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低能な料理番  作者: ミツル
第三章 帝国のアイドル

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34

 ラシームは俺の顔をまじまじと見つめると、ふと嬉しそうに微笑んだ。


「あなた、もしかしてイオリ・クドウさんかしら?」

「え?」


 いくら魔女でもそれはお見通し過ぎじゃないか?

 手に水晶玉でも持っているならともかく…


「さ、さすがイオリ様!皇帝のお食事の件がこんな所にまで噂になってるなんて、すごいです!」


 突然ノーマが割って入ってきた。


「そうですよね!ラシーム様!」


 勢いで押し切ろうというのが見え見えのノーマに、ラシームはあからさまな作り笑顔で応えた。


 まあ、そういう事にしときましょう、という顔だ。


 俺の顔を見上げるノーマの額に、うっすらと汗が見えた。


「さあ、イオリ様、ご注文をどうぞ!」

「あ、ああ、そうだな…」

 正直者のいっぱいいっぱいの誤魔化しっぷりに、少し憐みのような感覚が浮かんで、ここは乗っておく事にした。


「このホーロー鍋は、あなたが作られたのですか?」

「そうですよ。私の自信作です」

「うちの店でしか売ってない、いわば代表作なんですよ!」


 コルはとても得意げに言った。

 

 その気持ちはよくわかる。


 表面の滑らかさ、しっかりとした重み、取っ手の加工、取り付け、どこを見ても、とても丁寧に、とてもこだわって作られているのは間違いない。


「もうお気付きだと思うけど、これはあなたの世界のホーロー鍋を参考に作ったものなの。私は夜空の鍋、と呼んでいるわ」


 なるほど、夢のあるネーミングだ。嫌いじゃない。

 

 嫌いではないのだが…


「すみませんが、この鍋、他の形とか色ってありますか?」


 この一言に、コルが顔色を変えた。


「すみません、うちの商品がお気に召さないってことですか?」

「まあまあコル、お待ちなさい」

 コルの剣幕を、ラシームが静かに、だがきっちりと制した。


「イオリ様、今ここにはこの商品しかないのですが、これでは駄目なのですか?」

「いや確かに素晴らしい鍋だとは思います。ですが、俺が今作ろうとしている料理用には、サイズが少し小さいのと、あと色ももう少し華やかなものが理想というか、必要なので」


「へえ、必要、なるほど」


 ラシームは、少し感心したように目を開いた。


「もう一つ質問していいかしら?あなたの世界に帰れば、あなたが欲しい鍋なんていくらでもあるはずよ。そこの娘さんに頼んで帰れば、簡単に手に入るでしょう?何故わざわざこんな所まで来てまで鍋を探そうとしたのかしら…」

「ああ、それですか…」


 三人の視線が俺に集まっていた。


「別にこだわりってわけじゃないんですけど…まあ調理法は自分のやり方でしかできないんで仕方ないとして、この世界で料理を作ってこの世界の人に食べて頂くなら、せめてできる限りはこの世界の物を使いたいというか…」

「それは何故かしら?」


 俺は人差し指で頬を掻いた。

 

 なんか三人ともが、俺に熱い視線を向けている。


「その…使う素材は、この世界で生きていた命を使わせてもらうわけですから…」


「気に入った!」

 ラシームが掌で俺の右肩をパンと叩いた。

「気に入りました!」

 コルが掌で俺の左肩をパンと叩いた。

「ずっと気に入ってます!」

 ノーマが振り上げた掌の行き場所を探して、そっと俺の胸にあててきた。


「よろしい!あなたのお好きな形、大きさで、お好きなお色で作りましょう!」

「え、作る?…今から作るんですか?いやそんなお手間を」

「ご心配なく、そうね…三十分程待って頂けるかしら?」

「は?三十分?」


 いや粘土細工じゃあるまいし…


 目を丸くする俺を見て、ラシームとコルが揃って口角を上げた。


「コル、イオリ様は私達の実力を信じていないようですよ」

「ではおばあ様、実際に作業を見て頂くのはどうですか?」

「それはとても良い考えね!」


 いささか芝居じみた会話を終えると、ラシームはさっさと店の奥へと入っていった。


「ではイオリ様、どうぞこちらへ」


 コルが芝居じみたゼスチャーで店の奥へと促す。


「ラシーム自慢の魔法工房へどうぞ!」


 なんだそれ、めちゃくちゃ楽しそう。

 

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