「料理番の報酬を先にイオリ様にお支払い頂けないでしょうか?」
え?ノーマさん、突然何を?
「全額が難しいなら、半分とかでもいいんですが…」
いや、そんな図々しい事は考えてなかったのですが…
「イオリ様はお金が全く無くてとても困ってるんです」
微塵も臆することなくそう発言するノーマと、突然の申し出に目を白黒させる皇帝と、そして耳まで真っ赤に染めた俺とが、暫く無言で向き合った。
いや、正確に言うと俺は恥ずかしくて顔を上げられなかったのだが。
「…こほん」
エルブジのわざとらしい咳払いで、皇帝が我に返った。
「そ、そうか…それならば薪会の準備金という名目で、金貨十枚を払おう。残りは会が成功してからという事でいいかな?」
「はい!ありがとうございます」
ノーマの屈託の無い返事と勢いのあるサムズアップと、
「…すみません…助かります…」
超ボソボソ声で返した俺の謝罪とで、任命式は無事に終わりを告げた。
そして今日金貨を眺めながら、居た堪れない気持ち真っ最中だったわけである。
もうこれ以上恥ずかしい事起きないでくれ。
と、セルフフラグを立てた時に、顔面蒼白のエルブジが慌ただしくドアを開けて駆け込んできた。
「イ、イオリ様、大変な事になりました」
戸惑う俺の手を引っ張って、エルブジが連れてきたのは皇帝の執務室だった。
すでにノーマが先に部屋に入っていた。
ノーマの顔もエルブジ同様、かなり曇っている。
そして何より皇帝の眉間の皺が、事の重大さを感じさせた。
「何が起こったのです?」
俺が質問すると、三人が三人とも、目を伏せてしまった。
かなり言いにくい事が起こっているようだ。
「かなり言いにくい事なんだが、イオリ…」
絞り出すように皇帝は話し始めた。
「君の姉、紗友里が逮捕された」
「へ?」
何を言われているのか分からないままエルブジの顔を見ると、そっと目を逸らされた。
すがるように移した視線は、ノーマにもそっと逸らされた。
「逮捕したのは帝国特別魔法治安機関だ」
何それ?なんか物々しい機関名ですが?
「あの、うちの姉はいったい何をしでかしたんです?」
意外と冷静に聞き返したので、皇帝がやっとまっすぐに俺を見てくれた。
こう言っては何だが、今更紗友里が逮捕されたくらいで取り乱す俺ではない。なんなら俺の人生にとってそれはまあまあのデフォルトだ。今度は何をしたんだ?喧嘩か?また大人数を相手に派手に暴れまわったんじゃあ…
「飲酒だ」
皇帝が静かに罪を告げた。
「え?ああ…」
俺はホッと胸をなでおろした。
なんだ、泥酔したとかか…いや、待てよ…
俺は違和感を覚えた。
紗友里はとんでもないザルだ。一晩中飲んで酒瓶を何本空にしていても、朝普通に朝食をペロリと平らげる、そんな鋼鉄の肝臓の持ち主だ。
しかも逮捕したのがなんとか…魔法機関とかなんとか…
意味不明過ぎて戸惑い始めた俺に、エルブジが耳打ちをしてきた。
「イオリ様はご存じなったかもしれませんが、この世界では、飲酒は重罪なのです」
言われて思い出した。今までこちらのどの食卓にも、酒が出ていたことはなかった。船で料理した時、アルページュは白ワインをかなり厳重に管理していた。こちらの住人から隠すように。実はブルート達も料理の時はアルコール類は使っていない。代わりに何かの果実を絞った(多分白ブドウ的な)ジュースを使用していたが、そういう代替品だと思っていた。以前皇帝の唐揚げに使った日本酒も、コック達は初見でアルコールとは認識していなかったのだろう。
つまり、この世界では、お酒は…
「酒は魔法治安機関が厳重管理している禁制品の一つだ。どこでどう手に入れたのかは不明だが、そういう事らしい…」
そういう事と言われても…
「で、あの、その重罪というのは…」
ノーマがぎゅっと俺の手を握ってきた。
ノーマの掌は、びっくりするほど汗ばんでした。
引きつりまくった笑顔が、無理に俺を安心させようとしているのは分かったが、その口が告げた言葉は、その意図とは程遠い物だった。
「…ヘタをしたら…極刑です…」
何しでかしてんだ!あのバカ姉!




