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低能な料理番  作者: ミツル
第三章 帝国のアイドル

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 テーブルに夕食が配膳されると、フランチェスカが怒りを露わにした。


「あなた、ふざけてるの?」


 テーブルの真ん中にはコンロ、その上にホーロー鍋、その横には壺に入ったフュメ、ボールに入れた濃厚テペル(トマト)ソース、そして大皿に盛り付けた野菜と、たっぷりのパドーレの切り身、切り身は厚めに仕上げた。


 要するに、何も調理されていない材料だけがテーブルに並んでいるわけである。


 フランチェスカだけでなく、皇帝も眉をしかめている。配膳を担当したエルブジも、ノーマさえもが、『本当に大丈夫ですか?イオリ様』という表情を俺に向けている。


 全部、予想通りだ。


「大丈夫です、ご安心ください」


 俺は鍋に少しのオイル、ブルル…ニンニクのみじん切りを入れて、コンロの火をつけた。


「今晩の夕食は、今この場で調理します」


「はぁ?」


 何を言ってるの?という顔のフランチェスカに対して、皇帝は俺の言葉に「ほう」と表情を緩めた。さすがに皇帝だ、すでに今夜のメニューのキモを理解したようだ。


 香りが立ってきたら壺からフュメを注ぐ。香ばしい匂いが蒸気と共に部屋に舞った。


 この時点でノーマは完全にうっとりとした顔に変わっている。

 分かりやすくて良い。


 お玉でテペルソースを掬ってフュメに溶かしていく。

 溶かす量は味見が出来ない俺にとっては勘だけが頼りだ。

 少し迷ったが、ええい!と濃い目に溶かした。相手は若者と、こってり大好き中年だ。

 

 そしてそこに、野菜とパドーレを綺麗に、彩良く並べていく。

 野菜は昨日腰を痛めて収穫した、キャベツっぽいやつ、ブロッコリー的な奴、巨大ニンジン(ここまでは正式な名前が分からない)そしてもうおなじみの大型赤皮玉ねぎのビリーネだ。

 

 赤いスープが、白いパドーレの身に纏う。

 特製のホーロー鍋が、色の演出をさらにレベルアップしてくれている。

 太陽をいっぱいに受けて育ったテペルの赤は太陽のような赤に、上品なパドーレの白は優しい白に包まれて映える。


 フランチェスカが何か言いかけて、慌てて口を噤んだ。

 

 でもちゃんと聞こえたよ。

「綺麗…」って呟いたのが。

 

 イメージ通りだ。ありがとうラシーム。


 最後に塩と胡椒を少し振る。

 熱伝導性に優れたホーローは、直ぐにスープを沸かしてくれた。


「それでは少々お待ちください」


 火を弱火にして、蓋をする。


 そこにいる全員が、無言で蓋の穴から吹き出す蒸気に注目していた。

 

 途中皇帝が何度か俺の顔を見た。

 

 待って下さい、もう少し。


 我慢しきれずフランチェスカを俺の顔を見た時、

「そろそろですね」

と俺は笑って見返した。


 「フン!」

 と顔を逸らしたお姫様は、俺が鍋に手を伸ばすと同時に、顔を正面に戻した。


「どうぞ、召し上がって下さい!」


 蓋をとると同時に、すべての材料の香りが混ざった魔法の湯気が食卓を席巻した。


「おおおー」

 皇帝が目を瞑り、すべての香りを吸い込まんばかりに鼻を広げた。


「ふわああああ」

 フランチェスカが、湯気の下に現れた赤と白のコントラストに、目を輝かせた。


「パドーレのトマト鍋です。お好きな量をご自由にお取り下さい」


 エルブジが、おお、という顔になった。


 皇帝が、

「なるほど、そういう事か」

と、鍋の傍らに据えてあったお玉を手に取り、フランチェスカに差し出した。

「レディーファーストだ。フランからどうぞ」


 さすが皇帝、分かってらっしゃる。

 

 俺は積み重ねてあった深めの取り皿を、皇帝とフランチェスカの前に置いた。


「こちらにどうぞ」


「あ、ありがとう」

 お玉を手に、フランチェスカが少し戸惑っている。


 …うん、いいタイミングだ。


 俺はもう一枚用意していた取り皿を、テーブルの空いたスペースに置いた。

 エルブジに目配せを…しようとした時には、エルブジは既に新しい椅子を運び始めていた。


「何?」

「フランチェスカ様、今日はあなたの為に、特別ゲストをお呼びしています」

「は?特別ゲスト?いったい何を?」


 俺は目いっぱいの笑顔を、テーブルの後ろでうっとりと鍋を見つめている竜の娘に向けた。


「さあ、ノーマ。席について」

「え?え?ええ?」


 ノーマが、きっちり三度、俺を見直した。


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