37
「お疲れ様。大丈夫?」
昼食のデザート(超巨大プリンアラモード)を皇帝の食卓に送り出したリドが、俺の腰をポンと叩きながら笑いかけてきた。
「ああ、おかげさまでなんとか」
ノーマが仕立て直してくれた腰痛用腰帯が俺の腰を締め付けている。そのおかげで、昼食の手伝いも何とかこなせた。
本日の昼食コース、全三十四品目をだ。
「今日はイオリの会食があるからな。一品ずつのボリュームを抑え気味にしていこう」
とブルートは言っていたが、それで品目が前より増えてるってどうなの?
「本当に無理しないで下さいね…」
三十四品分の洗い終わった皿を片手で持ったノーマが心配そうにしている。
俺はその皿が無事運ばれるかの方が心配になってくるよ…
「ノーマ、お皿は少しずつ運んでくれていいから…」
プジョルが飛んできて皿を三分の一程受け持って運び始めた。
相変わらず皇帝の厨房は楽しい職場だ。
「イオリ、この位の大きさでいいのか?」
ブルートの顔がフライパンで隠れている。
「わぁ、大きなフライパンですね。何を作るんですか?」
「これで、今日の料理のまとめ役を作るんだ」
「まとめ役…?」
「これを使うのよ」
リドが昨日の木箱をドカッとテーブルの上に置いた。
「あ、昨日のテペルだ」
箱を覗き込んでノーマが嬉しそうに匂いを嗅いだ。
真四角で真っ黒の果実からは、らしからぬ芳香が漂っている。 昨日セザンの農場で収穫したものだ。
真四角なので、箱にぎっちりと詰め込まれている。のでまぁまぁの重さがある。
ので、これを持ちあげようとした俺は、腰にダメージを負ったというわけだ。
「これ全部ヘタを取って湯剥きするの?」
「ああ、じゃあ早速やるか」
「手伝うわ」
俺達の会話を聞いていたブルート、プジョル、オデットの三人が、なるほどと頷きながら顔を見合わせた。
「なら俺はビリーネをみじん切りだな」
「じゃあ僕はブルルを」
「モリネの葉が要りますね」
三人が同時に動き出した。
どうやら俺が何を作ろうとしているのか、瞬時に悟ったようだ。
相変わらず、楽しい職場だ。
「イオリ、昨日リドから言われたフュメはそこの保管庫に出来てるぞ」
ブルートが自慢げに言ってきた。
それはもうさっき確認しておいた。
銅鍋にたっぷりと作られたフュメドポアゾン、パドーレのアラから作った魚出汁は、見ただけで完璧な出来と分かった。
「ありがとう。時間かかったろう?」
「なあに、気にするな。腰痛の辛さならそれこそ痛い程良く分かってる」
俺とブルートは、親指を立て合って分かり合った。
「ノーマ、お湯を沸かしてくれる。たっぷりと」
「了解!」
ノーマは嬉しそうに一抱えもある鍋を持ち出してきて、湯を沸かし始めた。
ナイス判断、リド。
湯剥きをして皮をとったテペルを小さく賽の目に切っていく。ブルートがみじん切りにしたオリムカネ(スイカ位の大きさの赤い皮の玉ねぎ)を飴色に炒めていく。プジョルはナスのように細長い形の、だが実は明らかにニンニクのブルルを、大量にみじん切りにしてくれた。
オイルを入れた大型フライパンにブルルを入れて炒めた後、飴色玉ねぎと大量のテペルを入れて煮立たせてから、楓のような形をしたモリネの葉、香りはローリエと同じだった、を浮かべて後は弱火で煮込んで行けば、テペル…トマトソースの出来上がりだ。
くつくつと泡を立てるソースからは、太陽の香りがした。
リドが煮込み具合を見てくれている間に、パドーレの身から小骨を抜いていく。
オデットがククルを研いで炊く準備に入っていた。
「よし、あとは直前に具材を全部切れば準備は終了だ」
「え?」
「あれ?」
「調理はどうするんですか?」
「ん?あ、調理?」
俺はその三人の反応が楽しくて思わずニヤニヤしてしまった。
その時、厨房の扉が開いて、エルブジが顔を覗かせた。
「あの、イオリ様、今でしたら大丈夫かと」
「あ、マジで?行きます行きます!」
「どこへ行かれるんですか?」
エプロンを外した俺に、ノーマが聞いてきた。
「ん?あ、ちょっと野暮用でね…」
また思わずニヤニヤしてしまう。
「皇帝に会ってくる」
俺の言葉に、ノーマとコック達全員が、ポカンとした顔になった。




