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低能な料理番  作者: ミツル
第三章 帝国のアイドル

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  固まったままのノーマの手を引っ張って、席まで案内する。そのまま両肩を押すようにして椅子に座らせた。


「…あの、イオリ様これって…」

 

 見上げてくる顔が、いつになく不安げだ。


「ちょっと待ちなさいよ!」


 そら来た。


「これは私と皇帝陛下の会食なのよ。そんなの…」

「構わない。私が許可した」


 皇帝の言葉にフランチェスカが口を噤んだ。


 流石皇帝、タイミングを心得ていらっしゃる。


 俺が頼んで、皇帝が快諾したもう一つのお願いが、これだ。


 俺は食卓に並ぶ三人の顔を見返した。


 不安そうな顔、睨みつける顔、そして、お前の出番だぞと期待げに見つめる顔。


「では、お召し上がりの前に簡単ながら今夜の料理について」


 俺はノーマの肩に手を乗せたまま、話し始めた。

 震えが止まるまでは、こうしていよう。


「この料理は、私の世界では鍋と呼ばれるジャンルの料理です。ご覧の通り、全員の分を1つの鍋で作っていますので、それぞれが食べたいものを食べたい量だけ食べればいい。そういう自由な料理です」


 少食も大食漢も、同じ食卓で楽しめる。フランチェスカが少食と聞いたときから、イメージしていた。


「それともう一つ、俺の国には()()()()()()()という言葉があって」


「同じ鍋をつつく…?」

「そう、とても親密な間柄っていうことだ。同じ料理を分けて食べるんだから、 そりゃ普通は気心の知れた間柄でないといけない。仲間とか、恋人とか、あと、姉妹とか?」

「…イオリ様…」


 震えが止まったので、俺は手をノーマの肩から離した。

 

 たが、フランチェスカからははまだ不機嫌な色がとれていなかった。


「何よ、私とノーマの仲を取り持とうとか、そんな小賢しい事でも考えてるわけ?」


 ほんと素直じゃ無いなあ。ここまでくると逆に見事だ。


「いいではないか!そうごちゃごちゃ考えなくても」


 皇帝が少し荒っぽい言い方をした。


 姪を注意しようという気持ちが七、早く鍋が食べたいが三てところか?いや、五分五分だな、口が開いたままだ。


「この鍋という料理は、そもそも大人数で食べて然るべきものと思える。せっかくイオリが二人の思い出の魚を苦労して手に入れてきたのだ。片意地を張らずに、久しぶりに城中にその名を轟かせていたおてんば姉妹の仲の良いところをみせてくれ!」


 「皇帝!」「叔父様!」


 同時に怒って同時に叫びながら同時に立ち上がったよ。

 もはや双子レベルじゃないか。


 フランチェスカが俺をキッと睨んだが、その目には、敵意は微塵も感じられなかった。


「鍋という料理は、好きな人と一緒に楽しんでこそ美味しいのですよ。さあ、煮え過ぎないうちにお召し上がりください」


「ふん!」

 

 フランチェスカは、俯き加減で腰掛けると、ノーマに向かって左手を差し出した。


「え?何?」

「相変わらずニブイわね!皿!私が取り分けるから」

「…フラン?」


  戸惑うノーマの手から取り皿を奪うと、フランチェスカはおたまで鍋の具を盛り、掬ったスープを回しかけた。


「このくらいでいい?」

「う、うん。ありがとう」


 ノーマは暖かい湯気をたてる取り皿を、大事そうに両手で受け取った。


「叔父様もどうぞ」


 フランチェスカは、皇帝と自分の分を取り分けると、すっと座り込んだ後、二人の顔を見渡して、

「じゃ、頂きましょうか?」

と、にっこり笑った。


 いつの間にかこの場を取り仕切っている。しかも何事もなかったかのように。さすがトップアイドルだ。


 三人は同様にパドーレの身とスープをスプーンで口に運び、そして同時に、口に入れた。


「うおお!」

 最初に唸ったのは皇帝だった。


「なんだこの魚は…」

 そう叫びかけた皇帝は、俺が無言なのに気づいて、そしてそれに気付いた。


 ぽろぽろと涙を零しながら見つめ合うこの国きっての美少女二人に、俺は正直、見入っていた。


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